Go! トラブルメーカー! 〜雑草は花園で咲く〜 作:ナッパー
小話
これは、にゃんこ先生とのレッスンの後、限界迎えて第2生徒会室を逃げた後の話……どうやらあいつらは俺のことについて色々作戦会議をしてたらしい。
…………………………
嵐が過ぎ去ったかのような静寂と共に、部屋には紅茶の甘い香りと、夕暮れの穏やかな空気が戻ってきていた。
「ふぅ……。やっぱり、一筋縄じゃいかないね」
はるかが大きく息を吐きながら、椅子の背もたれに体重を預ける。
緊張が解けたのか、その表情は少し疲れているようにも見えたが、どこか充実感も漂っていた。
「でも、意外と素直だったじゃない? もっと暴れるかと思ったけど」
きららが残ったスコーンを指先で摘み、パクつきながら口を開く。
ファッション誌のページをめくる手つきは軽やかで、彼女にとってはあの程度の騒動は日常茶飯事といった様子だ。
「はるみんってさー、見た目はあんなだし口は悪いけど、根は真面目だよね。言われたことは文句言いながらもちゃんとやろうとしてたし」
「ええ。それに、彼のあの『影』……」
みなみが少し表情を曇らせて、ティーカップの縁を指でなぞる。
磁器の冷たい感触を確かめるように、彼女の視線はカップの中に揺れる琥珀色の液体に注がれていた。
「あの強大な力を抑え込んでいる精神力は、並大抵のものではないわ。彼自身が気づいていないだけで、彼には強い『意志』がある。……そうでなければ、とっくに心を食い破られているはずよ」
「心配なのは、彼が自分のことを信じきれていないことですわね」
それまで黙って紅茶の香りを楽しんでいたトワが、静かに言葉を継いだ。
カップをソーサーに置くカチャリという音が、静かな部屋に響く。
その深紅の瞳には、どこか遠くを見るような、あるいは自身の過去を振り返るような憂いの色が浮かんでいた。
「自分の弱さに絶望し、心に隙ができれば……あの闇は一瞬で彼を飲み込むでしょう。かつての……わたくしのように」
トワの声が僅かに震える。
かつて絶望の魔女ディスピアに操られ、闇のプリンセス・トワライトとして過ごした記憶。
彼女だからこそ理解できる闇の浸食の恐怖が、その言葉に重みを持たせていた。
「トワちゃん……」
はるかが心配そうに顔を俯け、テーブルの上でトワの手をそっと握る。
その温もりに気づいたトワは、ふっと柔らかく微笑み返した。
「大丈夫ですわ、はるか。今のわたくしには、あなたたちがいますから。……そして春海にも」
「うん! 私たちがついてるもんね! 春海くん一人には絶対させない!」
「そーゆーこと。ま、はるみんの教育係なんて手のかかるペットみたいで面倒だけど、見捨てられないしねー」
きららが軽い調子で言いながら、悪戯っぽいウィンクを飛ばしてゆいの方を向いた。
「ねっ、ゆいゆいもそう思うでしょ?」
「えっ、あ、うん!」
突然話を振られたゆいは、慌ててペンを走らせる手を止めて顔を上げた。
彼女の手元には、今日のレッスンの詳細がびっしりと書き込まれた大学ノートが広げられている。
「春山くん、すごく頑張ってたと思う! 慣れない作法で手も震えてたけど、逃げ出さずに最後まで座ってたし……。私、今日のレッスンの様子もちゃんと記録しておいたから、あとで清書してみんなに配るね! 次の対策に役立つと思うし!」
「さすがゆいゆい! 仕事早すぎ!」
きららが親指を立てて称賛し、みなみも感心したように頷いた。
「ありがとう、ゆい。助かるわ。敵を知り己を知れば百戦危うからず……彼の傾向と対策を練るには素晴らしい資料ね」
「でもさー、みなみん」
きららが頬杖をつきながら、生徒会長を見やった。
その瞳が、何か面白いことを思いついたようにキラリと光る。
「次のレッスン、どうするの? 今日みたいなお茶会だけじゃ、はるみん飽きちゃいそうじゃない? っていうか、あいつじっとしてるの苦手そうだし」
「そうね……。次はもう少し、体を動かすものがいいかもしれないわね」
「体を動かす……? まさか、トワっちのバイオリン?」
「あら、それも素敵ですわね。音楽は心を豊かにしますもの。優雅な旋律を奏でれば、彼の荒ぶる心も鎮まるかもしれませんわ」
トワが優雅にエアバイオリンの仕草をする。
だが、きららはうーんと首を捻って、今度ははるかに視線を向けた。
「はるはるはどう思う? ほら、あいつが一番嫌がりそうで、でも効果ありそうなやつ」
「ええっ!? 私!? う、うーん……体を動かして、優雅で……」
はるかは天井を見上げてしばらく唸っていたが、ポンと手を叩いた。
「あっ! バレエとかどうかな!?」
「ぶっ!」
きららが飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「あははは! ちょっと想像しちゃった! あの目つきの悪いヤンキーが、タイツ履いてバレエ踊るとかギャグでしょ! 似合わなさすぎてお腹痛い~!」
きららは机に突っ伏して、肩を震わせて笑い出した。
その光景を想像したのか、みなみも口元を手で隠して上品に震え、ゆいもクスリと笑う。
「も、もう! きららちゃん笑いすぎだよ! 真面目な提案なのに~!」
はるかが頬を膨らませるが、その瞳も笑っていた。
部屋中がどっと温かな笑いに包まれる。
春海のいない場所でも、彼女たちの話題の中心は、いつの間にかあの不器用で憎めない少年のことになっていた。
「……ふふっ。退屈しない日々になりそうね」
みなみの呟きに、それまで静観していたミス・シャムールも満足げに頷いて、くるりとステッキを回した。
「イェス! 彼には期待してるわよーん。なんといっても、ミーが見込んだ『プリンス』の原石ですからね。磨けば光る……いえ、磨きがいのあるダイヤモンドの原石ね」
窓の外では、夕日が空を茜色に染め上げていた。
放課後の第2生徒会室。
少女たちと妖精による、新しい仲間を迎えた温かい作戦会議は、日が暮れるまで賑やかに続くのだった。