オークロード戦…タケルの弱点を遠回しに書くの難しかったです。
書くのが難しいところが終わったので投稿のペースは元に戻ると思います。
(……重い)
威圧でも殺意でもない…
粘つくような圧が皮膚の内側にまで染み込んでくる。
目の前にはゲルミュッドの亡骸を喰らい、異質な進化を遂げたオークロードがいる。…だが…それよりも。
「タケル……!」
視線の先でタケルが一人、オークロードと対峙している。
オークロードの攻撃はいなしている。
右腕が喰われているため動きは鈍く…
何より身体そのものが削れていた。
身体の隅から塵のように崩れていく…
死が目前に迫っているというのに…それでも彼は立ち続けている。
(なんでそんな状態で……)
正直に言って今すぐ止めたいし、連れて逃げたい。
湿地帯を抜ければ…あいつは追ってこないはずだ。
だけど…それをやれば、
ここにいるゴブリンもリザードマンも全部喰われる。
【俺じゃ効率が悪い。あいつはお前が喰え】
…それに頭の奥に、あの言葉がこびりついて離れない。
(無茶言うなよ……)
相手は正真正銘の魔王だ。
成功の保証なんてどこにもない、
むしろ失敗する確率の方が高い。
だけど…それでも。
あいつは迷っていなかった。
自分がどうなるか分かっていてなお…託してくれた。
(……ああ、クソ)
歯を噛み締める。
逃げる理由はいくらでもある。
だけど…それでも
【……分かった。信じる】
覚悟決め、タケルの精霊を借り受ける。
懐に潜り込んで捕食者で喰えばいいのだが、問題は相手も似たようなスキルを持っていること。
確実に競り勝つには相手の体力を予め削る必要がある。
それにそもそも激しい攻防を繰り広げている中割り込むのは不可能に近いのだが…
タケルが切り開いてくれるのを信じる…それだけだ。
「――◼️◼️水斬・無闘乱舞」
状況はタケルから動いたことで変化した。
俺の意図を読んだのか、オークロードの周囲を疾走しながら嵐のような斬撃を叩き込んでいく。
オークロードの肉が裂け、欠片が地面に転がる。
このままいけば倒してしまいそうな勢いなのだが…
「ぐっ……」
反撃もまた…確実に届いていた。
切り刻まれたオークロードの体液が触れるたび、蒸発音とともにタケルの身体が崩れていく。
「はぁ……はぁ……」
やがて斬撃が止む。
両者ともに満身創痍である。
だが…一際余裕があるのはオークロードの方だった。
タケルの様子を見てオークロードはようやく食事にありつけると、タケルに向かって手を伸ばし…
「……っ【捕食者】!!」
…たところを俺は背後から近づきユニークスキルを発動した。
相手も反応し、慌てて俺を捕食しようと試みるが…遅い。
再生で消耗している上に精霊の加護でこちらが捕食スピードが上回る。
(いける…!!)
そう思った瞬間…境界が歪んだ。
(……!?)
知らない記憶が頭の中に流れてくる。
オークロードじゃない…もっと別の何か…
木が焼け焦げる匂い、教会が崩れる景色。
そして…どうしようもなく濁った憎悪。
(……ッ!?)
思わず意識が揺れる。
それは余りにも重くて深い…
存在そのものを拒絶するような感情だった。
(タケル……?)
そう理解しかけたその瞬間。
ぶつり…と途切れた。
それ以上は流れてこなかった…
まるで拒絶されたみたいに。
(……なんなんだよ、お前)
俺はタケルのことを分かった気がした。
でも違かった…何も分かっていなかった。
そんな感覚だけを残しながらも意識が深く沈んでいく。
一面闇が広がっているように暗く…
重い粘つく空間…その奥で…
『……来たか』
オークロードが立っていた。
だが現実のそれとは違い、無数の何かが寄り集まって形を保っているような歪な存在となっている。
(……これが)
近くに立つだけで分かる。
強さじゃない…積み重ねられた思いの重さを感じる。
『我らは飢えた』
低い声が響くと同時に景色が揺れる。
そして目の前に現れたのは…オークロードの記憶だった。
大飢饉によって痩せ細った村…
飢えによって生まれて間も無く死んでしまう赤ん坊…
そして食糧を求め彷徨い倒れるオーク…
『奪われ、踏み躙られ、喰らわれ続けた。
だから…生き延びるために我々が喰らった』
(……っ)
俺はそれを否定できなかった。
でも肯定もできない。
「……だからって、全部許されるわけじゃないだろ」
咄嗟にそう言葉が出た。
「お前がやったことも、ここで死んだ奴らも……消えるわけじゃない」
『……理解している』
静かな声が響く。
『だからこそ…この世界の飢えも、同胞の罪も…全て背負うと決めた』
その目は覚悟を決めた男の目をしていた。
「だったら俺がお前の罪ごと……全部、喰らってやるよ」
自然と言葉が出た。
自分でも驚くほど迷いや後悔はない。
『……それが貴様の選択か』
低い声が響く。
怒りでも、嘲りでもない…
確かめるような声音だった。
『だが、この力は渡せぬ。貴様には劇薬だ』
オークロードは手に不気味に光輝く玉を持ちながらそう言った。
『俺のような存在にさせるつもりはない』
「分かった…ありがとうな」
オークロードの輪郭が崩れていく…
周囲を取り囲んでいた無数の存在もほどけていった。
『ならば、来い』
「お疲れ様…他のオークは俺に任せろ…」
「……」
意識が現実に引き戻される。
オークロードを喰らったことで魔素が膨れ上がるのを感じる。
それと同時に身体の奥に何かが沈殿していくのも分かった。
(……重い)
新たに得た力じゃない…
背負った罪と責任の重さがだ…
オークロードの姿はもうない。
オークロードの支配が解けたのかオーク達は静かになった。
「タケル!」
崩れ落ちそうになっているその姿が目に入る。
身体は半ば崩れ、今にも消えそうだ。
慌てて近づこうとして…立ち止まってしまった。
さっき見た光景が脳裏をよぎったからだ。
(……分からない)
あいつが何を抱えているのか…
なんで俺達と一緒にいるのか…
いや…今はそんなことは考えなくて良い
「……間に合ったぞ」
一歩踏み出す…
そしてタケルに近づき手を差し伸べる…
「俺たちの勝利だ」
今は俺達の勝利をタケルと分かち合おうと思う。