「お話があるのですがよろしいでしょうか。」
重い扉を開き声をかける。
「どうしたのかね。」
「エルセリア家についてお聞きしたいのですが。」
『エルセリア家』という言葉に顔が引きつる。今更隠そうたって無駄だ。
「どこでそのことを?」
「そのこと、とは?私は先日読んだ本に偶然書かれていたので気になっただけですが?」
動揺しすぎだろう。よくこんなのでこれまで隠せたものだ。
「そ、そうか…。」
ぎこちなく頷く。
「エルセリア家当主と何を約束なさったのですか。」
椅子から立ち上がる。
「お、お前…!」
「なんで隠せると思ったんですかねぇ。」
本当に愚かだ。
「このことについて私なりに考えてみたのですが、お聞きいただけますか?」
私が言うと椅子に座りなおす。どうせわかる訳がない、と思っているのだろう。
この部屋は冷たい。埃一つ落ちていないし、光も差し込んでいるのに。ああ、この部屋と地下室を交換すべきだ。真にこの部屋にいるべきなのはお嬢様の方なのに。
「当主に、『地下室に閉じ込めて隠してくれないか。誰にもバレないように。協力してくれれば私が働きかけて国内での地位を上げてやる。』と持ち掛けられ、権力という餌にかかり、地下室をつくった。その数日後当主がお嬢様と共にやってきて、部屋に入れた後、魔法陣を設置していった。そして貴方は今も地下室とこの事実を隠し続けている。」
「どうでしょう?けっこういい線いっているんじゃありませんか?」
ほとんどお嬢様から聞いたことだから確かだろう。
私の話を聞いて、立ち上がる。私に許しを求めてくる。
権力に目が眩んだのがいけないのよ。
当主から目を付けられたということは自分の指示を簡単に聞いてくれると思われていたということだろう。つまり利用されただけ。
「私、魔法使いの才能があるみたいなんです。魔法って凄いんですよ。色んな種類があって。」
何の話だ、と私を見てくる。
「私は優しいから選ばせてあげます。」
「貴方の最期はどれがいいですか?」
遙か遠い街を目指す。
諦めなどしない。
だってこれはこの世界でお嬢様を幸せにするためなのだから。
にしてもなんで他国に閉じ込めさせたのだろう。行くのも帰るのも大変なのに。
あ、そっか魔法を使ったのか。おそらくある地点から目的地まで一瞬で行ける魔法もあるのだろう。
にしても本当に寒い。一面の雪景色だ。見渡す限り白しかない。
そろそろ休憩しよう、と火を起こすことにする。杖を地面へ向け、雪の上に炎を出す。魔法の火なので雪はとけない。
手をかざして暖まっていると、遠くに人影が見えた。どうやら行商人のようだ。
「こんにちは。寒い中大変ですね。」と声をかける。
行商人は炎と私を見る。魔法使いが多くいる国だとお嬢様から聞いたからつかまったりはしないはずだけど...。
「あの、その杖は…」と私の持つ杖を震える声で指さす。
「あ、これですか?私の杖です。」
「な、なんと!?」
私が言うと目を見開く。
「もしやヴェロニカ様ですか!?」
…ん?ヴェロニカ?きっとお嬢様の名前だろうか。
ああ、この杖がお嬢様の家のだから驚いたのか。
私とお嬢様の見た目はかなり違うのにお嬢様だと思ったということは、あまり顔が知られていないのだろう。
私が考えている間にも行商人は狼狽えている。
「ええそうなのだけど、秘密で外に出てきたから内緒にしてもらえるかしら?」と言っておく。
当主様にお嬢様が外にいるという噂が届くのは避けたい。
「は、はい。」と恐る恐る頷いたのを確認して、再び街へ向かう。