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今回の話は3視点の目論見について書いたので少し長くなっています。
あと、幕間の話で存在感を少しだけアピールしていたオリジナルキャラである三賢人の内の1人がでてきます。
……面白い方達ですね。
会議を終えてすぐに風に溶けるようにその場を離れる。
もはやあの場に留まる理由はない、
必要な確認はすでに済んでいるのだから。
リムル=テンペスト。
魔物でありながら、他者を慮る…異端の存在。
そして…
「タケル・ヤスダ……」
【三賢人】の一人にして、最高峰の英雄と称される少年。
わずかに目を細める。
最初から気付いていましたね。
私が助けを求める者ではないということに。
視線の流れ。沈黙の間。言葉の選び方。
そのすべてを拾い上げ、違和感として認識していた。
それでも踏み込まない。
断定を避け、余白を残す。
それは賢明な判断であるが…同時に
「慎重すぎる、とも言えますか」
小さく呟く。
だがそれは欠点ではない、
むしろこの状況においては最適解に近い。
リムルは“選ぶ者”。
タケルは“見極める者”。
そして周囲には力ある従者達がいる。
均衡は悪くない。むしろ…
「想定以上、ですね」
くすり、と笑みが零れる。
オークロード討伐…
それはあくまで手段の一つに過ぎない。
真に重要なのは彼らに導く資格があるかどうか。
この森の軸となり得るか見極めるために…
「少しだけ、試させていただきました」
助力を求める者として。
情報を与える者として。
そして…選ぶ側として。
少なくとも1人は気づくことができた。
今はそれで十分だ。
風が木々を揺らす。
森はすでに限界に近い。
オーク達の侵食は止まらず、均衡は崩れつつある。
もう時間は残されていない、それでも…
「間に合いそうですね」
静かに目を閉じる。
リムル=テンペスト。
タケル・ヤスダ。
そして、あの者達ならば。
この森に新たな秩序をもたらすだろう。
それがどのような形であれ…少なくとも…
「失敗ではなさそうです」
その言葉だけを残し、トレイニーの姿は再び森へと溶けていった。
ゲルミュッドは現在、かつてない高揚感に包まれている。何故なら長きにわたる計画がついに実を結ぼうとしているからである。
それは…新たな魔王誕生の儀式。
四人の魔王から与えられた、いわば余興のような任ではあるが彼にとっては違う。
成功すれば自らに忠実な魔王を手に入れられる、
その一心で準備を進めてきた。
名付けによる強化。
魔族同士の争いの誘発。
魂の収束。
すべては計画通り…のはずだった。
だが、突然予想外の事態が起きた。
本来であれば三百年後に消えるはずの存在である暴風竜ヴェルドラの消失によって計画は大きく狂った。
不完全な争いでは魔王は生まれることはない。
そして任務に失敗すれば、自らが処分されることになる。
絶体絶命のピンチだが、幸運はまだ彼を見放していなかった。
それはオークロードの誕生である。
これに関してもゲルミュッドにとっても完全なる想定外であった。
だがしかし、それは同時に好機でもあった。
オークロードを利用し、名付けを拒んだオーガはすでに裁きを下している。後は残るゴブリンとリザードマンのみを喰らい尽くせば、魔王は誕生する。
トレントは厄介だが、領域を侵さなければ干渉してこないので後回しで問題はない。
多少の誤差はあれど、概ね計画通りである。
計画が上手くいけばこれまで魔王を恐れ従う側だった自分が、
今度は魔王を操る側に回る。
その未来を疑いもしなかった。
ゆえに…
一人の英雄と一体のスライムによって
その野望が打ち砕かれるなど想像すらしていなかった。
ラプラスは機嫌が良かった。
新たな魔王誕生の目処が立ったからだ。
もっとも、彼自身からすればオークロードが魔王になろうがどうでもいいことではある。
だが…
仲間であり、友でもあるクレイマンの望みとなれば話は別だ。
彼はクレイマンが真なる魔王に至れていないことに対する劣等感を抱いているとも、必死に大量の魂を集めようとしていることも全て知っている。
だからこそ直接ではなく、間接的に手を貸してきた。
魔王としての彼の面目を守るために。
だが、それももう終わる。
ガビルを巧みに操り、リザードマンを弱体化させた。
あとは流れに任せればいい。
一仕事終えて安心していた瞬間だからこそ、
待ち伏せに気付けなかった。
「よぉ、随分と嬉しそうじゃないか」
突然聞き覚えのない声が森の中に響き渡り反射的に距離を取る。
「誰やねんお前!」
気配を察知できなかった。
その事実だけで、相手が格上だと理解する。
そして声がする方へ視線を向けた瞬間…
ラプラスは己の発言を後悔した。
そこには金髪の男が木に寄りかかっていた。
黒い瞳に胸元には三剣の紋章、そして過剰なまでに装飾された宝剣を腰に下げている。
「……嘘やろ。よりにもよって」
【三賢人】の一人。
“
人間からしてみれば英雄として名高いが、同時に魔人である彼にとっては魔族嫌いでありプライドの高い危険人物であると認識していた。
(最悪や)
すぐさま逃亡の選択をした瞬間…
まるで体が石になったかのように動かなくなる。
このままでは殺されてしまう…と慌てている自分の様子を、マサミチは愉快そうに眺めている。
「安心しろ。魔族嫌いってのは半分デマだ」
「どういうことや……」
「幸か不幸か知らんが復讐心ってやつはな、あいつが全部持っていってしまった。多分タケルにも殆ど残ってないだろう」
意味が分からないが、少なくとも今すぐ殺されるわけではないようだ。
「ま、こんな話をしても分からんよな…
それそれとして、本題に入ろうか」
ゆっくりと近づいてくるマサミチに対して警戒心を露わにするが、動けない彼がいくら威圧したところで効果はない。
とうとう手を伸ばせば届くであろう距離まで近づいた。
周囲には重い空気が漂っているがこの後マサミチが発した言葉で霧散することになる。
「俺がお前らに協力してやる」
「……は?」
「おれが"中庸道化連"に協力してやるって言ってんだよ。なあ?副会長さんよ?」
思考が追いつかない。
なぜ正体を知っている。
なぜ
「まあ突然こんなことを言っても信じられないだろうから…そうだな、ガザリームの復活手伝ってやるよ」
「は?」
一瞬、思考が止まる。
ガザリーム。
それは中庸道化連にとっての“核”とも言える存在。
軽々しく口にしていい名前ではない。
「……冗談きついで?」
「冗談に聞こえるか?」
マサミチは笑っている。
だがその目は、一切笑っていなかった。
ラプラスの背筋に、ぞくりとしたものが走る。
「お前らの今回の目的はクレイマンの完全覚醒、そのための魂集め……違うか?」
「……どこまで知っとるんや」
否定はしない、
その必要がないと判断したからだ。
「全部じゃないが、必要な分は知ってる」
軽く肩を竦めるマサミチ。
その態度が逆に不気味さを際立たせる。
「で、なんでそれをワイらに教える?普通は潰しに来る側やろ」
「言っただろ。俺の目的のためだ」
そう言うマサミチの表情は獰猛な笑みを浮かべていた。
「世界はな、少しぐらい混ざった方が面白いんだよ」
楽しげに、だがどこか歪んだ声音。
「魔王が一人増える?結構じゃないか。秩序が乱れる?尚更いい」
(こいつ…あかんタイプや)
利害で動いているようでいて、その根本が読めない。
最も厄介な部類だ。
「……信用できる要素が一つも無いんやけど」
「信用なんていらねぇよ。利害が一致してりゃそれでいい」
マサミチは取り繕うこともせずに即答した。
「お前らはクレイマンを上に押し上げたい。俺は俺で、盤面を動かしたい」
にやり、と笑う。
「だから手を組もうぜ、って話だ」
沈黙が落ちる。
森のざわめきがやけに大きく聞こえた。
「……断ったら?」
「別にいいさ。その場合は別の手を考えるだけだ」
あっさりとした返答ではあるが…
「ただまあ、その場合はお前らが少し不利になるかもな」
軽い調子のまま、釘だけはしっかりと刺している。
ラプラスは数秒だけ考えた後に小さくため息をついた。
「……ほんま、ろくでもない奴に目ぇつけられたわ」
だがその口元には、わずかな笑みが浮かんでいる。
「ええで。乗ったるわ、その話」
「交渉成立、だな」
二人の間に、奇妙な同盟が結ばれる。
それが後にどれほどの混乱を招くのか…
この時、まだ誰も知らない。