それから数時間、やっと街に着いた。
すっかり夜は更け、人通りは少ない。
魔法の都ウィスペリアの街並みは白かった。
勿論、雪が積もっているというのもあるが、街灯や噴水なども白く作られている為、街はより一層真っ白になっていた。
とりあえず杖は魔法で見えなくしている。大勢に見られてしまうのは避けたかったので。というか国民は皆杖の見た目を知っているのだろうか。やはり家を表すものだから有名なのかも。と考えながら石畳の道を歩く。と、
「あの、どこから来られたんですか?」と向かい側から歩いてきた少女に尋ねられる。
お嬢様とは対照的な紅い目をしている。
「えーっと、デラリアからです。」
デラリアとは屋敷のある街の名前だ。
「デラリア…?」
少女が首をかしげる。やっぱり国名を言ったほうがよかったかな。
「ああ、レイメスタンです。」
レイメスタンと言うと少女が驚く。
まあ、かなり遠いからね。
「そんな遠いところから来たの?」
「はい。気分転換にいいかと思って。」
本来の目的はこの街の当主を倒すことだけど、流石に言えない。
「レイメスタンからということはレインメルク家も知っていますか?」
!?レインメルクの名前をどうして…。
少女の口からこの名が出てくるとは思わなかった。
レインメルク家はお嬢様が囚われている屋敷であり私が仕えている屋敷の当主の家系だ。
「はい、一応…」
レインメルクの名を知っているなんて只者じゃない。
けれど、どうして知っているんですかとは言えない。
それに対してどうしてですか?と聞かれたら話さなくてはならなくなってしまう…。と考えていると、少女がまた口を開く。
「ではそこに誰が住んでいるか知っていますか?」
私のことを試して、お嬢様のことを聞き出そうとしている?
「ご当主様が住んでいるとききました。」
嘘ではない。
私の返事を聞いて少女は「そうですか…」と顔を下げた。
がっかりしているようだ。
「あの…どうかされましたか?」
「私の探している人がそこにいるかもしれないと噂を聞いたので…。」
!?お嬢様の事!?いや、でも、お嬢様が国外に出ていることは誰も知らないはず…。
「誰か聞いても?」
私の言葉に驚き、考え始める。
「...すみません、言えません。あまり口外すべき内容ではないので...。」
うーん。やっぱりそうなるよね。お嬢様の可能性はまだ捨てきれない。
「私、ラティア・エメリスと言って、今、レインメルク家のメイドをしています。」
「エメリス家の方でしたか。」
他国の人に知られているの…?そこまで有名な家ではないと思うのだけど。
「ですから、ご用件次第ではお答えします。ですがその前にお名前を教えてもらっても?」
「あ、すみません!私マイサ・スペンスと言います。」
「マイサさんはなぜレインメルクの事を知りたいんですか?」
「先ほど言ったようにある人を探しているんです。まあ、レインメルク家ははずれだったみたいですね。」と悲しげに笑う。
それほどまでに大事な人なのだろう。
「さっきは当主しかいないと言いましたが、本当はもう一人います。」
私が言うとマイサさんの目が開かれる。私の言葉に希望を感じているような瞳。
「ですがそう簡単に他言ができないようなお方です。万が一、探している方と違かった場合、大変なので事情を聴いてもいいですか?」
マイサさんは私の言葉にしばらくうーんと悩んでいたが、「分かりました。」と頷いた。
「私は以前、ある方に出会いました。その方はただの村娘である私にも優しく接してくださっていました。」
愛しい記憶を思い出しているのか微笑みながら話す。
「ただ、ある日を境に姿を見せなくなりました。そして私はその数年後に聞いてしまったのです。レイメスタンに閉じ込めておいて正解だったなとローブで顔を隠した男が話しているところを...。」
これはお嬢様の可能性が高そうだな...。
「どうでしょうか。」
最後の望みを託すように私を見る。
「...ヴェロニカお嬢様のことでしょうか?」
私が言うとマイサさんの顔が明るくなった。
「っ!はい!!」
「私はお嬢様を自由にする為にこの国にやってきました。」
お嬢様が窓から光の射す場所で生きていけるように。私の幸せをつかむために。
「やっぱりヴェロニカ様は囚われているんですか!?」
「囚われていましたよ。地下室に魔法陣で出られないようにして。」
「そんな!!なんてひどい…。」
「私はお嬢様が自由に生きていけるようにしたい。だから当主様を倒しに来ました。」
「…え?」
なんでそこで当主様と繋がるのか分かっていないみたいだ。
「地下室に閉じ込めるよう指示したのは当主様だからです。」
「え、嘘…。そんな…」
「だって当主様はこの国を導いてくださっているのよ?そんな人が、どうして…。」
茫然自失と言った様子だ。
「それで、私はこれから城に行こうと思っているのですが、協力していただけませんか?」
「貴方の言うことが信じられません...。」と首を振る。
もどかしい。
「じゃあ、倒した後にお嬢様の元へ連れていきますから。」
お嬢様から言われたら信じてもらえるだろう。多分。
「それで連れていかない可能性もありますよね?」
「そうしたら私を倒してくれてかまいません。」
これくらい言わないと信じてもらえないだろう。もしそうなったとしても倒される気はないけど。
「...分かりました。」
「さあ、行きましょう。」と言うとマイサは城門に向かってずんずん進んでいく。
「あの、こっそり入ったりとかしないんですか?」
「大丈夫です。」と言うと2人の門番に向かって、
「こんばんは。私、マイサ・スペンスと申します。」と名乗ると、門を塞いでいた門番が左右にどいた。
さっきはただの村娘って言ってたけど絶対にただの、じゃない。
城内に入りながら、
「マイサさんって貴族なんですか?」と聞く。
「貴族と言うほどではないですけど、商品を卸させていただいているので。」
なるほど…。
「だからヴェロニカ様のことを知っているんですか?」
「まあそうですね。社交パーティーに出席していた人なら全員知っているとは思いますが。」
話しながら階段を上る。なるほど。城の中からは出られなかったけれど、外部との関わりが一切なかったというわけではなかったのか。
廊下を歩く私たちを使用人たちが物珍しそうに見る。
「あの、なんか凄く見られてません?」と言うと振り向いて呆れながら、「貴女がいるからでしょ。」と言う。
まあ確かにそうか。ということはマイサさんは使用人たちに顔を覚えられているくらい城に出入りしている?それは中々に凄い。
そんなことを考えながら歩いていると、
「マイサさん。本日はどうされたんですか?」
と金髪のヴェロニカ様に似ている少女が前から歩いてきた。
「ヴィオレッタさん…。」とマイサが呟いた。
「そちらの方は初めましてですね。私、ヴィオレッタ・エルセリアと申します。」と高貴な方であることを感じさせる挨拶をした。
「ラティア・エメリスです。」
私が名乗ると、「マイサさんとどのような関係でいらっしゃるのですか?」と聞かれる。
えっと、多分よそから来たことを言わない方が良いよね。
「えぇーっと、助手です。」
「そうでしたか。」と言ったものの、あまり信じていなさそうだ。
と、マイサがヴィオレッタさんの元へ近寄る。
「ヴィオレッタさん。ヴェロニカ様が見つかりました。」
「っ!!それは確かなのですか?」
と驚きつつも冷静さを崩さない。
「はい。詳しく話したいのですが…。」
「では私の部屋へ。」
と歩き出したヴィオレッタさんに続く。
「ヴィオレッタさんはヴェロニカ様の妹で、私がヴェロニカ様を探していることを知っています。ヴィオレッタさんもヴェロニカ様を探しています。」とマイサが補足してくれる。
「それで、お姉さまはどこに?」
部屋に入ってすぐ、ヴィオレッタさんが私たちに聞いてくる。
マイサが目線で、私に話すよう促してくる。
「レイメスタンのデラリアと言う街にあるレインメルク邸にいます。」
「どうしてそんなところに…。」
「レインメルク当主とエルセリア当主が裏で繋がって、レインメルク邸の地下室に閉じ込めておくよう命令していたんです。」
「お父様がお姉さまを...。」と手を握りしめる。
「それを私が見つけて、解放しました。そしてこの杖を...。」
見えないようにしていた杖を出す。
「これはエメリス家の杖!!」とマイサが立ち上がる。
「ヴェロニカ様がレインメルク邸に行く際にこっそり持ち出したそうです。」
「そう…。」と考え込む。
「私、貴方の話を信じたい。けれど、お父様がそんなことをしたと認められなくて。だから質問しても?」
「はい。どうぞ。」
「お姉さまは魔法使いかしら?」
部屋には風の音すらも聞こえない。
「魔法が使える者を魔法使いとするならば、ヴェロニカ様は違います。」
私の答えにマイサが驚く。が、ヴィオレッタさんは私を見つめたままだ。
本当にヴェロニカ様とよく似ている。蒼い瞳と金色の髪が。
しかしまとう雰囲気は違う。育ち方が違いによるものだろうか。
「そうです。お姉さまは魔法が使えません。それを知っているのはごく限られた人間だけです。貴方はそのことをお姉さまから聞いたのでしょう?」
「そのとおりです。」と頷く。
「信じましょう。お姉さまは囚われていたと。実際、お父様はお姉さまをよく思っていませんでしたから。」
ウィスペリアのモデルはドラクエ11のクレイモランだったりします。