魔法少女フュージョンズ 作:匿名さん
――魔法少女達の力を束ねて、『最強の魔法少女』を作る。と目標が決まったのは良いものの、その『材料』となる魔法少女の確保が目先の課題であった。
俺の魔法は、あくまでも『最強の魔法少女』を作る為に特化したもの。
つまりは警察というか、姉も所属させられていた組織――『魔導庁』との敵対を意味する。国内のほぼ全ての魔法少女が所属している組織を相手にする力が、
だが、その程度で諦めたり、絶望したりするはずがない。そんなものは、
姉を消耗品のようにしか見ていなかった組織に、仮初めの世界平和の維持すらまともにできない組織に、恐れを抱く必要も。忖度する必要もない。
俺の手がけた『最強の魔法少女』によって、真の世界平和を実現させて、それを見届けた後。姉の所に旅立つ。うん、完璧な人生設計だ。
それに世界平和を成す為には犠牲がつきものなのは、
――と堂々巡りして、話題は冒頭の『材料』集めの方法に戻る。この前世と変わらぬ、何なら『魔導庁』がある分、悪事を働くには厳しい監視社会でもある。
とは言っても、『魔導庁』にも所属せず、監視の手を逃れて悪さをする『野良』の魔法少女の数は少なくない。まだ活動をしていないとはいえ、俺もその『野良』に該当する。
「はあ……どこかに都合良く、魔法少女が落ちてないかなあ……」
小学校の放課後。『材料』を求めて、暇な時間を見つけては歩き回っているが、碌な成果は得られていない。というか、姉の件があってから両親の過保護っぷりが加速した気がする。
まあ自分の子供の一人が
そして俺も心の中では『目的』を達成したら、さっさと死にたいと思っているので、そんな両親の心配も決して的外れではなかったりする。魔法少女になったことも含めて、絶対に公言することなく、表向きは大人しい子供の仮面を被って過ごしているけど。
「まあ……落ちている訳がないか。偶然、魔物の発生に巻き込まれるようなアンラッキーがないと厳しいよなー」
――姉が死んでしまった、あの日のように。
そんなことを考えていたら、周りからは自分以外の通行人の姿はなくなっていた。また路地裏の方から激しい魔力の気配を感じた。それも複数。一つは、荒ぶる魔力。恐らくは魔物のものだろう。
もう二つは俺には似た、しかし決定的に異なる澄んだ魔力。魔法少女、しかも二人組だ。
にやりと、思わず口角が上がりそうになる。
魔物や『野良』との戦闘が発生した場合、通報や現場に居合わせた魔法少女が『魔導庁』に連絡。その後『魔導庁』から現場近くにいる人間の携帯端末に、緊急メールが送られる。
国民には避難勧告の為に。近くの魔法少女には、すぐに現場に向かうように指示する為に。
明らかに魔物と魔法少女が戦闘を行っているというのに、俺の携帯端末はその緊急メールを受け取っていない。それが意味することは、二人の魔法少女がいても『魔導庁』に応援を頼む余裕すらない。
それだけではなく、周囲一帯に通報を行えるような一般人もいない。
考えられる原因は、二人組のどちらかの魔法の可能性が高い。一般人や周りの建物に被害を出さない為に――と言った所だろうか。俺が影響を受けていないのは、魔法の効果があるのが一般人だけだから。
それが事実なのかは、どっちでも良い。大事なのは、『魔導庁』の目が一時的に届かない空間に、俺が待ち望んでいた『材料』を手に入れらるチャンスが転がってくるかもしれないということだ。
一応魔法少女としての初陣にもなるので、気づかれないように物陰に潜んで機会を伺うとしよう。うふふ、ようやく最初の一歩を踏み出せそうだよ。お姉ちゃん。
■
私――
それは、私の友達の少女――白波ほのかも同様である。彼女も魔法少女で、ほぼ同時期に覚醒したこともあって、『魔導庁』からコンビを組むように指示されることが多い。
阿吽の呼吸。小さな頃から一緒に過ごしてきた私達のコンビネーションの前では、どんな魔物や『野良』であっても敵ではない。
そんな全能感にも似た感覚に酔いしれていた。先輩の魔法少女や『魔導庁』の職員さん達には、もっと慎重になれと口酸っぱく注意されていたけど、私達は――正確に言えば私は聞く耳を持たなかった。
活発的な私に比べて、若干内向的なほのかは素直にその忠言聞くように言ってくれたが、それでも私は態度を改めることは一度もなく、活動を続けた。
だって、私達は最強――とはいえなくても、かなり強いから。
だけど、その勘違いは突然終わることになってしまった。
■
ほのかと一緒に楽しくお喋りをしながら、帰り道を歩いていた時に、その魔物はいきなり現れた。
魔物の発生自体はいつも突然で、予期できるものではない。だから、一般人が魔物の発生に巻き込まれた場合は、まず助からない。
近くに運よく魔法少女がいない限りは。それでも、多少の犠牲者は避けられない。
「「――変身!」」
しかし今回立ち会うことになったのは、私達は二人とも魔法少女だ。なので、一般人が死ぬ可能性は限りなく低い。
「――いつものお願い、ほのか!」
「もう……花蓮ちゃんったら、『魔導庁』に連絡入れなくて大丈夫なの?」
「その為の、ほのかの『結界』じゃん」
「……怒られるのは、花蓮ちゃんだけにしてよね。――『ルミナス・フィールド』」
しかも、ほのか――ルミナスアークの魔法は『ルミナリー』。半径数十メートルに及ぶ光の『結界』を形成して、外部と完全に隔離した空間を作り出す。
魔物の出現と同時に、『結界』を展開してもらったので、もう安全だ。だって、周りには運が良いことに私達しかいなかったから。
基本的に魔物のの発生に立ち会った魔法少女には、いの一番に『魔導庁』への連絡が義務づけられている。いち早く情報を共有し、被害を最小限にする為に。
だけど、この時の私はいつも通りに調子に乗っていた。ほのかが張った『結界』もあるので、気にかける必要があるのは建物の被害だけだから。
私――ブリッツフェアリーの『ライトニング』で、魔物をこんがりと焼いて終わり。そう思っていたのだ。
だが、そうはならなかった。私達が接敵した魔物は、『通常種』よりも凶悪で強い『変異種』で、苦戦を免れなかった。初動で『魔導庁』に連絡を入れなかったせいで、応援も期待できず。
『結界』の影響もあって、周辺住民や通行人が通報をしてくれる可能性もほとんどない。
――そんな地獄のような、数十分間に及ぶ死闘の結果。その『変異種』を倒すこと自体はできた。しかし、その代償は私達の命。
より正確に言えば、それが今まさに失われようとしていた。
――『変異種』の鋭い爪によって、左腕が深く抉られた。皮や千切れかけている筋肉によって、辛うじて繋がっている有様。治癒魔法による治療を受けない限り、二度と使い物にならないだろう。
右足に至っては、根元の部分から吹き飛ばされてぐちゃぐちゃになっていた。歩くことすらできず、無事な右手で這いずり回ることしかできない。
当然血も傷口から相応な量が流れ出していて、視界は明滅していた。
魔法少女でなかったら、どれか一つでも死に至っていたに違いない。――だが、
――だって、ほのかの方は上半身と下半身が両断されているのだから。魔法少女であっても、強力な自己再生の魔法がない限り即死だろう。
けれど、ほのかは生きていた。上半身だけで、断面からは大量の血は流れて、目は虚ろで何も映していないのに。そんな状態でも生きていた。
私の魔法は、電気を操る。残り少ない魔力で、ほのかの消えかけの鼓動を無理やりに動かしていた。だって、だって、
でも、ほのかが死なないと『結界』は解除されない。救援はやって来ない。このまま、この愚行を続ければ、私も命を落とす羽目になるだろう。
「――して。い、タ、い。イタいよ。かれんちゃん、もう死――」
先ほどから、ほのかの口から壊れたスピーカーのように同じ言葉が繰り返される。もう聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!?
元々私が慢心をして、『魔導庁』に連絡をしなかったことが今の事態を引き起こした癖に。ほのかが死ぬ原因を作った癖に。
この期に及んで、まだほのかを苦しめいる。そんなことは分かっていても、往生際が悪く私は必死に魔法を行使して。無意味な延命行為を続けていた。自分の命をも削りながら。
「――お願い、神様!? 私のことはいいから、ほのかのことを助けてあげてくださいっ!?」
今際の際に紡いだ
「助けてあげよっか」
――ことはなかった。縋るように視線を向けた先にいたのは、一人の薄い笑みを浮かべた少女だった。