親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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 新しくお気に入り登録と誤字報告ありがとうございます。
ゲルミュッドの力の正体をすぐに言ってしまってもあれかなということで考察の要素として考えてみてください。多分答えはオークロード編が終わる頃にわかります。


異形の魔人

「コロす……おまエラ……死ねぇ……ッ!!

 【死者之行進(デスマーチングダンス)】!!」

 

 喉を裂くような絶叫の後に振り下ろされた腕の軌跡から黒い球体が滲み出る。

まるで腐った何かが空間の裂け目から湧き出てくる無数のそれが、音もなくシオンへと押し寄せる。

 

「……鬱陶しい」

 

 シオンは一歩も引くことはなかった。

大剣が振るわれ、黒い球を叩き潰し、弾き、斬り裂いた。

 

 シオンは対処しながらも違和感を感じていた

手応えが軽い…いや、違う。

斬れていないのに斬った感触だけがある…と。

 

(……気味が悪い)

 

 そう感じていると

 

「…何だ、これは」

 

 斬り払ったはずの一つが、刃をすり抜けた。

そしてそのまま、肩口へ触れる。

否、触れた、というより…染み込んだ。

 

「……?」

 

 慌てて距離を取り肩を触る。

痛みはない…だが、

体の奥で何かが動くのを感じた。

 

「……っ、ぐ……!?」

 

 突然膝が崩れる。

力が抜けて倒れるのではない。

力の入れ方が分からなくなってしまった。

 

 内側で何かが蠢く。

臓腑が掴まれ、握り潰されるような感覚。

胃袋が裏返り吐き気が込み上げてきたが吐けない。

 

 喉の奥で、何かが詰まっている。

 

「……な、にが……っ」

「ふは、は……はハハはははッ!!」

 

 ゲルミュッドが、壊れたように笑う。

 

「どうダ……? 気持ちイイだろう……?

中から壊れる感覚は……!!」

 

「もう一度だ……!【死者之行進(デスマーチングダンス)】!」

 

 再び黒いなにかが溢れ始めた。

先程と数も密度も濃度が違うのが見てわかった。

まるで空間そのものが腐り始めたかのようだった。

 

「……【黒炎】」

 

 ベニマルが前に出る。

炎が走り、黒い球を焼き払う…だが。

 

(……燃えていない)

 

 確かに焼いている。

だが…消えていない。

炎の中を通り抜けてくる。

 

「……失礼する」

 

 ソウエイがシオンの側に現れる。

シオンの身体を抱えた瞬間…わずかに眉をひそめた。

 

(……重い)

 

 質量の話ではない。

中身が増えているような重さ。

 

 だが今は気にしている場合ではないので即座に距離を取る。

黒い球体はシオンが倒れていた地面に触れた瞬間、音もなく消えた。

まるで最初から存在していなかったかのように。

 

「シオン、大丈夫か」

「……問題、ありません」

 

 答える声が、微かに揺れている。

だがそれ以上に…

呼吸の仕方を忘れかけていた。

 

(外傷はない……だが)

 

 ベニマルの目が細まる。

 

(中に入る類…か)

 

「ソウエイあれは」

「ああ斬れない、そして触れた瞬間に身体の中に侵入している」

 

 その言葉に、シオンの肩がわずかに震えた。

 

「……ならばこれでもだめなら、癪だが回避し続けるしかないか」

 

 ゲルミュッドを見ながら短く言い切る。

その瞬間、ゲルミュッドの首が飛んだ。

懐に潜り込んだハクロウの一閃によるものである。

 

 地面に落ちた筈の頭部が、ぐちゃりと音を立てて引き寄せられる。

肉を伸ばし、骨を軋ませながら元通りに繋がった。

何事もなかったかのように。

 

「……あぁ……いい……いいぞ……」

 

 ゲルミュッドが恍惚と呟く。

 

「もっと……壊れろ……崩れろ……!」

(再生……いや)

 

 ベニマルは見逃さなかった。

繋がるたびに周囲の黒がわずかに減っていることに…

 

(使っているな)

「どうする。このままでは…」

「時間を稼げ」

 

 ソウエイが言い切る前に即答した。

 

「もうすぐ的な弱点が明らかになる…それまで耐えろ」

「承知」

 

 ソウエイがその場を離れた直後、

 

「ナにをしようトしても無駄ダ……!!」

 

 ゲルミュッドを中心に地面が裂ける。

そこから無数の黒い柱が天高くのぼりはじめた。

 

 その表面には無数の顔が浮かび上がっている。

それらは歪み、叫び、泣き、笑っていた…

 

「【死者之鎮魂舞踏会(ソウルパレード)】」

 

 柱が一斉に倒れる。

鞭のようにしなりながら暴れ始めた。

 

(……やはり斬れないか)

 

 回避するついでに柱を斬ろうと刀を刃がすり抜けた。

柱と刀が触れた感触すらなかった。

 

「この柱には触れるな!」

 

 即座に判断を切り替える。

だが数が多く軌道も不規則であるため完全には避けきれない。

 

「ぐっ……!!」

 

 足元を掠めた…それだけで。

胃が裏返ったかのような強烈な吐き気が走る。

 

(中に……いる……?)

 

 考えた瞬間、吐き気が倍増する。

 

(長引けば……壊れる)

 

 肉体ではない自我が持たない。

そう考え始めた時だった。

 

 視界の隅で突然柱が崩れた。

 

「……消えた?」

 

 違う、消えたのではない。

維持できなくなった。

即座に周囲へ視線を走らせる…

 

 ゲルミュッドがいる中心部は濃い。

だが外部は薄い…いや段々と崩壊している。

 

(やはりこの技には限界がある)

 

 ならば全て使わせて枯らすのみ。

 

「ナにを……!」

 

 ゲルミュッドの声に明確な焦りが混ざり始めた。

 

(……今だ)

 

 ベニマルは踏み込んだ。

 

「どうした。もう終わりか?」

 

 分かりやすい挑発ではあるがゲルミュッドは一瞬の沈黙の後に…

 

「ナめるなァァァァァ!!!」

 

 感情が暴発し、それに合わせるように柱が再度溢れる。

制御も何もない…撒き散らすだけ。

 

「全員回避だ!絶対に触れるな!」

 

 そこは完全に地獄だった。

空間が埋まり、逃げ場が消える。

 

 掠めるたびに、内側が削られていく。

思考が濁り自分が自分でなくなるのを感じる。

 

 それでも避け続け…耐えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …何十分…いや何分時間が経過したのだろうか。

柱の歪んだ顔が消え、次々と崩れ落ちていく。

 

「な……っ……」

 

 ゲルミュッドの動きが明らかに鈍るのが分かった。

 

(来たな)

 

 ベニマルが前へ出た。

 

「く、クルな!!」

「ほう……やはりか」

 

 ゲルミュッドが慌てて黒球を放つ

だが今度はすべて焼き尽くした。

 

「大技の後は精度が落ちる……違うな」

 

 一歩、踏み込む。

 

「維持に力を割きすぎたか」

「く……!」

「終わりだ…いけ、シオン」

「……承知!」

 

 シオンが力強く踏み込み、袈裟斬りをはなつ。

特に抵抗もなく大剣が肉を裂き、骨を断つ。

ゲルミュッドの体勢が大きく崩れた。

…暫く経っても再生は起きない。

 

「お前の力は、借り物だ」

 

 逃げようとするその身体へ歩み寄る。

 

「支配しきれぬものに、頼りすぎた」

 

 ゆっくりと間合いに入る。

四つん這いで逃げるゲルミュッドの背に、刃を向ける。

 

「その時点で…」

 

 そして強く踏み込み

 

「勝負は決まっている」

 

 一閃

 

 肉体が崩れる、今度は二度と戻らない。

何もかもが消え…残ったのは静寂と、

ほんの僅かに残る中に何かがいた感覚だけだった。

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