面の良い女の曇る顔が見たいだけ 作:駄文
『良いから早く行け!』
「やだ。師匠死ぬ気でしょ?だったら、せめて私も一緒に」
『馬鹿言うな。お前は生きろ』
それじゃあ何の為に俺は死ぬ?俺が死んだ後、お前の顔が曇ってこれから先一人で絶望と悲しみに暮れながら、この世界で生きていく姿を空から同族の女神と一緒に眺めながら。酒を煽る計画が台無しになるだろう?
『お前には、お前のやるべき事がある筈だ。こんな所で死んで良い筈が無い』
これから先ずっと、ず〜っと。──あの時私が弱かったから、師匠を救えなかったんだって思って貰うと言う大事な仕事が残ってるからな。
そう言って笑顔を向けながら、頭を雑に撫でてやる。ぐしゃぐしゃに髪が乱れた、でも、そんな事どうでも良い事此方から目を逸らさない。
「……」
『ほら、早く行け』
無理やり後ろを向かせて背中をポンッと叩く。すると、ゆっくりと身体を動かし俺から離れていく。
「待ってる」
ただ一言、叶えられなさそうな言葉を残して弟子は走って行った。
《カンドー的だネ〜》
『思ってねえだろ』
棒読み過ぎる。そんなんで、人の感情を動かす事が出来ると思ってんのか。ああ、いや。そうか。
《キミだって、知ってるだロ?悪魔に、人の心ヤ感情は理解すル事は出来なイッテ》
『そうか?お前が努力してないだけじゃねえか?』
《何イッてんのカナ。じゃア、もう良いヨネ。殺スヨ?》
「殺せ」
人には死ぬタイミングが分かる時がある。俺は今日がそれだった。明らかに格上の悪魔に対峙した時点でもう既にに決まっていた。それだけだ。だから、弟子よ悪いな。
俺は此処で死ぬ。
初めて貴方に出会った時。
初めて貴方の名前を知った時。
初めて、貴方に心を開いた時。
初めて──師匠の過去を知った時。
その時の感情を、私はまだ覚えている。貴方と一緒に暮らし始めてから、私は色々な事を教えて貰った。美味しいものを食べると人は笑顔になる。楽しいと人は笑う、悲しいと人は泣く。危ない事をしたら……怒られる。そしたら心配する。まだ何も知らなかった私に、貴方は数え切れない程沢山の事を教えてくれた。だから、もっともっと教えて欲しい。きっと、世界にはまだまだ私の知らない事が沢山ある筈。
まだ、私は何も知らないよ。ねえ、師匠。教えて。戻って来てくれるよね。
あれから、一日が経った。師匠は戻らない。それでも、お腹は空いたと身体から音が漏れる。私自身は何も食べたく無いけれど、グーグーと煩いから黙らせる為に無理やりパンを水で流し込んで腹の中に詰めた。
一週間が経った、まだ戻って来ない。もしかしたらと言う嫌な考えが頭の中に湧いては消えて、消えては沸く。その繰り返しだった。起きてる時は、ずっと師匠が帰ってくるのを待っていた。だから、見逃しては無い筈。もう少し待っていれば、帰ってくるかな師匠。
数年後、師匠は帰って来なかった。信じたく無いけど、きっとそう言う事なんだろう。原因は私が弱かったから、そしてあの悪魔を殺せる力があの時の私には無かったから。
でも、今は強くなった。だからこうやって、沢山の悪魔を殺す事が出来ている。師匠、また教えて貰ったよ。この感情は復讐って言うんだって。あの悪魔を許せないと言う、胸が焦げる様なこの苦しい気持ちの事を。
あの家に居ても、悪魔は来る訳無いから悪魔を殺す旅に出かける事にした。師匠だって強かったのに、それ以上に強い悪魔に勝てるか分からない。いや、勝って殺す。それが私が師匠に出来る罪滅ぼしだと思うから。
いや、そう思ってた。
……悪魔になった師匠に出会うまでは。