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ユーラザニアの使節団がやって来てから数日が経った。
今のところ外交上の大きな問題は起きておらず、互いの技術を教え合いながら交流を深めている。
それだけでなく、一部の獣人族が警備隊としてテンペストの巡回にも協力してくれていた。
このままなら、ユーラザニアとは良い関係を築いていけそうだ。
「リムル様……目の前のあれも交流ってことでいいんすか?」
「何も言うな、ゴブタ。ほら、獣人族は武闘派だろ?鍛錬も立派な交流なんだよ、多分」
俺の目の前では、スフィアがタケルに豪快に投げ飛ばされていた。
……あっ。
投げた隙を突こうとしたアルビスまで一緒に投げ飛ばされた。
現在タケルは、ユーラザニアの面々の鍛錬相手を務めている。
正直、外交問題にならないか内心ひやひやしているのだが、当の本人たちは悔しそうに何度も立ち上がって挑んでいるあたり、不満はないらしい。
「あくまでユーラザニアのための鍛錬だし、タケルにしては怪我をさせないよう加減してる。……多分、大丈夫だろ」
「獣人族が頑丈だからそう見えるだけじゃないっすか?」
……言われてみればその通りだ。
地面にはクレーターがいくつもできている。
いや、これ以上考えるのはやめよう。
絶対に巻き込まれたくない。
「俺もちょっと警備隊の手伝いでも……」
「どこ行くの?ヨウム」
危険を察知したヨウムが逃げようとしたが、タケルに肩を掴まれてしまった。
「え?」
「ほら、ゴブタも一緒」
「えぇぇぇぇっ!?」
こうしてヨウムとゴブタは、半ば強制的に鍛錬へ参加させられることになった……ご愁傷様。
「ちっくしょう!」
地面へ叩きつけられた勢いのまま起き上がり、オレは再びタケルへ飛びかかる。
本来なら、反応すら許さない速度のはずだった。
「立ち上がる気合いはいい…でも動きが直線的だし、遅い」
「がっ……!」
だがしかしタケルは難なくかわしてしまった。
その後返す肘打ちが首筋へめり込み視界が一瞬暗転……そのまま地面へ叩きつけられ、衝撃で意識を取り戻した。
「それで終わり?」
「油断しましたわね!」
動けないオレを見て油断したアルビスが好機を逃さなかった。
エクストラスキル【天蛇眼】がタケルを捉える。
「タケル様が状態異常に弱いことは、リムル様から伺っています。卑怯は承知ですがここで倒させていただきます」
「悪く思うなよ!」
このチャンスを逃しまいと、二人で同時に飛び込む。
これなら……
「一つ勘違いしてる」
「……は?」
気付けば、タケルは俺の拳とアルビスの錫杖を片手ずつ受け止めていた。
「状態異常に弱い、それは事実…
でも、それは英雄が相手ならの話……」
次の瞬間、体が宙に浮いた。
掴まれたまま振り回され、大岩へと投げ飛ばされる。
大岩は衝撃を受け止めきれず粉砕し、オレ達はそのまま十メートル以上吹き飛ばされた。
「エクストラスキル程度で俺を止められると思わないことだ」
「くそっ……!」
痛む体に鞭を打ち何とか体を起こしたが、タケルの姿が見えない。
「どこへ……」
「はい、連れてきたよ」
「え?」
いつの間にか、タケルはヨウムとゴブタを連れて戻ってきていた。
「どういうつもりだ?」
「今日から2人も一緒に鍛えるから、協力よろしく」
「ふざけるな!」
こいつ最初からそのつもりだったのか。
「お前を倒すのに、俺一人で十分なんだよ!」
「そう?じゃあ試してみなよ」
そう言った瞬間姿が消えた。
次の瞬間、腕に衝撃が走る。
反射的に顔を守ったことがすぐに分かったのだが、
それにしても余りにも速すぎる……
「敵を前に考え込んじゃ駄目」
「がっ!」
気付いた時には背後からタケルの踵落としが頭へ直撃していた。
慌てて立ち上がろうとするが足に力が入らない。
「そこで見てて」
そう言い残し、タケルはヨウムたちの指導へ向かっていった。
ヨウムは俺より力も速さも劣る。
それでも慎重に立ち回っているためか中々倒れることはなかった。
「……ちっ」
「よう、大丈夫か?」
仰向けになって空を見上げていると、リムルが覗き込んできた。
「問題ない」
「タケルが言いたかったこと、分かってるんだろ?」
「当たり前だ」
一人で勝てない相手だと理解していながら、それでも一人で勝とうとした。
だから怒られた…理屈は分かる、だが……
「あいつに説教する資格はあるのか?」
「……否定はできないな」
リムルは苦笑してたがやはりそうか。
「あいつも一人で抱え込むタイプだろ」
仲間を信用していないわけじゃない、むしろ逆だ。
助けを呼ぶ必要なんてないと、自分だけで全部背負えると信じている。
だから誰にも頼らない。
そんな奴に「仲間を頼れ」と言われても説得力なんてあるものか。
「あんな奴の隣にいたら、潰れるぞ」
「そうかもしれない」
リムルは素直に頷いた。
「でも、それでも助けたいんだ」
静かな声だった。
それでも決意だけは痛いほど伝わってくる。
「あいつが助けを求めないのは、俺たちが頼りないからだ。だったら俺たちが、頼られるくらい強くなればいい」
「頼られる存在、か……」
ヨウムたちを鍛えるタケルの姿は、一人でユーラザニアを背負うカリオンと重なって見えた。
強い者ほど、一人で抱え込んでしまう。
「……はぁ。俺が口を出す話じゃないな」
そう呟き、ゆっくり立ち上がる。
「好きにしろ」
「もちろん」
「全く……なんでそんな単純なことを忘れてたんだか」