親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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作戦会議①

 リザードマン達が去った後、その場には重い沈黙が残った。

先ほどまでの喧騒が嘘のように、誰も口を開かない。

 

「……タケル様」

 

 最初に沈黙を破ったのはベニマルだった。

低く抑えられた声には、明確な怒気が滲んでいる。

 

「今の話、見過ごすおつもりですか」

「気持ちは分かるけど、情報が足りないまま動くのは駄目」

「ですが…!」

「ベニマル」

 

 制止の一言で、言葉を遮る。

 

「相手は“名付け”を行う魔人…軽く見ていい相手じゃない」

 

 ベニマルは一瞬だけ沈黙し、やがて静かに頷いた。

 

「……では、どう動くべきか。ご指示を」

「その前に状況の整理をしよう。あ、でもその前に立ち話もなんだからログハウスに戻ろうか、落ち着いて話したい」

 

 ゴブリン達に会議の準備を指示し、自分達はゆっくりと移動を始める。

 表向きは時間調整のために、実際はベニマル達を落ち着かせるために遠回りをすることにした。

因みにソウエイには調査任務があるため、この後の会議には参加しない。

 

「さてまず確認することが、リザードマンは敵か味方かなんだけど…」

「敵でいいのでは?」

 

 全員が席につき、茶に口をつけたのを見計らって切り出すとシオンが即答した。

 

「無礼でしたし」

「判断基準が雑すぎる」

 

 リムルが思わずツッコむ。

 

「だったらリムル、どう思う?」

「うーん…」

 

 少し考え込んでから口を開く。

 

「少なくとも、あのガビルは黒幕って感じじゃないな」

「それは僕もそう思う。あいつは……ただの馬鹿だね」

「言い切った!?」

 

 リムルが再びツッコむが、これは否定しようがないだろう。

 

「いや、実際そうだろ。あの登場の仕方は」

「それは否定できないけど!」

 

 リムルとのやり取りでわずかに空気が緩んだが、すぐに引き締める。

 

「問題はそんな奴が名付けを受けている、ということ」

 

 全員の表情が一斉に引き締まった。

 

「リグルの件も踏まえれば、たまたま選ばれた駒の1つと考えるのが妥当だな。

目的は恐らく……魔王の誕生だろう」

「前に話してた仮説が、現実味を帯びてきたってわけか」

 

 ベニマルが静かに頷く。

 

「そう…それともう一つ妙な点がある」

 

 僕がそう言うと数人が首を傾げる。……おい、何でリムルまで分かってないんだ。

 

「兵の配置だ」

「配置……ですか?」

 

 シオンが考える素振りを見せるが、先に答える。

 

「入口に一体だけ置いて、主力は後方に隠してたよな」

「確かに、その通りでした」

 

「普通の使者だったらどうする?」

「正面から堂々と来るはずです」

「だよね」

 

 威厳を示すなら、本来は正面から堂々と来るべきなはず。

 

「つまり、あれは演出…それもただただガビルを目立たせるためだけの」

「……なるほど」

 

 リムルが納得したように頷く。

 

「じゃあ戦術的な意味は?」

「ほとんどありませんね、むしろ隙を晒しています」

「でしょ?」

 

 ベニマルが即答する。

 

「そこから分かるのは首領の意図した通りに動く事ができていないんだと思う」

「……!」

「少なくとも、魔人の手駒として完成された部隊じゃない」

 

 この一言でゲルミュッドの配下ではないと思い始めたのか場の緊張感が和らいだ。

 

「さらに言えば、本当にゲルミュッドの配下なら…

ゲルミュッドの名前を使ってもっと露骨に圧力をかけてくるはず」

「……確かに」

 

 リムルが小さく呟いた。

 

「確かに結局のところ自分が偉いと思ってるだけみたいな感じだったな」

「つまり、リザードマンは魔人の配下ではない……少なくとも完全には」

 

 ベニマルがそう結論づけた。

 

「そう。ガビルは利用されてるだけだ。上手く踊らされてる」

「では……敵ではない、と?」

「断定はしない」

 

 原作知識で問題ないのは知っているが、ここで断定してしまうと間違ってた場合が怖いので保険を残しておく。

 

「ただ、現時点で切る理由はない、

むしろ利用できる可能性の方が高い」

 

 空気がわずかに変わる。

 

「では、協力関係を?」

「条件付きでな」

 

 話は決まったようなものだが確認のためにリムルを見る。

 

「オークの情報、あいつらも欲しがってたろ」

「そうだね」

「利害は一致してる。だったら接触して様子見だ」

「はい、リムルの確認もとれたと言う事で、一応協力に関しては前向きに検討するけど警戒は怠らないという方針で決定でいい?」

 

 ベニマルは完全に納得した様子で頷いた。

 シオンも不満げながら、口は挟まない。

 

「……なんかさ、ガビルってちょっとかわいそうじゃない?」

「それはない」

「即否定!?」

 

 リムルがぽつりと呟いたのを否定されたのかショックなのか身体を変形させてアメリカ人みたいなオーバーリアクションをしてる。

 

「いや、だった完全に踊らされてるだけだぞ?」

「それでもあの態度はないでしょ」

「それはそうだけど!」

 

 小さくため息をつく。

 

「まあいい。どうせまた会う。敵が味方かはその時に判断すればいい」

 

 ガビルの件は一旦区切りだ。

なら次…というほどでもないけど、そろそろ反応してあげないと。

 

「……そろそろ出てきたらどうだ?じゃないと…殺すよ?」

 

「は?何言って…」

 

 僕の唐突な発言にリムルが困惑した次の瞬間、室内に突風が吹き荒れた。

 

 そして風が収まると、そこには一人の女性が立っていた。

美しい緑の髪を揺らす、とても神秘的な存在である。

 

「突然の訪問、失礼いたします。私は樹妖精《ドライアド》のトレイニーと申します」

 

 その名乗りに、周囲がざわめいた。

外にいたゴブリン達も、珍しい存在を一目見ようと騒ぎ出している。

 

「お、俺はリムル=テンペストです。で、こいつがタケル・ヤスダ。よろしく、トレイニーさん」

 

 ……なんでどもってるんだこいつは。

 

「それで、一体何の用?」

 

 代わりに問いかける。

 

「リムル=テンペスト、そしてタケル・ヤスダよ。

 魔物を統べる者達よ…貴方達に、オークロード討伐を依頼したいのです」

 

 ……いや待って。

言いたいことは色々あるけど、まず一つ。

僕はリムルの監視者であって統率者じゃないんだけど?

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