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ガゼルが来訪し、交流を深めるための食事会を開いていた時だった。
「リムルにタケルよ、俺と盟約を結ぶ気はないか?」
ガゼルが唐突にそんなことを言い出した。
「何言ってんだこのおっさん、みたいな顔をするんじゃない」
「何言ってんだこのおっさん」
「本当に口に出す必要はもっと無い」
タケル……いくらなんでも国王をおっさん呼びするのはどうかと思うぞ?
「いいのか?それは魔物達の集団を国として認めるということだぞ?」
「無論だ」
一応確認のために問い返してみたが、ガゼルの決意は固いようだった。
「これは王として言っている。当然善意だけで動くつもりはない。
双方の国に利があると判断した上での提案だ」
「本当にぃ? ……俺騙されてない?」
あまりにも美味い話なので疑いの目を向けるが、ガゼルは笑みを浮かべた。
「恩師やドライアドを前に、その主を謀ろうなどせん」
なるほど、そこまで言うなら信じても良さそうだ。
「条件は二つ。
一つ、国家の危機に際しての相互協力。
一つ、相互技術提供の確約。
……無論、返答を急がせるつもりはない。よく考えるが良い」
「……いや、この話は喜んで受けたいと思う」
こちらに不利益はほとんど無い。
むしろ、こっちが一方的に得をしていると感じるくらいだ。
「そっか、リムルも国王になるのか……頑張ってね」
「いや、お前は人間側の代表として立ってもらうからな?」
いい感じに話を纏めて逃げようとするタケルの肩を掴む。
お前は俺と一緒にこの国を率いてもらうんだから覚悟しろよ?
「僕はただの冒険者だからね、そういう権力とか似合わないし」
「そのただの冒険者は、一国の大臣を殴り飛ばして無罪放免になるのか?」
俺の言葉に思うところがあったのか、タケルは明後日の方向へ視線を逸らしたまま黙り込んだ。
「それにお前、俺と同じジュラの森大同盟の盟主だろ?」
「リムル様は元より、タケル様が国王の一人となることに反対する者などおりません」
「タケル様を主人として認めぬ者がいるならば、このシオンが……」
「それはやめておけ」
よし、周囲の援護もあってかタケルを引き摺り込めそうだ。
「お前の存在はこの国の安全を保証する上で欠かせない、諦めろ」
「分かったよ……でも、ずっとこの国に居るわけじゃないからそこは分かってよ!?」
「よし、決まりだな!!」
うーん、と悩む様子を見せた後、諦めがついたのかタケルは大人しく受け入れた。
「それで、国の名前はどうする?」
「あっ、そうだな……どうしようか」
「はーい、ジュラ・テンペスト連邦国がいいと思いまーす!」
「おっ、いいな……それ」
国名について悩んでいたところ、タケルが出した案が妙にしっくり来たのでそのまま採用することにした。
よし、これで安心して酒を楽しめる…
「ついでにこの町の名前も中央都市『リムル』でいいよね?」
「は? やめろ? なんで俺の名前なんだよ!!」
タケルが勝手に町の名前を俺にしようとしたせいで騒ぎになったが、何故か配下達は乗り気だった。
仕方がないので恨めしそうに睨んでやったのだが、返ってきたのは満面の笑みだった。…なので殴ったのは悪くないと思う。
「はあ、全く……」
「とりあえず決まったようだな。明日署名してもらうからそのつもりでいておけ。
そして今夜は酒に付き合え」
「分かったよ……あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだけどいいか?」
ガゼルなら色々な伝手があるだろうし、何か知っているかもしれない。
「確か……ハクロウの弟子だって言ってたけど、他に教えて貰ってた人間とかいるか?
それかガゼルが剣を教えたでもいいぞ?」
「いや、いないが……どうした?」
「タケルの剣技ってハクロウと似てるんだけど、どこ由来なのか気になってな」
ハクロウに剣を教わった時、妙に飲み込みが早いと言われたことがある。
理由は単純、タケルの剣筋がハクロウの流派とよく似ていたからだ。
だが、ハクロウはタケルに剣を教えたことはない。
ガゼルも心当たりが無いとなると、どこで身につけたのか分からなかった。
「そんなもの本人に聞けば良いだけの話ではないか」
「それが一切教えてくれないんだよな」
そういえばタケルって、自分のことは世間一般に知られていそうなことしか話さないんだよな。
だからといって、無理矢理聞くのも気が引けるし……
「ふむ……そうか」
そう呟くとガゼルは何か考え込むように黙り込んだ。
そして暫くの間、値踏みするような視線でタケルを見つめている。
「何か思い出したことでもあるのか?」
「一応、心当たりが無いわけではないが……ここで話すことでもない」
そう言って誤魔化すように酒を煽り始めたガゼルを見て、それ以上追及することは出来なかった。
「そうだった、タケル。お前に一つ確かめたいことがあった」
「僕? いいよ?」
「今までリムルを監視していたらしいが、目的は何だ?」
真剣な眼差しで問いかけるガゼルに対し、タケルは何かを思い出したように笑みを浮かべる。
「簡単だよ……人類のため…それだけ」
「……お前のすることが、本当に人類にとって益になると?」
あまりにも要領を得ない返答に、ガゼルは英雄覇気を放ちながら問い返した。
周囲の者達も圧に呑まれたのか、先程まで騒がしかった部屋が静まり返るがタケルは意に介した様子も無かった、むしろ…
「そうだよ。だってそのために僕は行動してるんだから」
当然のことを口にするようにそう言い切った。
全員が固唾を呑んで二人を見守る中、ガゼルはゆっくりと息を吐く。
「分かった……今は信用しよう」
これ以上何を言っても変わらないと判断したのか、ガゼルは静かに引いた。
張り詰めていた空気がようやく緩み、止まっていた酒宴も少しずつ再開されていく。
笑い声が戻り、先程までの空気が嘘だったかのように宴は賑わいを取り戻していた。だが…
(……人類のため、か)
笑いながらそう口にしたタケルの横顔が、何故だか妙に引っかかった。
まるで自分達とは違う何かを見ているような……
そんな得体の知れない違和感だけが、胸の奥に残り続けていた。