ミミグル使い私、呪霊が怖すぎてダンジョンに引きこもりたい。 作:月日は花客
ダンジョンの模様替えをひと段落して施設に帰ってきた時は、もう門限ギリギリになっていた。
あれから難易度の緩和や警告表示の提示、三階の殺意の底上げなどをやっていたら、こんな時間になってしまった。
施設の人には、大検の試験会場の下見に行っていたと伝えておく。特に違和感を抱かれることはない。
卒業したら、あの化け物との生活もおさらば。そう考えると、早く卒業したくなってくる。
外を歩いたせいできんと冷えた耳は、年末、冬の盛りを知らせている。
受験前に、応援も込めて、乙女ちゃんに会っておきたい。
そう思い、携帯という連絡手段が私には無いので、乙女ちゃん宛に手紙を書いた。
結構な時間、デジタルなものから離れていたので、手紙のための切手やかわいい便箋を買う事も一つの趣味のようになっていた。今回の便箋と封筒は、冬らしく雪だるまのワンポイントがかわいい白の紙だ。切手は郵便局で買ったスノードロップが描かれたもの。
限定切手とか、ご当地切手とか、割とさまざまな種類のものが売られているのだなぁと新しい知識を得たり。
葉書の切手代が値上がりするのはいつだったかな……とぼんやりした前世の切手事情を思いつつ、学校途中のポストに投函した。
私と乙女ちゃんは、この手紙でのやり取りを結構気に入っている。
受験も近くなるとおしゃべりの時間や一緒に下校する時間も無くなり、乙女ちゃんは自主勉強に励むようになる。
面接の練習も、先生を相手にしっかりやっているそう。乙女ちゃんは仲の良い人とはよく話せるが、初対面の人には引っ込みがちなので、面接は鬼門だろうが頑張って欲しい。
ちなみに、前世の私は面接練習で「声がデカ過ぎる」と逆に注意された。ハキハキ喋るよう意識したらボリューム調節が狂ったらしい。
乙女ちゃんも私も、滑舌は悪くない。乙女ちゃんは凛とした、桜のように淡いソプラノをしている。やはり高嶺の花と言われるだけある、声だけでわかる人の良さ。
私は決闘の際、なるべく相手との誘発やフェイズ確認のやり取りを滑らかにするために意識して練習した。私は当たったことがないが、滑舌の悪い相手と闘い、言葉の認識に時間がかかり微妙な空気になったというネットの声を見て、気をつけるようにしたのだ。
元々声は通る方だったので、喋るスピードや音量の適正を知れば割と安定したと思う。
乙女ちゃんと話す時は、ちょっとカッコつけたくて落ち着いた話し方をしようと努めている。
兄とカドショにいる時のように、ストレージで見つけたカードの使い道を早口で複数展開するような真似はしてはいけない。
ああいうストレージで見つけたカード、見つけた時は強そうと思って買うんだけど、実際使ってみると微妙に噛み合わなくて抜く事が多かったり。
運動不足の脚にはストレージ漁りのためにずっと立ってるというのは辛かったり。
買う用のトレーが置いてないお店で、買う予定のストレージから見つけたカードがたくさんある時、置き場所に困りがちだったり。
いつの間にかストレージあるあるに話が変わっていた。戻そう。
乙女ちゃんからの返事は、うさぎのマスコットが炬燵に入っているイラストが描かれた便箋で返ってきた。
綺麗な細い字で書かれた内容には、空いている日にちと時間が書かれていて、スケジュールを確認してくれたらしい。
すぐに私も予定を確認し、空いている日を手紙に書いて待ち合わせ場所を指定した。彼女の目指す高校の前にすれば、迷わず来れるだろう。
周りが受験だ受験だと騒いでいる中、ひとり呑気にふらついているので、生徒指導の先生からは再三呼び出されては本当にその選択肢で良いのか聞かれるが、金・生活・親無しの三重苦によって毎回答えが変わることはない。
先生も若者の未来を考えてくれているんだろうが、教師という立場ではできることにも限界がある。それを悔いないでほしい。
私はもう既に自分の楽園を完成させかけているのだから。
というわけで、空っぽの予定の中に乙女ちゃんとの約束をはめ込み、返事の手紙を投函して数日後。
私は久しぶりに乙女ちゃんと会っていた。
「久しぶり、勉強は順調?」
「うん、先生もこれなら問題なく受かるだろうって。あとは面接さえとちらなきゃきいんだけど……」
「乙女ちゃんは本番に強いから、大丈夫だよ。受験は自信が大事だって」
「あはは、……そうだね、うん」
ピンクグレーのファー付きコートに、セピアの編み上げブーツを合わせた乙女ちゃんはとてもかわいい。寒さで頬が桃色になっているのも、また良い。
対する私は、ファッションにお金が割けないので裏起毛のカーキのパーカーに万年履いているホワイトベージュのパンツとラフな格好だ。
ファッションに興味が無いわけではない。私の好みはこういうラフでメンズライクなものではなく、クラシック系やオフィスカジュアル系のアイテムでまとめたい。
具体的には柄シャツを着たいのだが、中学生には少し年齢的にも合わないだろうか……? もうちょいガーリー系を着るべきか、歳に合った服装はよくわからん。
あと二年もすれば化粧も視野に入ってくる。
外見を整えるのは大切だが、それにかかる金額を考えると今の懐事情ではしんどいものだ。
結果、今はオールシーズンやツーシーズンのものを着回すものぐさファッションになってしまっている。
早くそういった事情からも解放されたいものだ。
「それで、今日はどこに行くの?」
「ふふ……私はね、ついに自分の城を手に入れたよ」
「えっもう物件決まったの!?」
「まぁついてきてよ」
そうして、廃墟に着いた時、乙女ちゃんは当たり前だが心配していた。
そりゃ友達が家を見つけたと言って案内された先が廃墟だったらヤバいってなるよな。
速やかに誤解を解くため、私は廃墟内に乙女ちゃんを押し込んだ。
「あれ……なんか、内装が」
「私がさ、カードのモンスターに守ってもらってるって話をした事があったじゃない?」
「うん、それで何度も危険から助けてもらったんだよね」
「それを応用して、こうしてカードの力で化け物が入ってこない空間を作れるようになったんだ」
こんな事もできるよ、とパスワードを言ってエレベーターを呼び出せば、乙女ちゃんは魔法でも見たかのように(実際魔法カードの力だ)驚いていた。
一、二階は危ないのでそのままエレベーターで生活スペースに移動し、リビングへと通した。
「まだ準備段階なんだけどね。だから冷蔵庫にカルピスしか無い」
「いやいやいや、すごいよ遊迷ちゃん! 遊迷ちゃんの言った通り、これはもうお城だよ!」
「へへ、照れるなぁ。ちょっと外見はあれだけど、中身は快適だから。卒業したらここで生活していくつもり。乙女ちゃんもいつでも遊びにきてね」
「そ、そのためにも受験、受からないとね……」
わざわざ学校近くに建てたのだ。これで乙女ちゃんが落ちてしまったら、第二希望の学校はここからかなり遠い。
受験前に必要無いプレッシャーをかけてしまった。これではいけない。私は本当に彼女を応援しているから、無駄な精神圧をかけるつもりは無かった。
取り敢えずカルピスを出しつつ、私は本題に入って空気を変えることにした。
「乙女ちゃんも、あの化け物には随分迷惑をかけられてきたでしょ?」
「うん、私は、お兄ちゃんとか遊迷ちゃんみたいな化け物をやっつける力は無いけど……」
「そう! それだよ、それを解決できるかもしれないの!」
寂しそうに頬を掻いた乙女ちゃんに、私はローテーブルに両手をついて思わず大きな声を出す。テーブルのカルピスが揺れた。
突然の大声に、乙女ちゃんは驚いて目を丸くした。しまった、私の声はボリューム調節のネジがたまに緩むのだ。
落ち着くためにカルピスを一口飲み、改めて説明する。
「私の化け物への対抗策は、このカードってのは知ってるよね」
「うん、たくさんあるよね」
「これはね、遊戯王って言って、本来はモンスターで戦うゲームに使うものなんだ」
「カードゲーム……」
「乙女ちゃんは馴染みが薄いか」
私の時代ではそこまで女性カードゲーマーというのは希少種じゃなかったけれど、母数はやっぱり男性が多いし、この時代だともっと年齢層が偏っていそうだ。
少年誌以外の、ソシャゲやマスコット、バーチャル配信者がカードゲーム界に参入してくるのは、まだ先の話だし。
この世界にも某MTGや某ポケカはあるが、どちらかというとこの世界オリジナルの作品によるTCGが大手のようだ。カドショで高価買取のポスターや広いショーケースにはオリジナルTCGが多く、MTGは専門店、ポケカは販売はされているが高価買取はされていない、と言う規模感。
遊戯王は存在すらしない。恨めしい。
年は2006年なので、ゼアル〜アークファイブ辺りの時期。ミミグルはそれからもっともっと未来なので、残念ながら予備の補充やレア度厳選はできない。
話がまた逸れたが、つまりはまだカードゲームはマニア的な扱いか子どもがやるもの、という認識なわけだ。
乙女ちゃんは触ったことがないらしいので、簡単に形式を教えておこう。ある程度の知識は必要だろうし。
「カードゲームは、カードを使って勝敗を決める。遊戯王みたいなトレーディングカードゲームって種類は、ランダムにカードが入ってるパックを開けて、その中に入ってるカードで戦うの」
「ガチャガチャみたいな感じ?」
「そう、ランダム性があるんだ。遊戯王は、最低でも40枚カードを集めないと勝負ができない」
「沢山いるんだね、それ、全部覚えるの?」
「同じカードを3枚まで入れられるから、種類は案外少ないよ。それぞれのカードが何をするかは、カードに書いてあるから、わかんなくても確認すれば大丈夫」
こういう初心者説明で、大切なのは「例外の話をしない」、「敷居を高くしない」じゃないだろうか。
ランダム性があると言っても足りないならカドショで単品で買えばいい。
40枚では機能しないテーマもある。
カード外効果やルール効果もある。
そういう細かいことは追々覚えていけばいい。初心者にいきなりデモンスミス展開とスカルデッドギミックを混ぜた絶望神アンチホープ降臨ルートを教えてどうするっていうんだ。
決闘は半端な気持ちで入ってはいけないが、初心者は丁寧に沼に沈めるもの。
沼地の魔神王も底から手を振っています。
軽くモンスター、魔法、罠の説明をして、どうせなので実際に使っているところを見てもらうことにした。
罠は、相手がいないしターンを跨げないので使えないが。
「このモンスターたちの中で、気になる子とかいる?」
「ええと……この、ミミグル・フェアリー? って書いてある子、ピンクでかわいいね」
「うんうん、かわいいよね。ちょっと見てて」
私はフェアリーのカードにキスし、喚び出す。
ウィンクとハートを飛ばしながら現れた実物のフェアリーに、乙女ちゃんは驚きながらも瞳を輝かせた。
フェアリーも、かわいらしく乙女ちゃんと握手したり、彼女の膝の上に座ったりしている。自分のかわいさをわかってないと出来ない仕草だ。100点。
「モンスターカードは、こうやってモンスターを召喚することができるの」
「すっごいねぇ……! こんなかわいい子が戦えるの? ちょっと、かわいそうかも……」
「んー、ミミグルの子たちは、みんな驚かすのが大好きだから、悪戯の要領で戦ってくれるよ。それに、ゲームだからね。お互い勝って負けて楽しむものだから」
「そっか、そうだよね。召喚したら、がんばれーって応援すればいいんだ」
「ふふ、そうね」
乙女ちゃんの純粋な発想が輝いて見える。
ミミグルは確かに悪戯好きだが、悪戯のレベルが人間の致死性に到達しているので、驚かすの概念を考えてはいけない。
そのフェアリーさんも、ステータスは低いけど相手の手札から特殊召喚したモンスターの効果を封じるエグい子なんですよ。
デーモンと一緒にチャームして相手のEXパクる子なんです。
しかしこれもまた例外の話になるので黙っておく。かわいがってくれる女の子に余計なことを言うなというフェアリーの圧に負けたとも言う。
理解が得られたところで、それを応用した活用を話そうか。
「私は、これを乙女ちゃんも使えるようにしたいと思う」
お気に入りやしおりがジワジワ増えてきて嬉しいです。
ミミグル、ちょっとだけマイナーですがかわいくて楽しいテーマなので気になった方は是非。
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