魔法少女フュージョンズ 作:匿名さん
――その少女は、普通だった。自然体であった。魔物の焼死体が転がり、瀕死状態の人間が二人もいるのに。
凄惨な光景を前にして、不自然なまでに動揺を見せない少女。この国では標準的な黒髪黒目、私達よりも低い背丈。もしかしなくても小学生なのだろうか。この場にそぐわない小さな笑みが、不気味に思える。
しかも、今ここら周囲一帯はほのかが展開している『結界』によって、外部から誰かが入って来れるはずがない。何の力も持たない一般人であるなら、尚更だ。
平常時であれば真っ先に疑っていたはずで、怪しい動きを少しでも見せた瞬間に攻撃を仕掛けていただろう。
しかし、今の私に冷静な思考を巡らしている余裕はない。ほのかに残された時間も少ない。普段持っていたプライドや、怪しさ満点の少女に向かって私は無意識の内に助けを求めていた。
「た、助けてっ!? ほのかが!? 友達が死んじゃうの!?」
何を言っているんだ、この口は。私が無駄に増長していたせいで、ほのかが死にそうになっているのに。
それでも、いやまともな思考が働かないからこそ、みっともなく叫ぶ。
私の必死の訴えを聞いても、少女の表情は変わらない。あの不気味な笑顔のままだ。ただ観察するような視線を向けてくるだけの少女に、焦りからくる苛立ちをぶつけてしまう。
「えーと、助けてほしいってことで良いんだよね?」
「う、うん。君、携帯持っているでしょ!? それで『魔導庁』に電話して!? 番号が分からないんだったら、教えてあげるから、すぐに連絡をっ!? ほのかが死んじゃう前にっ!?」
まくし立てるように言っても尚、少女は緩慢な動作でスカートのポケットから携帯端末を取り出す。
その間にも、ほのかの心臓の鼓動が弱まっていく。ただでさえ、消えかけのロウソクのような状態を、私の魔法で無理やりに維持している有様なのに。事態は一刻を争う。だから、急いでよっ!?
――だけど、少女はいつまで経っても携帯端末で『魔導庁』に連絡をしようとしない。それどころか、わざわざ見せびらかすように携帯端末を仕舞う始末。
少女の意味の分からない行動に、思考が一瞬停止する。
「――え? 何で。早く連絡をしてよっ!? ほのかがっ!?」
「いやいや、助けてあげるとは言ったけど、通報するなんて一言も言ってないよ? というか、元々そんなつもりは一切ないし。せっかく降って湧いてきたチャンスを無駄にするような馬鹿はいないと思うけど」
「何を言って――」
「――でもね、お姉さんのその気持ちは痛いほどに、よく分かるよ」
私の言葉を遮るように、少女は話を続ける。笑顔は一転、同情を誘うような悲しい表情に。
一秒でも時間が惜しい状況なのに。それでも、ほのかの生命維持に必要な魔法行使以外の行動を止めて、無意識の内に少女の言葉に耳を傾けていた。その表情に目が奪われていた。
「
……でも、私の望みはどっちも叶わなかった。だから、お姉さんのお友達を死なせたくない、失いたくない感情はとっても共感できる。――その本人の意思を無視してでも。あの時の私に力があったら、今のお姉さんみたいに形振り構ってなかったと思うの。
……それを踏まえて聞きたいんだけど、お姉さんはお友達を助けたいよね? ずっと一緒にいたいよね? だって、このまま放置していたら、死んじゃうし」
少女の言葉が、甘い毒のように私の心に浸透していく。
そうだ、私はほのかに死んでほしくない。二人でもっと先の未来まで生きていたい。傍にいてほしい。離れ離れになる終わりなんて、考えたくもない。
「――君が何を考えていて、どんな方法を選んでも構わないから、ほのかを助けてください。お願いしますっ!?」
重たい体、何とか無事な片腕で頭を地面につける。土下座の姿勢だ。
目の前の少女が、何を考えているかは分からない。だが、少なくともほのかを救う手段があるということは、彼女は一般人ではなく。『魔導庁』に所属していない魔法少女――『野良』である可能性が高い。
その結論に遅まきながら至った。それならば『魔導庁』への通報を渋るのも、少女の不可解な態度や反応も理解できる。
怪しいことには変わりはないが、少女が語った「大切な人を失った痛みは共感できる」という内容には嘘はない――と思う。だから、ほのかのこともきっと助けてくれるはず。
少女が『野良』であっても、魔法少女であるなら
「――大丈夫、大丈夫。私の都合もあるけど、お友達を助けるっていう約束は違えないし、
少女のその言葉に気が緩んだ私は、意識を失ってしまった。それでも完全に気絶する直前まで、ほのかの心臓に向けての電気ショックは止めなかったが。
多分問題ないとは思うが、ほのかが助かる確率を少しでも上げる為に。
――次に目を開けた時に、そこには元気なほのかの姿があると信じて。
■
――『最強の魔法少女』。本音を言えば、作るのではなく可能であれば俺自身がそれを目指したかった。
だけど、世の中そんな上手い話があるはずもなく。俺に宿った魔法では、低級の魔物すら倒すことができない。単体では役に立たない代物であった。
――『フュージョン』。俺は自分の魔法にそう名づけた。自分以外の魔法少女を対象に、別の魔法少女の肉体を移植することで、その力を継承させることができる。
要するに、合体戦士を作る魔法だ。頼りない、弱点だらけの魔法少女達から長所だけを集めて、『最強の魔法少女』を誕生させ、この世全ての魔物を駆逐する。
それが、今の俺が達成すべき悲願である。
そういえば発現する魔法の傾向には、その人物の無意識下の願望が反映されると何とか。
なら、俺にとっての『本当の望み』とは何だろうか。一人奮闘する姉を守りたくはなかったらしい。――守られることしかできないのが嫌で、姉を助けたいと思っていたはずなのに。
姉と一緒に死ぬことを望んでいなかったらしい。――前世の記憶のせいで、多少周りの同年代の子達から浮き気味であった俺に対しても、嫌な顔一つもせずに優しく接してくれた姉と逝きたいと願っていたはずなのに。
俺の
たとえ『二回目』であったとしても、家族である姉よりも。俺は生まれ変わっても、人でなしのようだ。
だったら、それでも構わない。前世の『理想』を達成して、魔物がいなくなって平和な世界が現実になった時。あの世の姉と再会した際に、胸を張って自慢できるから。
――その第一歩として、この『アクシデント』に巻き込まれたのは幸運であった。お陰で、労せずに『フュージョン』の『材料』となる魔法少女を二人も確保することができた。
どうしても『フュージョン』の効果を考えると、その攻撃性能は皆無に等しく。『材料』の入手は絶望的な難易度になるだろう――本来ならば。
これも『材料』――魔法少女の片割れの魔法の、侵入・脱出が不可能な空間の発生に巻き込まれたお陰だ。とはいえ、このまま放置していたら二人とも死んでしまい、『魔導庁』から追加の魔法少女がやって来てしまう。
早く『作業』に移らないと。
「――それに約束しちゃったからね。
いくら『理想』の実現には犠牲はつきものと理解していても、その数は少ないにこしたことはないだろう。その程度の倫理観までは失っていないようだ。もしかして俺は人でなしではなく、稀代の善人だった!?
「――
そう呟きながら、俺は『お友達』の上半身の方に近づくと。魔法少女として強化された筋力に任せて、弱々しい鼓動を刻む胸に目掛けて手刀を繰り出した。