親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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獣王国の試練

「……【三賢人】のタケルや、その弟子に対して随分な物言いだな」

「それがどうした」

 

 遠回しに「本当にそんなことを言って大丈夫なのか?」と探りを入れてみたが、スフィアは一切臆することなく切り捨てた。

どう見ても命知らずな挑発だ。だが流石に何の考えもなくそんな真似をするとは思えない。

 

 そういえば、魔物は実力主義だったな。

フォビオもまず相手の力を測ろうとしていたし、スフィアも俺たちが友好を結ぶに値する相手か見極めたいのだろう。

 

 つまり、あえて悪役を買って出て、こちらの力を引き出そうとしているわけか。

 

 ……うん、理屈は分かる…分かるんだけど。

 

「悪いが今回はヨウムに任せてやってくれないか?タケル?」

「はあ!?」

「えぇ……」

 

 タケルが露骨に残念そうな顔をするが当たり前だ。

魔王の幹部が「試練のつもりだった」で死にました、なんてことになればカリオンとの全面戦争待ったなしである。

そんな未来は全力でお断りだ。

 

「ほう? やるか、人間?」

 

 スフィアはヨウムへ視線を向け、獰猛に笑う。

 

「……しょうがねぇ。やるしかねぇか」

 

 ヨウムは一瞬迷ったものの、部下たちの声援とタケルから向けられる期待の眼差しに観念したらしい。

 

「骨くらいは拾ってくれよ」

 

 軽口を叩けるくらいには余裕があるようで何よりだ。

流石に力比べで命までは取らないだろう…そう思った時だった。

 

「どうした、シオン?」

 

 シオンは無言でスライム状態の俺をシュナへ預けると、そのままスフィアの前へ歩み出た。

 

 ……嫌な予感しかしない。

 

「黙って聞いていれば、リムル様とタケル様への暴言の数々……。我慢に我慢を重ねておりましたが、どうやらその必要はなかったようですね」

 

 いつ我慢してたんだ、というツッコミは置いておく。

シオンが暴れ始めるとタケルと同じくらい止めるのが大変なんだよな。

 

「面白い」

 

 ……あれ?

気のせいか、スフィアが少し安心したように見える。

 

「スライムの配下がどの程度か、その身で確かめてやる!!」

 

 そう言って二人は激突した。

拳と拳がぶつかるたびに地面が抉れ、衝撃波が周囲へ広がっていく。

それでもシオンは武器を使わず素手で応戦している。

最初の頃なら剣を振り回していたはずだが……少しは成長したってことでいいのかな。

 

「あの人間とは貴方が相手をしなさい、グルーシス」

「俺ですか?まあいいでしょう、少し遊んでやりますよ」

 

 ヨウムの相手も決まったようだ。

……まあ、死人さえ出なければいいか。

 

 

 

「お前さんが俺の相手か?」

 

 リムルの旦那には毎度振り回されて困ったものだ。

だが、あの獣人と戦わずに済んだのは正直助かった。

代わりの相手も相当な強者らしいが、どうやら俺を侮っていると見た。

そこを突けば勝機はあるはずなのだが…

 

「ヨウム、今回はユニークスキルは禁止だからね?」

「え!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ、タケルさん!?」

「……どういう意味だ?」

 

 タケルさん?この戦いも鍛錬にしたいのは分かるが、今この場でそれを言ってしまうと相手のプライドを刺激することになるんだが?

 

「分からない?ユニークスキルを使ったら勝負にならないから」

「言ってくれるじゃねぇか」

 

 あちゃぁ、完全にキレてるなあれ…

 

「ヨウム。一応言っとくけど、自分が俺の弟子だってこと忘れないで」

「……確かに」

 

 確かにそうだったな…

師匠の名を背負う以上、小細工で勝つわけにはいかない。

 

「それじゃ、始めようか」

「後悔するんじゃねぇぞ!!」

 

 開戦と同時に、俺は大剣を振り下ろした。

グルーシスはそれを身を捻って紙一重でかわす。

それに対して地面すれすれで剣を返し、一気に斬り上げる。

 

「ぐっ!?」

 

 タケルさんから教わった燕返し。

上手く決まったと思ったが、まだ甘かった。

 

 剣を返す動作が僅かに遅れ、浅く切り裂くだけに終わった。

それでも敵の回避による死角を利用して視界の外へ回り込むことには成功した。

 

「どこだ!!」

 

 気配を殺し、瞬時にグルーシスの背後へ回る。

再び渾身の一撃を叩き込もうとしたが寸前で察知され、躱された。

 

「……強くなったつもりでいたが、自惚れていたようだ」

 

 討伐依頼では結果を優先し、ユニークスキルに頼ることが多かった。

その分、純粋な剣技を磨く時間が減っていたらしい。

 

「浅く斬っちまった詫びだ。次はそっちから来い」

「……人間相手にここまでやられるとはな」

 

 互いに剣を構え、再びぶつかろうとしたその時。

 

「そこまでです!!」

 

 アルビスの凛とした声が戦場へ響き渡るとグルーシスは不満げに舌打ちしながらも、素直に剣を納めた。

 

「お疲れ様、ヨウム。それで……俺たちは合格ってことでいいんだよな?」

「ええ。十分堪能させていただきましたわ」

 

 堪能……?

まさか、本当に力試しだったのか。

 

「聞いたな、お前たち!!彼らは力も胆力も申し分ない!! 

我らが友誼を結ぶに相応しい者たちだ!! 

彼らと、その友を軽んじることはカリオン様への不敬と思え!!」

「はっ!!」

 

 ……だったら最初に説明してくれよ。

 

「スフィア様のお言葉通りだ。獣人とここまで渡り合える人間など滅多にいない」

「ありがたいけど……傷は大丈夫か?」

「問題ない。それよりも自分の未熟さを思い知ったよ」

 

 俺も同じだ。

もっと強くならなきゃ、師匠には追いつけない。

 

「師匠…か、そんな人間がいるなら一度会ってみたいものだな」

 

 あ…それは、流石にその一言は言ってはまずいぞ?

 

「そうか。基本的に魔物を弟子に取る気はなかったんだけど……テンペストの連中を鍛えてる時点で今さらか。滞在中だけなら鍛えてやるよ」

「た、タケルさん!?まさかヨウムの師匠って、あんたなのか!?」

「あー……そういえば言ってなかったね」

 

 ……頑張れグルーシス

骨くらいなら拾ってやるから。

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