親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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湖からの使者

 ジュラの大森林の中央に位置するシス湖。

そこは、蜥蜴人族(リザードマン)が支配する領土である。

湖の周囲には、天然の迷宮と呼ぶに相応しい無数の洞窟が存在しており、

彼らはその地の利を最大限に活かすことで湖の支配者として君臨していた。

 

 だが…たった一つの凶報が、その地位を根底から揺るがすことになる。

オークの大軍が、湖へ向けて進軍を開始したのである。

 

「戦の準備をせよ!蹴散らしてくれる!」

 

 リザードマンは単体でもC+ランクに属する強者だ。

部隊長クラスともなればB-、中にはBランクに匹敵する個体すら存在する者もいる。戦士の数は1万にも及び小さな国の戦力にさえ匹敵するほどである。

 

 例え数で劣っていたとしてもこちらには地の利がある。準備を整え、慎重に戦えば勝機は十分ある…と首領は判断していた。

偵察部隊の報告を聞く、その瞬間までは。

 

「オーク軍の兵が……二十万だと!?」

 

 あまりに現実離れした数に、思わず耳を疑う。

確かにオークは高い繁殖能力を持つ。

だが、二十万もの軍勢など常識では考えられない。

 

 ましてや、それだけの兵を維持する食糧の確保。

そしてさらに我儘で統制の取れぬ種族をまとめ上げる統率力。

そんなものが成立するはずがない。

 

 だが信じられないことだが現に成立している。

余程優秀な個体が複数体、そしてその優秀な個体を纏め上げる個体がいるのだろう。

 

「まさか……豚頭帝(オークロード)が生まれたのか……!」

 

 導き出した結論を、自ら否定したくなる。

しかし状況証拠はあまりにも揃いすぎていた。

もしそれが事実ならば…

たとえ地の利があろうと、勝利はおぼつかない。

 

 このままでは敗北は必至。

だが、滅びを受け入れるわけにはいかない。

決戦の前に、援軍を求めるべきだ。

そう判断し、首領は息子を使者として送り出すことにした。

 

 

 

「オークロード?」

 

「はい。ソウエイの調査により、オーク軍は約二十万と判明しました。

それを統率している以上、伝説級の特殊個体が存在していても不思議ではありません」

 

 村の片隅にある訓練場のそのさらに端っこで、俺はベニマルと話していた。

……いや、正確には安全な場所に避難していた。

 

 うん、これは逃げじゃない。戦略的撤退だ。

せっかく人型になったし剣の練習でも、

なんて軽い気持ちで来たのが間違いだった。

タケルの指導、あれちょっと鬼畜すぎない?

気迫が強すぎて阿修羅の幻覚が背後に見えたぞ。

 

 それにしてもソウエイをあんな危険な任務に出すとはなぁ……

あとで軽く文句言っておこう。

軽くね、ほんとに軽く。

後で何されるか分からないし…

 

「それで、オークロードってどんな魔物なんだ?」

「簡単に言うと……化け物です」

「え、そこ雑にまとめる?」

 

 もうちょっとこう、あるだろ説明するところ。

 

「ってことは……目の前にいるタケルはオークろ…」

 

 ヒュンッ!

俺とベニマルの眉間に向かって、木刀が飛んできた。

いやなんで飛ぶの!?

木刀って投擲武器だったっけ!

 

 ベニマルが慌てて叩き落とした。

恐る恐る木刀が飛んできた方向に視線を向けると、タケルがこっちを見ていた。

にこっと笑いながら親指を首に当てて…スッと横に引いた。

 

 ……あ、死んだわこれ。

 

「ははっ……失礼しました。訂正します。オークロードは化け物ではありませんでした。タケル様が化け物でした」

 

 ベニマル、それフォローになってない。

むしろ悪化してる。

 

 タケルがその一言を聞き逃すはずもなく、ベニマルの首根っこを掴み…

訓練場の中央へ連行していった。

……南無。

 

「おや。剣の指導を望んでおられたのでは?」

 

ベニマルの断末魔に合掌していると、

ハクロウが声をかけてきた。

 

「あれ、指導っていうか……ちょっとした災害じゃないか?」

 

 思わず本音が漏れる。

だってなんで木刀振っただけで斬撃飛ぶんだよ?

どういう理屈なんだ、それ。

 

「ホッホッホ。あれは鍛錬の賜物にございます」

 

 鍛錬でああなるのか……。

この世界、奥が深いなぁ。

改めて考えてみると、タケルの使ってる剣自体は普通なんだよな。

何か特別な武器ってわけでもない。

 

 それであの強さってことは…

つまり全部技量でやってるってことかよ。

 

「あっ、そういえばタケルってカイジンにいい剣作ってもらえって話したけど断ってたな」

「なるほど…よほどその剣に思い入れがあるのでしょうな」

 

 思い入れ、か。

……シズさん関係かな。

そう考えると、なんとなく納得できる気もする。

 

「なあ……気のせいじゃなければ、こっち来てないか?」

「えぇ折角の良い機会です。タケル様からの指南を受けられては?」

「いやいやいや、遠慮しとく!」

 

 自分でも驚くぐらい即答だった。

今の状態のタケルは危険すぎる、このままだと確実に死んでしまう。

どうにかしてこの場を離れられないかと考えていると…

 

「大変ですリムル様!」

 

 リグルドが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「リザードマンより使者が訪れております!」

 

 おお、ナイスタイミング。

 

「俺に?分かった、すぐ行く!」

 

 助かった……。

いや、たぶん面倒な話なんだろうけどさ。

それでも今はありがたい。

 

 タケルも状況を察したのか訓練を切り上げる。

周囲にはボロボロのゴブリン達が転がっていた。

うん、見なかったことにしよう。強く生きてほしい。

 

 それにしてもリザードマンか。

この村からは少し離れた場所にいるらしく、まだ会ったことがない。

いったいどんな連中なんだろうな。

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