魔法少女フュージョンズ 作:匿名さん
――魔法少女はね、どんな逆境にもめげなくて、小さい女の子に夢や希望を与えたりしたり、やること全てが可愛いくて無敵のヒロインじゃないといけない。
それが、様々な魔法少女ものの作品で脳を焼かれた俺の考えだった。世に存在するジャンルの作品に、それぞれの作風にあった魅力的なヒロインはいた。
しかし、ヒロインとしての完成形は『魔法少女』であるとも考えていて、冒頭の持論にも繋がる。強くて、可愛いヒロイン。嫌いである人間の方が少ないだろう?
と言っても現実に魔法少女なんている訳もないので、あくまでも架空のキャラクターとして楽しむだけに終わっていた。「魔法少女は云々」の考えも、単なる絵空事や妄言に近い。
『一回目』の人生は、同じような趣味を持つ人間と交流しながらも、平均的な一般人として過ごし、不運な事故に巻き込まれて命を落としてしまった。
どういう訳か、俺は『二度目』の人生を送ることになってしまった。しかも性別が変わり、『一回目』の世界とはほんの少しだけ違った世界。
性別が変わっていることに目を瞑れば、『強くてニューゲーム』と言えなくもない。もちろん性別の違いで苦労は少なくないだろうが、『二度目』の人生を謳歌しよう。今世の家族になってくれた人達と、本当の家族になれるように努力しよう。
『二度目』の人生に対して、そんな期待や不安が入り混じっていたが、それでも『ちょっとだけ違う世界』での毎日は、優しい両親や姉に囲まれた日々は楽しかった。
■
――俺が『二度目』の生を受けた世界。歴史的事実や偉人などの細かい差異を除いた、『一回目』との致命的なズレ。それは、俺が変な理想を抱いていた『魔法少女』や、彼女達の敵である『魔物』が存在していること。
――魔法少女。極限状態に陥った時に、極稀に適性を持った少女が超常的な力『魔法』に覚醒した者達のことを指す。
――魔物。数十年前を境にして、世界各地に神出鬼没し、本能のままに暴れ回り多くの被害を齎す、生きた災害。何が原因で現れ、どうして人間を襲うのかは詳しいことは分かっていない。
それでも、魔法少女達は魔物に立ち向かう。世界の平和を守る為に。彼女達の大切な人達を守る為に。
『一回目』の頃から、ある種憧れというか神聖視をしていた魔法少女が現実に実在するこの世界は、そういう意味では俺にとっては理想郷というべきかもしれない。
だけど、なまじ『一回目』で培った価値観や倫理観のせいで、現実の魔法少女達を前世のキャラクターと同じように捉えることはできず。活躍を華々しく大袈裟に宣伝する一方で、その陰に隠れてひっそりと流される訃報の方が俺には印象的だった。
命を賭して戦う魔法少女達を、アイドル扱いをする周囲が歪に見えて仕方なかった。ここは現実であって、フィクションではないのに。
ある日、姉は魔法少女になってしまった。俺がまだ小学校に上がる前の時期だった。学校からの帰り道に、魔物に襲われそうになっていた友達や下級生を助けようとしたタイミングで、覚醒の条件を満たしてしまったらしい。
姉の頑張りもあり、犠牲者は一人も出ず。助けた子達の家族から感謝をされて、国からも表彰された。その時の姉の笑顔はとても綺麗で、自分が妹ではなく、赤の他人で男のままだったら間違いなく惚れていただろう。
誇張抜きで、そのぐらいに素敵だった。姉と付き合うであろう男は幸せ者だと確信できる。いや、妹として姉が悪い男に引っかからないように目を光らせておかないと。
もちろん容姿だけではなく、性格も
俺にとって、自慢の姉
――それも全部、過去の話になりそうだが。
「――だ、い丈夫……?」
「――え? ね、えさん?」
何が起きているのか、状況が呑み込めず。『魔法少女の所属が義務づけられる組織』の仕事が偶々休みだった姉。彼女に手を引かれて、最寄りのショッピングモールに遊びに行った。
色々な場所を見て回った気がする。学業に加えて、魔法少女になったことで多忙になってしまった姉を独占できるボーナスデー……になるはずだったのに。
ショッピングモールに突如として現れた、一体の魔物。その化け物から俺や他の客を助ける為に、姉は魔法少女に変身して戦闘を開始してしまい。腰が抜けて、逃げ遅れてしまった俺を庇って姉は、魔物の一撃をその華奢な背中に――。
俺を心配させないように、引きつった笑みを浮かべる姉。俺の体を弱々しい力で抱きしめている。誰か――姉のものと思わしき赤い液体が、俺の頬に僅かに付着する。それ以外の真っ赤な液体は、姉を中心にして床を汚していく。命の源が、温かさが溢れ落ちていく。
魔物は姉による攻撃で傷ついているが、未だに健在で。俺と同じように避難が完了していない人間がいて。応援の魔法少女はまだ駆けつけていないけど。
そのどれもがどうでも良いと思えるぐらいに。世界には姉と俺の二人しかいないと錯覚してしまう程に。今この瞬間に集中していた。
だって、今の姉は前世のフィクションでも散々見た、死んでしまいそうな人間の顔をしているのだから。
姉がいなくなることに恐怖を抱いて、彼女の顔を少しでも長く記憶に焼けつけようとしていたのか。それとも、姉と一緒に逝くことに希望を見出したのか。
自分自身にも分からなかった。どっちにしろ、この時間は長く続かないと頭の中で理解している。『二度目』の人生があっさりと終わってしまうのは残念ではある。両親のことも心残りでもある。
だけど、姉と一緒に死ねるなら死後の世界への不安も和らぐ。もしかしたら、また生まれ変わりをするかもしれない。
(……それなら、悪くないかも)
乾いた笑みが浮かびそうになる。だが、それを表情筋を駆使して止める。姉が苦しそうな状態を我慢して、俺を安心させる為に笑顔を向けてくれているのに。姉の気遣いを無碍にしたくない。
姉の体越しに、手負いの魔物が緩慢な動作で近づいてくる。姉との最期の時間を堪能したいのに。
姉も魔物の接近に気づいたのか、俺の体を抱きしめる力をより一層強くする。これで姉と一緒に――。
「――だけでも、生きて――」
途切れ途切れな姉の声に混じって、柔らかい何かが潰れる不快な音が聞こえた気がした。
――俺の意識は、姉の消えかけの温もりに包まれながら、落ちていった。
■
――しかし、俺は死に損なってしまったらしい。意識を取り戻した後に、病室のような場所で両親や堅苦しい制服姿の大人達から、事の顛末を何度も聞かせられた。
ショッピングモール内に現れた魔物は、応援の魔法少女達によって無事に討伐されたようだ。避難中に転んでしまったり、瓦礫に挟まれたりした負傷者の数は少なくない。
だが、犠牲者は
両親は「貴女だけでも生きていてくれて、ありがとう……」と涙を流し、抱きしめてくれた。姉が所属していた国の組織は、「お悔やみを申し上げます。お姉さんの最期は、立派に魔法少女としてのお勤めを果たされました」と淡々と宣ってくれた。
ふざけているのか。お前らのせいで、姉は――。
でも、無力な俺には八つ当たりをすることもできない。姉の後を追いたくても、最期に彼女が遺した
そんな絶望を抱えながらも、俺は退院して。母親に肩を支えられながら、姉を見送った。遺体の損傷が激しくて、最後に顔を見ることすら叶わなかったが。
――その日の夜。俺は魔法少女として覚醒した。タイミングは遅過ぎる上に、シチュエーションはドラマ性の欠片もなく。
しかも、発現した魔法も『単体では役に立たない魔法』だった。
■
――姉のことを、理想の魔法少女だと思っていた。無敵のヒロインだと信じていた。しかし、それらの期待は裏切られた。偽物であった。虚構だった。
それでも、俺の物差しでは姉は『七十五点』はあった。身内びいきで、甘く見積った自覚もある。
だが、他の魔法少女はテレビで持て囃されているのでも『五十点』しかない。もっと、どうしようもない。
幸いなことに、俺の魔法はその『足し算』を可能にする。どれだけ弱い魔法少女でも、長所の一つぐらいはあるだろう。それらを抽出して、
うん、我ながら完璧な理論だ。
死ぬことができないのなら、せめて『最強の魔法少女』を作って、世界平和を実現してみせるとしよう。
それができたら、姉の所に行ったとしても許してくれそうだから。