親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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暴風大妖渦襲来

「ふぅ……最近は特に何事もなく平和な感じで悪くないな」

 

 ミリムやフォビオといった魔王が干渉してくることはあったが、今のところ大きな問題は起きていない。順調に国の整備が進んでいる。

このまま平和に過ごせれば……

 

「忙しいところ大変申し訳ありません、リムル様」

 

 ……うわあ、嫌な予感がする。

 

「久しぶりだな。確かドライアドのトライアだったか?」

「その通りでございます」

 

 大同盟を結んで以降、ドライアド達との交流も増えた。

だが、目の前のトライアは以前会った時よりも輪郭が薄い。まるで存在そのものが希薄になっているようだった。

 

「……早速で申し訳ありません。

暴風大妖渦(カリュブディス)が復活いたしました。

かの大妖はこの地を目指しております」

 

 ……深刻な表情で緊急事態を報告しているところ悪いんだが、かりゅ……ぶでぃす?ってなに?

 

 

 

「カリュブディスは古に存在した天空の魔獣。倒されても依代さえあれば復活する性質を持っていて、勇者によって封印されていたらしい」

 

 住民達を招集する間、タケルから説明を受ける。

 

「復活するのか。面倒だな」

「しかも知性がないから何を考えているかも分からないし、交渉も無理だね」

 

 話せない相手ほど厄介なものはない。

理由も分からずこちらに向かって来ているというのだから尚更だ。

 

 

 

「既に気付いている者もいるだろうが、敵がこの地へ接近している」

 

 壇上に立ち、集まった住民達へ告げる。

正直不安はあるが、それを表に出す訳にはいかなかった。

 

「故に俺達で迎撃するが怯える必要はない。ベニマルが迎撃態勢を整えている。

非戦闘員はリグルの指示に従って避難しろ。

以上!慌てず騒がず行動開始!!」

 

 湧き上がる歓声を背にベスターへ視線を向けた。

 

「ベスター、ガゼル王へ援軍要請を頼む」

 

 やっぱりドワーフ王国という存在は心強いな。

 

 

「悪いな折角の休暇なのに、フューズ君も避難してくれ」

「なぜ、タケル様やミリム様に任せて逃げないのですか……?」

「ん?」

 

 思わず聞き返した。

フューズがタケルを高く評価しているのは知っている。

だが、それとこれとは話が別だ。

まるで、タケルなら当然どうにかできると言うような口ぶりだった。

 

「カリュブディスは災厄級魔物(カラミティモンスター)

その脅威は災禍級魔物(ディザスター)以上と考えられています」

 

 なるほど。ドライアド達があれだけ慌てる訳だ。

 

「カリュブディスが魔王に認定されないのは知能がない、それだけです!貴方は魔王と戦おうとしているのですよ!?」

 

 フューズの言葉に苦笑する。

確かにタケルなら戦えるかもしれないしミリムなら勝てるだろう、だが……

 

「だからだよ」

「え?」

「タケルがいるからって、あいつばっかりに背負わせる訳にはいかないだろ」

「それは……」

 

 フューズが言葉に詰まる。

 

「生憎、俺もこの国の主なんだ。仲間に全部押し付けるつもりはない」

「ですが……」

「万が一、負けた時はタケルと住民達を……」

 

 そこまで言ったところで足を踏まれた。

 

「痛っ!?」

「余計なことは言わなくていい」

 

 タケルが呆れたようにこちらを見ている。

その視線を受けて、ふと思い出した…シズさんとの約束を。

 

「……ああ、そうだったな」

「何がです?」

「理由を思い出しただけだ」

 

 魔王レオンを殴る…それも理由の一つだ。

だが、それ以上に…

 

「俺はタケルを守ると誓ったんだ」

 

 シズさんに、そしてこの姿に。

カリュブディス程度で立ち止まるようでは、タケルを守ることなどできない。

 

 気付けば誰もがタケルを頼る、フューズですらそうだ。

それが悪いことだとは思わない。

 

 だが……だからこそ。

あいつを一人にはしたくなかった。

 

 

 

 迎撃地点はテンペストとドワーフ王国を結ぶ街道沿いになった。

ゲルド達には申し訳ないが街で戦うより被害は少なくて済む。

そして戦いの準備を進める中、衝撃の事実を知った。

 

「ヴェルドラの申し子?」

 

 どうやらカリュブディスはヴェルドラの魔素溜まりから生まれた魔物らしい。

もしかしたら俺の中にいるヴェルドラに引き寄せられてこの街を目指しているのかもしれない、そう考えれば辻褄は合う。

 

 だが、問題はそこではなかった。

カリュブディスはシンプルに強い。

 

 【魔力妨害】によって魔法はほぼ無効化される。

そのため倒すには物理で殴り続けるしかないのだが元々、高い耐久力を持ちながら【超速再生】まで備えているときた。

なんというか考えるだけで面倒な相手だった。

 

 

 

「フフフ!ただのでかいだけの魚などワタシが倒してやるのだ!!」

 

 ミリムが元気よく宣言してくれた。

正直ちょっと魅力的な提案だったのだが…

 

「はいはい。こっちの問題だから介入しないようにね」

 

 タケルが後ろからミリムを抱き寄せて止めた。

何やってんだあいつは?

しかもシュナまで頷いているし、助けてくれそうな奴が誰もいない。

 

「そうだぞミリム! 俺とタケルを信じろ!」

「うぅ……」

 

 この状況で助けを求める度胸など無いためそう言ってしまった。

タケルに抱き抱えられながらミリムは落ち込んでいるが、泣きたいのはこっちなんだ。

 

 

 

「……来たか」

 

 誰かが呟くと同時に全員の視線が空へ向く。

 

 そこにいたのは空を泳ぐように迫ってくる巨大な魔獣…暴風大妖渦(カリュブディス)

 

「……腹を括るしかないか」

 

 正直に言えば怖い、相手は魔王級の怪物だからな。

 

 だが…タケルを守ると誓った。

この国を守ると決めた。

ならば逃げる理由などない。

 

「行くぞ」

 

 こうしてカリュブディスとの戦いが始まった。

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