Go! トラブルメーカー!  〜雑草は花園で咲く〜   作:ナッパー

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第七話 コンクリートは砕けねぇ! 夕暮れの超激戦!

第七話

 

 「……お覚悟決めろや! クソ野郎共!」

 

  俺が中指を突き立てて啖呵を切ると、街灯の上に立つシャットの野郎は、湯沸かし器みてぇに顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。

 あーあ、血管切れそうじゃねぇかおい。

 

 「き、貴様ぁぁぁ……!! どこまでも、どこまでも私の美学を逆撫でする男だ……!!」

 

 シャットが狂ったように髪を掻きむしり、叫び声をあげる。

 その様子にゃ、美しさの欠片もありゃしねぇぜ。

 

 「許さん……絶対に許さんぞ!! ゼツボーグ!! まずはあの生意気な口を利く野蛮人から狙いなさい! その汚らわしい指ごと、完膚なきまでに叩き潰すのみ!!」

 

 『ゼツボォォォォッグ!!』

 

 命令を受けたアンプ型ゼツボーグが、巨大なエレキギターを構えた。

 ネックの先が鋭利に尖ってて、もはや凶器だ。

 だが、そいつがやったのは殴打じゃねぇ。

 ゼツボーグがギターをかき鳴らした瞬間、鼓膜を突き破るような不協和音が炸裂した。

 ただの音じゃねぇ。空気が歪むほどの衝撃波だ。

 

 「ぐぅお!? うるせぇ!!」

 

 真正面にいた俺は、見えない壁に殴られたみたいに吹き飛ばされた。

 足を踏ん張るが、ズリズリと地面を削りながら後退させられる。

 

 「春海さん!」

 

 「くっ……なんて不快な音ですの……!」

 

 マーメイドとスカーレットも顔をしかめて耳を塞ごうとするが、攻撃の手は止まらねぇ。

 

 『ゼツボッ! ゼツボッ! ゼツボォォォグ!!』

 

  ゼツボーグは狂ったギタリストみたいに弦をかき鳴らし続ける。

 そのたびに衝撃波が飛んできて、公園のベンチがひしゃげ、植木が根こそぎ吹き飛んでいく。

 おいおい、マジかよ。近づけねぇぞこれ!

 

 「プリキュア! フローズン・リップル!」

 

 マーメイドが氷を作り出して盾にするが、衝撃波が直撃した瞬間、氷が弾け飛んじまった!

 

「きゃぁっ!?」

 

 「マーメイド!!」

 

 氷の盾を破られたマーメイドが地面に叩きつけられる。

 ちくしょう、あんな一瞬でかよ!

 

 「よくも……よくもみなみを!」

 

 スカーレットが柳眉を逆立てて前に出る。

 手にはいつの間にか出現させていた、あの赤いバイオリン……スカーレットバイオリンが握られていた。

 

 「プリキュア! スカーレット・スパーク!」

 

 スカーレットがバイオリンを弓で鋭く弾く。

 その切っ先から、爆発的な爆炎がゼツボーグへと真っ直ぐに放たれた。

 よっしゃ行け! 燃やしちまえ!

 

 『ゼツボォォッ!!』

 

  だが、ゼツボーグは嘲笑うようにさらに激しくギターをかき鳴らしやがった。

 空気が割れるような轟音。

 その音圧が、迫りくるスカーレットの炎と正面から衝突する。

 

「なっ……!?」

 

 嘘だろおい。

 炎が……音に負けて押し戻されてやがる!

 物理的な壁みてぇになった音波が、スカーレットがぶっ放った炎を霧散させ、そのまま彼女を飲み込んだ。

 

 「きゃぁっ!!」

 

 「スカーレット!」

 

 スカーレットの体も木の葉みてぇに吹き飛ばされ、地面を転がる。

 マジかよ……こいつらの攻撃でもダメなのか!

 

 「フハハハハ! どうだ、思い知ったか!」

 

 シャットが高笑いする。

 

 「これぞ絶望の旋律! 貴様らの貧弱な音楽など、この爆音の前では無力のみ!」

 

 「クソッ……うるせぇんだよ公害野郎が!」

 

 俺は地面に片膝をついたまま、必死に耐えていた。

 頭がガンガンする。

 耳も痛てぇし立ってるだけでもやっとだ。

 背後の影の鬼も、苦しそうに耳を塞いでやがる。

 しっかりしろポンコツが! ここで消えたらかっこつかねぇぞ! 俺は歯を食いしばって、影を繋ぎ止める。

 だが、状況は最悪だ。

 あの音波がある限り、近づくことすらできねぇ。

 遠距離攻撃を持ってるプリキュアたちでさえ、あのデタラメな出力の前じゃ防戦一方だ。

 

 『ゼツボォォッ!!』

 

 ゼツボーグがトドメとばかりに、アンプのボリュームを上げやがった。

 空気がビリビリと震える。

 やべぇ、さっきよりデカいのが来る!

 

 「しまっ……避けて、春海さん!」

 

 マーメイドの叫び声。

 だが、体が鉛みてぇに重くて動かねぇ。

 だけどそんな事この化け物にはかんけぇねぇ。

 最大級の衝撃波が、容赦なく俺たち三人を飲み込んだ。

 

「だぁー! しゃらくせぇ!!」

 

 俺は叫ぶと同時に、背後の影の鬼に意識を叩きつけた。

 逃げ場がねぇなら、真正面から受け止めるしかねぇだろ!

 

 「ガードだ! 耐えろオラァッ!!」

 

 俺の命令に反応して、影の鬼がグワッと前に出る。

 丸太みてぇな両腕を胸の前でクロスさせ、俺たちを覆う巨大な盾となりやがった。

 直後、音の塊が鬼の腕に激突した。

 なんちゅう衝撃だよ!

 鬼の腕がミシミシと悲鳴を上げ、繋がってる俺の体も内臓がひっくり返るくらい苦しい!

 

 「ぐ、ぬぅぅぅぅ……ッ!!」

 

 足が地面を削り、ズズズッと後ろへ滑っていく。

 重いぜ……ダンプカーに押し込まれてるみてぇだ。

 だが、ここで引いたら後ろの二人ごとペシャンコだ。

 意地でも通すかよ!

 

 「弾き……飛ばせェェェェッ!!」

 

 俺は奥歯が砕けるほど噛み締め、渾身の力で腕を振り払った。

 鬼が雄叫びを上げ、クロスさせていた剛腕を一気に解き放つ。

  その瞬間、凄まじい音を響かせて、正面から来た衝撃波が無理やり左右に弾かれ、俺たちの両脇を通り抜けてった。

 背後の木々がバキバキとへし折れ、フェンスがひしゃげて吹っ飛ぶ。

 だが……俺たちの場所だけは無傷だ。

 

「はぁ……はぁ……! どうよ…!」

 

 俺は荒い息を吐きながら、勝利の笑みを浮かべようとした。

 だが。

 

 『 グ……グルァァァ……』

 

 「あ? おい、どうした? なんか変だぞ?!」

 

 俺は必死に念じるが、影は言うことを聞きゃしねぇ。

 それどころか、ドクン! と心臓が早鐘を打って、全身の血管に焼けるような熱さが走りやがった。

 やべぇ……この感覚は……まさかもう時間切れかよ! せっかくにゃんこ先生んとこで修行したんだってのにこれで終わり?!

 

「ぐ、うぅ……っ!! ふざけんな……今ここで暴れるんじゃねぇ!!」

 

 俺は暴れようとする右腕を左手でガシッと抑え込んだ。

 だが、影の鬼は俺の制止を無視して、ドロドロと黒い泥を垂れ流しながら勝手に膨れ上がっていく。

 敵も味方も関係ねぇ、目の前の動くもん全てをぶっ壊したいっていう、純粋な破壊衝動が脳みそに流れ込んでくる。

 

 「春海さん!? 様子が……」

 

 「春海! しっかりなさい! 飲み込まれてはダメですわ!」

 

 「わぁーってるよ馬鹿! 落ち着け……落ち着け俺!」

 

 

 俺は肺の中の空気を全部入れ替えるつもりで、深く、長く呼吸をした。

 頭の片隅で、エレガントにって言葉が何回も響いてくる。

 うるせぇよ……でも、今はその言葉にすがるしかねぇ。

 戻れや……もう出てくんじゃねぇぞ!

 

 『グルゥ……』

 

 俺の必死の深呼吸に合わせて、暴れ狂っていた鬼の動きが鈍くなった。

 そして、ズズズ……と音を立てて、黒い泥が俺の足元の影へとゆっくり吸い込まれていく。

 血管が沸騰しそうなくらい熱い熱が、急速に冷えていく。

 

「……ふぅ」

 

 影が完全に収まった瞬間、俺の体から力がごっそりと抜け落ちた。

 膝がガクンと折れて、無様に地面に手をつく。

 

 「はぁ、はぁ……なんとかなった、か……」

 

 汗が滝みてぇに流れ落ちる。

 なんとか暴走は止められた。

 だが……もうダメだ。

 もっかい鬼を引きずり出そうとしようもんなら、今度こそ暴走しちまう。

 たった一回だけ攻撃を防いだだけで今の俺のキャパは限界を超えちまったらしい。

 

「くそ……」

 

 地面の砂をギュッと握りしめる。

 カッコよく啖呵切って、中指まで立てて挑発した結果がこれかよ。

 三分どころか一分も持たなかったじゃねぇか。

 情けなくて、悔しくて、自然と自嘲するような言葉が漏れた。

 結局俺は、まだこの力を使いこなす器じゃねぇってことかよ。

 

「春海さん!」

 

 「春海!」

 

 みなみとトワが駆け寄ってきて、俺の両脇を支えようとする。

 だけど、二人の足取りもフラフラだ。

 よく見りゃ、ドレスのあちこちが汚れてるし、肩で息をしてやがる。

 さっきの音波攻撃……俺が防ぐ前に結構食らっちまってたからな。

 

 「フハハハハハ!!」

 

 勝ち誇ったような甲高い笑い声が、夕暮れの公園に響き渡った。

 シャットだ。

 俺が自滅したのを見て、ここぞとばかりに街灯の上でふんぞり返ってやがる。

 

「なんだ、もう終わりか? 威勢が良かったのは口だけだったようだな! 美しくない、実に美しくない最期だ!」

 

 シャットがバサッと手を振り下ろす。

 

 「ゼツボーグ! フィナーレの時間だ! 動けなくなったそいつらを、まとめて消し去ってしまうのみ!!」

 

 『ゼツボォォォォッ!!』

 

 ゼツボーグが雄叫びを上げて、アンプのボリュームを最大まで上げやがった。

 鼓膜がはち切れそうなハウリング音が猛烈に鳴り響く。

 やべぇ。さっきの比じゃねぇぞこれ。

 あんなもん至近距離で食らったら、俺たち全員鼓膜どころか内臓までミンチにされちまう!

 

「くっ……!」

 

 みなみとトワが、動かない体で俺の前に立ちはだかる。

 俺を庇うつもりかよ?

 

 「よせっ! 逃げろ!」

 

 俺が叫ぶが、二人は退かねぇ。

 

 「友達を見捨てるなんて……できませんわ!」

 

 「ええ……! プリキュアとして、そして友人として、貴方は守り抜く!」

 

 バカ野郎どもが……!

 俺は地面を掻きむしった。

 動けや、俺の足! 俺は……俺は! こいつらをぶっ飛ばさねぇと行けねぇんだよ!

 

 『ゼツボォォォォォォッグ!!!』

 

 ゼツボーグが巨大なギターを振り下ろした。

 死の旋律が、刻一刻と俺たちに向かって放たれる!

 終わった。

 短い人生だったぜ。

 そう思って俺は静かに目を瞑った。

 

 

「プリキュア! ローズ・トルビヨン!」

 

 「プリキュア! ミーティア・ハミング!」

 

 そう思った次の瞬間! バラの花びらと弾丸みてぇな流れ星が、ゼツボーグの真上から降り注いだ。

 

「なっ……!?」

 

 シャットの驚く声。

 俺が恐る恐る目を開けると、舞い散る花びらとキラキラ光る星屑の中に、二つの影が舞い降りていた。

 

 

「お待たせ! 間一髪だったね!」

 

 「も〜、はるみんもみなみんもトワっちも! あたしたち抜きでピンチになってんじゃないわよ!」

 

 そこに立っていたのは、ピンクと黄色のドレスを来た頼もしい援軍。

 キュアフローラと、キュアトゥインクルだった。

 

 「春海! 大丈夫ロマ!?」

 

 「春海〜! 生きてるパフ!?」

 

 空からはアロマが、地面からはパフがすっ飛んできて、パフの野郎は俺の顔で泣きじゃくりやがった。

 

「うおっ、きたねぇ! やめろ馬鹿犬!」

 

 俺はパフを引き剥がしながら、目の前の二人に聞いた。

 

 「お前ら……なんでここがわかったん?」

 

 「だって、みんな帰りが遅いんだもん! 心配になって探しに来たんだよ!」

 

 フローラが腰に手を当てて、ふふんすと鼻を鳴らす。

 

 「そうそう。ゆいゆいも心配してたしね。まさかこんな所でゼツボーグと戦ってるとは思わなかったけどさ」

 

 トゥインクルがやれやれと肩をすくめる。

 なるほどな。

 俺たちがゲーセンで油売ってたせいで、こいつらに心配かけちまったってわけね。

 まったく、勘のいい連中だぜ。

 

「でも、間に合ってよかった……」

 

 フローラが俺の前にしゃがみ込んで、真っ直ぐな瞳で俺を見た。

 

 「春海くんが頑張ってくれたおかげだよ。マーメイドとスカーレットを守ってくれて、ありがとう!」

 

「へっ……」

 

 真正面から礼を言われて、俺はバツが悪くなって視線を逸らした。

 

 「別に……俺はあいつをぶん殴りたかっただけだ、礼を言われる筋合いはねぇよ」

 

「素直じゃないわねぇ、はるみんは」

 

 トゥインクルがニシシと笑って、俺の頭をポンと叩く。

 

「ま、アンタのおかげで助かったのは事実だし? ここは素直に受け取っときなさいよ」

 

 「うっせぇな。……それよりあいつをどうにかしてくれよ」

 

 俺は顎でゼツボーグをしゃくった。

 全員集合だぜ。

 

 「チッ……。キュアフローラに、キュアトゥインクルか……」

 

 するとシャットが街灯の上で、心底めんどくさそうに吐き捨てやがった。

 その顔には余裕なんてねぇ、ただただ不快感が張り付いている。

 

 「やれやれ、厄介な連中が増えたものだ……。私の美学を解さぬ無粋な連中が群れるなど、全くもって美しくない!」

 

「美しくない、ねぇ?」

 

 シャットの言葉に、トゥインクルが呆れたように髪を払って言い返した。

 

 「じょーだん……あんな耳障りな騒音を撒き散らす方が、よっぽど美しくないと思うけど? センス、ないんじゃない?」

 

「なっ……!?」

 

 トゥインクルの痛烈なダメ出しに、シャットが言葉を詰まらせる。

 そこへ畳み掛けるように、マーメイドが凛と顔を上げて続けた。

 

 「ええ、その通りよ。本当の美しさとは、外見や形式だけのものじゃありません。仲間を想い、互いに支え合う強さ……それこそが、何よりも尊いものなのよ」

 

「左様ですわ。孤独に浸り、他者を蔑むだけの心に……真の気高さは宿りません!」

 

 スカーレットも胸に手を当てて、毅然と言い放つ。

 おーおー、言うねぇ。

 さっきまでボロボロだったくせに仲間が揃った途端にこれかよ。

 調子がいい事で。

 

「へっ……。出たよ、お姫様たちの名言集が」

 

 俺は苦笑いして、首をコキコキとならす。

 

 「熱いねぇ。セリフが臭すぎて小っ恥ずかしくなってくるは……ま、言ってることは間違っちゃいねぇけどな」

 

 「おのれぇぇ……! 減らず口を!」

 

 俺がニヤつきながら茶々を入れてやると、シャットが苛立ち紛れに腕を振るった。

 

「口先だけの美しさなど認めん! ゼツボーグ! まとめて黙らせるのだ! その不協和音でプリキュアを吹き飛ばすのみ!!」

 

 『ゼツボォォォォッグ!!』

 

 ゼツボーグが再びギターを構えた。

 まずいぜ、あの音が来る!

 

 「フローラ! トゥインクル! 気をつけて!」

 

 次の瞬間マーメイドが二人に向かって叫ぶ。

 

 「あのギターの音はただの音ではありませんわ! 物理的な衝撃そのものです! まともに食らえばひとたまりもありません!」

 

 「えっ!?」

 

 スカーレットの言葉に二人が身構えるが、ゼツボーグの手はもう弦にかかっている。

 やべぇぞ、あの衝撃波は速い。

 まともに食らえば今の俺たちは確実に全員吹っ飛ぶ。

 くそっ……どうする!? またあの鬼を出して防ぐか?

 いや、ダメだ……さっき暴走しかけたばっかだった。

 もっかい出せば今度こそ俺の意識が飛んじまう。

 ならどうすりゃいい?

 その時、ふと脳裏にショッピングモールでの光景が浮かんだ。

 そうだ……あの時俺はとっさに腕だけを飛び出させて、あいつの攻撃を受け止めたはずだ。

 全部出す必要はねぇ。

 必要な部分だけ、一瞬だけなら……!

 

 ――お前は太陽を支えるアスファルトになれ。

 

 頭の中で村瀬のおっちゃんの言葉が響き渡る。

 アスファルトか……踏まれても蹴られても、ビクともしねぇ頑丈な地面。

 

「へへっ……いいこと思いついたぜ」

 

 俺はニヤリと笑うと、足元の地面に思いっきり手を叩きつけた。

 

 「だったらよぉ……文字通り地面になってやろうじゃねぇの!」

 

 右腕に神経を集中させる。

 全身の意識を、右腕一点に集めるイメージだ。

 出ろ! 俺の影!

 そう念じた次の瞬間、俺の右腕が真っ黒く染まったかと思えば、それと同時に背中かから丸太みたいなどデカい鬼の右手が、ずるりと飛び出してきやがった。

 

「ぬんッ!!」

 

 全身のバネを使って、思いっきり地面をちゃぶ台返しみてぇに持ち上げた。

 公園の舗装された地面が、バリバリ音を立てて分厚い岩盤ごとめくれ上がる。

 

 「ええっ!?」

 

 「地面を……めくった!?」

 

 フローラたちが驚く中、俺はめくり上げた巨大なコンクリートの塊を盾にして、みんなの前に仁王立ちした。

 

「来やがれ公害野郎! 俺っていう地面はそう簡単に砕けねぇぜ!」

 

 直後、ゼツボーグのギターから放った衝撃波が、俺の作った即席の壁に激突した。

 えげつねぇ衝撃音が響き渡って、俺の身体ごと後ろに持ってかれそうになる。

 くっそ重てぇ……! ダンプカーと正面衝突したみてぇな衝撃が、影の腕を通してビリビリ伝わってきやがる。

 

 「ぐ、ぬぅぅぅぅ……ッ!!」

 

 俺は奥歯が砕けるほど噛み締めて、足を踏ん張った。

 めくり上げたアスファルトの盾に、ビキビキと嫌な亀裂が走る。

 だが……止めたぞ。

 

 後ろにいるあいつらは、傷一つつてねぇ!

 

「なっ……バカな!?」

 

 シャットが素っ頓狂な声を上げて目を見開く。

 

 「人間ごときが……! ゼツボーグの攻撃を防ぎきったというのか!?」

 

 「へッ……ざまぁみろってんだ……!」

 

  俺は脂汗を流しながら、ニヤリと笑ってやった。

 だが、余裕こいてる時間はねぇ。

 ゼツボーグの野郎、まだギターをかき鳴らしてやがる。

 ギャンギャンと鳴り響くたびに、盾にしたコンクリートがボロボロ削れてってやがる。

 

「おい! てめぇら! いつまでボサッとしてんだ!」

 

 俺は背後の4人に怒鳴った。

 

 「この壁を使って近づけ! 俺が盾になってる間に、あいつの懐まで走るんだよ!」

 

 「えっ……でも、春海くんが!」

 

 フローラが躊躇する。

 優しいのはいいことだが、今はそれが命取りだ。

 

 「迷ってる暇ねぇぞ! 早くしねぇと、俺ごとペシャンコだ!」

 

 俺が叫ぶと同時に、盾の一部がバキッと音を立てて砕け散った。

 くそ、もう限界かよ!

 俺の言葉に、マーメイドががハッとして顔を上げた。

 

「……行くわよみんな! 春海さんが作ってくれた道、無駄にはできないわ!」

 

 「マーメイド……了解です!」

 

 「わかったわ!」

 

 「さぁ、行きましょう!」

 

 みなみの号令に三人が頷き、俺の背後から飛び出す。

 こいつらは俺が掲げた巨大な瓦礫を盾にしながら、低い姿勢でゼツボーグへと疾走した。

 

 『ゼツボォォッ!!』

 

 ゼツボーグが焦ったように音圧を上げやがる。

 衝撃がさらに強くなり、俺の腕がミシミシと悲鳴を上げた。

 

「ぐアァァァッ! ク……クソが!!」

 

 盾の亀裂がどんどん広がっていく。

 小石が弾丸みたいに飛んできて、俺の頬を切り裂いた。

 痛てぇ……けど、まだだ!

 まだ砕けるわけにゃいかねぇんだよ!

 

 「行けぇぇぇッ!! 俺は……俺はまだ折れねぇぞォッ!!」

 

 だが現実ってのは非常だよな。

 俺の叫びと同時に、アスファルトの盾が粉々に砕け散った。

 視界を遮っていた壁がなくなって、ゼツボーグの気持ち悪い顔面が目の前に現れる。

 衝撃波の直撃をもろに食らった俺の体は、砂袋みてぇに後ろへ吹っ飛……ぶわけねぇだろうが馬鹿野郎!

 

「まだだ……まだ終わってねぇんだよッ!!」

 

 俺は砕けたアスファルトの破片と土煙に紛れ、吹き飛ぶ代わりに地面を蹴って前に出た。

 影の腕はまだ残ってる。

 盾が壊れたんならよぉ、次は矛として使うだけだ!

 

「一発貰っとけやァァァァ!!」

 

 俺は残った力を振り絞り、丸太みてぇな鬼の剛腕をゼツボーグの顔面めがけてぶっぱなした!

 次の瞬間ミシミシとにぶい音が響き、気色悪い感触が俺の腕を襲う。

 

 『ゼツッ……ぼふぉ!?』

 

 

 「今だこらぁ!!」

 

 俺の一撃でゼツボーグの態勢が崩れた瞬間、土煙の中から四つの影が躍り出た。

 盾を失った俺が攻撃を受けるまでの、ほんの数秒の隙。

 だが、あいつらにとっちゃ十分すぎる時間だろう。

 

「はぁぁぁッ!!」

 

 フローラが花びらを纏った拳で、ゼツボーグの右腕をぶん殴る。

 

 「てりゃぁぁッ!!」

 

 トゥインクルが星を纏った素早い蹴りで、左腕を蹴り飛ばす、

 左右から同時に攻撃を受け、ゼツボーグが持っていた巨大なギターが宙に舞い上がった。

 そして次の瞬間、マーメイドが流れるような動きで宙に浮いたギターに狙いを定める。

 その手にはいつの間にか、青く輝いてる魔法のステッキ……プリンセスロッドが握られてやがる。

 

「高鳴れ、泡よ! プリキュア・バブルリップル!」

 

 マーメイドが優雅にロッドを振るうと、先っぽからボコボコと大量の泡が出てきて、ギターを包み込みやがった。

 巨大なシャボン玉の中に閉じ込められたギターは、ピクリとも動かねぇ。

 へっ、ナイスだぜ! これであいつの武器はただの的だ!

 

「スカーレット! 今よ!」

 

 「ええ、任せてください!」

 

 スカーレットが赤いバイオリンを構えて、力強く弓を引く。

 その目はマジだ。

 真っ赤に燃えるような赤色をしてやがる。

 

 「滾れ、炎よ! プリキュア・スカーレット・フレイム!」

 

 彼女が叫ぶと同時に、バイオリンから放たれた炎がとぐろを巻いて、デカい竜巻みたいになった。

 クソ熱い熱風がこっちまで来やがる。

 炎の竜巻は、泡に包まれたギターを丸ごと飲み込んで、空中でグルグルと激しく回転し始めた。

 次の瞬間、炎の中でバキバキと鉄の塊が悲鳴を上げやがった。

 

 凄まじい熱で真っ赤に焼けたギターが、遠心力でグニャリっとひしゃげていく。

 弦もブチブチ千切れて、ボディがドロドロに溶け落ちて……まるで出来損ないの飴細工だ。

 

 「うわぁ……エグしゅぎ」

 

 俺は思わず顔を引きつらせた。

 さっきまで俺のアスファルトの盾を砕いてた凶器が、一瞬でただの鉄クズに変わり果てちまった。

 これが本気のお姫様のお仕置きってやつかよ……絶対敵に回したくねぇな、マジで。

 

 『ゼツ……ボォォ……!?』

 

 武器を失ったゼツボーグが、たたらを踏んで後退する。

 最大の攻撃手段を失えば、ただのデカい図体だ。

 俺はふらつく足で立ち上がりながら、彼女たちの背中に声をかけた。

 

 「ナイスだお前ら……! 真っ裸にしてやったぜ!」

 

 「ええ! ここからはわたくしたちの番ですわ!」

 

 スカーレットが叫ぶと同時に、四人のドレスがカッと光り輝いた。

 眩しい光の中で、ミニスカートだった衣装がふわりと広がって、なんかスゲーゴージャスなロングドレスへと変化していく。

 これゃ……ショッピングモールで見た技か?!

 

 「エクスチェンジ! モードエレガント!」

 

 四人が声を揃える。

 まずはフローラ、マーメイド、トゥインクルの三人がステッキを掲げた。

 

 「ローズ!」

 「アイス!」

 「ルナ!」

 

 三つの輝きが螺旋を描き、一つに収束していく。

 すげぇエネルギーだ。空気がビリビリ震えてやがる。

 

 「輝け! 三つの力! プリキュア・トリニティ・リュミエール!!」

 

 放たれた三色の光のどデカいビームが、ゼツボーグを捉えた。

 光のリボンみてぇなのが描かれて、化け物の動きを完全に封じ込める。

 

 『ゼ、ゼツ……!?』

 

 動けねぇゼツボーグに、最後は真打ちの登場だ。

 

 「トドメですわ! フェニックス!」

 

 スカーレットがドレスアップキーをバイオリンにぶっ刺して、美しい音色を奏でる。

「羽ばたけ! 炎の翼! プリキュア! フェニックス・ブレイズ!」

 

 スカーレットがそう叫ぶとその背後に巨大な炎の不死鳥が翼を広げた。

 相変わらずどデケェ鳥だなおい!

 その鳥は甲高い鳴き声と共に、不死鳥がゼツボーグへと突撃した。

 俺がこじ開けて、プリキュアがトドメを刺す。

 完璧なフィナーレだ。

 

 『ドリーミングゥ……』

 

 炎と光に包まれ、ゼツボーグの絶叫が……いや、どこか安らかな声が響いた。

 巨大な体は光の粒子となって浄化され、夕焼けの空へと消えていく。

 

 「ごきげんよう」

 

  四人のプリンセスが、静かに決め台詞を口にした。

 やっと終わったぜ……。

 そう思った瞬間緊張が途切れたのか、俺は膝からガックリ崩れ落ちた。

 

「……へへっ。ざまぁみろってんだ」

 

 俺はその場に大の字に寝転がった。

 夜風が汗ばんだ体に心地いい。

 

「おのれ……おのれェェェ!!」

 

 街灯の上で、シャットが悔しそうに地団駄を踏んでやがった。

 その顔は屈辱で歪んでて、あいつの言う美しさとは程遠いもんだ。

 見てるこっちは面白ぇけどな。

「覚えていろ……! 次はもっと美しく、残酷な絶望を用意してやる! 最後に勝つのは……私のみ!!」

 

 負け犬の遠吠えを叫ぶと、シャットの後ろの空間が歪んで、人が通れるくらいのデカい鍵穴みてぇな穴がボカっと開きやがった。

 シャットはその中へヒラリと飛び込むと、穴ごとシュンと消え失せた。

 やれやれ、逃げ足だけは一級品だな、まったく。

 

 敵がいなくなったのを確認すると、マーメイドが静かに歩き出した。

 向かった先は、まだ残っていた禍々しい檻だ。

 中じゃ、さっきのヤンキー二人が気絶したまま閉じ込められてる。

 マーメイドは檻の前に立つと、優雅な手つきで自分が持ってる青い鍵を取り出した、

 

「開け、夢への扉!」

 

 凛とした声が響く。

 その瞬間、カチャと鍵が開く音がして、黒い檻が光の粒子となって解けていった。

 解放された白い光、あいつらのロックスターになりたいっていう夢が、ふわりと二人の胸の中へ帰っていく。

 気がつけば、辺りに漂っていたドス黒い空気はすっかり消えて、いつもの夕暮れの公園に戻っていた。

 倒れていたヤンキーたちも、夢を取り戻し絶妙に腹立つ寝顔になってやがる。

 

「……ふぅ。一件落着、ってか」

 

 俺は大きく息を吐き出して、改めて大の字に寝っ転がった。

 

「春海くん!」

 

 フローラが、パタパタと小走りで駆け寄ってきた。

 その顔は戦いの煤で少し汚れているが、花が咲いたみてぇに笑ってやがる。

 

 「ありがとう! 春海くんが体を張って時間を稼いでくれたおかげで、みんな無事だったよ。本当に、本当にありがとう!」

 

「……よせやい」

 

 真っ直ぐな感謝の言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じてプイと横を向いた。

 ガラじゃねぇんだよなぁ、こういうの。

 俺は自分の体を見下ろした。

 制服は泥だらけでボロボロ、あちこち擦りむいて血が滲んでる。

 それに比べて、目の前にいるお姫様たちは激戦の後だっていうのにキラキラ輝いてやがる。

 

「見てみろよ、このザマを」

 

 俺は泥だらけの袖を摘んで、自嘲笑った。

 

 「お前らと違って、俺はこんなにボロボロになっちまった。……やっぱあれだな、俺みたいな奴がヒーロー気取っちゃいけねぇわ」

 

  輝くドレスと、薄汚れたノーブル学園のブレザー。

 どんなに着飾っても、それが俺たちの住む世界の差って奴だ。

 そう言って苦笑いした、その時だった。

 

「いいえ。それは違うわ」

 

 凛とした声と一緒にマーメイドが俺の目の前に立った。

 その青い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめた。

 

 「その傷も、汚れも……貴方がわたくしたちを守ろうとしてくれた、何よりの証よ」

 

 スカーレットも隣に並び、優しく微笑む。

 

「貴方のその姿……わたくしには、どんな宝石よりも気高く見えますわ」

 

 「バーカ……買いかぶりすぎだってんだよ」

 

 俺が照れて俯くとマーメイドが一歩踏み出して、俺の手をぎゅっと握りしめた。

 

 「ありがとう……春海」

 

 「……へ?」

 

 今、なんつった。

 俺は耳を疑った。

 あの堅苦しい生徒会長が、俺のことを呼び捨てにしやがった?

 

「春海さん、じゃねぇのかよ?」

 

 「ええ。共に戦った潜り抜けた仲間ですもの。それにいつまでも春海さんじゃ堅苦しいじゃない?……これからはそう呼ばせてもらうわ」

 

 マーメイドは悪戯っぽく微笑んだ。

 その顔は、完璧なプリンセスでも高嶺の花の生徒会長じゃなくて、ただの年相応の女の子の顔になってやがる。

 

 「……勝手にしろよ」

 

 俺は照れ隠しに、まだ地面で爆睡こいてるヤンキー二人組の方へ歩み寄った。

 ったく……これ以上いい雰囲気になってたら、俺のキャラが崩壊しちまうぜ。

 

「感謝するならよぉ……こいつらへの『お仕置き』の手伝いでも頼もうか」

 

 俺は見下ろしながら、ニヤリと口の端を吊り上げた。

 もうこれくらいでいいだろしんみりタイムはよ……俺の中でひん曲がったイタズラ心がムクムク飛び出してきやがる。

 

 「へ? お仕置きって?」

 

 フローラがキョトンとして首を傾げる。

 

「元々こいつら、ナンパ目的でみなみパイセンとトワちゃんに近ずいできてよ、俺にボコボコにされたんだよ。挙句、お前らを危険な目に遭わせたんだ。……タダで帰すわけにゃいかねぇよな?」

 

 俺がニヤニヤしながら振り返ると、一瞬で場が凍りついた。

 シーン……と冷たい風が吹き抜ける。

 

 「……えっと、春海くん? 何をする気なの?」

 

 フローラがおずおずと聞いてきた。

 

 「決まってんだろ。まずはこいつらの服を剥いで、パンツ一丁にします。……んでもって、背中と腹にデカデカと『僕はバカちんでしゅ』って書いてやんだよ……あ、額に肉って書くのもいいなぁ」

 

 俺はヤンキーの額を指差しながら、楽しそうに提案した。

 確かにこいつらの夢は守ったし、大層なもんは持ってるとは思う……けどそれとこれとは別だ。

 

「どうよ? 起きた時のこいつらの反応、見ものだと思わねぇか? 一生モンの黒歴史植え付けてやろうぜ!」

 

 俺は言いながら、ズボンのポケットをまさぐった。

 あれ? ねぇな。

 いつも学校で落書き用に持ち歩いてる愛用のマッキーがねぇ。

 あ、そういやゲーセンで財布出した時に落としたかも。

 

 「ちっ、肝心な時にねぇのかよ……」

 

 俺は舌打ちをして、期待を込めて後ろを振り返った。

 

 「おい、誰か赤ペン持ってねぇか? できれば太いやつがいいんだけ……ど」

 

 俺がニヤニヤしながら振り返ると、そこには完璧な静寂があった。

 誰も返事をしねぇ。

 ただ、ヒュオオ……と冷たい隙間風だけが吹き抜けていく。

 

「……あり?」

 

 俺は背筋に冷たいものを感じて、改めて全員の顔を見た。

 

「……」

 

 全員が、絶対零度の冷たい目で俺を睨みつけていた。

 フローラは信じられないと言いたげに頬を引きつらせ、トゥインクルはうわぁ……とドン引きしたジト目。

 トワに至っては、道端のウンコを見るような軽蔑の眼差しを向けてくる。

 アロマとパフも、怯えたように後ずさりしやがった。

 

 そして、一番ヤバいのが――マーメイドだ。

 彼女は、聖母のように優しく微笑んでいた。

 口元は綺麗な弧を描き、穏やかな笑みを浮かべている。

 だが……目が笑っていない。

 その瞳からはハイライトが完全に消え失せ、底なしの闇みてぇな圧力を放ってやがる。

 

「……春海?」

 

 めっちゃ優しい声……。

 だけど、なんでこんなに背筋が凍るんだ?

 

 「そ、そんな目で見んなよ……。冗談だって、じょーだん! 本気でやるわけねぇだろ……?」

 

 「冗談、ですって?」

 

  マーメイドの声が、さらにワントーン低くなった。

 にっこりと微笑んだまま、一歩近づいてくる。

 たった一歩なのに、俺の心臓はキュッと縮み上がった。

 

 「戦闘前のアレも、冗談だったのかしら? 品性のかけらもない、あの下品なポーズと暴言は」

 

「下品なポーズと……暴言?」

 

  ――お覚悟決めろや! クソ野郎共!

 

 さっきの自分の啖呵が、ブーメランみたいに脳内で再生されやがる。

 あ、やべ、忘れてた……あの後説教されるんだった……。

 

「そ、それは……ほら! 気合入れるための挨拶みたいなもんで……お前らもやるだろ? お覚悟はよろしくてとか何とか……」

 

 「挨拶?」

 

 マーメイドの目がすぅっと細められる。

 ハイライト? ねぇよそんなもん。

 漆黒の深淵だよ……アビスだよ。

 

 「貴方の辞書に品格という文字はないようね。……ええ、わかりました。この後、生徒会室で私が一から美しい言葉遣いと立ち振る舞いを叩き込んであげるわ」

 

 「ひぃっ!?」

 

 ま、マジかよ!

 あのレッスンだけでも地獄なのに、これ以上増やされたら俺の精神が死ぬ!

 

 「ま、待ってくださいみなみさん!」

 

 空気を察したフローラが、慌てて割って入ってきた。

 

「春海くんも、悪気があったわけじゃないと思うんです! ほら、戦いで興奮してただけだし! ね、落ち着いて!?」

 

 フローラが必死にマーメイドをなだめる。

 まじで助かるぜ、はるか……!

 

 「うわぁ……みなみんをここまで怒らせた人初めて見たかも。はるみん、ある意味才能あるわよ。……悪い意味でね」

 

 トゥインクルが若干引き気味に呟いた。

「春海……自業自得ですわ」

 

 スカーレットは苦笑いしながら、助け舟を出す気配もなく首を横に振っている。

 

 

 「春海、怒られるロマ」

 

 「怖いパフ……」

 

 アロマとパフは、危険を察知して既にトワの後ろに隠れていやがった。

 この薄情者が! 俺の味方はるかちゃんしかいねぇのかよ!

 

「ガハハハハ!! いやぁ、青春だねぇ! 随分と楽しそうな友達をお持ちじゃねぇか、春海!」

 

 その時。

 凍りついた空気をぶち壊すように、しわがれた豪快な笑い声が響いた。

 俺たちはビクッとして、一斉に声のした方を振り向いた。

 公園の入り口、夕焼けに紛れるようにして立っていたのは、よれよれのコートを着て、ハンチング帽を被った中年の男。

 無精髭を生やしたその顔には、ニヤニヤとした笑みが張り付いている。

 その隣には、もう一人、若い刑事が立っていた。

 

「げっ……おっちゃん!?」

 

 そこにいたのは、こないだレッスンを抜け出した時に遭遇した……俺をノーブル学園にぶち込んだ張本人、村瀬のおっちゃんだった。

 

「だ、誰ですの? あの方は……」

 

 トワが警戒して身構える。

 すると、トワの後ろに隠れていたパフが、鼻をヒクヒクさせながら前に出てきやがった。

 

 「クンクン……この匂いは……スパイシーで美味しい匂いパフ!」

 

 パフは目を輝かせて、嬉しそうに尻尾を振り始めた。

 

 「あ! あの時のカレーせんべいのおじさんパフ! またおやつくれるパフ?」

 

「ああっ! お前はあの時のデリカシーのないおじさんロマ!」

 

 アロマも翼をバタつかせながら、パフの横に並んで叫んだ。

 そうだ、俺がおっちゃんと喋ってる時、2匹揃ってこいつらもついてきてたっけ……。

 

「おうおう、あの時の食いしん坊ワンコと、生意気なインコじゃねぇか。元気にしてたか?」

 

 おっちゃんはズカズカと俺たちに近づいてくると、パフとアロマを見てニカっと歯を見せて笑った。

 

「あの時は腹の虫だのただの鳥だの誤魔化されたが……やっぱりどっちも喋るんじゃねぇか、春海?」

 

 「うっ……」

 

 俺はパフとアロマを鋭い眼光で思いっきり睨んだ。

 何やってんだてめぇら……。

あの時は必死こいて隠し通したってのによぉ!

 

 「パフ……」

 「ロマ……?!

 

 俺の殺気じみた視線に気づいた瞬間、二匹は汗を垂らしながらカチコチに固まりやがった。

 アロマは羽で口ばしを覆い、パフは足で口を塞ぐが……時すでに遅しだ。

 完全に喋っちまった後だからな。

 

「ま、まさか、今の戦いを……?」

 

 フローラが震える声で尋ねると、おっちゃんは懐からタバコを取り出しながら答えた。

 

 「いやなに、たまたまだよ。春海のパトロール中に二人のべっぴんさんと春海が一緒に歩いてるのを見かけてな。珍しい組み合わせだなーって思って、こっそり後をつけさせてもらったんだよ」

 

 「あとをつけた……ですって?」

 

 マーメイドがキョトンとした顔でおっちゃんを見つめる。

 そんな顔を見ながらおっちゃんは加えたタバコに火をつけて一服しながら話を続けた。

 

 「そしたらどうだい。ゲーセンで遊んだかと思えば、急に化け物が現れてドンパチ始めやがる。……たまげたねぇ。特撮映画の撮影かと思ったよ」

 

 おっちゃんは感心したように口笛を吹いた。

 マジかよ……最初から全部見られてたってことか。

 俺の中の化け物も、ゼツボーグのことも、こいつらの変身もよ……。

 

 

「まぁ、お前らみたいな派手な格好した連中が、一体ナニやってんのかまでは知らねぇが……」

 

 おっちゃんは煙をふぅーっと吐き出すと、急に真顔になって、俺たちの背後にあるボロボロになった公園を指差した。

 

 「不思議なもんだなぁ。あのでっかい化け物が暴れて壊したベンチやら植木やらは、化け物が消えたら元通りに治っちまったみたいだが……」

 

「あ?」

 

 言われてみれば、ゼツボーグが吹き飛ばしたはずのベンチやフェンスは、何事もなかったかのようにピカピカに戻ってやがる。

 そういや、プリキュアが勝つと被害はリセットされるんだっけか? すげぇご都合展開だな。

 まるで魔法だぜ。

 俺が感心していると、おっちゃんはニヤリと笑って、ある一点を指差した。

 

 「だがよぉ……アレだけは、直ってねぇみたいだなぁ?」

 

 おっちゃんの指差す先。

 そこには、俺が無理やり引っこ抜いてひっくり返した、巨大なアスファルトの残骸と、地面に空いたデカい穴ぼこが、そのままの無残な姿で残っていた。

 

 「あ……」

 

 俺は冷や汗を流して硬直した。

 そ、そっか……。

 プリキュアの技で壊れたもんやゼツボーグの被害は謎パワーで直っけど、俺が自力でぶっ壊した道路は、謎パワー保証対象外ってことかよ!?

 

 「……これ、お前らの仕業だよなぁ?」

 

 おっちゃんが、逃がさないとばかりにギラリと目を光らせる。

 

 「未成年が危険な場所で暴力沙汰、おまけに公共物破損ときた。……魔法なんかじゃ治らねぇ現実の器物損壊だ。こりゃあ、言い逃れできねぇぞ?」

 

 おっちゃんは悪戯っ子みたいにガハハと笑って、俺たち五人を指差した。

 

 「お前ら5人、署までご同行願おうか。たっぷりと……『事情聴取』させてもらうからな!」

 

  俺たちは顔を見合わせた。

 

 ま、マジかよ……プリキュアに変身したままパトカーに乗せられるとか、前代未聞じゃねぇのか!?

 

 「「「「ええええええええっ!?」」」」

 

 夕暮れの公園に、俺たちの絶叫がこだまする。

 ゼツボーグ倒して一件落着かと思ったら、まさかのお縄とか……そんなオチだよ! どっちだ……俺たちの明日はどっちだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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