Links dive ー自分をマスターと呼ぶリンカロイドに出会った話ー 作:やさかみ
2話。会合
突然閉まった周囲の防火シャッター。左右は壁に、前後はシャッターに塞がれもはや個室になった廊下に1人孤立する。なんだかんだ何が起こったと焦っていれば、それの対応のためか放送が流れ始めた。
『お客様にお知らせいたします。現在、一部エリアにおきまして防火シャッターが誤って作動し、閉鎖されております。現在、原因を確認し、対応を進めております。なお、火災は確認されておりませんのでご安心を。お客様にご不便・ご心配をおかけし、誠に申し訳ございません。』
機械音声での放送に事態を知る。危険がないことがわかり、大事にもならなそうだとほっとする。これで担任に怒られる可能性は減った。しかし、それはそれとしてここに閉じ込められたままは退屈なのでどうにか逃げ道がないか周囲を見渡す。
前後どちらの防火シャッターもおりたことで移動ができなく、その空間唯一の扉は関係者専用、しかも、個人認証をしなければ開けることもできないタイプなので使えない。
うん。これ無理だと考え、諦めて壁に寄りかかる。スマホでオフラインでもできるゲームアプリをしながら待つことにし、スマホのロックを顔認証で解く。自分は顔認証ばかり使っているが、オーズ波に個人差があることを利用してのリンクによる個人認証もあるらしい。無論、自分は使っていない。補助機越しだと正確な認証ができないのだとか。
そんなことを考えながらスマホに目を落とすと、その時何かが動く音がした。ピッという機械の音、そして扉の開く稼働音。スマホに下ろした視線を上げると、開く途中の関係者専用扉が目に入る。スタッフさんが自分が閉じ込められていることに気づいて救助しに来てくれたかと扉の先を見るが、扉の開いた先には誰もいない。ただ暗い道が続いていた。
また誤作動でも起こしたかと視線をスマホに下す。関係者専用というのが気になりはするが、わざわざ入る気はない。下手に入って問題になれば、迷惑をかけないように注意していた担任に申し訳が立たない。まあ、閉じ込められていたことを理由にして言い訳できそうだが。
[ーーーー]
そうしてゲーム内でお金を貯め、敵城を破壊するためにキャラを出撃させていると、一瞬脳に電流が流れる感覚がした。何かを思いついた時によく使われる比喩表現ではない。脳でなんらかの信号を察知した、そんな感覚が本当にしたのだ。
この感覚には覚えがある、リンクをした時に感じるものだ。
リンク補助機が誤作動でも起こしたか。シャッターに扉にと誤作動が続くと、ここら一帯に機械を壊す怪電波でも飛んでいるのではないかと思ってしまう。
[ーーーー]
「……」
「ーーーー」
「……」
[ーーーー]
「……」
しかし、いまだにその感覚はたびたび続く。別にいやな感覚ではないが、こうも続くとむずむずする。そういえば、リンク技術を活用すればテレパシーのような脳内会話も可能らしい。もしかすれば、補助機の誤作動ではなく誰かが自分にテレパシーを送ってきているのかもしれない。自分がリンク適性が低いから聞き取れないだけで。
「……」
[ーーーー]
だとしてもむずむずするので補助機の電源を切る。どうせつけておいても聞き取れないのだ。無駄に脳が疲れるので切っておくに越したことはない。
補助機の電源を切り、これでようやく解放されたかと安心する。そしてスマホに視線を戻すと
[こ……に]
しかし、補助機を切っても感じなくなることはなかった。それどころか、なぜかより鮮明に感じ取れるようになった。先ほどまで雑音でしかなかったが、今この瞬間にそれは意味のあるものへと変わる。少ししかわからないが。
[こちらに]
先ほどよりもはっきりと聞き取れ、頭により強い電流の走る感覚がする。それと同時に先ほどよりより鮮明となった、音はないのだが、イメージとしては女性の声のようなものが頭に響く。とうとう、こちらに、と意味のある言葉となった。
しかし謎である。本来リンク技術を活用したものは基本的にリンク適性が高いほどにより高い精度で物事を行える。相手から情報を受け取る時も例外ではない。別に、リンク適性が近いもの同士だとわかりやすい、なんてこともないのだ。だというのに、なぜ補助機を消してリンク適性がDからEに落ちた自分はこの思念をより感じ取れているのかっっっ
[こちらに、こちらに来てください]
頭に強い電流が走る。先ほどまでのこしょばゆいくらの感覚に済んでいたが、ここまでくると軽い頭痛になる。相手に頭痛を感じさせるほどのリンクを強制的に相手に一方的に叩き込むなど、そんな技術は聞いたことがない。もし、そんな技術が存在しているのならば立派な凶器になり得る。一時期、陰謀論者が嘆いてたことが現実となってしまうだろう。
何が原因で頭痛が起きたのか、頭を抑えながら考える。この頭痛で記憶に該当するものがあるかを探る。そして、ある過去の経験が頭に蘇る。これに似た感覚を、昔体験したことがあった。
子供の頃、自分は強くあるものに惹かれていたのだ。リンクを活用する新世代ゲームというものがあったのだが、それは適正ランクがC以上推奨であった。
そこそこ大手のゲーメーカーなのに不親切なとは思ったが、実はこの世の中補助機を使ってもD以下な人の数は少ない。なので大多数のプレイヤーに最大限リンクを活用した物を楽しんでもらいたいと考えればそのくらいが妥当なのである。そもそも、補正機なしでも世の中の適正ランクは大体の場合C以上。それより減ってD。そして、さらに減ってE。Eは極一部で、一種の障害のようにも扱われる。
世界のリンク適正事情を置いておいて、自分はそのゲームをしたかった。補助機を使ってもDな自分はそのゲームをすることを諦められず、補助機の補正度を自分に合わないレベルに合わせ、強引にリンク適性をCにしたのだ。その時、自分は酷い頭痛を感じた。脳内の奥に鋭い何かを突き刺されたような、鈍いものをぶつけられたかのような。言語化は難しいが先ほどの頭痛はそれに似ていた。
となると、やはり先ほどの頭痛はリンクに関係するものだろうか。状況的にもそれしかなさそうだ。
そして、そんな頭痛とともに感じ取った明確な思念。[こちらに、こちらに来てください]現在自分が置かれている状況、前後はシャッターで閉じられ、行けるのは本来しまっているが開いている関係者専用の扉。どのように考えても、こちらとはそこのことだろう。
なんらかのシステムが引き起こした偶然かもしれないが、もう限界である。このくらいの軽い頭痛であるならばたいした問題はないが、それを受け続けるかと言われたらNO。そもそも不具合が起きたのは施設側の落ち度なのだ。この際、入るのが禁じられた関係者専用の通路に入ることは認めてほしい。
関係者通路に入ると、その頭痛は消えた。まるで、もう必要無くなったとでもいうように。数歩歩くと後ろで音がして扉は閉まっていた。開けることはできそうにない。つまり、この通路を進むしかないようだ。
暗い通路で、よく見えはしないが先ほどの床ディスプレイはここにもあるようで一筋の青い線が道順を示していた。試しに、スマホのライトを頼りに別の道に進もうとすれば、頭に軽い電流が流れる。[ちがう]またもやそんな女性の声のような思念が飛んでくる。
これが館内放送とかならばまだ信用できるのだが、無理矢理脳内に情報を送ってくる相手を信用なんてできない。しかし、逆らって何があるかもわからないので仕方なく従う。
歩いて数分といったところか、ある扉の前で青い線が途切れていた。その扉は何の変哲もないスライド式の扉。
その扉の前まで歩き、扉と向かい合う。扉はロックされており、開きはしない。扉の横では認証板が光っており、手のマークが存在している。まるでそこに手を置けとでもいうようだ。
仕方がなしにその認証版に手を置く。すると、それはなぜか自分の手を認証しロックを外した。扉が開き、その先には一直線の通路があった。足を踏み入れるとまた床に青い線が伸びる。その先にはまた扉があり、後ろの扉はまた閉まる。
その後の扉も同じようにひらけば、また同じ扉と遭遇した。また歩みを進め、扉に手を当てるとそれは開く。
合計五つの扉を開けた時、ようやく異なる様子になった。また扉があったのだが、その見た目は先ほどとは違う。先ほどよりも大きく、そして両開きである。その扉の先、そこにこの思念の正体、この状況の全てがいる、そんな気がした。その扉からは淡い青色の光が漏れている。また手を当てると認証が作動し、そして、開いた。
その部屋はこれまでに比べて広かった。妙に近未来チックな部屋には、いくつか仰々しい機械が置かれ、最奥の機械は淡い青色の光を発していた。そんな機械の前には仰々しい椅子があり、そこに彼女はいた。その姿は綺麗で、背筋は伸び、白く綺麗な手は膝の上に整えられて置かれている。元が水色なのか、それとも白色がライトに光に照らされ青くなっているのかは知らないが、その髪は長く、重量に従い落ちていた。彼女の整った顔立ちは、これまでの自分が培ってきた美感覚のトップを抉り取った気がした。ただ美しいではすまないその様は、空想の産物のように思える。一言で言えば人間離れ。その様に自分はある感覚を思い出した。電脳唱ディライブ、その時のリンカロイド歌手、臨歌セイを見た時。そして、部長のリンカロイド、アイと出会ったとき。彼女らリンカロイドと出会った時、似た感じがした。椅子に座るあの彼女には、これまで出会ったリンカロイドよりも強くその感覚を感じる。
自分は確信した。彼女は人間ではない。そして、ただのアンドロイドでもない。彼女は、自分をここまで呼び込んだ彼女はの正体はリンカロイドだと。
いくつものコードに繋がれ、目を閉じている。椅子の後ろにある機械から発せられているほのかな青い光は彼女を照らし、その様に月光の下にいる眠り姫を幻視した。彼女の顔が整っているからか、それとも、この様が画として魅力的だからなのか、それとも彼女がリンカロイドだからなのかはわからないが、妙に心が惹かれてしまう。自分は現在どんな状況にいるのか、ここがどこなのかも一瞬忘れてしまうほどに。
そして、そんな近未来空間で歩みを進め、自分の歩みにより生まれる足音が響くことも気にせずに彼女へと手を伸ばす。鉄が磁石に引き寄せられるように、物体が重力に囚われているように、そんな当たり前のことのように自身は彼女に引き寄せられた。無意識的な行動、精神の奥底が突き動かされたのか、それは意識する間もなく体が動いてしまうほどに強い衝動だった。そして、自分は彼女の顔、頬に触れた。
その瞬間、脳にそれまでとは異なるリンクの電流が流れ、正気に戻り手を引き数歩下がる。
無意識だった。特に意図したわけではないのき、彼女に触れていた。心臓の鼓動が高鳴る。言葉にできないこの情動。まるでこの行動が定めなのかのように。これが世界の進むべき道であるかのように。心の底から精神の根本から、言うなれば魂に導かれるままに彼女に触れていた。
触った瞬間に正気に戻り、数歩下がる。触ることが起動条件だったのか、閉じられていた彼女の彼女の瞼が開いていた。
瞼が開かれたことで見えたのは当たり前ではあるが瞳だった。それは無機質で、生命を感じない。しかし、まるでサファイアのように、いや、海のように、いや、空のように…なにに例えるかと言われれば決まったものが思いつかないが、とにかく自分にはそう、綺麗で深く、鮮やかで、理論理屈では説明できない何かを感じた。そんな瞳はよく見れば生物的なものではなく機械的なものだとわかるが、どうにもそれだけには見えない。光を感じる。レンズの反射とかそんなものではない。もっと、そう、言うなれば……魂。青白くほのかに光るオーラのような、はたまた強く燃え上がる冷たく熱い炎のような。見たことはないし、明確な姿もわからないが、自分は無機質なその瞳に、人間でも生物でもないはずの彼女にそれを感じた。
「!?」
また囚われていた。彼女の瞳を数メートルの距離から覗いただけ、それなのに自分は正気を失っていた。
そんな様子の自分を、その瞳で見通しているはずの彼女はその端正な顔を歪めることもない。表情筋にあたる部分が作られていないのか、そもそも表情を作るような出来事とも考えられていないか。
別に、自分は彼女のその端正な顔に惹かれた訳ではない。否、多少惹かれはしたが無意識的な行動をするほどではない。ならば、自分は何に惹かれたのか。
臨歌セイのライブの時にも自分は強く、何かに惹かれた。あの時はその歌。つまりは聴覚で惹かれていたのだ。しかし、今思い返せば本当にそれだけだったのか。素晴らしい歌を聞けば心が持っていかれる、それはそうだと思うが自分と周囲の区別がつかなくなるほどだったか。
おそらく、ただ歌に惹かれたのではない。聴覚、それでもない、五感ではないなにか。第六感とでも言える何か。
過去、人間の第六感は超常的なものとされたが、リンク技術進んだ現代では第六感はリンクが該当するとされふ。おそらくだが、自分はリンクで彼女に理性が飛ぶほどに惹かれていた。
彼女はリンカロイド。人間が作り出した存在であるのに、ブラックボックスの塊とされる新世代の人造物。旧来のプログラムを基に情報から世界を学び、自己を成長させてきたAIとはまた異なる別の存在。本来の人間にちかい思考を可能としていながらも数多の情報を参照でき、他者とのリンクも可能とする。
こんな仰々しく用意された空間に存在していたのしていたのだからきっと、そんじょそこらのリンカロイドではないのだろう。アイと臨歌セイ、もしかしたら彼女らよりも。そんな存在であるならば、もしかすれると自分をリンクで動かす事も可能もしれない。まさか、一時期はやった陰謀論であるリンク洗脳論は正しかったのだろうか。
「認証、完了……こんにちはマスター。あなたの名前は、なんでしょうか。」
「っ!?」
声がした。リンクによる思念ではなく、本当の声がした。思念のイメージと同じ声だが、ちゃんと彼女の口が動き、発せられた声。それが今、脳に直接ではなく自分の耳を通して感じ取った。その声は、とても透き通っていて、耳から入ってきたというのに、霞むこともなく脳へと達する。
「……ヤナサギハルト」
「……マスター。偽名はオススメしません」
「キサラギユウタ」
「マスター」
「……須々岐 真」
「……マスター認証完了」
偽名を言うがバレ、カマかけで偽名だと言っているのかとまた偽名を言うがバレ、本名を言ってみればそれが本名だとバレた。元から知っていたが形式上聞いたのか、それとも彼女には嘘がバレているのか。リンク技術を活用した嘘発見器が存在しているので、あり得なくもない。
「一つ、聞いていいですか」
「はい」
「……あなたはだれですか。自分をここに呼んだのはあなたですか。何が目的でここに自分を呼んだんですか。なんで、自分がマスターなんですか。」
一つと言ったのに気が動転して一気に口に出してしまう。状況の非現実さに戸惑いながらもとりあえず情報を得ようと質問をしてしまった。焦りによって自分の言葉の中にですらが発生してしまう。部長ならばこんな事態でも私がマスターだと胸を張って対応できるかもしれないが、自分にはそこまでの度胸はないのでできない。どこまでも小心者なのだ。
「なるほど。確かに、一方的なことをしていましたね。当機、理解しました。まず、当機は接続式、人はこれをリンカロイドと呼びます。当機固有で言えばL12。リツカとも呼ばれていました。そして、あなたを呼んだのは当機です。あなたを呼んだ目的は正式な接続を果たすこと。最後に、ススキマコトがマスターである理由は認められた、そして、当機を覚醒させたからです。」
「……」
「質問は以上でしょうか?」
首を傾げる仕草をしてみせるリンカロイド。彼女の言うことが正しければL12、またの名をリツカ。表情はないというのに首を傾げる動作はあるのかと思いながらも、警戒はとかない。質問、聞きたいことで言えばまだまだある。
なぜここにいるのか。シャッターの誤作動はあなたの仕業か。どうやって、いつ、自分は認められたのか、そもそも認められたとはなんなのか。いつ、どのように、どんな基準で認められたのか。リンカロイドとマスターとの相性が良いと判断されたのか、それとも自分が何者かの琴線にでも触れたのか。覚醒っていったいいつしたのか、などなど聞きたいことならば次々に思い浮かぶ。
しかし、全て聞いていてはキリがない。なので、特に気になったことに絞る。
「……認められたって、誰にどうやってですか?」
「それは現時点では黙秘させていただきます。」
「……じゃあ、マスターやめること、できる?」
「可能ですが、現時点では不可。」
「2回現時点ではって言ったけど、それっていつか可能になるってこと?いつ?」
「今後によっては可能になります。」
特に気になったマスター関連。リンカロイドはリンクすることでその機能を解放するという。そのリンクをする相手は誰でも良いわけではなく、相性の良さやリンクの適正などが関わってくる。仮に、認められたというのがマスターとリンカロイドの相性のことだとしても、いったいいつ、自分は相性を測定されたのだろうか。
こんな場所にいるリンカロイドのマスターなどという面倒ごとを嫌っての問いも無理と返され、現時点が気になりした質問にも、具体的な言葉は返って来ない。
他にも聞きたいことはあるが、自分の今の状況的にも彼女自身のことを問い続けるのは少々まずいと考える。何がまずいかと言えば、自分が普通の場所におらずここにいることがバレること。何らかの理由により班員が自分に通信をすれば、現在電波の通じてない端末では応答もできないので訝しまれるだろう。トイレ入ってて電波悪かったーと言い訳もできるが、緊急の集合要請があったりすれば最悪だ。班員に限らず職員とかにもバレたら面倒では済まないこととなるかもしれない。いつここに職員が来るか、異変に気づくかなんてわからないのだ。
「……ここから、今すぐに出してくれますか?」
「可能。ですが、当機としてはもう少し、こうやってお話を続けたいところです。」
「……不可ではないんですね?」
「はい。」
「なら出してください。自分がマスターなんですよね?」
リンカロイドは基本、マスターに従うものとされる。禁止事項などが設定されている場合もあるが、それ以外は基本的に従う。部長のアイは結構自我が強いらしく、反抗することが結構あるが。
リンカロイドの彼女が、勝手にだったとしても自分をマスターというのならば、ここから出してもらえるかもしれない。
「……当機としては、まだ直にお話を続けたいところです。しかし、マスターが言うのであれば認めましょう。そもそも、強引に呼んだのは当機なのですから。」
「そっか。……あと一つだけ。外でなんか騒ぎになったりしてない?防火シャッターとか、自分がいなくなったとか。」
「ご安心を。これまで館内の全てを監視していましたが、あなたに関する騒ぎの様子はどこにもありません。防火シャッターは誤作動として処理され、既に正常に戻っています。そして、あなたがここにまできた記録は全て改竄済みであり、私のナビゲートに従い外に出てもらえれば何事もなかったかのように戻れます。」
全ての監視や記録改竄を行なっていると言う彼女に軽く引く。シャッターを操作し、しかもそれを誤作動と処理させたことや自分を誘い込むための自動ドアへの干渉なども行っていたことも含めて考えると、館内全ては彼女の制御下に置かれているのではないかと思ってしまう。
しかも、彼女の言い方的にも自分をここまで誘導したりしてる最中にも監視を行い、しかも記録の改竄も並行して行っていた。一応ここは研究施設複合の施設だ。そう簡単にシステムに侵入はできないはずである。それを並行して行うとは、彼女は相当な性能をお持ちのようだ。こんな仰々しい部屋にいたことからもなんとなくそう思ってはいたが。アイとどちらの方が優れているのだろうか。
そういえば、彼女、研究対象だったりしないだろうか。あれだけの扉を通されたことも考えると研究所に既に入っていてもおかしくはない。勝手にリンクしたとして怒られないだろうか。被害者は自分ではあるのだが、信じてもらえないかもしれない。バレないようにここを出る理由が増えた。
「うん。それじゃ、ナビゲートお願い。」
思考よりもここを出ることが先だと判断する。担任に怒られたり、侵入してしまったこと以上のことをしでかしてしまったかもしれない。たとえ無意識的、不可抗力だったとしても勝手に彼女に触れたのは自分だ。リンカロイドに誘導されたという事実がどこまで信じてもらえるか。研究対象、それか研究成果を勝手に触ったとバレれば下手すれば社会的な首が飛ぶ。
「……はい。では……こちらの端末をお持ちください。これを介してサポートを行います。」
彼女は躊躇ったように、まだ話を続けたいのを隠しきれていない様子でデバイスを差し出してくる。耳につけるタイプのようだ。無線イヤホンのような見た目というか、普通に無線イヤホンなのだろう。
「さっきみたいな脳内?誘導じゃダメなのか?」
「そちらの方が通信、ナビゲートもしやすいので。つけていてくださらないと、ナビゲートをミスして職員にバレてしまうかもしれません」
「……そっか。外出たらこれどうしたらいい?捨て」
「そのまま持っていてくだされば……捨てたりしたら当機が記録に干渉した事実を誤り放出してしまうかもしれません」
「2回も脅すとはお前碌なリンカロイドじゃないな。」
こいつは相当なリンカロイドらしい。脅しを使ってくるリンカロイドなど、自分は知らない。いや、アイが部長のお菓子を取り上げて『返して欲しくば、ちゃんとしなさい』とされていたことはあったが、あれは信頼の上での行為だ。信頼もクソもないのにこんな行動を取られるのは明らか間違っている、ロボット三原則なんてあったもんじゃない。