親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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今回の話はブルムンド王国のギルドマスターフューズの独白をイメージして書きました。
次からは王都生活編に入ります。

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幕間②
【幕間】英雄の背を見た男


 俺がまだガキだった頃……【三賢人】というのは世界を救う勇者であり、誰もが憧れる英雄だと思っていた。

……いや、それだと語弊があるな。今でもその認識は変わらない。

ただ、少しだけ見方が変わっただけだ。

 

 彼らが活躍すればその功績は瞬く間に世間へ広まり、称賛される。

それが当たり前で当時の俺は何の疑問も抱かなかった。

だからこそそんな英雄に憧れて冒険者になったのは、ある意味必然だったのだろう。

 

 だがいざ冒険者として活動を始めてみれば、現実は想像していた英雄譚とはかけ離れていた。実に地味で泥臭いものだった。

 森に分け入り土と葉にまみれながら屈んで薬草を探すこともあれば、人気のない村の入口で警備に立ち、魔物ではなく襲い来る眠気を相手にしていた。

 

 そんな仕事をいくらこなしたところで、称賛など得られはしない。どこまで行こうと、俺は有象無象の冒険者の一人に過ぎなかった。

 理想とかけ離れた現実に嫌気が差し、何度も辞めようと思った。

……それでも踏みとどまれたのは、依頼主の何気ない「ありがとう」の一言だった。

 

 やがて時が経ち信頼を積み重ねることで危険な依頼も回されるようになり、それに応じた実力も身についた。

気づけば俺は今で言うA−ランクの冒険者として認定されるまでになっていた。

 

 周囲から認識され、称賛されるようにもなった。

だがその頃には、かつて抱いていた“英雄として称えられたい”という欲求は薄れ、代わりに“凄腕冒険者としての責任”が重くのしかかるようになっていた。

 

 自由気ままに動けていた頃とは違う、不自由さを感じ始めた…そんな時だ。【三賢人】の一人、タケルと出会ったのは。

 

「初めまして、俺はフューズと申します。お会いできて光栄です」

「初めまして、僕はタケル。……別に敬語はいらないよ、楽にして」

 

 朗らかな笑顔と、どこか気の抜けた口調。

だがその奥にある“何か”に触れた瞬間、この場の主導権を根こそぎ奪われかねないような圧を感じ思わず息を呑んだ。

 

 緊張のあまり、その後どんな会話をしたのかはほとんど覚えていない。

ただ…タケルに気に入られたらしく、それ以降共に任務に就く機会が増えていった。

 

 だからこそ噂でしか知らなかった英雄譚の裏側を知ることになった。

 

 彼は確かに英雄だ。だが同時にどこまで行っても一人の人間でもあり、決して万能ではない。

それを思い知らされたのは魔物によって滅ぼされた小さな集落だった。

 

「何故助けてくれなかった!!」

「妻を返せ!!」

 

 討伐を終え後処理をしている最中…そんな叫びと共に石が投げつけられた。

タケルはそれらを一切気に留めることなく、淡々と作業を続けている。

俺は…その背中が妙に小さく見えた。

その出来事が頭から離れず帰路の途中に俺はふと問いかけた。

 

「何故、冒険者として活動している?」

 

 それに対してタケルは少し困ったように笑いながら…

 

「人類のため……かな?」

 

 そう答えた。

本気でそんな理由で動いているのか。

子供騙しの理想論じゃないのか…そう問い詰めたかった。

だが悲壮感を感じるその瞳の奥にある覚悟を見てしまった以上、言葉にはできなかった。

 

 それから長い時が流れ、身体の衰えを感じ始めた俺は引退を考えるようになっていた。

そんな折に持ち上がったのが自由組合設立の話だ。

 

 これまでの冒険者互助組合を基盤に異世界から来たユウキという男が制度を改革し、大規模な組織へと発展させるらしい。

 

 本来なら、引退間際の俺には無関係の話だ。

……だがブルムンド王国に設置予定の支部、その支部長に俺を据えたいという話が来た。

 

 当然断るつもりだった。

もう十分にやりきった。あとは静かな場所で余生を過ごせればいい……そう思っていた。

 

「自由組合の支部長に選ばれたのか……おめでとう」

 

 だがたったその一言で全部が狂った。

 

 結局、引き受けてしまったのだ。

理由は単純だ、目の前で支部長室を当然のように自分の部屋として使っているタケルが原因だ。

 

 どういう理屈かは知らないが本来なら相当な年齢のはずなのに、未だに幼い外見を保っている。

本人は「進化したから」と言っていたが…ユニークスキルか何かだろう。

 

 いずれにせよ、あいつはもう十分すぎるほど戦ってきた。

本来ならとっくに休んでいても誰も文句は言えないはずだ。

 

 それでも世間は未だに彼を頼り続けている。

あいつが心から休める日は、まだ当分来ないだろう。

 

 ……俺は彼に何もしてやれなかった。

冒険者だった頃の俺はあいつの隣に立つことはできても、支えることはできなかった。

 

 だが今度は違う。

今の俺は支部長としてあいつを支えることができる。

 

 役に立たないかもしれない。

それでも…せめてここを、あいつが羽を休められる場所にしたい。

そう思って俺は支部長になる道を選んだ。

 

「そう……お互い頑張ろうか」

 

 俺の言葉に、タケルは一瞬だけ、様々な感情が入り混じったような表情を浮かべてそう答えた。

その時のことは今でも忘れていない。

 

 タケルが何を企んでいるのかは分からない。

だが、可能な限り協力したいとも思っている。

……同時にその意図が読めず、迂闊に動けないのも事実だが。

 

「ギルマス、準備できました」

「ああ、今行く」

 

 幸いにも、今回は“オークロード討伐”という大義名分がある。

タケルと…そして、あいつが監視している魔物に接触しても問題はないだろう。

 

 そこでできる限り本音を引き出す。

あいつの真意を見極めるために。

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