アスタが連れ去られて、ノエルは冷静ではなかった。
「そんな‥連れて‥助けないと!?」
ノエルが声を荒げながらそう言ってきた。
「アーサーさん! 治療しますわ」
「止せ‥‥回復魔法でも治らん」
「そんな‥‥っ!?」
「レオポルドを治してやってくれ」
アーサーは自分を治療しようとするミモザを止めて、レオポルドの治療を頼んだ。
「ノエル、無理だ」
「でも‥‥っ!?」
ノエルの言ってきた事にクラウスが冷静に否定した。
しかし、ノエルは反論する。
「残念だが、移動した魔力を探ることは出来ない」
「だからって‥‥」
「ダメだ」
クラウスの言葉に食って掛かるノエルにノゼルが止めた。
「今は王都の守りを固めるのが先決。敵があれだけとは限らん。あのような者に割ける時間も魔力もない」
ノゼルの言葉にノエルは黙ってしまった。
「フエゴレオンたちの様子はどうだ」
「私の魔法では応急処置が限界です! 医療棟に運んでもっと高レベルの回復魔法を施さないと、レオポルドさんの命が危ないです! ‥‥ですが、フエゴレオンさんは傷が全くないのに目覚める気配がありません」
「無くて‥当然だ‥‥」
ミモザの疑問にアーサーが答えた。
「俺の回復魔法で右腕を切り落されて瀕死だった団長を再生させた‥目覚めないのは、右腕を斬られた際のダメージが精神にまで負っているからだ‥‥精神を回復させる以外で‥目覚める可能性は低い」
「そんな‥‥っ!?」
ミモザがそう言ったのは自身の回復魔法では精神を回復させる事が出来ないからだ。
「ケッ! 団長ともあろう者がざまぁないな」
ソリドが気を失っているフエゴレオンを見下しながら罵倒し、ネブラも右手を口元に持ってきて嘲笑していた。
「ヴァーミリオン家も墜ちたもんだ。それに加え、偉そうにしてた奴が敵の魔法にやられて死にかけとは、いい気味だぜ!!」
ソリドは空間転移しても未だに毒魔法が続いて蝕まれるアーサーも罵倒した。
どうやら襲撃前のいざこざでのアーサーから受けた屈辱が尾を引いていたのだ。
あまりの言い分に彼の妹であるノエルは無論。
ミモザやクラウスもソリドの発言に眉をひそめる。
「黙れソリド」
しかし、そんなソリドを黙らせたのはノゼルだった。
「魔法騎士団は勝利しなければならない。だが、この場にいなかった我々はヴァーミリオン家とこの男よりも、それ以下だ。この男は襲撃直後の新手に気づき、即座に対処しながら、毒に蝕まれながら敵の魔法の被害を最小限に収めた。これ以上、被害が広がらないよう守りを固めろ」
「‥‥はい‥」
見下し気分に浸っていたソリドと、発言しなかったが見下していたネブラはノゼルの一括の前に萎縮した。
そんなソリドの見下しなど一切気にしていないアーサーは右手を魔法で白くすると、自身の身体を突き刺した。
「アーサーさんっ!?何を‥‥ッ!?」
ミモザはそれを見て声を荒げた。
それは他の魔導士達も同じだったが、アーサーは懸命に右手を動かしてあるモノを引っ張り出した。
突き刺した場所から右手を抜くと、血が噴出した
右手には毒々しい紫色の球体があった。
アーサーは残り少ない魔力で"再生"し、右手にカルの魔法を持ちながら立ち上がった。
「何だそれは‥‥?」
「カルと呼ばれていた毒魔法使いの魔法だ‥‥回復魔法でも治せない様に呪詛魔法を施しているようだ‥‥‥」
紫色の球体について聞いてきたシャーロットにアーサーが答えた。
「だが‥‥構造はもうわかった」
──────混沌魔法"
右手に"
「厄介な毒魔法使いだ(奴は最初っから俺を殺す気がないなかったから助かったものだ‥‥次はないぞアーサー)」
しかし、アーサーは自身を連れて行こうとしていたカルが殺さない程度に落としていたからこそ生きている事への屈辱と、己の力量不足に対する憤怒がアーサーの表情に浮かび上がっていた。
アーサーは内心、己に対する未熟さに怒りを隠せていなかったが、負傷したレオポルドを"再生"させて傷を無くし、攻撃を受けて空き、ボロボロになっているロープや服装までもが元に戻った。
「凄い!(一瞬でレオポルドさんの傷を‥‥)」
(なんだこの魔法は‥‥? 傷はまだしも、穴の空いた服まで元に戻っている!?)
レオポルドの傷を無くした事に、ミモザはアーサーの魔法に感嘆し、クラウスはアーサーの異質な回復魔法に困惑していた。
「‥‥‥アーサーと言ったな」
そんなアーサーにノゼルが話しかけた。
アーサーは冷静を装いながらノゼルに視線を向けた。
「礼を言う」
「‥‥どういたしまして」
ノゼルの感謝にネブラとソリドやノエルは驚くが、アーサーは一応感謝を受け取った。
「通信魔法を妨害する魔法が散布されて、指揮系統が不足している。おかげで本部からの援軍も来られなかった。まだ油断できん!」
アレクドラが他の[金色の夜明け]団員に指示を出していた。
「ソル。周辺を固めるぞ。警戒を怠るな」
「はいです、姉さん」
「団長と呼べ」
「わかってます団長姉さん」
シャーロットはソルを連れて警戒を行なった。
アレクドラはクラウスに本部へ行って応援を呼ぶように言った。
そんな他の団たちの団員の指示が起きていく最中、アーサーが片膝を付いた。
「アーサーさん!」
ミモザはアーサーが膝を付いた事を視認すると、慌てて近づいた。
「大丈夫だ。ただの魔力切れだ」
「ですが、医療棟で休んだ方がいいです」
「そうよ。貴方さっきまで毒魔法を受けてたんでしょう」
ミモザに続くようにノエルが休むように告げてきた。
特にミモザからは有無を許さない威圧感があった。
アーサーはそれを受けて、ミモザを落ちつかせる為に頭をポンポンと撫でた後、甘んじて休むことを了承した。
「わかった。少し休ませて貰う」
アーサーはそう言うと、意識を失うように瞼を閉じた。
すると、ミモザはノエルの手伝いなどもあり、[紅蓮の獅子王]団の三人を医療棟へと送った。
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ミモザ達の計らいで休んでいたアーサーは夢を見ていた。
夢というわりには周りには何もない。色も形も一切無い場所だった。
いや、一つだけある。
アーサーがレブチの鎖魔法で魔力を拘束されていた時に解放した魔力量とは天と地ほどの差を秘めた魔力量を有していた。
その魔力にアーサーは幾度と感じた事がある。
その魔力の正体は「混沌」だ。
光にして闇。刹那にして永遠。無限にして虚無。
形がないのに、形がある。あらゆる矛盾が集合したような魔力という概念のみが「混沌」から溢れながらも無くなっていく。
常に矛盾を行ない続ける力の塊。
そんな「混沌」がとある存在達を創りだした。
一つ目は頭部部分を光で一切見えないが、後頭部に光輪を持つ全高50m近くの大海を思わせるドレスを着た肘部分を二つ持つ奇妙な女神。
二つ目は鬼や悪魔のごとき角を生やし、禍々しく仰々しい魔の神を思わせる鎧に身を纏われた巨大な身体を持つ魔の男神だった。
女神は神聖さを秘めた光を持ち、男神は禍々しい魔の闇を秘めていた。
そんな女神と男神はそれぞれの秘めた力を用いて各々は特徴有る種族を形作り命を創りだした。
女神が創造したのは鳥の翼を思わせる白き翼を背中から双翼を生やし、頭部に幾数多の形が異なる光輪を持つ存在──────「天使」と呼ばれた。
男神が創造したのは蝙蝠の羽の如き翼を持ち、角を生やした禍々しい邪悪な存在──────「悪魔」だった。
そして、天使と悪魔がそれぞれ住まう異空間「天府」と「冥府」と呼ばれる場所だった。
「混沌」は更に幾つもの生物を創りだした。
その中でも最後に創造したのは人間だった。
人間は慈しむと同時に憎しみ、怒りながらも哀しむ。混沌とした感情と思考を持つ全ての生物の中でも混沌に一番近しい種族だった。
そんな「混沌」を二人の神が初めて嫉妬を覚え、力を封じた。
力を封じられし「混沌」が宿りし物体は二つ。
一つは「混沌」の力を発揮させる聖剣エクスカリバーを有した「混沌」の
もう一つは、無数の脚を持ちながらも、その姿を小型や全高20m近くの巨大な化猫がいた。
その二つが合わさって漸く本来の力を発揮する。
そして、化猫の名前が頭に過ぎってくる。
その名は「
その猫が夢を見るアーサーへと呑み込もうと口を開いた瞬間に光が差し込んだ。
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夢で起きた光と共に、アーサーの意識が活性化していった。
「‥‥‥‥ハッ!?」
アーサーが目を覚ますとそこは医療棟にある医療用ペッドだった。
どうやらミモザたちが[紅蓮の獅子王]団の三人を医療棟に目を覚まさないフエゴレオンとレオポルドを休ませ、魔力切れしたアーサーを回復させていた。
「‥‥‥」
アーサーは自身の魔力量と回復させてくれる十人ほどの回復魔導士の総量を比べて、そろそろ退散すべきだと思い、ベットから起き上がり、立ち上がった。
「まだ回復しきっていません! 動かれるのは‥‥」
「3分の1ほど魔力が回復すれば大丈夫です」
アーサーは止めに入った回復魔導士の言葉を優しく断りながら団のローブを羽織って医療棟から出て行った。
医療棟から出てくると、そこには王都の防衛を立て直してこの医療棟に集まっていたテロリスト達相手に戦っていた騎士団たちがいた。
その中にはユリウスを呼んだマルクスもいた。
「アーサーさん! まだ安静にしてないと‥‥」
「ただの魔力切れだって言ったろ。気にするな」
アーサーが医療棟から出てきた事に気付いたミモザがアーサーに安静にするように告げるも、アーサーは聞く耳を持たなかった。
それもそうだろう。
アスタ誘拐が起きた事にアーサーも気が気ではないが、3分の1ほど回復した魔力を行使して未来を視た。
その未来を視るや、魔法を解除して魔力回復のために自然から魔を吸収していた。
少しずつ自然から魔が集まり、アーサーに吸収され、アーサーの魔力を回復させていく中、この場にいる全員がある人物の魔力を感じ取った直後。
彼等の前に、金星の様に、半透明の水色球体と時刻が刻まれたリングに包まれたテロリストと、ユリウス。
ユリウスの右腕に抱え込んだアスタが現れた。
「魔法帝‥!」
「それにアスタ!?」
「ど‥どうも‥‥」
アスタは迷惑を掛けた身である事と、今の状態に対する反応に対応できずにいた様だ。
そんなアスタの無事にノエルがツンデレをかますが、クラウスがノエルを撥ねのけてアスタの無事を喜んでいた。
そんなアスタの後方から近づいたアーサーがアスタを一発殴った。
「痛っ!?」
アスタは痛みを告げると、殴ってきた方向へと視線をやるとそこにアーサーがいる事に気付き抗議した。
「何すんだよアーサー!!」
「なに心配させた罰を与えただけだ」
「お前も心配したのか?」
「あぁ‥‥」
ここまでの二人の会話からアーサーがアスタの生死を心配したという美談にも聞こえる。
しかし、アーサーが心配したのは‥‥‥
「約束から早速リタイヤした奴が現れた事にな」
「だぁれがリタイヤするかぁぁああああああ!!!!!」
アーサーの発言にアスタの生死に関して気にして等いない意味が出ていた。
アーサーの言う約束とは無論。
「三人のどちらが先に魔法帝になるか」の競争である。
その競争に参加している三人の内、アスタが誘拐されて殺害されては、その競争からリタイヤしたという事だ。
まだ半年も経ってないのにリタイヤしたのならば競い合いがないというものだ。
あまりに冷徹な思考にも思えるが、それは同時にアーサーがアスタとユノが先のテロリスト達に殺されるような柔な存在ではない事を信じているからこその発言である。
そんな二人の会話が止むのを待つことなく、マルクスとシャーロットが状況をユリウスに説明した。
「‥‥‥そうか。フエゴレオンほどの者がいつ目覚めるかわからない状態とは‥‥コレは私の判断ミスだったかな」
「いえ、我々が不甲斐ないばかりに‥‥‥」
ユリウスが王都からいなかったのは、テロリスト[白夜の魔眼]の逃げ込んだ先に先回りして待ち伏せていたからだ。
フエゴレオンの一件を除けば、戦功叙勲式に集まった団員たちだけで充分に勝てると考えたが故であり、実際に屍霊魔法のラデスによる屍達は魔法騎士団によって排除されている。
実力という点では確かに対処できない領分ではなかった。
それでもフエゴレオンに起きた一件と、他の団員達に起きた敵の罠である空間転移。
そして、アスタが連れ去られ、ユリウスが待ち伏せていた場所にあったある代物たちの事を考えて彼は自信の判断が間違っていたと思ったらしい。
しかし、シャーロットは敵の罠に簡単に嵌まってしまった自分達の未熟さにも原因があると言外
に告げる。
「魔法帝。それからもう一つご報告なのですが‥‥」
「なんだいマルクス君?」
シャーロットの会話に割り込むようにマルクスがユリウスに話しかけた。
「王都から数百mほど離れた場所で戦闘の痕が発見されました」
「ん? それってもしかして、西側の平界ですか?」
アーサーはマルクスの話しを聞いて、マルクスに質問を返した。
「え? そうですが、どうしてそれを‥‥」
「あ~‥‥その戦闘の痕は俺とファルザナスによるもんです」
アーサーは苦笑交じりに戦闘の痕の正体を語った。
王都に堂々と入り込もうとした[白夜の魔眼]の一人であるファルザナスを相手にしていた際の戦闘の痕である事を教えた。
その際にファルザナスの魔法属性なども教えた為に、魔法マニアのユリウスが食い付かない筈が無く。
「破砕魔法だって~!
「魔法帝!!!」
そんなユリウスを叱るマルクス。
「いや~ごめんごめん」
ユリウスが謝罪すると玩具に喜ぶ子供から一変。
一国を守る戦士としての表情へと変わり、話し出した。
「────その為にも我々は全てをかけて戦い続けよう」
「はい!」
「私はこれにて失礼する」
「ノゼル兄様」
ユリウスの言葉にアスタが返事するも、ノゼルが協調性のない発言と共に去って行く。
そんなノゼルを追うようにネブラとソリドが追っていく。
「(なんだ~アイツ)」
アスタはそんなノゼルの発言に協調性を行なわない白い目を向ける。
しかし、ノゼルの様子の変化にユリウスとアーサーだけは気付いていた。
「ふふ。眠れる虎ならぬ鷲を目覚めさせたようだね」
「随分と殺気だっているようでしたね」
「?」
ユリウスとアーサーがそう言った事にわからずにいた。
「我々も更に精進します」
シャーロットがそう言うと、医療棟の扉が勢い良く開かれた。
そこにはレオポルドがいた。
「真っ先に強くなるのは俺だ!!!」
レオポルドは扉に片手を置いた。
「レオポルドさん」
「安静にしてないと‥‥」
「体力や疲労も"再生"の際に戻してある。安静にする必要はないんだが‥‥」
「え? そうなの?」
ノエルがアーサーの"再生"の効力を聞いて、間抜けな声で聞き返した。
「我がライバル、アーサー! アスタよ! お互い生きていて何よりだった。だが、オレは兄上をも越える男になる。そしてコレは‥‥‥‥」
レオポルドはアスタとアーサーに宣戦布告を行なっていると、突如右手の親指に炎の魔を集めて発火させると、親指を額に押し付けた。
親指が額から離れると、そこにはフエゴレオンと同じく菱形の赤い紋様が付いていた。
「‥コレは、誓いの印だ」
「‥‥おう!」
「抜かれるつもりはないぞレオ」
良い雰囲気まま、レオポルドの宣戦布告が終わると思われた。
「‥‥ってか、お前は誰だぁああ?」
「ぇぇぇえええええ!!!」
アスタがレオポルドの事を覚えていなかった。
王都襲撃の間近で起きたアーサーとノゼル達の諍いの最中で、レオポルドがアスタに自己紹介をしながらライバル認定していたのだが、その時のノゼルとアーサー達の魔力の暴力と王都襲撃の一件でレオポルドの名をすっかり忘れていたアスタ。
あまりにしまらない宣戦布告の終結に、他の者は笑っていた。
「おいぃぃ! 何故未だに知らん!!!」
「オレはちゃんと自己紹介した人しか覚えません!」
「俺の名はレオポルド・ヴァーミリオン! 親しみを込めてレオと呼べ!!」
「な、なんて厚かましい奴なんだ」
「お前が言うな!!」
とまぁ、和やかな雰囲気にもなり、この場にいる団員達は各々、この一件に対する反省を行ないながら強くなる事を心に誓い、魔法帝は逞しく成長を遂げようとする次代の若者たちの成長を期待した。