ミミグル使い私、呪霊が怖すぎてダンジョンに引きこもりたい。   作:月日は花客

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友人の御巫に一度も勝てずにミミグルを煽られたのでムシャクシャして書きました。
都合上呪術の世界から遊戯王の存在を消してます。
ミミグルは弱くない、私が弱い。






☆1:ミミグル・テンセイ

 

 養護施設に預けられた時、私はようやく自分が転生者だと思い出したのだ。

 

 10歳の誕生日、私は父と母から離され、保護用の養護施設に預けられることになった。

 理由としては、よくある育児放棄で、近所の人が児相に連絡したらしい。

 詳しいことは知らないけれど、こうして自分が転生者と自覚するまでは随分ぼんやりと生きていたのか、記憶がほぼ無いので説明も難しい。

 顔も声もよく覚えていない今世の両親より、前世の両親の方が余程はっきり覚えているし家族の情もあった。

 そんなわけで、別に養護施設に預けられ実の親との縁が切れようが今の私にはどうでもいい。

 

 それよりも重要なのは、私が前世の記憶を思い出したってこと。

 前世は大学生で、たぶん死因は交通事故……ではなく殺人だろう。

 最期の記憶は流石にはっきりしていないが、突然誰かに背中から刺されたのは覚えてる。昼間の人通りの多い広場での出来事で、無差別な狂人にでも巻き込まれたと思われる。

 自分の運の無さに驚くが、自分が死んだことよりもその日買っていた遊戯王新弾のBOXを開封できなかった事のほうがショックだ。

 せっかく予約して朝から店舗に並んだっていうのに、あの箱にハイレア強カードが入っていたかもしれないのに。

 是非あの殺人鬼には相応の末路を辿ってほしいところだ。

 

 前世で殺人、今世で育児放棄という常人なら絶望している状況で、私が正気を保っているのは一重に私が決闘者だからだろう。

 前世に悔いはあるが今はこうして記憶アリのまま転生しているし、クソ親は遊戯王ではよくあることだからだ。

 子どもを複数人誘拐して決闘に負ける度に電流を流す実験とかしてないだけ余程マシだ。

 私の手にはデッキケースが握られている。

 前世と同じデザインで、中身も一緒。つまり前世から一緒に持ってきたのだと思われる。

 原理はわからないが、愛用していたデッキが手元にあると、知らない世界での生活も少しは安心できる。

 

「小箱さん、今日も図書室?」

「はい、今日も外は暑いので……」

「室内でも、水分はちゃんと摂ってね」

 

 施設のスタッフさんが、ニコニコと他の子どもたちに手を引かれながらも話しかけてきた。

 これから外で遊ぶんだろう、気温の高い夏の中、走り回ったりしないといけないのは中々に大変そうだ。

 私は日焼けも熱気も運動も嫌なので、クーラーの効いた図書室に居座る予定だ。

 季節は夏、誕生日のある3月を大きく過ぎて、もう流石にこの施設生活にも慣れてきた。

 幸運なのか必然なのか、私の名前は前世と変わらず遊迷(ゆめい)小箱(こばこ)だった。性別も、変わらず女だ。

 顔つきや色素も前世とほぼ同じなので、外見や名前のギャップが無く助かっている。今世の記憶より前世の記憶のが濃い今は、前世と違う名前で呼ばれていたら反応できなかったかもしれない。

 寄付品らしい薄手のワンピースを裾を翻して、私は図書室へ向かった。

 

「《ミミグル・マスター》の効果で《ミミグル・ケルベロス》をリバースして効果発動。除外を考えるともう少しリクルート用カードを増やすか……? 墓地メタ張られてもある程度展開できるようにしといた方が……」

 

 人の少ない図書室、広さの無いその部屋の隅で、私はデッキの一人回しをしていた。

 テーブルにカードを置いて、ランダムな手札からの展開ルートを模索する。

 子どもの手には少しシャッフルやカットに手間取るものの、前世での経験分もあり効果処理は淀みない。

 図書室の先生はうるさくしなければ子どもが本を読まずにカードを触っていても何も言わない。私も効果の読み上げは極力小さな声で行なっている。

 外からは他の子どもたちの元気な声が聞こえるが、この部屋は静かだ。

 

 私のデッキ、もとい使用テーマは《ミミグル》だ。

 知らない人向けに言うなら相手にカードを送りつけて邪魔をする事をメインにしたテーマ。

 知ってる人向けに言うとほぼ全てのモンスターがリバース効果持ちの地属性エクシーズテーマである。

 海外先行テーマあるあるのそこまでぶっ壊れではないデッキパワーと、独特かつシンプルな効果デザインが特徴でもある。

 モチーフとしてはゲームのダンジョンにある宝箱のフリをしたモンスター、ミミック辺りだ。宝箱だと思って箱を開けると痛い目を見るという要素をリバースで表現している。

 コミカルでカートゥーン的なイラストは可愛い。マスターデュエルでは《ミミグル・マスター》に演出が付いていて、とても可愛いので是非見てほしい。デッキ制作代も高くないので作りやすいよ。

 マスターデュエルでは先行実装だったので、紙では同期だった巳剣とも比較されにくく、正直テーマとしてはマイナーな方だ。

 しかし、元々影が薄いところがあったリバースモンスターやリバースサポートカードを多様に使えるところや、1ターンで相手のモンスターゾーンを自分のモンスターで埋めることができるのが楽しかったりする。

 後者に関しては雑な嫌がらせにしかならないが。

 紙でもマスターデュエルでもある程度お安く作れてそこそこ戦えるのも魅力だ。こだわり始めるとその限りではないが。

 

 私はこの養護施設に足を踏み入れた瞬間に前世の記憶が戻ってきたのだが、どうしてか、既にこのデッキを持っていた。

 児相の人と先生の会話曰く、普段の食事や着替えすら放置していた親が買ったとは思えない。

 それに、このデッキ内容は前世の私が組んでいたものとサブデッキ含めて完全に同じだったわけだから、やはり前世の記憶と一緒にこの世界について来たのか。

 それはまだ記憶が戻っていない時の私にとっても安心毛布の様な物だったらしく、ぼんやりと受け答えをしながらもこれだけは手放さなかったそうだ。

 年齢が二桁になるというのに、言葉も思考も遅れていると考えられるほどぽわっとしていたらしい当時の自分が、ただ一つ握りしめていたものと思うと、大人たちも剥がしづらかったのかもしれない。

 施設で過ごすようになってから、別人のようにスラスラと言葉を話し会話ができるようになったことで、やはりあの環境によって精神に蓋をしていたのかもしれないと医者は判断したそうな。

 10歳以前の記憶が無いのは、良いことなのか悪いことなのか。

 そこまで重要な過去ではないなら、知らなくても良いのかもしれない。少なくとも、今は平穏なわけだし。

 施設の子ども達も境遇は様々なので、それぞれのペースで過ごせるように大人たちも気を遣っている。

 一人図書室でカードを弄っていても怒られないのはありがたい。この施設に遊戯王をしている人は私しかいないから、一人回ししか出来ることがないのだ。

 

「《ジャイアント・ミミグル》を立てつつ《ミミグル・フェアリー》を自分フィールドに特殊召喚、《ミミグル・スローン》で墓地のマスターを回収して召喚、スローンの効果で……」

「小箱さん、そろそろお昼の時間よ。カードは一度片付けられるかしら」

「あ、はい。もうそんな時間ですか?」

「ええ、今日は夏野菜のスープとミートスパゲティ」

「良いですね、すぐ行きます」

 

 いつの間にか昼になっていたらしい。

 このでの生活は衣食住に不便は無いが、遊戯王の新弾情報やwikiが見れないのが決闘者としては不便だ。

 死ぬ直前に買っていたBOXは新しいリバースモンスターが入っていたのもあって、引いたら試運転をしたかったのだけれど。

 スマホも無いからマスターデュエルもできない。施設にいる以上贅沢はできないし、まだ小学生なので土地勘の無い施設の外を連絡手段も無しに歩き回ることもできない。

 記憶の都合上どうしても子どもらしく無邪気に外で走り回ることもしにくいので、結果いつもミミグルの展開ルートや欲しいサポートカードをメモしていく事でしか暇を潰せない。

 かわいらしいハートが描かれたメモ帳は、施設の人にここへ来た記念に貰ったものだけれど、見た目のファンシーさに比べ書かれていることはあまり可愛くない。

 どうにも相手の展開をロックするカードが好きな性のせいか、選ぶカードは大抵性格が悪い。《センサー万別》で相手の召喚を阻んだり、《召喚の呪詛》でハンデスしたり。

 どうしても突破できない相手は《壊獣》や《天霆號アーゼウス》で対処すれば良い。

 EXデッキの自由度が高い分汎用エクストラを詰め込めるのも助かるところだ。

 

 私はカードとメモを片付け、食事をするための大広間に向かう。

 その途中、物置に繋がる細い廊下はなるべく視界から外した。

 夏の強い光によって、影になる場所はより暗く冷たい空気を漂わせる。

 今世の世界は前世とあまり変わりがなく、まだ世間をよく知らない子どもだとしても、前世の記憶と合致する部分は数多くある。

 しかし、その中で前世では一度も見たことない、おそらくこの世界特有の存在があった。

 初めてそれを見たときは、思わず軽い悲鳴を上げてしまった。他人に聞かれていなくて良かったと思う。

 この施設内だと、倉庫の廊下や裏庭の木の下、三階角部屋の窓なんかに()()()はいる。

 肉塊のような、蟲のような、人のような。

 モンスターのようなかわいいものじゃない、悍ましい異形の化け物。

 施設の人や他の子どもには見えてないらしいそれが、私にははっきりと見える。

 

「ききづぃテ……ェるるぅ?」

「……」

 

 黒板を引っ掻いたような声がするが、意地でも視線を向けてやんない。

 あんな化け物がいる世界に生まれてしまうとは、前前世の私は大罪人か何かだったのだろうか?

 前世は、そりゃちょっと相手にマスターの4000ダイレクトパンチを喰らわせたりしていたが、ルールの範疇だから悪いことではないはずだ。

 カードパックの転売やシャークトレードもしていない。

 至極一般的で無害な決闘者だった。

 化け物と一緒に生活するような目に遭うことは何もしてないと言うのに。

 

「ネェ、ネェぇ、イーあー」

「……」

 

 しつこい化け物をなんとか視界に入れないで、デッキを胸に抱いて大広間へ急いだ。

 化け物がいない、静かで涼しい図書室に、いっそ引きこもってしまいたい。

 

 化け物は、話しかけてくる割には、一度も私に触れようとはしなかった。







【遊迷小箱 Kobako・Yumei】
使用テーマ:ミミグル
好きなもの:遊戯王、アイスクリーム
嫌いなもの:ホラー、グロゴアパニックもの
特に記憶に残っている前世の思い出:兄が真DM封印されし記憶で発狂しながらポケステを弄っていた時
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