親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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英雄の器③

「くそっ!!」

 

 生意気なスライムが治める町を後にし、俺たちはユーラザニアへの帰路についていた。

その途中、ふとミリムの姿を思い出し抑えきれない苛立ちのまま木を殴りつける。

 

 鈍い音を立てて木は呆気なく倒れた。

だが、それでも怒りは収まらない。

 

「あの敗北は仕方ありません。相手は魔王ミリム……たとえカリオン様でも……」

「馬鹿野郎!!カリオン様があんな無様な姿を晒すか!!」

 

 これはミリムへの怒りじゃない、

一撃で沈められた自分自身への怒りだ。

三獣士になった程度では足りない。

もっと強くならなければ。カリオン様の背に追いつくためには…。

 

「お気持ちは察します。ですが我らの任務は、あのスライムとその配下の勧誘です。どうかカリオン様の命令をお忘れなく」

「……そうだな」

 

 俺たちはカリオン様の代理として来ている。

ここで軽率な行動を取れば、傷つくのはカリオン様の威厳だ。それだけは避けなければならない。

 

「いやいやぁ、分かりますとも。その抑えきれない気持ち」

「……誰だ!?」

 

 警戒は解いていなかった。

それなのに、接近に気づけなかった。

 

「ご機嫌よう、ユーラザニアの皆さま。お初にお目にかかります」

 

 そいつは上空から現れた。

両手と片足を斜め上に伸ばし独楽のように回転しながら、残った片足で軽やかに着地する。

 

「私は中庸道化連が一人、怒った道化(アンガーピエロ)のフットマンと申します。どうぞお見知りおきを」

 

 中庸道化連……聞いたこともない名だ。

だが、俺に気取られず近づいた時点で油断できる相手ではない。

 

「そんな警戒しないでよぉ。アタイは涙目の道化(ティアドロップ)のティア。中庸道化連ってのは、まぁ何でも屋みたいなものさ。少しくらい話を聞いても損はないと思うよ」

「失せろ。得体の知れん道化共と話す義理はない」

「そんなつれないこと言うなって」

 

 今度は別方向から声がした。

振り向いた瞬間、反射的に戦闘態勢へ移行する。

 

「【三賢人】……マサミチだと?何故お前がここにいる?」

 

 三賢人…その中でも、とびきり危険な存在として知られる男。

そんな奴が、まさか魔人と共に行動しているとは。

 

「まぁまぁ。魔人と一緒にいる俺が怪しいのは分かる。だが警戒したところで意味はないぞ?……それより、魔王ミリムに仕返ししたいんだろ?」

「なんだと?」

 

「力をくれてやるよ。危険ではあるが、それを乗り越えられれば魔王になれる」

「そんなことをして、お前に何の得がある?」

「得はあるさ。……教えるつもりはないけどな」

 

 

 


 

 

 

「ヨウムも、自分の国に帰っちゃったね」

「ああ……それにしても驚いた。まさかタケルがお前を後継者にしようとするとはな」

「後継者ってほどでもないよ」

 

 タケルは苦笑しながらそう言うが、それでも異常だ。

こいつは弟子を取るという行為の意味を誰より理解している。

だからこそ、そう簡単に他人へ技術を継がせたりはしないはずだった。

なのに、身寄りもない一介の冒険者を弟子にした。

 

「でも、結果的には正解だったと思うよ?まさかユニークスキルまで会得するとは思わなかったけど」

「それだけ死線を潜ったということなんだろうな」

 

 厳しいなどという言葉では生ぬるい。

最早拷問じみた鍛錬の果てに、ヨウムは【先導者(のぞまれるもの)】というユニークスキルを会得した。

 

 “先導者であることを望まれる”。

 

 奇妙な名だ、だがヨウムなりの歪で不器用な優しさが形になった結果であると考えると納得できる。

正直、会得できると分かっていても真似したいとは思えない。

 

「そういえば、ここへ来た時から聞きたかったことがある」

「ん?なに?」

「お前の言う“人類のため”とは、一体何なんだ?」

 

 今まで曖昧にされてきた目的。

今日はそれを問い質すつもりで来た。

たとえ気を悪くされようと、もう誤魔化されるつもりはない。

 

「あれ? ……ああ、そういえば詳しく話したことなかったっけ。折角だし、今日は少し踏み込んだ話をしようか」

「あ、ああ……」

 

 あまりにもあっさり承諾されたせいで、拍子抜けした返事になってしまった。

 

「僕の目的……それはね。魔物によって生まれる“人類の悲劇”を無くしたいんだ」

「人類の悲劇……?」

「そう。たとえ僕たち三賢人がいても、魔物による被害をゼロにはできない。助けられない人たちだって、どうしても出てくる」

 

 タケルはまるで懺悔でもするような声音で語っている。

 

「英雄がいても救われない人がいる。だったら、その悲劇そのものを消してしまえばいい……それが、僕たち三賢人の目的なんだ」

「本気で言っているのか?お前たちは、本当にそんなことを……」

「僕一人じゃ無理だよ。でも、やるよ…絶対に。

そのために僕は三賢人を作ったんだから」

 

 そんなの理想論だ…あまりにも現実離れしている。

だがこの男は、本気で成し遂げるつもりでいる。

 

「それは……マサミチも、か?」

「うん。そうだよ」

 

 予想外だった。

傲慢で凶暴…そう噂されるマサミチですら、“人類のため”に動いているというのか。

 

 信じ難い話だ。

だが、少なくともタケルが嘘を吐いているようには見えなかった。

 

「だから、リムルの力が必要だと判断した。……これで分かった?僕がリムルを生かしてる理由」

「あ、ああ……疑って悪かった」

「……というわけだから、リムル。これからしばらくよろしくね?」

「俺が盗み聞きしてたの、気づいてたのかよ……」

 

 どうやら、やけに素直に話したのはリムルにも聞かせるためだったらしい。

 

 ……だが、何か引っかかる。

いや辞めておこう、これ以上疑う必要はない。

 

「要するに、俺が人間と仲良くすることで魔物被害を減らそうって話だろ?簡単じゃねぇか」

「ははは……」

「笑って誤魔化すな!!」

 

 今はただ……タケルが、少しでも楽しそうに笑えているのなら。

それでいいと思ってしまった。

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