親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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戦いの果てに

「すまん!!……いや、すみませんでした!!」

 

 目を覚ましたフォビオは状況を把握するやいなや、即座に地面へ額を擦り付けた。

言い訳や責任転嫁をしない、その潔さだけは評価できる。

 

 だが、もっとも……

もし「俺の命で償う」なんて言い出したらタケルが本気で殺しかねないので黙っていてほしい。

助けた意味がなくなってしまう。

 

「安心しろ。俺達はお前を殺す気はない」

 

 そう告げると、フォビオは僅かに肩の力を抜いた。

 

「それよりトレイニー、一つ聞きたいことがあるんだろ?」

「ええ…なぜ貴方はカリュブディスの封印場所を知っていたのですか?」

 

 トレイニーが一歩前に出て問い詰めると、フォビオの肩が僅かに震えた。

 

「あれは勇者から託された我らドライアドしか知らぬ場所。偶然見つけたとは思えません」

「……教えられた」

 

 やっぱりか。

フォビオが自ら進んで依代になろうとしたとは思えないからな。

 

「仮面を被った二人組にな」

「仮面?…もしかしてこのような仮面の方ですか?」

「いや、違う」

 

  トレイニーが地面に片目を閉じた奇妙な仮面を描いて確認したが、フォビオは首を横に振った。

 

「涙の仮面を付けた女と、怒りの仮面を付けた男だった」

「怒りの仮面だと……?」

 

 ベニマルが眉をひそめた。

どうやら心当たりがあるらしい。

その後の情報整理で、片目の仮面の魔人はラプラスという名であり、中庸道化連という組織に所属していることが判明したのだが…

 

「うーむ……」

 

 珍しくミリムが難しい顔をしていた。

 

「どうした?」

「オークロードの件を仕切っていたのはゲルミュッドなのだが、中庸道化連などという連中は聞いたことがないのだ」

 

 ミリムほどの魔王が知らない…

それだけで不気味だった。

 

「あ、でもクレイマンの奴なら何か知ってるかもしれん!」

「クレイマン?」

「魔王の一人だ! あいつはそういう企み事が大好きなのだ!」

 

 やはり嫌な予感が的中してしまいそうだ…

魔王が絡んでいる可能性があるならなおさらだ。

 

「いや、それよりも気になることがある…中庸道化連の中に【三賢人】のマサミチがいた」

 

 フォビオの一言で一瞬にして空気が変わった。

先程までの和やかな空気が一瞬で消える。

ベニマルが目を細め、シオンも表情を硬くする。

 

「……タケル…フォビオの勘違いだよな?そんなことあり得るはずがないよな?」

 

 思わずそう聞いてしまうのだが…

 

「残念ながら本当だよ」

 

 俺の期待とは裏腹にタケルはあっさりと認めた。

 

「つい最近会った時に本人から聞いた」

「いや待て。人類側の英雄が魔王の関係者と組むわけが……」

「自分達って割と過程は気にしない人だから」

「いやいやいや」

「厳密に人類の利益だけ考えるなら、ここにいる魔族を全員殺すことになるけど?」

「分かったからその話はやめろ」

 

 さらっと怖いことを言うな。

…だが問題はそこじゃない。

タケルと同格の存在が敵側にいるかもしれない。

それだけで頭が痛くなってくる。

 

「目的は?」

「僕達を試したいらしい」

「嫌な予感しかしねぇ……」

 

 国家転覆級の騒動になる未来しか見えなかった。

 

「俺はただの無害なスライムなんだが?」

「諦めて」

 

 即答だったんだが酷くないか?

そんなやり取りをしていると、タケルがフォビオへ視線を向けた。

 

「それよりフォビオをどうするか考えないと」

 

 そうだった。

本来なら無事を確認してユーラザニアへ帰せば終わりだった。

 

 だが今回は事情が違う。

フォビオの中にはカリュブディスの残滓が残っている。

魔王へ至るための要素ごと取り込んでしまったことでフォビオの魔力量は異常なまでに増加した。

 

 下手をすれば俺やタケルに届きそうなほどだ。

さらに【暴風乃御霊】というユニークスキルまで獲得している。

暴走でもされたら洒落にならない。

 

「とりあえずカリオンに連絡して……」

「なら、そこにいるカリオンに連れて帰ってもらえばいいのだ」

「そうそう、カリオンに……」

 

 そこで固まった。

森の奥…一人の男が木にもたれ掛かっていた。

いつからいた?

誰も気付かなかった。

 

「やはり気付いていたか、ミリム…それにタケルもか」

 

 金髪の男がゆっくりと歩み出る。

 

「そいつを殺さず助けてくれたこと、感謝する」

「お前が魔王カリオンか」

「俺はリムル=テンペスト。この国の主だ」

「フッ」

「タケルがいるとはいえ、たかがスライムが国を興すとはな」

 

  俺も前へ出て名乗るとカリオンが笑ったがすぐに俺を値踏みするかのように目を細めた。

 

「お前…オークロードを喰ったか?」

「ああそうだが、それが何か悪いか?」

「そうか」

 

 お互い沈黙の中睨み合う状態が続いた。

このまま戦闘に発展するのかと覚悟をしようとした時…

 

「ふははははは!!」

 

 カリオンが突然大笑いし始めた。

 

「面白いな!ミリムが気に入る訳だ!」

 

 よく分からないが合格らしい。

 

「悪かったな。俺の部下が迷惑を掛けた」

 

 意外だった。

魔王というのはもっと傲慢な存在だと思っていた。

 

「今回の件、借り一つということにしておいてくれ。

いざという時に力になろう」

「なら一つ頼みがある」

「何だ?」

「テンペストとの不可侵協定を結んでくれ」

 

 カリオンは少し驚いた顔をした。

 

「そんなことでいいのか?」

「俺には十分すぎる」

 

 魔王がいつ襲ってくるか分からない今の状況では、魔王が一人敵にならないだけでも安心感が違うからな。

 

「良かろう」

 

 カリオンが力強く宣言した。

 

「獅子王カリオンの名において誓う。ユーラザニアはテンペストへ牙を向けん」

 

 よし、これでユーラザニアとの問題は解決しそうだなと思ったその瞬間…

 

 ズガァン!!

 

「え?」

 

 視界の隅に立っていたフォビオが吹き飛んだ。

 

「馬鹿者が」

 

 カリオンが拳を下ろす。

 

「貴様の軽率な行動でどれだけの者を危険に晒したと思っている」

「ぐっ……!」

 

 フォビオは膝をつきながらも立ち上がった。

普通なら意識を失っている一撃だ。

 

「ほう」

 

 カリオンが目を細める。

 

「死なないように加減したとはいえ、俺の一撃を受けても立つか」

「あー……すまない、言い忘れてた」

 

 俺は頭を掻いた。

 

「フォビオは純粋な黒豹の獣人じゃなくなったんだ」

「何?」

「カリュブディスの影響を受けて変質してしまったんだ」

 

 カリオンはしばらくフォビオを見つめる。

やがて小さく息を吐いた。

 

「そうか」

 

 その声音に怒りはなかった。

 

「ならばなおさら強く生きろ、フォビオ」

 

 そう言って背を向ける。

 

「後日使者を送る。今度は礼を失さぬよう教育してからな」

「分かった、こちらも準備をしておくよ」

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