魔法少女フュージョンズ   作:匿名さん

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第四話 初めてのフュージョン

 

 

 何の抵抗もなく、ずぶりと俺の腕は『お友達』の胸に沈み込んだ。肉や骨も、戦闘向きではないとはいえ、魔法少女の筋力の前では大した障害物にならない。それらに触れて、かき混ぜてしまう行為には多少の不快感がないと言えば嘘になるが。

 

 

 予め大体の場所に見当をつけていたので、『探し物』は一秒もかからずに見つかった。

 『ソレ』を勢いよく取り出し、その拍子に俺の頬に血がかかる。私服も汚れてしまった。

 

 

(……ヤバいな。このまま帰ったら、両親に余計な心配かけちゃうし、魔法少女になったこともバレる。一旦変身して、解除したら元の服って綺麗にならないのか? そもそも変身自体が二度目で、よく分からん)

 

 

「えーと、とりあえず……変身っと」

 

 

 右手に『ソレ』を掴んだまま、俺の姿は光に包まれる。その光も一瞬で収まり、着ていた服は魔法少女としての衣装に変化していた。

 

 

 漆黒のドレスの上から、それと相反する色の白衣に袖を通している。かけられた伊達眼鏡のお陰で、愛嬌に知的さがプラスされている――と個人的には思う。

 

 

 これが、俺の魔法少女としての姿だった。発現する魔法だけではなく、衣装の方も無意識下の願望が反映されるらしいが、『最強の魔法少女』を作りたいという願いがどのように出力されたのだろうか。

 魔法の関係上、他の魔法少女の体を弄くり回す(物理的な意味で)、安直にマッドサイエンティスト観を演出する為に、白衣や伊達眼鏡を着用させられた。この程度の考えしか浮かんでこない。

 

 

 でも中に着ているのがドレスって良いのか? それに、暗に俺の『悲願』が狂人の思想として扱われているようで、微妙な気分になる。良いことではないのは理解しているつもりだが、客観的に指摘されるともにょる。そういう奴だ。

 

 

「……っと、そんなことを悠長に考えている暇がないんだった。急がないと」

 

 

 時間制限があることを忘れていた。『ソレ』を引き抜いた瞬間に、辺り一帯を覆う魔力の膜――『結界』の崩壊が加速したような気がする。

 どうやら、この『結界』を張ったのは『お友達』の方のようだ。ここからは時間との勝負となる。初めての魔法行使になるので、不安もある。もう一人との『約束』を守る必要もあるしな。

 

 

 右の掌に置かれている『ソレ』――『お友達』の心臓。本来既にその活動は停止しているはずなのに、ついさっきまでもう一人の魔法による電気ショックを与えられていたせいで、引き抜いた今でも僅かに脈打っている。

 掌から受け切れなかった血が滴り落ちる。まるで『お友達』の命が、目に見える形で失われていくようにも感じられた。

 

 

「だけど、『お友達』の方も災難だよな。こっちの子の我儘に振り回されて、死にかけて。その上で死にたくても死なせてもらえずに、無理やりな延命をさせられて」

 

 

 『お友達』が受けた苦痛は、文字通り地獄の責め苦に等しいものだっただろう。

 

 

「でも、大丈夫。これからは、そんな心配と無縁になると思うから」

 

 

 姉が亡くなってからの癖で、ついつい独り言を溢してしまう。まあ誰も聞いていないので、どれだけクサい台詞を吐こうが気にしない。

 

 

 『お友達』の心臓を壊れ物を扱うように、慎重な足取りでもう一人の子の所に向かう。土下座が崩れたような姿勢で、彼女は気絶していた。

 気をつけながら、片手で彼女を仰向けの態勢にする。

 

 

 ここからが本番だ。膝を曲げて、『ソレ』を開かせた少女の口に近づけると――。

 

 

 ゴクン。

 

 

 ――丸呑みさせた。

 

 

 これで、準備――魔法少女の肉体の一部を、別の魔法少女に取り込まさせるのは済んだ。本音を言えば、欠損したパーツも『お友達』の方から拝借したかったが、下半身はコンクリートの染みになっているので、それもできない。

 一番大事な部分が無事であっただけでも、良しとしよう。

 

 

 変身は二度目。そして、初めてとなる魔法行使。成功しますように。そう祈りを捧げた。

 

 

「――『フュージョン』」

 

 

 

 

 一寸先も見通せない、完全な暗闇の中。まともな思考もできずに、命綱を失った宇宙飛行士のようにふわふわと漂っていた。

 

 

 そんな状態が、どれだけ続いただろうか。たったの数秒間の出来事にも、何時間、数日、数年間のようにも感じられた。

 時間感覚は麻痺していた。でも、忘れてはいけない『何か』。助かってほしいと願った『誰か』がいたような気がする。

 

 

 その『誰か』について、考えを巡らそうとした瞬間。全身をとてつもない違和感が襲った。欠けていた部分が、別の『何か』によって代替されるような。自分の一部が、上書きされていくような感覚。

 

 

 だが、不思議と嫌悪感や不快感はなかった。親しい人間を抱擁するような、されるような心地良さがあった。

 

 

 そうだ、私が忘れていたのは一人の少女だ。いつの間にか復活していた腕の感覚を頼りに、その温もりをぎゅっと抱きしめる。

 彼女はかけがえのない友達であり、失いたくないと思ったからこそ願った。誰にも対して? 神様? 確か――。

 

 

「おはっよー、お姉さん。良い夢でも見てたの? すっごく幸せそうな表情をしてたけど」

 

 

 ――瞼が開かれて、突然の光に再び驚いてまた閉じてしまう。数秒という時間を要して、ようやく外界を認識できるようになった。

 

 

 私は仰向けの姿勢で寝かせられていて、私の顔を覗き込んでくる少女が一人。彼女の正体について、思い悩む。が、それも一瞬。

 

 

 電流が走るように、意識を失うまでの出来事が脳内を駆け巡る。ほのかは、私の友達は一体どうなったのだろうか!?

 

 

 焦燥感のせいで、遅れて違和感に気づく。ほのかよりもマシだったとはいえ、私の体も重傷を負っていたはず。それらが綺麗さっぱりに治っている。

 何なら、以前よりも調子が良いぐらいだ。不自然な程に(・・・・・・)

 

 

 他にも、ほのかを助けてくれるように頼んだ少女の服装は、普通のものから黒色のドレスと白衣という奇妙な組み合わせに一変。先ほどは感知できなかった魔力の気配から、やはり彼女は『野良』で確定した。

 

 

 その思惑は未だに不明だが、少女の魔法――恐らく治癒系統――によって一命を取り留めて、魔法の性能次第では五体満足で元通りになっているはず……だよね?

 だって、目の前の少女は笑っている。安心しても良いはずだ。さっき見ていた夢(?)のようなものも、ほのかが無事であることの暗示に違いない。むしろ、そうであってくれないと困る。

 

 

 何とか上半身だけ体を起こす。

 

 

「……あの、ほのか……私の友達はどうなりましたか!? 助かったんですよね!?」

 

 

 掠れた声で、ほのかの安否を尋ねる。年下と思わしき少女に敬語を使うのは、おかしな感じがする。

 しかし、彼女はあくまでも『野良』。『魔導庁』に所属する魔法少女ではない。治療の対価として何を要求されるのか分からない。なるべく機嫌を損ねないに越したことはない。

 少女は、笑顔をそのままに答える。

 

 

「私も実際に魔法を使うのは、ちゃんと発動できて良かったよ。これで、二人が離れ離れになることは二度とないから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 『野良』の少女の言い方に違和感があったが、とりあえずほのかは無事らしい。ならば、次に聞くことは決まっている。

 

 

「……あ、ありがとう。それで、ほのかは一体どこにいるの……?」

 

 

 そう質問すると、少女は右手で私の方をすっと指さす。

 

 

「お姉さんのお友達なら、そこにいるじゃん」

 

 

 少女が指をさした方向に首を向ける。誰もいない。ほのかが張った『結界』は崩壊途中だがその効果は継続中であり。未だにここら辺は外部からは不可侵だから、彼女以外の姿がないことは納得できる。

 

 

 だが、肝心のほのかの居場所は? 少女が嘘を吐いた? そもそも、その理由は?

 

 

 せっかく友達の無事という希望を得られたのに、少女の気紛れによって奪われる。もしかして治したほのかを人質に取って、想像もつかないような要求をしてくるというのだろうか。

 

 

 ――しかし、現実はその想像を遥かに上回るぐらいに最悪だった。

 

 

 少女は、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す。

 

 

「だから、さっきから言ってるじゃん。お友達は、そこ(・・)にいるって」

 

 

 少女が指し示す方向は、先ほどと同じ。振り返っても、やはり誰も――いや、よく見れば少女の指は私の胸。正確に言えば、心臓がある箇所だ。

 

 

 嫌な予感がした。背中に冷たい汗が流れる。だけど、何かに突き動かされるように、恐る恐る私は片手で胸の鼓動を確かめる。

 

 

 規則正しく心臓が鼓動を刻む音がする。二つ分も(・・・・)

 

 

「――え?」

 

 

 それだけではない。その内の一個からは、馴染みのある魔力反応がしていた。間違えるはずもない、ほのかのものだ。

 

 

 いくら魔法少女とはいえ、心臓が二つあることなんて普通じゃない。というか、私の心臓はついさっきまでは確実に一個しかなかった。

 

 

 なのに心臓が増えていて、その一つからはほのかの気配が。さらに、少女の「離れ離れになることは二度とない」という不可解な発言。

 それらが複合されて、最悪な答えを導き出してしまう。

 

 

 ――私は友達(ほのか)の心臓を喰らわされることで、生き残ってしまったという事実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああっ!?」

 

 

 誰かの悲鳴が、鼓膜を揺らす。うるさいな、声の持ち主は一体……私だった。

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