親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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夜の蝶での宴

「かんぱーい!!」

 

 今、俺たちは夜の蝶という名の楽園(エデン)に来ている。

式典はどうしたって?

あれはもう終わらせたから良いんだよ。

特に語ることもないし、できれば思い出したくもないし……

 

 せいぜい言うことがあるとすれば、タケルが演説のチェックを厳しくしてくれたおかげでガゼル王から及第点を貰えたことくらいか。

 

 あれは本当に大変だった。

常にタケルの英雄覇気に当てられながら夜通し何度も台本を書き直しては読み上げる、という作業を繰り返していたんだから。

 

 これだけしっかりやれば大丈夫だろうと思っていたのだが、ガゼル王からすればまだまだ遜っていて情に訴えかけすぎた演説ではあったらしい。

 

 これでもまだ及第点かよ。

タケルがいなかったら赤点確定じゃないか。

 

「おいおいリムル殿。こんな場所に来てまでしけた面してないで、楽しんだ方が良いぞ!」

「そうだったな。すまない」

 

 よし、反省は終了。

今日は目一杯楽しむとしよう。

 

「そういえば、タケルはきちんと楽しめてるのか?」

 

 前回この店に来た時は、こういう店にあまり興味を持っていなさそうだった。

無理矢理連れてきてしまった分、少し心配になる。

 

「タケルさんってば可愛い!!」

「こんな可愛い見た目で英雄と呼ばれるなんて凄いわ!!」

 

 だがそんな心配は杞憂だった。

綺麗なエルフのお姉さんたちに囲まれ、頭を撫でられたりしているというのに、本人はそんなことなど気にしないと言わんばかりに呑気に料理を食べている。

 

 しかも、その様子が健気で可愛らしいときたものだから、しばらくはおもちゃにされるだろう。

べ…別に羨ましいとか、そういうのは無いからな?

 

「あっ、そういえばママさん。ちょっと良いか?」

「なあに、スライムさん?」

「これ、良ければこの店に置いてみてくれないか?」

 

 俺は身体の中から液体の入った瓶を取り出してそう言った。

これはガゼル王からもお墨付きをいただいた蒸留酒だ。

 

 ガゼル王のところにも卸すから、市場全体に流せる量はそこまで多くない。

だが、お世話になっている店に融通を利かせるくらいなら許されるだろう。

 

「あらまぁ!ありがたいけど、良いのかしら?」

「一人一杯のサービスで、幾らまで出せるかリサーチして欲しいんだ」

「あらあら、スライムさんは強かなのね」

 

 これでも一応、国を率いる主ではあるからな。

こちらにもメリットが出るようにしないとタケルに怒られてしまう。

 

「カチカチに固まって演説していたのが嘘みたいね」

「えっ、俺……そんなに緊張しているように見えたのか?」

 

 確かに緊張しすぎて、あの場から今すぐにでも離れたいとは思っていた。

だが、演説を聞いている人にまで気づかれていたとは……恥ずかしい。

 

「あ、あれはまあ演技だよ、演技

初心(ウブ)っぽく見えただろ?」

 

「ふふふ、そういうことにしておきましょう」

 

 強がって演技だとアピールしてみたが、やっぱり通用しないか。

 

「でも私は、貴方の演説に好感を持ったわよ?」

「……え?」

 

 あれ?

揶揄われるかと思ったが、違うのか?

 

「やっぱり人を惹きつけるのは誠実さだと思うの。

タケルさんとはまた違った、貴方自身の強みを持っているから自信を持った方が良いと思うわ」

 

 考えたこともなかった。

でも、そうなのか……これが俺の強みなんだな。

 

「それに私も見てみたいと思ったの。

人間も魔物もエルフも、みんなで笑い合える国を」

 

 そうだったな。

俺は人間だとか魔物だとか…そんなことは関係なく、みんなが仲良く過ごせればそれで良いんだ。

どれだけ時間がかかったとしても、いつか成し遂げてみせる。

 

「ありがとうな、ママさん」

 

     

 

「おいおい、しっかりしろゴブタ」

「ちょっと無理っす……貧血っす……」

 

 おいおい。

これからこっそり宿に戻るというのに大丈夫か?

きちんと飲み過ぎるなと言ったんだが、ついつい浮かれて飲みすぎてしまったか。

 

「お手伝いしましょうか?」

「あぁ、すみませ……」

 

 何やら聞き覚えのある優しい声をかけられ、そちらを見る。

そこには、恐ろしい笑みを浮かべたシュナが立っていた。

 

「しゅ、シュナ!? なぜここに!?」

「なぜって……ゴブゾウが全て話してくれましたので」

 

 ゴブゾウ!?

そういえば、出る前にゴブゾウに見つかったから、どこに行くのか説明してたな。

シュナに話さないよう、釘を刺しておくべきだった。

 

「酷いですよ、リムル様!! タケル様!!

 置いて行くなんて、あんまりです!!」

 

 いや、流石にあの店にシオンを連れて行くわけにはいかないしな……

下手に言い訳をせず、ここは素直に謝っておくべきか?

 

「あっ、シュナとシオンじゃん。どうしたの?」

「タケル!?」

 

 おいっ!

お前、なんで堂々と何も悪いことはしてませんって顔してるんだよ!

 

「タケル様……先程行かれたお店が、どういうお店かご存知ですか?」

「さっき行った店?」

 

 シュナの質問に対して首を傾げ、考える素振りを見せたかと思えば……

 

「優しいお姉さんたちがたくさんいる居酒屋だったね」

「そうですか……」

 

 終わった……

完全にシュナたちを怒らせた。

骨は拾ってやるよ、タケル。

いや、俺もタケルと同じ目に遭うんだったな。

 

「リムル様……」

「はっ、はい!!」

「タケル様に変な知識を与えないようにお願いします」

「わ、分かりました……えっ?」

 

 もしかして、俺が余計なことを教え込んだことになってる?

確かにタケルは夜の店に興味を示していなかったけど、こいつ、六十年以上は生きてるんだぞ?

流石に、そういう知識くらい持ってて当たり前だろ。

 

 ……だけど、そんなことを言ったら反省の見込みがないとして、罰が重くなりそうだな。

タケルは、まさかここまで読んでたのか……?

 

「すみませんでした! もうしません!」

 

 言い訳をせず、腰を低く。

そしてスライムの可愛さを活用して情に訴えかける……

 

 これで許してもらえる筈だ、

現にシュナも頬を赤らめて……

 

「分かりました……

一ヶ月間、シオンの朝ごはんで許してあげます」

 

「ありが……えっ?」

 

 ここは無罪放免になる流れじゃないの?

シオンもなんだかやる気満々だし……

もしかして俺、死ぬ?

 

「シオン、リムルのために頑張って朝ごはんを作ってね!」

「はい、分かりました、タケル様!!

腕によりをかけてみせます!!」

「こいつ……」

 

 故意犯だ……

絶対にこの流れを分かってやがった。

 

 しかも、文句を言おうものなら二人がすぐさま敵に回ると分かっている分、タチが悪い。

 

「あの……三日、いや、せめて一週間に……」

「一ヶ月です」

「はい……」

 

 一ヶ月生き残ったらタケルを殴ろう。

どうせ避けられるけど……。

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