親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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英雄の器②

「英雄になれだって……? この俺が?」

 

 目の前のスライムからの突然の提案に、思わず間の抜けた声が漏れた。

 

「別に強制じゃない。お願いだよ」

「いや、そう言われてもな……」

 

 意味が分からねえ。

なんで魔物が、俺なんかを英雄に仕立て上げようとしてる?

 

「元々はタケルが倒したことにする予定だったんだ。

でも、こいつ今やこの国のお偉いさんだからな。

人間と仲良くしたいなら、別に“人間側の英雄”が必要なんだよ」

「はぁ!?」

 

 思わず声が裏返る。

タケルさんが魔物の国の重鎮?

人類の英雄みたいな人が?

 

 信じられねえ。

……いや、信じたくねえ。

 

「英雄タケルが見込んだ男が、命懸けでオークロードへ挑んだ。

それに感銘を受けた魔物たちが、武器や食糧を支援した…

そういう形なら、人間側も受け入れやすいだろ?」

 

 ……全くもって無茶苦茶な話だ

タケルさんのことは信じたい…

だが、魔物の話をそのまま信じろってのは流石に…

 

「その計画、ブルムンド王国も協力できるかもしれません」

「お、本当か!?」

「知り合いの大臣に掛け合えば、周辺諸国へ噂を流す程度なら可能でしょう」

「おい!?あんたまで何でそんな乗り気なんだよ!

こいつら魔物だぞ!?」

 

 リムルに対して、フューズが静かに頷いたことで思わず叫んでしまったが、フューズは落ち着いたまま口を開いた。

 

「君の困惑も分かる。

だが彼らとの友誼は、人心の混乱を防ぐ以上の価値がある」

「……どういう意味だ?」

「一つ教えておこう。

 我々が確認した限り、この国の国民一万余りは、全員が名持ち(ネームド)の魔物だ」

 

 

「………は?」

 

 突然知らされた事実に背筋が凍る。

ネームドモンスターだと?しかも、一万?

 

「タケルがいるとはいえ、その気になれば、ここにいる我々どころか国一つ消えても不思議ではない」

 

 その言葉でようやく理解した。

今俺たちは、“敵対してはいけない存在”のど真ん中にいるのだと。

だが…だからこそ分からねえ。

 

「……タケルさんは、それでいいのか?

自分の成果を他人に譲ってまで、何がしたいんだ?」

「譲る?違うよ」

 

 タケルは不思議そうに首を傾げた。

 

「僕は“誰でもいいから英雄にしよう”なんて言ってない。

僕が認めた相手だから任せるんだ」

「認めた……?」

「うん、だから一つ教えてあげるよ。

君、多分“僕が認める”って言葉の意味を理解してない」

「……何を…ッ!?」

 

 次の瞬間、全身から力が抜けた。

 

「がっ……!?」

 

 膝が笑い、机に身体を預ける。

なんだこれは…息が重い…立てない。

 

「僕が認めるってことは、最低でも世界を任せられる器ってことだ。

その程度で潰れるなら、英雄なんて無理だよ」

 

 ……化け物かよ。

 

「俺に……勇者の真似事でもしろってのか?」

「勇者は駄目なのだ!」

 

 ミリムが勢いよく割り込んできた。

 

「勇者は魔王と同じ特別な存在なのだ!

軽々しく名乗ると因果が寄ってくるぞ!

タケルくらい強くなければ早死にする!」

「そ、そうなのか……」

 

 どうやらリムルも知らなかったらしい。

……いやそれよりもなんでこいつら、そこまでして俺を英雄にしたがる?

 

 俺はただ、食っていければいいと思ってた。

適当に依頼を受けて、仲間と馬鹿やって、生きていければそれで十分だった。

 

 なのに。

オークロードは既に倒されていて。

魔物からは“お前が倒したことにしてくれ”と言われて。

 

 その上…子供の頃から憧れてた英雄に、

 

『英雄になれ』

 

 なんて言われたら。

 

「……なりたく、なるだろうが」

 

 タケルさんみたいに全部は救えねえ。

そんなことしたいとも思わねえ。

俺が助けたいのは、目の前にいる奴らだけだ。

 

 それでも。

俺なりの英雄として生きるくらいなら……

 

 自然と、身体に力が戻ってくる。

さっきまで立つことすらできなかったのに、今は不思議と足に力が入った。

 

「先に言っとく。

俺は、あんたみたいにはなれねえ」

 

 タケルを真っ直ぐ見返す。

 

「俺にできるのは、せいぜい目の前にいる誰かを助けることだけだ。

それでも俺を英雄にするってのか?」

 

 暫くの間沈黙が続き、空気が張り詰める。

だが次の瞬間、タケルがふっと笑った。

 

「うん、合格」

「……いいのかよ」

 

「中途半端な覚悟なら、英雄覇気を受けて立ち上がれないしね」

「タケル……見てる側からすると、かなり怖かったぞ。

逃げ出したらどうするつもりだったんだ」

「その時は、その程度だったってだけだよ」

「おい!!」

 

 フューズのツッコミに、場の空気が少し緩む。

……どうやら俺は、本当に認められたらしい。

 

「とにかく、引き受けてくれてありがとな。

期待してるぞ、ヨウムくん」

「あ、ああ…」

 

 返事をしかけた瞬間。

スライムだったはずのリムルが、銀髪の美少女へと姿を変えた。

 

「……は?」

 

 いや、待て…なんだこれ…綺麗すぎるだろ。

 

「どうした?」

「いや……その……」

 

 駄目だ、上手く言葉が出てこねえ。

 

 その後もしばらく話していたが、長旅の疲れと緊張が一気に押し寄せてきた。

今日はもう休みたい…そう思った瞬間。

 

「じゃあ明日から、びしばし鍛えるからよろしくね」

「……は?」

 

 嫌な予感しかしない。

 

「な、なあ…ちなみに誰が鍛えるんだ?」

「基本は僕かな。あと、たまにハクロウ」

 

 その瞬間、リムルと、赤髪の鬼人が同時に手を合わせた。

 

「……なんで拝んでるんだ?」

「ヨウム。タケルの鍛錬は、厳しいとかそういう次元じゃない」

 

 リムルが遠い目で呟いた。

 

「安心しろ。骨は拾ってやる」

「残ればの話だがな」

 

 ……今からでも英雄辞退できねえかな。

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