親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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ようやく5話目でゴブリンが登場しました、思ってたよりゆったりとしたペースで話が進んでるような気がします。


ゴブリンの村

「【水槍(ウォータースピア)】」

 

 リムルが圧縮した水でできた二十本の細槍を生成し、周囲を飛び回る蜂の魔物へと放つ。槍は一匹残らずその頭部を正確に貫き、すべて一撃で仕留めた。

 

「よし、我ながら上出来だな」

「戦闘にもだいぶ慣れてきたな。リムルがいると魔物にあまり襲われなくて助かる」

 

 リムルと出会ってから、すでに三日ほどが経過している。魔物が活性化しているとはいえ、さすがに数日で劇的な変化はない。それに、リムルから漏れ出る魔力に怯えて周囲の魔物が近づきにくいせいで、調査は思うように進まなかった。……いや、正確には“あえて時間をかけている”方が正しいが

 

「なぁ、ヴェルドラって元々長い間封印されてたんだろ? 消滅したことって、そんなに影響あるのか?」

 

 自分がボコボコにしたせいで自己評価が下がっている……わけではないな。それは元からか…どうやら、自分の存在が周囲の魔物を大人しくさせていることにも気づいていないらしい。

 

「ちゃんと活性化はしてるよ。さっき見た狼の魔物、あれは本来この大森林の外の平原に生息している魔物でこれまで森林内での確認例はなかった。それが奥深くまで入り込んでいるってことは、ヴェルドラという脅威が完全に消えた証拠だ」

「そ、そうか……ヴェルドラってやっぱりとんでもなく凄かったんだな」

 

 なかなか失礼なことを言う。だが、凶暴だった頃のヴェルドラを知らず、ツンデレなおっさん状態しか知らなければ無理もないか。

 

 ひとまず、これまでの調査記録を書いた紙を魔法でギルドマスターの机へ転送しておく。ちなみにリムルに関する記述は一切していない。ギルマスが彼の存在を知るのは、もう少し先の話だ。

 

「さて、リムル。かなり弱いが、そろそろ言葉を話す魔物の討伐でもしてみるか?」

「な、なぁ……言葉が通じるなら、殺さなくてもよくないか?」

 

 【魔力探知】で近づいてくるゴブリンを察知し、試しに聞いてみたが案の定断られた。

 

「別に殺す価値もないが、生かす価値もなぁ……」

「ラブアンドピース! 平和にいこう!」

「……分かった。……って、なんでゴブリンの方へ向かおうとしてる?」

 

「この世界のことを話せる魔物にようやく会えるんだぞ? そりゃ会ってみたいだろ。だから離せって」

 

 ゴブリンの位置を把握したのか、そちらへ向かおうとするリムルを抱え上げて止める。しかし抗議の声を上げた直後、身体を変形させて腕から抜け出し…いや、抜けきれなかった部分はトカゲのように切り離して脱出していた。

 

「これからゴブリンと話してみる。絶対に殺すなよ」

「必要があ「絶対にダメ!!」……分かった」

 

 そんなやり取りをしているうちに、ゴブリンの集団が姿を現した。名もなきゴブリンに過ぎないから、自分は威圧などしていない。だが、リムルから無意識の内に漏れ出る魔力の圧に屈しているようだ。

 

「初めまして。俺はスライムのリムルという」

 

 当の本人は気楽な様子で挨拶しているが、相手からすれば、とてつもない威圧を放つ存在が【名を持つ魔物】だと宣言したことになる。つまり。

 

「ぐがっ! 強き者よ! お力は十分理解しました! どうかその威圧をお鎮めください!」

 

 初めての知性を持つ魔物とのファーストコンタクトの結果は、ゴブリン全員が一斉に片膝をつき頭を垂れるという形というリムルの想像とかけ離れた結果となった。

 

「お、おい、どうした? そんなことする必要ないぞ」

「お、おかまいなく……」

 

 流石に気まずさを覚えたのか、頭を上げるよう促すが即座に断られる。リムルが助けを求めるようにこちらを見るが、無視する。

 

「あー、そういえば俺に何か用か? 俺、この先に用があるわけじゃないが」

「左様でしたか。この先に我々の村がございます。強力な魔物の気配を感じ、警戒に参った次第です」

「強い魔物の気配?」

 

 そんな危険な魔物がいるのか?という顔でこちらを見るので、無言でリムルのことを指差す。少し上を向いたあと、誤魔化すように笑い出した。

 

「ふ、ふふふ……分かるか」

「もちろんです! 漂う風格までは隠せませぬ!」

 

 威厳を装っているが、内心では社会の窓全開状態で赤面しているに違いない。そう思うと微笑ましい。

 

 何で教えてくれなかったんだ、と言いたげな視線が向けられるので仏のような微笑みで返してやると、ため息をつきつつ周囲に漏れていた魔力を抑え込んだ。

それによってプレッシャーから解放されたゴブリンたちの表情が和らいでいった。

 

「おおっ! 助かります! その魔力に怯える者も多かったのです」

「ははは、いやー、こうでもしないと色んな魔物に絡まれるからね」

 

 その後もしばらく会話は続き、村へ招かれることになった。

 

 

 

 

「うむ……分かってはいたが、ボロいな」

 

 案内された村で、茶と呼べるのか微妙な飲み物を出され、村長の到着を待つ。思わずリムルが呟くほど、建物は老朽化していた。

 

「お茶いるか?」

「いらない」

 

 正直、こんなところの茶は飲む気にはなれない。

 

 やがて老いたゴブリンの村長が、若い個体に支えられて入ってきた。軽く挨拶を交わした直後、リムルが用件を尋ねた瞬間、村長は土下座した。

 

 どうやら近隣に縄張りを持つ牙狼族に村が襲われているらしい。ゴブリン十体で一匹と互角に戦えるかどうかなのにその牙狼族が百匹近くいるという。

このままでは全滅は避けられない。それでも、命を懸けて自分たちを守った息子の誇りのため、この村で生き延びたいのだと。

 

「お前たちは、俺たちに何を差し出せる?」

「強き者よ! 我らの忠誠を捧げます!」

 

 正直、リムルにとって大きな利益はない。彼は権力に興味があるようには見えないし、名もなきゴブリン数十体の忠誠など利用価値も薄いが

 

「分かった。お前たちの願い、暴風竜ヴェルドラに代わり俺たちが聞き届けよう」

 

 リムルは優しいからゴブリンが死ぬのを見過ごすことができない。

それが彼の長所なんだが。自分はただ傍観者として戦いの行末を見守るとしよう。

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