負弾のアリア ―混沌よりも這い寄るGランク―   作:有栖 志衣

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短編でも次話載せれるんですね!知らなくてびっくり!(イマサラー

違和感などあれば是非ご感想お願いいたします。プロトタイプですので、またそこから改良しようと思っております。


正義であったFランク

「『君は弱いね。』」

 

 目の前の男が言った。

 ボロボロになった俺を、上から見上げる様に見下す彼はそういった。

 

 そこにいるのは黒ずんだ汚れが凝縮し濃縮し人の害意、悪意、敵意をごった煮ししっちゃかめっちゃかにしたような―――“気持ちの悪さ"を掻き集めたかのような男が居た。

 

「『弱い。弱いよ。とても弱い。脆弱で貧弱で虚弱とでも言うのかな。吹けば倒れるとはよく言うけれど』『君の場合吹く前に倒れる。弱くて弱くて弱っちいね』」

 

 その言葉はただ馬鹿にしているだけではなかった。俺という人間を、オレという存在を。おれという物のあり方を壊していくような邪悪さを秘めた声音が、確実に毒として俺の中に蓄積していっていたのだ。

 

「『あぁ勘違いしないで。』『別に責めている訳じゃないんだ』『そりゃそうさ』『大好きだったお兄ちゃんが死んでしまって、その功績を讃えられることなく帰ってきたのは侮蔑の怨嗟』『可笑しいね。おかしいだろ?』」

 

 あぁこの男はなんて残酷なのだろうか。優しく、生温く、キモチワルイ。

 ありとあらゆる人間の弱い部分を知り尽くしているかのように、すべての人間の弱点を把握しているかのように、彼は一番優しく人を腐らせる道を提示する。

 

「『あぁ可哀想だなんて報われないんだ』『―――そう。だから君は悪くない』」

 

 グズグズと、腐りきった声がこちらに届く。

 

 彼のその瞳に宿した腐食の色がより一層濃くなる。ドロドロとした空気がぐじゅぐじゅと腐り交わり、こちらの心の中にまでその何かは侵入してくるのだ。

 

「『正義なんてやめちまえ』『正道なんてクソ喰らえ』『ヒーローなんて消えちまえ』『皆の味方なんて死んでしまえ』『勇気なんて捨てちまえ』『愛なんて壊れちまえ』『そんな志―――散っちまえ』」

 

 もはや言い返す気力も、いや、言い返す気もなかった。その言葉に、その気持ちに、その感覚に、聴き入っていた。

 

 そして最後に彼は今までの気持ちの悪さを払拭するような、酷く優しい笑みを浮かべて、こちらに手を差し伸べた。

 

「『“こっち"においでよ―――キンジちゃん』『甘くて(ぬる)くて終わってて』『こっちの空気は最高(最低)だぜ?』」

 

 

 ◆

 

 

 ピン、ポーン……。

 

 意識が、覚醒する。

 

 耳朶を打ったその安っぽい電子音を意識しつつも枕元においてあるデジタル時計に視線を移す。

 

 6:42

 

「まだ寝れるじゃねぇか……」

 

 8時50分に学校に着けばいいから、大体二時間ほどの余裕がある。学校に向かう時間も入れれば一時間半は家でグータラこいてられるのだ。

 

 ピン、ポーン……。

 

 再度訪問を告げる音が耳に届く。

 

 顔を顰める。今の音で確信したからだ。

 一体誰が来たのかを。

 

 この慎みと品があるような押し方には心当たりしか無かった。

 

「全く……朝っぱらから勘弁してくれよなぁ……」

 

 少しぼやきながら、寝ていた体を起こしフローリングの床をぺたぺたと素足で歩いて行き、玄関まで向かう。

 

「……今開ける」

 

 三度目のチャイムが鳴らされる前にそう声をかけると分厚い扉の向こうで「……ッ」と息を呑んでいるのがわかった。

 

 カチャリ、と扉の鍵を外しチェーンも外し、ドアノブを回して扉を前へと押す。

 

「…………ぅ」

 

 溢れんばかりの陽光が、暗闇に慣れた網膜を刺激する。

 徐々に慣れてきた眩しさから、段々ぼんやりと一つの影が見え始める。

 

 現れたのは、赤と白で構成された比較的イマドキな制服な、可愛らしい女子用の制服であった。

 が、その制服よりも何よりも、それを着たその人物、その姿に人々は目が行くだろう。

 

 まず目につくのは、長く、そして艶やかな光のある黒髪。キチリとした制服の着こなしと、その品の良い姿から連想される言葉は大和撫子だ。

 

 白くきめの細かい肌とぱっちりと大きく開いたくりくりの目。

 

 そして―――この女子高生とは思えないナイス過ぎるばでー。もちろん胸部の事である。ばいんばいんだ。今日も元気に制服を押し上げて主張をしている。男の目に毒とは言うが“俺"に限って言えば猛毒にも程がある。あまり意識さえしなければ何とかなるが。

 

 そんな“探偵科(インケスタ)"に属する俺の磨き上げられた分析はズイッと目の前に現れたのは臙脂色によって遮られる。

 

「え、ええと! おはよう御座いますっ! キンちゃん! お、お弁当作ったの! た、食べませんか?」

 

 それがコイツ―――俺の幼馴染である星伽白雪との今日のファーストコンタクトであった。

 

 

 ◆

 

 

「―――ふぅ、ご馳走様でした。」

 

 上品で明らかに安物ではないとひと目でわかる宝石のような石の散りばめられた箸置きに、これまた立派な漆塗りの箸を音をあまり立てないように静かに置き、食べ終わった旨を伝える。

 

「ふふ、お粗末様でした。キンちゃんのお口に合いました?好みのもの入れたつもりなんだけど……」

 

 少し遠くからその声が聞こえた。その声と共に聞こえるのは流水の音と、カチャカチャと食器がぶつかり合うような音だ。

 

「口に合うも何も、俺の苦手なもんでもお前が作ったらうまいに決まってるだろう。しかし悪いな。飯も洗い物もさせて」

 

 これじゃまるで通い妻だななんて、柄にもなくそんな事を不意に考えながらもさすがに感じる罪悪感に思わずそう言葉を述べた。

 

「い、いいのいいのいいんだよ! わ、私がやりたくてやってるだけだし! し、しかもなんかこれってまるでき、キンちゃんと……してるみたいで、うへ、うえへへへへへ……」

「あ、地雷だった」

 

 そう断ずるや否やの俺の行動は早かった。脊髄反射の如く俺は立ち上がり自分の部屋へと着替えに行く。ん?後ろの声?はは、既成事実とか生まれた子供の性別の比率とか全く聞こえてないから大丈夫だ。

 

 きっと、めいびー。

 

 そんな事を現実逃避かのようにぼんやりと考えながら、できる彼女の着るその制服によく似たソレに腕を通す。

 

 硬いようで、しかし肌触りが悪いわけでもなく、たいして重いわけでもないが明らかに通常の繊維と違う何かで作られた自分の制服に若干の違和感を覚えながら、やがて制服を着終える。

 

 姿見の前にいるのは、髪が目元まで届く男であった。中肉中背と呼ぶには若干背が高く、しかしその全体から溢れ出る陰鬱そうな表情や雰囲気がどうにもやる気のなさそうに見える男―――つまり俺がいた。

 

 ほんと死んだ魚みたいな目だよなーと思うものの治らない。原因は分かっている。こんなふうになってしまった理由も、その意味も。傷はもう塞がりかけたと思っているが、こんな死にそうな表情しているうちはきっとまだ、まだ―――認められていないだろう。

 

「……まぁ、今さらどうにもならないか」

 

 ここ一年ほどでよくつぶやくようになった諦めの言葉をふと漏らして姿見から目を逸らしてリビングへと向かう。

 

「ほぁぁ…………キンちゃん制服着たら格好いいぃ……」

「そりゃ重病だ。病院行け」

 

 軽口を叩いて、机の上に置いてあるその緋色―――形見のコンバットナイフを手で弄びながら腰に納める。

 

「ふふ。やっぱりキンちゃん格好良いよ。正義の味か―――」

「やめろ」 

 

 その時の俺の反応は、少しばかり異様だったのかも知れない。

 

 何を言わんとしていたかわかる。悪気があって言ったわけでもないのも。良かれと思って言ったのも。

 

 それを分かりながら――それでも尚俺はその言葉を遮った。

 

「き、キンちゃん?」

「……俺は、そんなんじゃない。正義とか、ヒーローとか、英雄とか、そんなんじゃない。俺はきっと。きっと―――」

 

 もっと――――。

 

「いや、何でもない……悪いな」

「う、ううん。こっちも、急にごめんね? あっ、もう行かなきゃっ」

「あぁ、わざわざありがとな。行ってこいよ。俺はメールとか確認してから向かうから。また後でな」

「う、うんっ! わかったよキンちゃん! また後でね!?」

 

 慌ただしくバタバタとしながらギィ、と軋む音を立てて重厚な扉が締まり軽い足音が遠ざかって行くのがわかる。

 

「――――――ふぅ」

 

 それを確認して、息を吐く。

 それは安堵か、息苦しさか、―――憤りか。

 

 モヤモヤとした何かがこの胸に居座る限り学校に行けそうもない。

 対して見る物もないのにテレビをつけ、ニュースにひと通り目を通したり、パソコンをつけて来もしないメールを確認し、ダラダラダラダラと過ごす。

 

 いつの間にかあのモヤモヤは消えていた。そのことに安堵しつつ、そのおかげで出来た課題に盛大にため息を吐いた。

 

 それは。

 

「バス乗り損ねたじゃねぇか……!」

 

 三本あるうちの最後を逃した。つまりこのまま行けば地獄である。なにせ今の生活指導員は蘭豹である。遅刻一回毎に一回死ぬと考えれば分かりやすい。お陰で欠席者、遅刻者はいない。

 

 そして俺が今それになりかけているというその現状。

 ヤバイ。何がやばいって俺の生命の存続がヤバイ。

 

 時間を見れば8時20分。あと三十分である。

 バスは無く、時間もない。が、通行手段はあった。

 

 準備を素早く済ませた俺は急いで男性寮のマンションの自転車置き場へと赴き、自身の自転車へと跨った。

 

「まだ活路はある…… !武偵憲章10条“諦めるな、武偵は決して、諦めるな"……!」

 

 こんな場面に使われちゃ武偵憲章も可哀想だと自分で若干思いながらも漕ぐ足をさらに強める。

 

 そして。

 

『その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります』

 

 そんな、出来の悪いロボットの様な声が俺の耳に届いた。




多分このタイプは好き嫌いがわかれるんじゃないかな、と思います。

が、あえて言いましょう。

―――魔改造って浪漫だよね!!(

※ちょいと手直ししました。
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