親愛なる貴方達へ   作:マアブルゥ

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ドワーフと鉱山とトラブル

 只今直面している特大のやらかしについて話したいのだが、その前に原作におけるドワルゴンへの入国の話について説明しておきたい。

 

 ドワルゴンに入国するためには審査を受ける必要がある。

その審査を受けるために主人公一行は列に並んで順番を待っていたのだが、そこで荒くれ者に絡まれてしまう。

 

 最初は穏便に済ませようと軽くあしらっていたのだが次第に歯止めが効かなくなってしまい、さらにストレスも溜まっていたため黒嵐星狼に変身した状態で威圧スキルを上乗せした咆哮を放ってしまった。

当然周囲は大パニックが発生し、騒ぎを聞いて駆けつけた警備隊により詰め所へ連行され、取り調べを受けることになる。

 

 そして取り調べの最中、魔物によって大怪我を負ったドワーフがいるという話を聞いた主人公は回復薬を提供することにした。

その回復薬でドワーフは一命を取り留め、お礼がしたいという流れで話が進んでいく…というのが原作の展開である。

 

 さて、最初に言った悩みの種というのが、この入国審査の場面だ。

一つ勘違いしてほしくないのだが別に自分はお尋ね者でも何でもないから普通にこの国へ入ることはできる。いや、むしろ()()()()()()()()()のである。

それによって何が起きるかというと。

 

「何というか、トラブルもなくあっさり入れたな」

「そうっすね。オイラの時は入るためにすごく長い列に並ばないといけなかったのにタケル様、流石っすね!」

 

 肝心要の“荒くれ者とのトラブル”が起きないまま終わってしまったのだ。

前にも言った通り、自分は世界でもトップクラスの冒険者であり、立場としては貴族と同等、あるいはそれ以上の存在として認知されている。

そんな自分に喧嘩を売る度胸のある者など現れるはずもない。

 

 さらに言えば、入国審査の通路は一般人用と貴族用の二つに分かれている。

原作では一般人用の通路を使っていたのだが、自分は貴族用の通路が使えるため、特に時間もかからず入れてしまった。

 

「まあ、自分にかかればこんなものだよ」

 

 さて、このままだと原作キャラと関わるためのイベントが消滅してしまう。

そう悩んでいるとドワーフの警備隊と思われる者たちがこちらに向けて慌てて走ってくるのが分かった。

どうやら都合よくトラブルの方からこちらへやって来たらしい。

 

「忙しいところすまない。あんたは、あの有名な冒険者のタケルで間違いないか? アーマーサウルスという魔物が鉱山で暴れているんだ。怪我人も多数出ている。頼む、助けてくれ!」

 

 おお。原作の流れとは違いはあるが、原作と同じようなトラブルがちょうどよく起きてくれた。

…違和感しか感じないがとりあえずそれは後回しにしておこう。

 

「リムル……ちょっと予定とは違うけど、鉱山に行こう」

「ああ、早く助けに行こう」

 

 急ぐ必要があるので、ゴブリンとリムルを鷲掴みにする。

 

「お、おいどうするつ――」

「バフで怪我しないようにはするけど、舌噛まないように気をつけて!」

「「ぎゃあああぁぁぁ……!」」

 

 嫌な予感がしたのか、何をするのか聞こうとしていたが無視して全力ダッシュする。

音を置き去りにするほどの速度で、狭く曲がり道の多い鉱山を無理やり曲がりながら突き進む。

そのせいでゴブリンが何度か壁にぶつけられていたが、バフで頑丈にしているため怪我はしていないはずだ。

 

 ちなみに余談ではあるのだがどうやら同じタイミングで青色と緑色の何かが雄叫びを上げながら高速で移動するという謎の現象が鉱山内で観測されたらしい。

そのせいで警備隊や研究員が派遣され、頭を悩ませることになったとか。

 

 自分は遭遇しなかったのだが、一体正体は何だったんだろうな。

 

 

 

「はあ……はあ……死ぬかと思った」

「お、オイラなんか……曲がるたびに壁に激突してたっす」

 

 鉱山内部、採掘場の奥地に到着した。

なんだかもう既に疲れ果てている気もするが、とりあえず無視して怪我人のところにリムルを投げつける。

 

「お、おい! さっきから俺の扱い酷くないか!?」

 

 文句を言い始めたリムルを無視し、怪我人を治療するよう指示する。

少しの間恨めしそうな視線を向けてきたが、怪我人を優先すべきだと判断したのか、無言でポーションをかけ始めた。

 

 ざっと見回した感じ、死者は出ていない。

ならば、あとは目の前で暴れている三体の魔物をどうにかすればいい。

 

「それにしても、わざわざ原作の流れを再現するためにこんなことをしでかすとは」

 

 ドワーフからの救助依頼で感じていた違和感は解消した。

このアーマーサウルスはユニークスキルで操られているというほどではないが、思考を誘導されている。

 

 魔力の残滓から推測するに"あれ"が犯人だろう。

それで尚且つ、ここにいないという事はあれの事はリムルに内緒にしておきたい…といったところか。

 

「リムル。今からアーマーサウルスを魔法で仕留める。参考程度にみておいて」

 

 

 祈るように両手を合わせ、深呼吸を一つ。

 そして詠唱を始める。

 

「魔にいざなわれし愚かな者よ、我が足元で頭を垂れよ」

 

 詠唱と同時に、アーマーサウルスの足元に魔法陣が浮かび上がる。

 警戒したアーマーサウルスは外へ逃げようとするが、魔法陣から飛び出した七本の銀色の鎖が体を縛り上げ、無理やり地面へと縫い付けた。

 

「我は人類の導き手。魔の者への裁定者である」

 

 魔法陣が強い光を放ち、アーマーサウルスを包み込む。

 光に触れた体はボロボロと崩れ始め、淡い光とともに空へと消えていく。

アーマーサウルスは苦しげに咆哮しながらもがくが、鎖から逃れることはできない。

 

「汝の魔を罰し、救済することで許しを与えん」

 

 崩れゆく体はついに光に完全に覆われ、やがて蛍火のような光だけが空へと浮かび上がっていった。

 

「汝の魂に祝福を――

 神聖魔法(アナゲンネーシス)

 

 

 

 それは、とても綺麗な魔法だった。

次々と浮かび上がる淡い光の玉が、ゆっくりと空へ昇り、そして消えていく。

まるでアーマーサウルスの魂を優しく天へ送り届けているかのようだった。

 

 とても暖かく、見ている俺まで包み込まれる。

このまま一緒に天へ送られてしまってもいい…そう思えるほど心地よい光景だった。

 

 それほど美しい魔法だったからだろうか。

その暖かな光景とは対照的に、

とても冷たく、悲しそうな表情を浮かべるタケルの顔が

脳裏に焼き付いて、どうしても消えてくれなかった。




神聖魔法【アナゲンネーシス】
タケルのみが扱うことを許された神聖魔法。
死にゆく者、そして今を生きる者すべてに哀れみを抱き、
どうか溢れんばかりの幸あれという純粋無垢な祈りが奇跡として顕現した力である。
彼は今もなお彼の者たちの行く末を案じながら、祈り続けている。
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