ミミグル使い私、呪霊が怖すぎてダンジョンに引きこもりたい。   作:月日は花客

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児童養護施設や大検についての細かいところはスルーして下さい。





☆4:ミミグル・ライフ

 

 私を養子に取ろうとする大人はいなかった。

 

 私自身は、それを大して気にしていない。

 施設では何かと養父や養母が子どもを引き取っていく姿を見る。送別会だって何回もしたし、私のカードを失くしたと泣いていたあの子も、数ヶ月前に無事引き取られていった。

 私は面会や交流会での出会いがあるわけでもなく、今日も施設で過ごしている。

 定期的にあるカウンセリングも特に話すことが無い。最近まで一緒に遊んでいた子が一人また一人と施設を去っていくのは寂しくもあったが、それよりも暖かい家庭で幸せに育ってほしい。

 逆に施設に新しく入ってきた子もおり、いつの間にか私はそういう子の面倒を最初に見る、施設の先輩のようになっていた。

 時には、私より後に施設に来て私より先に引き取られていく子もいる。

 素敵なご縁があったのだと、のほほんと笑う私とは対照的に、先生やカウンセラーさんの顔は曇りがちだ。

 別に、私に一向に引取り手が現れない事を気にするなとは言わない。職員として思うところは当然あるだろう。大人しか知らない事情や規則もあるものだ。

 一年、また一年と時が過ぎていき、いつの間にか施設での保護児童最年長になっていた。

 小学校はとっくに卒業し、今や中学三年生。義務教育が終わり、受験を考える歳となってしまった。

 流石に、小学校の時は授業内容もかなり簡単で、九九や小学漢字を習うのには退屈を感じていたが、中学後半になると割と忘れている内容も多くなってくる。

 前世の私は偏差値が高いわけでもなかったし、めちゃくちゃ真面目に授業を受けるタイプでもなかった。

 居眠りしたこともあったし、受験のために一日20時間の勉強を義務づけていたりもしなかった。

 歴史や理科は特に忘れている部分が多く、点数は高いものの普通に失点もする。

 部活は何もやっていない。必須の校則が無くて助かった。部活は何かとお金がかかるので施設のことを考えてやっていないのである。

 前世では部活に入ってそこそこ青春は楽しんだから、今世は別にいいか、という話でもあった。

 

 施設育ちということもあって、同級生や担任には少し気を遣われているところがある。

 いじめや、陰口などつまらない事をするクラスでは無いのだが、家族の話や流行のゲームの話をされても話がわからないのが問題だ。家族は、まぁ前世の話を出していいなら入れるがそれは不自然だろうし、ゲームや漫画は施設のお金を使う事ができないのでついていけない。

 中には前世でも知っている漫画もあったが、生憎私は通ってないジャンルであった。

 というか時代的に前世の私が生まれた年より前の世代なのだ。こちとら2000年より後に生まれたのに、今世ではそれはまだ未来の話だ。

 生まれる前から連載している漫画だと、私の場合遊戯王くらいしか読んでいない。案外昔の漫画を読んでいないものなのかと自分でも驚いた。

 流石にミリしらで話の輪には入れず、私はクラスで若干浮いている。

 クラスメイトは優しいし、友達と呼べる間柄の人もいるが、完全に心を開いているとは言い難い。

 人間関係が狭い今、なにかと不便なものだなぁとボーッと考えている。

 担任も、イマイチ馴染みきれていない私をよく気にかけてくれているが、流石に教師にも解決が難しい問題だとわかっているので、ほどほどに流していた。

 これが人生一周目だったら病んでいたかもしれないが、私は小中の人間関係や社会は想像以上に狭い事を知っているし、別にここで永久不滅の友を得なくてもいいのだとわかっている。

 親なしと嫌がらせを受けないだけ、まだこのクラスは利口で親切だ。幸運だろう。

 施設が選んだ学校なので、私のような経歴の人も珍しくないのかもしれないが。

 福祉方面に造詣がある学校はやはりそこら辺の教育もしっかりしているのだ。私もそういった講談や活動の授業を受けたし。

 

 いつも通り授業を受け、ジワジワと迫ってくる受験に対する担任のお言葉を聞き流し、私は校舎を出た。

 濃紺のセーラー服は、膝下の校則通りの長さ。白いリボンだけ、結び方を可愛らしくアレンジしている。ただの蝶々結びより、崩れにくく綺麗に見えるリボン結びだ。

 ローファーは三年も使っていると流石に草臥れてきていて、来年は履けないだろう。

 三年といえど、まだ部活は引退ではないのか下校する生徒はまばらだ。受験前、自習室に残って勉強する者もいるのだろう。

 私は、中学の学区を離れ、別の中学の校門に立っていた。

 通っている中学より校舎に年季が入っている、歴史のあるマンモス校は、一人だけ制服の違う私を特に気にする事は無い。

 校門前で私が人を待つことは、既に日常になって長いのだ。

 

「遊迷ちゃん、おまたせ!」

「今日はそんなに待ってないよ。早かったね、乙女ちゃん」

 

 グレーに白いラインが入ったセーラー服をなびかせて、少女が駆け寄ってきた。

 私と同じリボン結びをして、長い髪を三つ編みにまとめた彼女は、私の施設外で初めての友人だ。

 灰原乙女、という名前で、私と同い年。

 すらりと背の高い柔らかな美少女で、大和撫子な空気をまとう、いわゆる高嶺の花な女の子。

 わざわざ走って来てくれたせいか、息が少し上がっている。

 乱れた前髪を整えてあげながら、私は校門の端に立ち位置をずらす。

 

「今日は先生の話が短く終わったの。委員会も仕事が無かったから、早く来れて良かった〜」

「委員長は大変だね。私も今日は呼び出しも無くてさっさと下校できたよ」

「廊下の虫も今日はいなかったんだ」

 

 毎日こうだったら良いのに、とため息を吐く乙女ちゃんは、別に虫は苦手ではない。お兄ちゃんがいるからか、カブトムシや毒の無い芋虫くらいなら触れるレベルだ。

 これは私と乙女ちゃんの間だけで伝わる隠語であって、本来の虫を指す単語ではない。

 “虫”というのは、施設にもいるあの化け物のことだ。

 乙女ちゃんは、私が初めて会う、化け物が見える人だったのだ。乙女ちゃん曰く兄も見えるらしいが、会ったことはない。

 乙女ちゃんも、お兄ちゃん以外で見える人は私が初だったらしく、学校が違うのにほぼ毎日会っている理由はこの化け物にある。

 学校には何故か化け物が多くいて、見える私たちはそれと毎日遭遇する羽目になる。認識しないようにするのも、気持ち悪い見た目に耐えるのも、ストレスが溜まる。

 化け物による精神的損害を愚痴ったり、それによって聞き逃してしまった授業内容を補完したり、ただ単純におしゃべりしたり。

 そういう、同じ苦労を背負う者同士の集まりなのだ。

 

 乙女ちゃんは部活に入ってはいないが委員会やクラスの委員長なため、放課後も作業がある事が多く、そういった面倒な仕事も特に無い私が下校後に乙女ちゃんの学校前で待つ事が多い。

 私も、たまに進路相談の先生に引っかかって遅れることもあるけれど、そういう時は乙女ちゃんが逆に待っていてくれる。

 そうして、毎日一緒に下校しているのだ。

 

「うちは今日は教室に入ってきてね……集中できなかったよ」

「うわ、嫌だねー、下手に顔上げられない」

「授業は前回の復習だったからまだマシだけど、勘弁してほしいわ」

「虫って、なんであんなに人に近寄るんだろ? やめてほしいよね」

「あれにまともな理由を期待しても無駄でしょ〜」

 

 下手に反応すると化け物はつけ上がるし、人には不審者扱いされるので耐えるしかないのも、また厄介だ。

 ジャイアントは、本当に命の危機が迫った時にしか出てこないし、学校の化け物は潰してもまた次の日には増えているので意味が無い。

 襲われたことは少ないけれど、不快害虫という存在がいるように、見た目だけでもうストレスなのだ。一掃できるなら一年の時点でしている。

 

「今日はこの後予定ある?」

「ううん、フリー! 良ければ図書館で勉強したいな。自習室は虫が多くて」

「わかる、勉強できないよね。迷惑過ぎ」

 

 乙女ちゃんは、既に行きたい高校が決まっていて、その本命に向けて頑張っている最中だ。

 お兄ちゃんは全寮制の学校に行ったそうで、帰れるのは年末がギリギリらしい。宗教系って聞いたので規律がしっかりしてるのかな。

 乙女ちゃんはお兄ちゃんとは違う、料理系の専門課程に進みたいから、お兄ちゃんの受験とは勝手が違うそう。

 そもそもお兄ちゃんの場合はほぼ推薦で面倒な試験なんかはスルーだったらしい。なのでノウハウが無く、乙女ちゃんも一から調べている。

 専門課程だから進学校よりは簡単なテストだけど、油断して落ちたら悲しすぎるので乙女ちゃんはちゃんと模試や追加課題もこなしていて、しっかり受験本番に備えているようだ。

 一方私は、進路志望の欄は白紙のまま、一人暮らしのための物件探しや手続きに時間を充てている。

 

「遊迷ちゃんは、やっぱり大検?」

「そうだねー、施設にはこれ以上居られないし。大検取れるまで、バイトしつつ資格取ったりして……かな」

 

 施設は大人の都合上、義務教育内である中学生までしか面倒を見られない。

 卒業したら、施設から出て独り立ちしないといけないのである。

 その場合、高校に行くのは補助や支援を頼っても、金銭的にカツカツになるのは目に見えている。

 高校に通いつつバイトや内職をして、学費と生活費をなんとかしていかないといけない。

 という事実が判明した時、私はあっさりと高校進学の進路を手放した。

 中卒で構わない、というわけではなく、まぁ世の中案外便利な制度がありまして、それが大学入学資格検定である。

 通称“大検”だが、これに受かった者は高校を卒業していなくても、大学に入学できる程度の学力をもつ者として国が認めるのだ。

 私が大学に入る頃には別の名前に変わっていたが、この時代時点ではまだ大検である。

 これがあれば、大学入試に挑めるのはもちろん、さまざまな資格関連にも適用されるので、無理に高校に行かなくてもこれが取れれば良い。

 完全に自立学習になるので普通は高校に行った方が良いが、そこは人生二周目として高校のターンをスキップさせてもらう。

 別に大学に行く予定があるわけでも無いが、取っといて損はないので。

 既に中学三年生中盤辺りから、自習の際の内容を大検用のものに変えているので、卒業したらさっさと取ろうと思う。

 決闘相手が居ないと暇で、施設でも大検の勉強ばっかしてたのだ。自己採点での合格率は今のところ80%くらい。頭は悪くない方で助かった。

 私たちは図書館に向けて歩き出す。

 

「どうせなら乙女ちゃんの高校近くに引っ越そうかな〜。将来の料理人さんの料理が食べ放題や!」

「もう、私がなりたいのは給食調理員だってば!」

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