バトルスピリッツ ReWorld   作:ブラスト

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第1話【新しき舞台へ】

 

 

季節は春、三月終わり間近の時期。

もう数日後には多くの人達が新生活を迎えるであろう門出前という今日この日、桜舞い散る景色の中、鮮やかな景色と穏やかな空気漂う日常という普通をぶち壊して轟く巨大な咆哮。

 

「シャイニングドラゴンでアタックッ!」

「ライフだ!!」

 

咆哮の主であろう正体は赤い体に白の鎧を纏うドラゴン。ドラゴンの背後で赤髪の少年が命令らしい指示を出し、従うように龍は少年と相対する相手に対して爪を振りかざして攻撃を繰り出し、身を守るようにバリアが展開されるが、龍の一撃にバリアは破壊され、相手の最後の一つだったライフと呼ばれる結晶が砕け散る。

 

 

 

***

 

 

 

 

「俺の勝ちだ、身の程を思い知ったかよ」

「うぅ……。」

 

彼らが先程行っていたのはバトルスピリッツと呼ばれる一種のカードゲーム。バトルフィールドと呼ばれる専用の舞台でカードから実体化するスピリット、或いはアルティメットと呼ばれる生命と共に戦いライフを削り合う。世界中で多くの人間から愛され、現在でも一種のゲームから国際的な競技として取り上げられる程その人気は根強い。

 

バトルによって勝者となった赤髪の少年、背丈から中学生ぐらいであろう。対戦相手だった同年代程の男に対して彼は見下すように睨みながら。

 

「この俺に喧嘩売りやがって、俺が誰と誰の子が分かってんのかよ?」

「ッ!! お、覚えてやがれッ!!!」

 

居たたまれずに捨て台詞を吐いて走り去っていく相手。その後ろ姿に対し「フンッ!」と赤髪の少年はまだ文句言いたげに鼻を鳴らす。

 

「何が覚えてやがれだ。お前みたいな雑魚もう二度と会わねぇよ、バーカ!」

 

指で下瞼を引っ張って舌を出し、あっかんべーと後姿に悪態をぶつけ「アハハハ!」と高笑いを上げる少年だが。

 

『バカはアンタでしょ。何やってんのこのバカ』

「痛ッッッた!!!!」

 

背後から少年の頭に手刀による一撃。ゴン、と鈍い音を鳴らして、痛みに唸りながら頭の瘤を抑える。

 

「何すんだ姉ちゃんッ!!」

 

背後から現れたのは橙色の髪の少女、少年より背は一回り大きく見た目は高校生ぐらいの年代で、"姉"と呼ぶ事から少年とは肉親のようだ。

 

「アンタこそ何してんのよ、友達虐めて。恥ずかしくないの?」

「何だよ、喧嘩吹っ掛けて来たのは向こうなんだぜ! 正当防衛だろこんなん!」

「だからってやりすぎでしょ。この事、母さんに言いつけるからね」

「ハァ!? 俺全っ然悪くねーし! それに関係ねーだろ、バトスピやんない姉ちゃんにはさ!」

 

少年の一言にピクッ、と眉が動く。思う所があるのか何かを言いたげに口を開くが、喉元まで出かかった言葉を引っ込め、落ち着いた様子で少年を見る。

 

「私はもうバトスピは卒業したの。ほら、帰るよ」

「はいはい、分かりましたっての」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「母さん、ただいまーーっ!!」

 

夕暮れの時間帯になって帰宅する二人。少年は帰宅早々、靴を脱ぎ捨ててドタバタと母親の元へと真っ先に駆け出し、一方でキッチンに立ちエプロン姿で夕飯の支度をする金髪の女性、母親であろうその人物は料理する手を一時中断し帰宅した息子を出迎え、少年は即座に母に抱き着く。

 

「お帰り剣斗、相変わらず甘えん坊だな」

「えへへ、だって俺まだ中学生ぐらいだしこれぐらい普通だよね!」

 

先程同年代の子や姉に見せた生意気な態度はどこへやら、剣斗と呼ばれた少年は母親に対しては年相応の態度で母に甘え、母に撫でられながら嬉しそうにしている剣斗の横で、遅れたように彼の姉である少女もキッチンへと顔出す。

 

「ただいま、母さん」

「二人とも一緒だったのか、千紗もお帰り」

「ん」

 

弟である少年の名前は、「天上剣斗」。姉である少女は「天上千紗」。

そして二人の母親である女性の名前は「天上光黄」。

 

挨拶を済ませ母親は夕飯の支度を再開し、兄弟はリビングへ。リビングには父親らしき人物を含んた家族写真と、昔の父と母や当時の友人であろう人達との記念が写真立てに飾られている。

 

「母さん、父さんは今週末帰って来るんだっけ?」

「いや、仕事の都合でどうやら延期になりそうだ。それより二人共友達にちゃんとお別れの挨拶は出来たのか?」

 

父親は現在不在。お別れの挨拶というのは彼等家族は引っ越しの予定が既に決まっており、荷物も既にほとんど片付け済で明日にはもうここを離れる。ちなみに引っ越すのは父親の仕事の都合であり、料理を作りながら訪ねる母の質問に「一応」と千紗が答えるが。

 

「でも剣斗は最後だっていうのに、友達と喧嘩したあげくに相手を罵り倒してた」

「違うし! 俺は売られた喧嘩買っただけだっての! 入学当初からガキ大将気取りで俺に絡んできやがって、挙句最後の最後で因縁つけてきたから返り討ちにしてやったんだ!」

「何でいちいち喧嘩になるのよ。そうやって張り合うなんて子供だよ」

「フン、父さんだったら絶対「バトルに勝って流石だぞ! よくやった!」って褒めてくれるに決まってるし!!」

「言う訳ないでしょ、父さんが」

「姉ちゃんに何が分かんだよッ!!」

 

「はいはい、二人共喧嘩しない」

 

料理を作り終えたようで会話に加わり仲裁する母親。今晩はカレーのようでテーブルへ運び、嬉しそうな剣斗と続いて千紗と3人とも食卓について「いただきます」と手を合わせる。

 

「ところで剣斗、さっきの話だが売られた喧嘩を買うのはしょうがないとしても、相手を見下す事はやめなさい」

「!」

「相手が誰でも真摯に向き合う事。だからどんなに腹が立っても絶対相手を馬鹿にしたり蔑む様な真似は絶対ダメ。大丈夫、全力でお前が向き合えばきっとお前の事を認めてくれる人がいるから」

「母さんがそうだったように?」

「うっ、まぁそうだな」

「分かった。もうムカついても相手の悪口言うのは止めます、見下したりもしません。けど、バトルになったら誰でも全力で叩き潰す!」

 

「それって結局何も変わってないんじゃない? アンタそんな調子じゃ友達出来ないよ」

「姉ちゃんに関係ねぇだろ! そっちこそ友達の話なんて一切しない癖に!!」

「それこそアンタには関係ないでしょ!」

 

「だから二人共喧嘩はやめなさい!」

「「……」」

 

叱られこれ以上ヒートアップする前に口を止める二人だが、双方納得していない事を示すように不満が顔に出ており、二人の顔を見ながら溜息を零す母。

 

「そんな調子だと、引っ越し先で仲良くできるか母さん不安だ。正直二人共、おr……じゃなくて私似だと思うから」

 

意地っ張りで、好きな人からの好意にも素直に答えられなかった昔の自分、過去を振り返りそんな自分と二人を重ねて不安そうに語る。

 

「別に母さんは関係ないって」

「そうだよ。それに母さん似なら俺嬉しいし……おっ!」

 

言いかけた途中で視界に入ったテレビ画面に剣斗が反応する。画面には特集番組が放送され、テロップに『チャンピオン、今日も大勝利』と大きく見出しが表示されていた。

 

『やっちゃえ! ゴッド・ゼクス!!』

『ぐッ……うわああああああッ!!』

 

試合の様子がダイジェストで流れ、魔王の名を冠する機神のスピリットがトドメの一撃を下して試合の幕を引く。

 

『本日開催されましたワールドチャンピオンシップ! 優勝は虹國選手。今回も大会連覇記録を更新し、その実力を世界中に見せつけました!』

 

ニュースキャスターが語りながら画面端のワイプに大会の状況が映されており、映るのは優勝トロフィーを片手に嬉しそうにピースサインを見せる女性の姿、虹國と呼ばれた彼女が現在の世界チャンピオンという訳で見た目の歳は千紗と比べて然程ない。

 

「チャンピオン、今日もまた優勝記録更新か。すっげぇ強ぇっ!!」

「へぇ、また例の子か」

 

憧れの眼差しで見る剣斗、母親もまた興味深そうに画面に注目している。

 

「世界大会連覇とか憧れるな。いつかこんな人とバトルしてぇ~。もし戦えるとして、チャンピオンと母さんどっちが強いかな?」

「どうだろう、あまりイメージ出来ないな。パパだったら今の剣斗みたいに闘志を燃やしてそうだが」

「それは確かに!」

 

会話を弾ませる二人だが、唯一千紗だけは二人の会話に関心を示さず素っ気無い態度で、「ご馳走様」と料理を食べ終えて即退席。食器を片付けるとすぐに自分の部屋へと戻っていき、千紗の後姿に母である光黄はまた心配そうな表情を浮かべる。

 

「千紗は相変わらずか。あのバトスピ嫌いもそろそろ直るかと思っていたが」

「あ~〜ぁ、もったいねぇ。俺達二人折角父さんと母さんの血を引き継いだサラブレッドみたいなもんなのにそれを無駄にするなんてさ。とんだ薄情者だよ」

「剣斗、そんな言い方は止めなさい。元はと言えばパパが悪いんだから」

 

千紗が初めてバトスピを握ったのは今から十年前、まだ彼女が小学生になったばかりの頃にまで遡る。この時期からバトスピブームは絶大で小学生であった彼女も話題のバトスピに興味を持ち、カードに触れてルールを覚えるのにも時間はかからなかった。

 

 

『パパ! 見て見て! これが千紗のデッキだよ!!』

『おぉ! 流石俺の娘! バトスピ始めてすぐデッキを組むなんて天才だな!!』

『えへへ、凄いでしょ! このデッキでパパもママも倒して見せるんだから!』

『へぇ~、凄いなそりゃ。どんなデッキを組んだんだ?』

『内緒! どんなデッキか知りたいなら是非バトルして!!』

 

自信満々な態度でデッキを出し、父親である彼に勝負を挑む千紗。対して挑まれた父は嬉しそうに。

 

『ハハハ! 娘からの挑戦か。じゃあ是非こちらこそお手合わせ頼もうかな!』

『うん!! あのねパパ、言っとくけどやるからには全力で来てね!! 手加減したら千紗承知しないよ!』

『えっ!? いいのか?』

『当然! だって本気でやらなきゃ意味ないもん!! 本気のパパに勝って私とキースピリットの強さを見せつけるもん! 手加減したらパパの事嫌いになるからね!』

『そっか、そう言われちゃ手を抜く訳にはいかないな。望み通り全力で行くぜ!!』

 

微笑ましい父と娘の光景。だが、後の事を想えば誰かがこれを止めるべきだった。この時の千紗の一言は父親である彼を本気にさせてしまい、後の悲劇へと繋がる事となる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『うあああああああん!! バトルなんてもうやりたくないっ!!! パパもバトスピも大嫌いいいいいいっ!!!!』

 

ギャン泣きである。

 

まずは完結に述べよう、バトルの結果は言うまでもなく父親の圧勝であった。

 

ただ負けたというだけならまだ良かったのかもしれないが問題はそのバトル内容だ。千紗は父親を相手にライフの一つも削る事は出来ず、そして何より自分の選んだ大好きなキースピリットが、よりにもよってバトルフィールドという舞台で無残にも破壊され、目の前に映ったその光景が彼女の心に大きなトラウマを植え付けてしまったのだ。

 

父親は必死に宥めようとするが、長時間に及んで千紗は泣き続け、彼女が初めて触れたバトルスピリッツはこれが最初で最後となってしまい、トラウマを刻まれて以降十年以上経ってもまだ千紗はバトスピに関わる事はなく、今に至る。

 

 

 

 

「ハァ……今振り返ってもあのバカを止めるべきだった。バトスピ始めたばかりの実の娘相手に、あまりにも大人げなさすぎる」

「でも父さんは悪くないじゃん? 本気出せって言ったから父さんはそれに応えただけで、どう考えても悪いのは姉ちゃんじゃん」

「剣斗、これはどっちが悪いかとかじゃない。千紗はただ大好きなスピリットと戦いたいって好奇心で始めただけなんだ、好きなスピリットと一緒に楽しく遊ぶ。それだけだったのに、いざバトルになってそのスピリットが破壊されて幼い千紗には耐える準備が出来てなかった」

 

父も母もバトルとなればどんな相手にも全力を尽くす性分で、その二人の血を継いでるからこそ千紗も「全力で来て」と口にしたのだろう。けれど母親の言う通りまだ幼かった当時の彼女には、バトルの展開を予想できる経験値と全ての結果を受け止められる精神力、どちらも圧倒的に不足してた故に起こった結末である。

 

「剣斗だって自分のキースピリットが破壊されたら悲しいだろ?」

「それはそうだけど、だからってさあ!」

「これ以上私達がとやかく言っても逆効果だ。今はまだ見守ろう」

「……母さんがそう言うなら」

 

これ以上は剣斗も何も言わず「ご馳走様」と彼もまた自分の部屋へと戻っていき、肝心の千紗はと言うと机の前に座り憂鬱そうな表情を浮かべ、目の前にはデッキケースが置かれていた。

 

 

「(私が悪い……そうだよ、そんな事分かってるよ)」

 

リビングの二人の会話が聞こえ、デッキケースを見ながら小声で囁く。剣斗の言う通り元は自分の蒔いた種だと自分が一番理解している。

 

本気の勝負を望んだのは自分だから父さんは何も悪くない。それは分かっている筈なのにあのバトル以来、父さんの顔を見る度にトラウマの光景がフラッシュバックして上手く言葉が出て来ず、まともな会話が出来ていない。父さんは何度も謝ろうとしていたが、顔を合わせる度に気まずい空気になって私はそれに耐え切れず避けてしまっていた。小学生を卒業する頃には父さんも仕事の都合で家に帰れない日が多くなってより悪化した。

 

結果、かれこれもう十年以上、父さんとはまともなコミュニケーションを取れていないという始末であった。

 

「……せめて父さんとは仲直りしたいんだけど」

 

父さんの事が嫌いな訳では無いしむしろ早く仲直りしたいと思ってはいる。けれどどうしても目の前に対面すると何を話せばいいのか分からなくなり、一言ごめんなさいと言うだけなのに自分はいつも逃げ出してしまう。

 

「……母さんは見守ってくれる。そう言ってたけど何時になったらバトスピ嫌いが治るかなんて、私にも分かんないよ」

 

明日には引っ越し、住む街や学校等周りの環境がガラリと変わることだろう。環境と一緒に自分も変わる事が出来るだろうか、それとも一生このままだろうか。自分の胸に手を当てて考えても答えは出ない。

 

もう一度彼女は大きく溜息を付くと、疲れ切ったようにベッドに転がって横になる彼女。しかし先の事を思えばまた少し憂鬱になる。理由を上げるならば引っ越し先で通う新しい学校の事であり。

 

「戦神乙女学園……よりにもよってバトスピの名門校に私がね」

 

"乙女"の名から容易に想像できる通り本校は女子高、しかしただの学園ではない。聞けばそこは通常の勉学に加えバトルスピリッツを学ぶ場として国内で最も力を入れているという謳い文句で、事実世界中で実績を残している女性カードバトラーの多くが戦神乙女学園の卒業生という話だ。

 

バトルスピリッツを離れた今の自分には本来似付かわしくない場所だ。けれど話を聞けば別に学園でバトスピは必修という訳ではなく、就職率も良く引っ越し先からかなり近いという事もあり、思う所はあるものの拒絶するまではないという判断で千紗もそこに通う事を了承。

 

「……ともかくバトスピには関わらず適当に過ごすだけ。話せる相手ぐらいは作れたらベストだけど」

 

通った先での望みを呟くと、これ以上は考えるのも疲れたように思考を放棄して、目を瞑り彼女は眠りにつく。果たしてこれから先で彼女を待つのは望み通りの生活か、それとも──。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

────二日後。

 

「それじゃあ母さん、行ってきまーす」

「俺も! 行ってきまーす」

 

「二人とも行ってらっしゃい。遅くなるようなら連絡するようにな」

「「はーい」」

 

引っ越しを終え今日から始まる新生活。朝の挨拶をしながら家を出て通学路に向かう千紗と剣斗の二人を見送る母。

 

「……さて」

 

見送りを終えると自宅へ戻り千紗の部屋を開けると机の上には置きっぱなしとなったデッキケースが。

 

「やれやれ、やっぱり置いていってるか。見守ろうとは言ったものの、これは少し荒療治が必要かもな」

 

意味深な台詞を呟きながら携帯を取りだして何処かに連絡を取り、その連絡先は。

 

『はーい、もしもし光黄ちゃん!』

「相変わらず気安い。まあそれはいいとして少し頼みたい事があるんだが」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「それじゃあな、姉ちゃん! 向こうでバトスピの話題になっても拗ねんなよ!」

「うっさい。あんたこそ同級生と喧嘩しないようにね!」

 

通学路を歩く千紗と剣斗、分かれ道に差し掛かって二人の通学路はここで別々になる。離れ際に苦言する剣斗に対し千紗も言い返すように注意を促すが聞く耳はない。笑いながら走り去っていき相変わらずな弟の態度に呆れつつ彼の後姿を見送り、少し間を置いてから千紗も自分の通学路を進み、歩き始めて数分、目的地である学園の景色が視界に飛び込み。

 

 

「(ここが今日から通う学校か)」

 

校門前では通学する生徒と教員が明るく挨拶を交わしている様子が映り、明るく元気な様子から不安要素を感じる事はないが、それでもいざ新しい環境を前に少しだけ緊張してしまう。

 

気を引き締めるように一呼吸入れ、「よし」と囁くと再び歩み出し、今日からこの学園に通う女子高生の一人としていよいよその足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『はーい皆さん、席についてください。ホームルーム始めますよ』

 

がやがやと賑わう一教室、チャイムが鳴り担任の女性教師の呼び掛けに生徒達は全員席へと着く。

 

「まずは皆さんに一つお知らせがあります。今日からこのクラスに転校生がやって来ます。どうぞ入ってきてください」

 

"転校生”という言葉に一度静まった教室が再びざわつく。これから1年を過ごすクラスメイトとなるのだから大半の生徒達は興味を引かれて当然だろう。生徒達の注目を集めながらドアを開き、話題の当人である千紗がクラスの中へと足を踏み入れる。

 

「……えっと、天上千紗です。〇〇市から昨日引っ越して来ました。どうかよろしくお願いします」

「はい、千紗さん。自己紹介ありがとうございます。皆さん是非仲良くしてあげてくださいね〜」

 

大多数からの視線に緊張を感じながらもそつなく挨拶をこなす千紗、一方でクラスメイト達からの反応はと言うと。

 

 

『転校生、ねェ。わざわざこんな時期に珍しいこったァ』

 

片手で頬杖を付き転校生に対し、気怠そうな態度での反応を見せているのは制服の上からパーカーフードを羽織り、橙色の髪にやや不良っぽい見た目を感じさせる少女──神鐘(かみがね)アキラ。

 

 

『にゃはは〜。仲良くできそうな子なら歓迎だよ〜』

 

頭の後ろで腕を組んで、ほわほわとした雰囲気とのんびり口調で喋りながら転校生に興味を示しているのは、緑に近いグレーの髪色をした少女──七雲翠(なぐもみどり)

 

 

『転校生かぁ。あたしの影が薄くなりそうでヤダヤダ。ライブだって控えてんのに注目奪われそう』

 

興味と言うよりは転校生に対して危機感を感じてるように、不満を口にしているのは桃色の髪と黒のマスクが目立つ少女──紫雨(しぐれ)ホミカ。

 

代表的な三名を始めとして、クラスメイト達は転校生である千紗に対し、個人毎に様々な第一印象を抱き、逆に千紗から見たクラスメイト達は誰も彼も一癖も二癖もありそうな個性的面子というだ。

 

「えっと、それでは千紗さんの席はあちらでお願いします」

 

教師が指差した先は窓側の空席。緊張も少し解れた様子で着席と共に漸く一息をつく。

 

『天上千紗さんでしたよね。初めまして! 私、真春桃子(まはるとうこ)って言います。クラスメイトとして、これから一年間是非宜しくお願いします!』

「よ、よろしく」

 

席に着いて早々隣人のクラスメイトからの明るい挨拶。雰囲気から見て取れるコミュニケーションの高さに押されながらも、差し出された手を握り返す。

 

「授業の後、お時間ありますか? 差し支えなければ学園を案内したいと思ってますので」

「それは有難いけど、お願いしちゃってもいいのかな?」

「はい。私でよければ是非頼ってください。何せクラス委員なので」

 

任せてくださいと、胸を張る桃子。彼女からの提案に千紗としても断る理由はない。それならと、申し出を受け入れる事にして1時間後には授業も終わり、「早速行きましょうか」と桃子に連れられ、学園を回る千紗達。

 

 

「ここが保健室、向こうの端が職員室で、食堂が向かい側にある館でそれから」

 

学園内の目ぼしい場所を一通り案内し終えるが、もう一つ「最後に」と言葉を溜めながら、窓から移る一際大きな建物を指差して。

 

「アレがこの学園一番の名所、バトルフィールドを完備した施設、バトルパークです!」

 

体育館と食堂のある建屋の間にあるドーム状の施設。学園の人間であればまず知らぬ者はいないその施設はバトスピの名門を謳う上で必要不可欠であり最大の目玉。

 

「既に知ってると思いますが、うちの学園のウリは日本で一番の女子バトスピ名門校。その為に特訓場として建てられたのがバトルパーク。学園創設にあたり、まず一番はじめに作られたのがバトルパークで、バトスピで強くなるのに必要なスキル、経験を全てバトルパークで得られるというのがコンセプトだそうです」

「……へぇ、そうなんだ」

「施設の創設には学園長自ら莫大な資金を投資してるとかなんとかで、とにかくすごくすごいですよね!!」

「……そ、そうだね」

 

語彙力が乏しいながらも熱を込めて語る桃子、しかし今現在バトスピと疎遠の千紗には振られた話題のノリに乗る事ができず愛想笑いで適当な返事を返すしかない千紗。しかしそこへ突如大勢の声が窓の外から聞こえ始め。

 

「何かあったんでしょうか? 校庭の方みたいですが私達も行ってみましょう!」

「えっ、ちょっと!?」

 

校庭にはいつの間にか多くの人だかりが出来ており、何事かと桃子に連れられる形で二人も校庭に向かって外へ飛び出し、二人が目にしたのは人だかりの中心で睨み合うグループの集団が。

 

 

『よぉ、舞華。今日はまた生徒会お揃いで何の用だ?』

『別に用はありません。会って早々噛みつくのはお止めいただけるかしら? 海音さん』

『ハッ、こりゃ失礼。てっきりランク戦が近いから俺に宣戦布告しに来たかと思ったぜ』

『必要ありません。してもしなくても、どうせ勝つのは私ですから』

『あァ? 聞き違いか? 誰が、誰に勝つだって?』

『ならもう一度言って差し上げましょうか? 私が貴方に勝つと!』

 

険悪な態度で睨み合う二人、舞華と呼ばれたお嬢様口調の少女ともう一方は海音と呼ばれたヤンキー気質な少女。因縁浅からぬ二人だが、彼女等の様子に「……相変わらずですね」と事情を知ってるように呟く桃子。

 

 

「えっと、あれは一体?」

「はい。あちらのお嬢様っぽい人が立花舞華(たちばなまいか)さん。学年は私達と同じ二年でこの学園の生徒会長です。もう一人は水原海音(みずはらかいね)さん、舞華さんとは犬猿の仲で何時もあぁして張り合ってるんです」

「ランク戦とか言ってるのは?」

「あぁ、それは──」

 

『はぁい! そこまで!!』

 

千紗の質問に答えようとした矢先にまた会話の流れを切るように、舞華の取り巻きのように立っていた人物達が仲裁に入る。

 

「生徒達が注目してるのに声を荒げて喧嘩するものじゃないよ。折角の二人の美しさが台無しだ」

「全くだ。君達二人は毎度毎度、いい加減仲良く手を取り合うつもりはないのかね?」

 

「ハッ、ないね!」

「なら右に同じくですわ!」

 

最初に背の高い三年生っぽい見た目の女性が口を開き、それと正反対に背が低い少女が呆れた様子で言葉を付け足し睨み合う二人を宥めようとするが、舞華と海音は真っ向から否定。取り付く島もない彼女等に、仲裁に入った一人はお手上げと言わんばかりのジェスチャーを取り、もう一人は深く溜息を零している。

 

「ハッ、生憎俺も暇じゃないんでな、今日の所は見逃してやる、お前を潰すのは次のランク戦の時だ」

「あ~ら、では念入りに洗ってその日を待っていればよろしいかと。その首をね!」

「言ってろ、勝つのは俺だ!」

「いいえ、それは私の台詞です!」

 

最後に「フン!」と互いにそっぽを向いて踵を返しながら別れていく二人、二人が去るのを見て集まっていたギャラリー達も同様に散り散りに去っていき、現場を見ていた千紗達にとっては一瞬の嵐のような出来事だった。

 

 

「ひとまず大事にならずに何よりでしたね。私達も教室に戻りましょうか」

「う、うん。なんだか見てるだけでハラハラしそうだった」

「あはは、転校してきた千紗さんはビックリしますよね。でも、あの二人ほぼ毎日あんな感じなので」

「毎日!?」

 

取り巻きの一人が「仲良く」と口にしていたが、確かに毎日あの光景を繰り広げているのなら口にするのも納得だ。それでも対抗心を剥き出しに睨み合うあの二人は例えるならハブとマングースと言ったところだろうか。

 

「まぁあの二人の事とか、詳しい事は追々またお話ししますね。良ければ今日のお昼ご一緒しませんか?」

「えっ、逆に迷惑じゃ」

「いえ、迷惑だなんてとんでも。是非千紗さんの事も色々聞かせてください!」

 

明るい笑顔で語る彼女、学園の案内を買って出てくれたことといいとても面倒見が良く、前の学校ではまずいなかったタイプだ。まだ周り馴染めていない千紗に取って彼女のような存在は非常に有難い。

 

約束を取り付け、昼休みの時間になると早速案内してもらった食堂でお昼を過ごす千紗達。

 

「さて、それじゃあ早速ですが、何から説明しましょうか」

「う~ん、じゃあ今朝言いかけてたランク戦について教えてほしいかな」

「はい。まずこの学園がバトスピの名門校っていう話はしましたよね。バトルパークだけじゃなく、生徒達の実力向上の目的で導入されたのがランク制度。ランク戦というのは月に一度の周期で生徒達がそれぞれバトスピで対戦し、戦った戦績に応じてランキングをつけて、順位に応じて「S」から「E」までのランクが付けられる。

といった感じですが、伝わりましたでしょうか?」

 

生徒達による自主的な競い合い、戦績による実力をランクという形で可視化するのは確かに合理的なやり方だろう。桃子の説明に対し理解したように頷く千紗。

 

「ランクが上位であればある程、学園からの支援も充実します。具体的にはバトルパークでの使用優先権とか、世界大会など観戦チケットの配布とか色々!」

「成程。それじゃあ今朝言い争ってた二人は?」

「あの二人は、何を隠そうこの学園内でトップの実力。毎回ランク戦の度にぶつかりますが勝率は五分五分。1位の座を巡りランク戦前になると二人共普段以上にピリピリして牽制し合う程です」

「トップって事はあの二人そんなに強いんだ」

「それはもう! 生徒会長は勿論、ライバルである海音さんも実力とカリスマ性から尊敬し付き従う人も多いぐらいで、しかもそのせいで派閥まで出来ちゃうぐらいで」

「派閥?」

「えぇ。生徒会会長である舞華さんを支持する派と、ライバルである海音さんを支持するグループ。ランク戦で実力を競い合うと共に舞華さんも海音さんも今現在自分の派閥の人間を増やすことに躍起になってる程です」

「つまり勢力拡大って事? 何のために?」

「舞華さんはこの学園でバトスピの実力は当然として気品ある振る舞いをモットーとして己を見本に生徒達を規則正そうとしているのですが、逆に海音さんはバトスピの実力を一番とし堅苦しい規則やルールを廃して自由な学園生活を目標にしています。なので」

「お互い自分の理念の為に、それに賛同する自分の派閥の人間を増やしたいって訳?」

 

その通りだと、首を縦に振りながら。

 

「カードバトラー達は皆強者に引かれる。実力者であるが故に今では生徒の7割近くが舞華さんか海音さんを支持してるぐらいです。かくいう私も海音さんを支持してますし」

「えっ! そうなの!?」

 

桃子からの意外な一言。真面目そうな見た目の彼女ならどちらかを指示するとしても模範生徒である舞華を選びそうなものだが。

 

「まぁ無秩序って訳にはいかないですけど、あまり規則を強いるのもよくないですし私個人としては自由な環境を望む海音さん派ですかね。それに実力も同学年として尊敬できるものもありますし!」

「そう。でも桃子、さんは自分で1位を目指そうとは思わないの?」

「私がですか? う~ん、この学園の一員として上を目指したい気持ちはありますが、今はまだ海音さんたちと比べると自分の実力不足感が否めないので。そういう千紗さんはどうですか?」

「わ、私は……!」

 

尋ね返される質問に一瞬言葉が詰まる。

 

「私は、バトルとか苦手で」

「何か事情が?」

「え、えっと……その……」

「あっ、言いたくないなら無理には聞きません。ずけずけと踏み込んでごめんなさい」

「嫌、気にしないで。桃子さんは何も悪くないし」

「……で、でもぉ」

 

申し訳なさそうな表情で、何かを言わねばとしながらも適切な言葉が出てこずうんうんと唸る桃子、その様子が少しだけ可笑しかったのか思わずクスリと笑ってしまい。

 

「えっ、何か変でした!?」

「い、嫌……ごめんつい。それにしても、どうして私にこんな気を遣ってくれるんですか?」

「それは勿論千紗さんも同じクラスメイトですから、クラス委員として過ごしやすい環境が作れるよう、手伝うのは当然の事です!」

「クラス委員だからってそこまでする必要はないじゃ?」

「いえ、私がそうしたいってだけなのでお気になさらず。でももしさっきみたいに触れて欲しくない事があるなら遠慮なく言ってください。私余計な事にまで口出ししちゃうかもしれないので」

 

頭に手を置きながら語る桃子に対し、改めて千紗の中で「いい人」だと再認識する。たかがクラス委員というだけでここまで気を遣ってくれるなら誰も悪い気はしないだろう。打算もなく優しい好意を向けてくれる彼女に対し千紗自身も仲良くしたいと思った。まだ不安の残る学園生活だが彼女のような人がいるなら新しい生活は決して悪いものにはならないだろうと安心感が抱ける。

 

「気遣ってくれてありがとうございます。その好意だけで十分嬉しいです」

「そう言っていただけるなら何よりです。あっ、でもクラスメイトなので私に敬語は不要ですよ!」

「じゃあそれなら桃子も」

「私は敬語じゃないと話しづらいのでお構いなく!」

「えぇ~、何それ?」

 

楽しげに笑い合い、新しい学友と談笑する二人。まだ自分のバトルについての話題は触れたくはないが逆にそれ以外の身の上の事と学園についての話で二人は会話を弾ませた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『はぁ~全く……海音さんったらいつもいつも噛みついてきて、まともに話もできやしない』

 

一方舞台は変わってここは生徒会室。会長席に座り机に肘を突きながら溜息を零す舞華と、彼女の愚痴の様な言葉に、取り巻きらしき二人が机の前のソファーに腰かけながら耳を傾けている。

 

「ボクから見れば噛みついてるのはお互い様だと思うが」

「あはは、私は二人のやり取りを見てて、いつも可愛いらしいと思っているよ」

 

「小言と冗談は結構! 今はそれよりもこっちの問題ですわ!」

「「!」」

 

取り出した資料を広げて二人の前に突き出す舞華。資料には学園別の生徒の写真と生徒それぞれが支持している派閥を区別できるよう赤か青の丸シールが貼られ、数は赤青同数といった具合だ。

 

「二人もご存じのように今この学園は我々生徒会支持派と海音さん達無法集団の支持派で割れてます。学園の秩序を守る為にも海音さん達の支持をこれ以上上げる訳にも行きません!」

「そうは言ってもランク戦までまだ先だし、実力を比べ合う日までは指示率の票は動かせない。今は備えるべき時では?」

「いいえ、生憎じっとしてるのは私の性に合いませんの。既存の支持派を動かせないなら新規を取り込むまでですわ」

「新規?」

「今日この学園に転校してきた生徒ですわ!」

 

転校生、他ならぬ千紗の写真を取り出して自信ありげな表情で舞華は話を続けて行く。

 

「至急彼女の情報を集めてください。海音さん達にはまだ恐らく転校生の事など耳にも入ってないでしょう。今の内に彼女を我々側に引き込みましょう」

 

「また急だね。どこの誰かも分からない転校生をいきなりこちら側に引き込もうというのかい?」

 

取り巻きの背の低い少女が答える。千紗について素性を知らないのだから当然の疑問だ。だがそれに対して舞華は。

 

「ふふっ、まだ確証はありませんが私の予想通りなら彼女はとても大物ですわよ。だからこそ海音さん達よりも先に味方につけておく必要があります」

 

「おいおい、無理な勧誘は嫌われるよ。それでもやるというのなら自分の手でやりたまえよ」

「右に同じだね。折角可愛い子なのに嫌われるような真似は私も御免だ」

 

「心配せずとも勧誘云々に関して端からお二方に期待はしておりません。ですが彼女の情報集めには協力していただきます! これは会長命令です」

 

「やれやれ、命令と来た。人使いの荒いものだ」

「あはは、しょうがない。我らがお嬢様の頼みだ。それぐらいは引き受けるとしようじゃないか」

 

舞華は何か知ってる風な態度で取り巻きの二人は不思議に思いながらも会長が言うならばとそれ以上追及はせず、全員席を立って部屋を出るとそれぞれ別方向に分かれていく三名。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

暫くして授業が終わり、下校時間を告げるチャイムが学園に鳴り響く。まだ慣れていないながらも初日は特に問題なく過ごし、荷物をまとめ帰り支度を整えて教室を出るが。

 

『天上千紗さん、少しよろしいでしょうか?』

「!」

 

教室を出た瞬間、後ろから名を呼ばれる千紗。足を止めて振り返るとそこにいたのは舞華の姿であった。

 

「せ、生徒会長!?」

「おや、ご存じでしたか? ですが一応ご挨拶させてください。学園生徒会長を務めております2年の立花舞華です。どうぞよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 

事前に聞いていた通りお嬢様らしく、両手でスカートの裾をつまみ軽く上げながら御淑やかに礼をする舞華。突然の指名に焦りながらも頭を下げて礼を返す千紗。彼女だけでなくわざわざ生徒会長がこんなところにまで訪れた事に千紗のクラスは勿論、隣のクラスの生徒達も何事かと顔を出してざわつき、下校時間というにも関わらず数十名以上の生徒による人だかりがあっという間に出来始める。

 

 

「あの、生徒会長が私に何か?」

「まずは不躾な訪問をお許しください。ですがどうしても早急にお願いしたい事がありまして」

「私に、ですか?」

「はい。単刀直入に申し上げます! 天上千紗さん、是非我々生徒会の支持派として加わっていただけませんか?」

「!?」

 

突然の申し出に周囲の声が再びざわつく。勿論千紗も何故自分なのかと疑問に対して理解できる訳がなく。

 

「あの、私初対面どころか、今日転校してきたばかりですよ。それなのに何で──」

「理由でしたら決まっています。天上烈我さんと天上光黄さん」

「!」

「今でこそ一線を退きましたが、かつて世界チャンプにまで上り詰めたお二人、そして他ならぬその二人のご息女、目を掛けるのは当然の事ですわ!」

 

会長からの一言に今度は周囲の注目が一斉に千紗へ集まる。他ならぬ世界チャンピオンの娘と言われては注目せざるを得ない。

 

「な、何で父さんと母さんの事を!? もう十年以上も前の事なのに!」

「生憎歴代の世界チャンピオンの方は全て記憶しておりますので。だからこそ"天上"の名を聞いた時すぐにピンと来ました。そして事実確認も既に出来ております! 間違いなく貴方はお二人の血を引いていると!」

「!!」

 

先程舞華の出した名に"父さん"、"母さん"と反応した以上、今更誤魔化しても無駄だがどこからか情報を得た上で裏取りも出来ているというのだから驚きだ。一体どうやって確認を取ったのかそれはそれで気になる所ではあるが、千紗が質問するよりも前に舞華はさらに続けて行く。

 

「ですから千紗さんも相当な実力者であると見込んでお願いしに来た次第です。どうぞ私達に手を貸していただけないでしょうか?」

「……実力者ってそれはとんだ見当違いです。私なんか大したことないし、第一バトルも苦手で碌に戦えもしませんから」

「ご謙遜をしないでください。私、人を見る目はある方ですよ」

 

じっと千紗を見つめながら全く引き下がらずに述べる舞華、しかしバトスピから距離を置きたい千紗からすればいい迷惑である。

 

「何を言われても私は関わるつもりはありませんから。第一デッキすら持って──」

 

『すみませーん!』

「!」

 

突然会話を遮る声、声の方角に振り返ると人混みを抜けながら走り寄る桃子の姿が。

 

「桃子? 急にどうしたの!?」

「千紗さん、お取込み中すみません! コレ、落とし物! 千紗さんので困ってるだろうから至急届けてほしいって渡されて……!」

「落とし物?」

 

走ってきたのか息を切らしながら手に持った袋を差し出す桃子。しかし落とし物と言われても心覚えはない、一体何なのかと袋から取り出したソレは。

 

「!?、こ、これ……私のデッキ!!?」

 

有り得ない。何故家に置いて来た筈の物がここに有るのか、驚きのあまり疑問がそのまま言葉に出てしまうが、驚き以上に今発言した言葉に、しまったとすぐに口を塞ぐが。

 

「デッキをお持ちのようでしたら話は早いですわ! 少々強引で恐縮ですが是非お手合わせをいただけませんか? 無論、私達に協力いただくか否かの返事を兼ねて」

「ちょ、ちょっと待ってって! まだやるなんて言ってないし」

 

何故自分のデッキが今ここに有るのか、桃子はこれを誰から受け取ったというのか立て続けに起こる衝撃的な出来事に頭が混乱したままとても落ち着けない。ともかく今はまず、舞華の申し出を断ってこの場から逃げたいというのが正直な所。

 

「デッキが何でここに有るかは今は置いとくとして、ハッキリ言いますが私バトスピに関わるつもりはないです。この学園に転校してきたのもたまたまですし、バトルも受ける気はありません」

「……」

 

「失礼します」と背を向けて立ち去ろうとする千紗、彼女の態度に対して舞華は小さい声で。

 

「(仕方ありませんわね)」

 

誰にも聞こえない小さな声で呟く。そして息を大きく吸って。

 

「逃げ腰のその態度、お手持ちのデッキはどうやら飾りのようですわね」

「!」

「デッキだけじゃない、デッキのスピリット達もお飾りでただの木偶の坊!」

「……は?」

 

ただの挑発にも思える言葉、多少何を言われようが聞こえないフリでもして足を止める事なく立ち去っていただろう。けれど舞華が口にした一言だけは千紗にとって最も無視できない言葉であったように足を止めて、目に圧を込めて振り返りながら。

 

「今の、どういう意味?」

「……お手持ちのデッキはただの飾りだと」

「違う。その後だ」

「!」

「スピリット達も、お飾りでただの木偶の坊だと。そう言ったよね?」

「えぇ。確かにそう言わせていただきました。取るに足らないという意味でね」

「ッ!! 撤回して、今すぐにッ!」

 

静かに怒りを込めて、鋭く刺し貫くかのような視線が舞華に向けられる。けれど並々ならぬプレッシャーを肌に感じながらも後には退かず。

 

「撤回しろと仰るならば、カードバトラーとして答えは一つでは?」

「……」

 

挑発だという事は千紗自身も理解している。けれど例え挑発だと分かっていても流す事など出来ない。他でもない自分ではなく自分の好きな相棒(スピリット)達を侮辱されて、黙って逃げる事だけは彼女の心が許さない。だからこそデッキを強く握り締めながら。

 

「なら力づくで撤回させる。バトルしろって言うなら……望み通り受けて立つッ!!」

 

舞華からの挑戦状を真っ向から受け取る千紗。相手は学園トップの実力者ではあるが今の自分にとってそんな事はどうでもいい。周囲の目もあれ程嫌いだと口にしていたバトルに自分から首を突っ込もうとしている事も今の自分にはどうでもいいと思う程に切捨て、今彼女の頭にあるのは、自分のスピリットを取るに足らないと馬鹿にした彼女の発言を悔い改めさせる、その一点である。

 

「(この反応、聞いていた通りですわね)」

「何?」

「いえ、何でもありません。それよりもバトルを受けてくださるのなら、バトルパークで行いましょうか! 戦うならそこが一番の環境ですからね」

 

 

 

 

戦うに相応しい舞台へ場所を移す二人。当然ギャラリー達も見逃す筈がなく、千紗達同様にバトルフィールドの観戦席に訪れ、多くの人間の注目を浴びる中でステージに立つ舞華と千紗の二人。

 

「では、早速始めましょうか!

「……何でもいい。勝つだけだから」

「自信は充分と受け取りましょう。では早速!」

 

腕を掲げ合図を促す舞華、千紗にとっては懐かしさを感じる程だが記憶にはしっかりと残っている。これより幕の上がるバトルに二人は開始の宣言を声高らかに宣言する。

 

「「ゲートオープン! 界放ッ!!」」

 

互いの宣言を引き金に、火蓋が今切って落とされた。周囲を包み込む光と共にバトルフィールドというの名の戦場に二人の少女が踏み込む。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「では先行は私からいただきます! スタートステップ!」

 

 

────第1ターン、舞華side。

 

「ドローステップ。行きますわよ。メインステップ、現れなさい! クダギツネン、ガトーブレパス!」

 

黄色いパールが2つ連続して出現し始めると、2つ同時に砕けて中から飛び出したの狐面をつけた小動物と羽を生やした一つ目の牛のような外見のスピリット、クダギツネとガトーブレパスである。

 

「……黄色のスピリット」

「見てお分かりの通り私は黄色デッキですの。さぁどこからでも攻めていらして」

 

 

(Resource)舞華side。

[Hand]3枚

[Reserve]0個

[Trash]2個

[Field]クダギツネンLv.1(1)BP1000、ガトーブレパスLv.1(1)BP1000。

 

 

 

 

────第2ターン、千紗side。

 

 

「……私のターン」

 

ドローステップ、カードを引くべくデッキに手を置く千紗。十年ぶりデッキに触れる感覚、もう味わう事はないと思ってた二度目の体験に懐かしさを感じ、同時にまた頭を過る最初のバトルの記憶。

 

「(……正直まだ怖い。でもこうなった以上、私は……!)」

 

今の状況と昔の記憶のヴィジョンが交互に頭に流れながらも何を想うのか、彼女は一瞬目を瞑った後、またすぐに目を開けて、ステップ開始のコールをしながらカードを引き試合に意識を集中させる。

 

「ネクサス、破壊された城をLv.2で配置!」

 

千紗の場に出現したのは生物ではなく名の通り半壊し、城だった面影を残す崩れた後の砦。千紗の出すカードが意外だったのか目をパチクリさせている舞華。

 

「随分珍しいカードを使われますわね。ですが赤のカード、という事は貴女は赤デッキの使い手という事でしょうか?」

「……私はこれでターンエンドです」

「ノーコメント、ですか。まっ、答え合わせはバトルを進めて行う事にしましょう」

 

 

(Resource)千紗side。

[Hand]4枚。

[Reserve]0個

[Trash]3個

[Field]破壊された城Lv.2(2)。

 

 

 

 

────第3ターン、舞華side。

 

 

「私のターン、クダギツネンをもう1体召喚! さらにガトーブレパスにコア追加しLv,3へアップ!!

 

レベルが上がった事で奮起するように強く吠えるガトーブレパス。前足で地面を蹴り、攻める準備は万端と言わんばかりに今にも駆け出しそうな素振りである。

 

「では先手はいただきましょうか。アタックステップ、クダギツネンとガトーブレパスでアタックです!」

「!」

 

最初に攻撃を宣言したのは舞華、フィールドを駆け出すガトーブレパスと、ピョンピョンと跳ねながらクダギツネンも後に続き、仕掛けられた攻撃に対しブロッカーのいない千紗の選択肢は一つしかない。

 

「どちらもライフで受ける!」

 

バリアとなって千紗の前に出現する防壁。対して二体のスピリットはガトーブレパス、次にクダギツネンと時間差で二体共に体当たりで防壁にぶち当たり、直接の攻撃を防げど衝撃を伝って千紗のライフを二つ砕く。

 

「ぐぅッ!!」

 

(千紗)[Life]5→3。

 

 

「ガトーブレパスの効果、【聖命】発揮!ガトーブレパスが相手ライフを減らした時、自身の効果で私のライフ1つ回復ですわ!」

 

(舞華)[Life]5→6。

 

黄色のスピリットが持つ専用効果の一つ、【聖命】。ライフを削り逆に自分は削ったライフを奪い取るかの如く回復し相手とのリードを広げる戦略。専用効果であるが故に効果を持つスピリットとその使い手であるバトラーの数は絞られるが、千紗にとっては見慣れた効果であり、母も同じスピリットを使っているのが印象深い。

 

「(黄色のスピリットは厄介だけど、まだまだこれから……!)」

 

 

(Resource)舞華side。

[Hand]3枚。

[Reserve]0個

[Trash]0個

[Field]ガトーブレパスLv.3(3)BP3000、クダギツネン(A)Lv.1(1)BP1000、クダギツネン(B)Lv.1(1)BP1000。

 

 

 

 

────第4ターン、千紗side。

 

 

 

「ドローステップ! 破壊された城の効果発揮、ステップ時に引く枚数をプラス1枚、よってカードを2枚ドロー!」

「ムッ!」

 

新たに加わる2枚のカード、その内の一枚に早速手を掛けて構える千紗。

 

「メインステップ! 超古代怪獣ゴルザLv.2で召喚!」

「怪獣!?」

 

地響きを起こし、大地を裂き地面を突き破りながら地上へと現れる巨大な龍、否、怪獣と呼ばれし生物──ゴルザ。

 

「また珍しいスピリット……もしかして貴女のデッキは!」 

「そうだよ、これが私の怪獣デッキ。見くびった事、絶対後悔させるから!!」

「成程、どうやら虎の尾を踏んでしまったようですわね」

 

油断ならないように警戒を強める舞華だが、千紗のやる事は変わらない。

 

「アタックステップ! ゴルザでアタック! アタック時効果、BP5000以下のスピリット、ガトーブレパスを破壊する!」

「!」

 

前進と同時にゴルザの額から放たれる紫の光線、標的となったガトーブレパスは疲労状態の為、回避行動を取ることは出来ず直撃を受け爆発四散。

 

「ゴルザの効果はまだ続く、このスピリットにソウルコアが乗っていれば1枚ドロー! さらにLv.2のアタック時効果、【真・激突】!! 相手は可能ならこの攻撃を必ずブロックしてもらう!」

 

黄色の属性同様、専用効果として赤のスピリットが持つ効果、【真・激突】。その効果は回復を得意とする黄色とは打って変わって、極めて攻撃的な能力である強制バトルの要求。現在ブロック可能なスピリットとして、回復状態のクダギツネンが存在しており、巨大なゴルザに立ち向かう事を余儀なくされる。

 

「仕方ありません。クダギツネン、ブロックです」

 

拒む事の出来ない指示にクダギツネンは慌てふためきながらも、やむを得ずにゴルザに対し特攻。だがゴルザは大きく足を上げるとそのまま足元のクダギツネンを容赦なく踏み潰し、あえなく破壊される。

 

「ターンエンド」

 

 

(Resource)千紗side。

[Hand]6枚。

[Reserve]0個

[Trash]3個

[Field]超古代怪獣ゴルザLv.2(3)BP6000、破壊された城Lv.2(2)。

 

 

 

 

────第5ターン、舞華side。

 

「私のターン、天星馬ペガシーダを召喚!」

「!」

「アタックはなし。これでターンを終了ですわ」

 

 

(Resource)舞華side。

[Hand]3枚。

[Reserve]0個

[Trash]4個

[Field]天星馬ペガシーダLv.1(1)BP3000、クダギツネンLv.1(1)BP1000。

 

 

 

 

先程とは打って変わって攻める事無くターンを終える舞華。一見消極的とも思える彼女の様子にモニターを通して見ている観戦者達はざわつき始め、その中にはクラスメイトである翠とアキラの姿があった。

 

「にゃっは~。会長さんアタック無しなんて転校生のゴルザに委縮しっちゃったかな?」

「ンな訳ねぇだろ。ありゃむしろ逆だぜ」

「逆?」

 

翠に対して否定の言葉を吐くアキラ。どういう事かと疑問符を浮かべる翠だが、アキラから見ればペガシーダが見えてる時点で状況は明白だ。

 

「ペガシーダの破壊時は中々に曲者。アタックせずにそいつをブロッカーにしてるって事ァ、百パー、転校生のゴルザの効果を利用する気だぜ」

「でも幾ら何でもあからさますぎない? 倒してくださいって言ってる相手をそう簡単に攻める?」

「さァな。様子見かこのまま攻め進むか、転校生のお手並み拝見だな」

 

 

 

 

────第6ターン、千紗side。

 

続く千紗のターン、このターンも破壊された城の効果によりドローステップで2枚のカードを手札に加える千紗だが、加わった一枚に千紗の表情が変わる。

 

「(……来た。私のキースピリット!)」

 

引き込んだ一枚、キースピリットであるそのカードに目を光らせると共に、またの脳裏にフラッシュバックするかつての光景とトラウマ。

 

「……」

 

呼び出してその先、また大好きなキースピリットを破壊されるかもしれない。その光景を繰り返すのが怖くて自分はずっとバトスピから逃げ続けていた。勢いに任せてバトルフィールドに立った今でも恐怖に体が震えるが。

 

 

"グオオオオォォォォッ!"

 

「!」

 

バトル場に立っているゴルザが振り返りながら吼える。激励か、叱咤か、咆哮の意図は分からない。それでもじっと見つめるゴルザに対し、手札のカードを見ながら恐怖とは別にもう一つ脳裏に焼き付く記憶が。

 

「(そうだ……。私、初めてバトルフィールドに立った時、初めて見たスピリットがとってもかっこよくて頼もしくて燥いでたっけ。ゴルザだけじゃない、キースピリットを呼び出した時は声も出ないぐらい感動してた)」

 

大好きなスピリットだからこそ破壊される事に恐怖した。けどそれ以前に、大好きであるからこそ恐怖心以上に、初めてバトルフィールドで出会えた事の喜びが最も大きかった。

 

「(何で忘れてたかな。バトスピを知って、好きなスピリットが実体化した姿を見れる事が一番楽しみだったのに……。)」

 

好きなスピリットが破壊される事を考えると怖くもなるだろう、悲しくもなるだろう。けれどもう二度とバトスピに触れなければ好きなスピリットともう二度と会える機会もない、何より。

 

「大好きなスピリット、カッコよくて強いスピリットが……弱い私のせいでリベンジする機会もないままなのは嫌! 私が弱いのは構わない、でも……私のスピリットが弱く思われるのだけは絶対許せないッ!!」

「!!」

「破壊された城をレベルダウン。出てきて! 私のキースピリット、太古より生まれし古代の龍!! 硬き角で敵を貫け! 強靭な尻尾で薙ぎ払えッ!! 古代怪獣ゴモラ、召喚ッ!!!」

 

力強くキースピリットの名を呼び叫ぶ。瞬間、爆発の如く轟音と共に地面を突き破り瓦礫の岩を宙に跳ね上げる巨大な龍の姿、ゴルザと同様、怪獣として数えられし一体にして千紗のキースピリット──古代怪獣ゴモラの姿である。

 

""グルアアアアアアァァァァァ────ッ!!!""

 

ゴルザとゴモラ、二体の怪獣の咆哮がフィールドを揺るがす。轟く咆哮による圧は舞華と彼女のスピリット達も吹き飛ばされそうになる程、相対する舞華達にとって迫力とプレッシャーは甚大。

 

「これが……千紗さんのキースピリット、ですか!」

「そうだ。私はもう逃げない! キースピリットを、ゴモラ達を信じて、戦い抜くッ! アタックステップ!!」

 

決意表明と共に下すコール、今一度吠えながらゴルザ、ゴモラの二体が構える。

 

「まずはLv.2のゴルザでアタック、アタック時効果でBP5000以下のクダギツネンを破壊し、ソウルコアの力で1枚ドロー! さらにLv,2で激突!!」

 

再度額から放たれる紫のレーザー、足元に撃ち込まれると爆発を起こしクダギツネンは爆風に巻き込まれて消滅。けれどまだメインの攻撃は継続している。地面を踏み鳴らしながら今度はペガシーダを標的に前進。

 

「ペガシーダ、ブロックを!」

 

迎撃にペガシーダを立ち向かわせるがBP差は明らか。向かってきたペガシーダに対し、ゴルザは軽くあしらうかの如く強大な足でペガシーダをボールのように蹴り飛ばし容易く破壊するが。

 

「フッ、私が受け狙いである事は分かっていたでしょうに。それでもなお攻める事を選びましたか」

「当然。キースピリットを信じて、真っ向から、ぶッ潰すッ!」

 

もう戦いを怖がって怯えていた面影はない。自分に対して「ぶっ潰す」との発言、言い換えれば絶対に勝つと言い切る千紗に対して舞華も口角を上げながら。

 

「いいでしょう、ならばここからが本番です! ペガシーダの破壊時効果発揮!! デッキの上からコストが6、または7のスピリットが出るまで破棄し、この効果でトラッシュに送った該当コストのスピリットをノーコストで召喚可能!」

 

デッキが光り輝きながら上から順にカードをトラッシュに送っていき、該当カードが視界に映った瞬間、真っ先にそれを手に取る舞華。

 

「貴女のゴモラに対して、こちらもこのデッキのキースピリットでお相手しましょう! それがこの子です! 出て来なさい、神の翼を広げし黒の魔獣! 凶神獣カオスペガサロス(Rv)、Lv.2で召喚ッ!」

 

神話の生物の名、ペガサスに近しき姿を持つスピリット。黄金に光る翼を羽ばたかせ、宙を駆けるように舞い、地面へと降り立つのはキースピリットであるカオスペガサロス。

 

「カオスペガサロスのBPは8000、対してゴモラはBP6000。さぁ、次はどうされますか?」

「……ターンエンド」

「まっ、そうなるでしょうね」

 

現在BP差はカオスペガサロスが上。ならば容易に攻め込む訳にはいかない、お互いのキースピリットが出揃い、今はまだ静かに睨み合うゴモラとカオスペガサロス。

 

 

(Resource)千紗side。

[Hand]8枚。

[Reserve]1個

[Trash]4個

[Field]古代怪獣ゴモラLv.1(1)BP6000、超古代怪獣ゴルザLv.2(3)BP6000、破壊された城Lv.1(0)。

 

 

 

 

────第7ターン、舞華side。

 

 

「さてキースピリットも並んだ事ですしそろそろ決めに掛るとしましょうか! まずはカオスペガサロスをLv.3にアップ。続けてガトーブレパスを再度召喚!」

 

再び場に出現する二体目のガトーブレパス、カオスペガサロスと並び立って共に鳴き声を上げる。

 

「アタックステップ! カオスペガサロス、行きなさい!!」

 

宣言と共に角を構え駆け出すカオスペガサロス、狙いは勿論、千紗の残るライフ。

 

「フラッシュタイミング! マジック、イエローリカバーです!」

「!」

「効果でカオスペガサロスを回復! そしてカオスペガサロスのBPは現在BP12000、止められますか!」

 

駆ける速度を増しながら千紗目掛けて突っ込むカオス・ペガサロス。ブロッカーとしてゴモラが待機しているが、今のゴモラのBPではカオス・ペガサロスに太刀打ちは出来ない。

 

「ライフで受ける!」

 

ブロックはさせずライフでの宣言。カオス・ペガサロスは容赦なく角による一撃でバリアを貫き、破壊する。

 

「ぐッ!!!」

「カオスペガサロスLv.1、2、3! 【混沌聖命】発揮! ブロックされた時とバトル終了時、ボイドからコア1個を自分のライフに追加!!」

「またライフが……!」

「これで終わりじゃありませんわ! カオスペガサロスLv.3の効果、自分のライフが回復した時、相手ライフ一つをリザーブへ!」

「ッ!」

 

追撃のようにカオスペガサロスによってさらに砕け散るライフ。これで千紗のライフは残り一つ。

 

(千紗)[Life]3→1。

(舞華)[Life]6→7。

 

「これで決まりですわ! カオスペガサロスで──」

「ライフ減少時、手札からこのカードの効果を使う!」

「!?」

 

追い詰めカオスペガサロスにトドメの追撃指示を下そうとする舞華だが、彼女より先にコールを掛ける千紗、絶体絶命の状況下で彼女はまだその目を強く鋭くさせながらカードを構える。

 

「マジック、絶甲氷盾(Rv)ッ! 効果でバトル終了後、相手のアタックステップを強制終了させる!」

「ゴルザのドローで引き当てましたわね。ですが! ライフ差はこちらが圧倒的有利、戦局は揺るぎませんよ!」

「……」

 

舞華の言う通り、1対7という圧倒的なライフ差、ギャラリーの多くはこの時点で勝負はあったと判断するであろうが。

 

「関係ない!」

「!」

「言った筈だよ。私はキースピリットを信じるだけ。ゴモラ達を信じて全力を尽くす! ライフがどれだけ残ってようが、私達はそれを全部ぶッ潰すッってね!!」

 

この不利な状況に対して彼女に諦めるという選択肢は存在していない。対面している舞華、そしてもう一名バトルを観戦しているアキラも興味深そうに笑みを見せる。

 

「(現トップを相手に言い切るかよォ……これはちったァ面白くなりそうだな)」

 

舞華を相手に言い切るならば有言実行して見せろ、と次の展開を見守るアキラ。そして舞華本人もまたこれから来るであろう千紗の攻めに備えつつも、どう攻めて来るのか、どこか楽しみに待っている様子でもあった。

 

 

「(千紗さん、見せてください! 貴方とゴモラ、その全てをッ!!)」

 

 

(Resource)舞華side。

[Hand]1枚。

[Reserve]0個

[Trash]3個

[Field]凶神獣カオスペガサロス(Rv)Lv.3(3)BP12000、ガトーブレパスLv.1(1)。

 

 

 

 

────第8ターン、千紗side。

 

「私のターン、破壊された城をもう1枚配置し、ゴモラをLv.3に!」

 

レベルが上がり奮起するように尻尾を地面に叩き付けて大地を打ち鳴らし咆哮を上げるゴモラ。千紗同様にゴモラの闘志も全開だ。

 

「さらに続けるよ! 異魔神ブレイヴ、刃狼ベオウルフ(Rv)召喚ッ!」

 

森の中を駆け抜ける甲冑の獣、森を抜け千紗の背後から飛び出すとフィールドへ降り立って剣を掲げるベオウルフ。

 

「……緑のブレイヴ!?」

「不足コストはゴルザから確保してレベルダウン。そして行くよ、ベオウルフをゴモラと合体ッ!!」

 

両手に持った剣の片方を地面に突き刺し、空いた片手をゴモラへ向け緑の波動を撃ち込むと己とリンクさせて、合体スピリットと化すゴモラ。

 

「アタックステップ! ゴモラでアタックッ!!」

 

千紗の言葉と共にゴモラは構えると、その場で巨大な尻尾を振り回して自分の場にある破壊された城を尻尾の一撃で粉砕し始める。

 

「自分のネクサスを!?」

「ゴモラのLv.2、3のアタック時効果! フィールドのネクサスを破壊する事で1枚ドローし、破壊したネクサスに「城」の名があればゴモラは回復する!」

「ぐッ!」

「それだけじゃないッ!」

 

粉砕された城の瓦礫が宙を舞って地上へ降り注ぎ、ソレは地上にいたガトーブレパスへ降り注ぎ、瓦礫に押しつぶされガトーブレパスは破壊。

 

「!?」

「破壊された城の効果。このネクサスの破壊時、BP10000以下の相手スピリットを破壊する!」

 

これで余計な邪魔者(ガトーブレパス)は消えた。残る最後の標的は。

 

「ゴモラのもう一つアタック時効果、相手スピリットに指定アタックが出来る! 選ぶのは勿論、凶神獣カオスペガサロスッ!!」

「ッ! カオスペガサロス、ブロックです!!」

 

駆け出すゴモラに応えるようにカオスペガサロスもまた自陣から飛び出してゴモラへと向かう。激突し互いの角を打ち付け合う両者、力の差が拮抗しているようにお互い踏み止まるが。

 

「ゴモラァッ!!」

 

"!"

 

千紗の声にゴモラが覚醒するようにさらに目を見開いて前へと前進し、足を引き摺らせて後退させられるカオスペガサロス。拮抗しているかに見えた激突はゴモラへと分配が上がり、勝機と見るや角を振るいカオスペガサロスを突き上げる。

 

「!?」

「今だよゴモラッ!!」

 

再びその場で反転し巨大な尻尾を無防備な土手っ腹に叩き込む。受けた衝撃はさながら巨大な車に跳ね飛ばされたように地面に体をバウンドさせながら吹っ飛ばされる。だが仮にもXレア級のスピリット、まだ倒れはしない。羽を広げて体を浮かせ再び体勢を立て直すカオスペガサロス。

 

けれどゴモラは既に先手を打っている。角を構えてエネルギーが集まるようにゴモラの角は赤く輝き。

 

「ゴモラ! 超振動波ッ!!」

 

大地を掘り穿つ全エネルギーを角に集中させて敵に撃ち込むゴモラの必殺技、巨大なエネルギー弾が体制を整えたばかりのカオスペガサロスへ直撃し全弾撃ち込まれると、体をフラつかせながら地面へと倒れ大爆発を起こす。

 

「私の、キースピリットが……!!」

「ベオウルフの追撃ッ!」

「ッ!?」

「BPを比べ相手のスピリットだけを破壊した時、相手のライフ2個をリザーブにッ!!」

 

今度はベオウルフが吼えながら駆け出すと、ゴモラを踏み台にして空高く飛び上がり両手に持った二刀の剣を同時に舞華に向けて投げつけ、展開されたバリアを刃が貫き破壊する。

 

「うぐぅッ!!」

「これでもうブロッカーはない! ゴモラで再アタックッ!! アタック時効果でもう一枚の破壊された城を破壊しゴモラを回復ッ!!」

「ライフでッ!!」

 

ライフのバリアに向けて突進し衝撃に罅割れ、続けざまに尻尾を振りまわして罅割れたバリアを木っ端微塵に粉砕。

 

「ゴルザでアタック!」

「ライフで!!」

「さらにゴモラでアタックッ!!」

「……ライフで、受けます」

 

残るライフは3つ、舞華の手には攻撃を防ぐ手立てはない。残るライフを削るべく、ゴルザとゴモラは同時に構えてレーザー光線と超振動波を撃ち放つと展開されたバリアに撃ち込まれ、爆発と共に全てのライフが砕け去り、決着となる。

 

 

(舞華)[Life]7→0[Lose]

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『あの転校生、会長に勝っちゃった……!』

『嘘、あの会長に!?』

 

バトルを終えて見ていた観客達からざわざわと動揺の声が響く。暫定ではあるが学園のトップが全くの無名の転校生に敗れたのだからその衝撃はあまりにも大きいが、周囲の雑音にも舞華は意に介せず千紗の方へ歩み寄り。

 

「千紗さん、私の負けです。貴方のキースピリットを軽んじた事、深くお詫びいたします」

「!」

 

決着後、舞華からの最初の言葉は素直な謝罪で頭を下げ、彼女に対して一瞬驚いた反応を見せるがすぐに表情を切り替え。

 

「舞華さん、顔を上げてください」

「……」

「バトルを始まる前は許せない気持ちでいっぱいでしたけどその謝罪で十分です。今はそれよりも、お礼を言いたいから」

「お礼ですか? 私に?」

「はい。私このバトルで思い出せましたからバトスピが、キースピリットと一緒に戦える事がこんなにも楽しいって気持ちを。思い出せるきっかけをくれたのは間違いなく舞華さんです。だから私」

 

舞華に手を差し出し、笑顔を向けながら。

 

「いいバトルをありがとうございました!」

「!」

 

今度は舞華が驚いた表情を浮かべるが、直ぐに彼女は笑って差し出された手を受け取る。

 

「こちらこそ大変楽しいバトルでした。願うならば今度はリベンジ、させてくださいね」

「はい。その時はまたゴモラで受けて立ちます!」

「ふふ、そう返事をしてくださるという事は、バトスピも完全復帰なさるという事ですよね」

「勿論。もう二度と、バトルからは逃げません!」

「そうですか。ではまた再戦の時を楽しみにしております」

 

にこやかに手を振り立ち去っていく舞華。二人の健闘を称えるように観客達は拍手を送る中で、バトルを見ていたアキラと翠の二人は。

 

 

「いやぁ~、転校生まさか会長に勝利しちゃうとは。これはとんだ大番狂わせだね~」

「……全くだ。まさか勝っちまうとはなァ、しかも勝った相手は学園トップの生徒会長、この事が広まれば大騒ぎになるだろうぜェ」

「あれ~? 騒ぎになるの、むしろ望んでそうだけど~?」

 

翠の指摘通り、これから先の展開を予想するアキラの表情は既に笑みが零れているように口角が上がっており。

 

「ハハッ、否定はしねェ。これから面白くなるのは確かだしなァ」

 

何を想うのか心が昂ってるように目をギラつかせるアキラ。「先に上がるぜ」と用事があるのか、昂る感情のままその場を後にし、翠も手を振りながら彼女の後姿見送る。

 

「にゃはは~滾ってるな~アキラちゃん。まぁでも」

 

言葉を続けながらのんびりとした笑みを一変。

 

「これからを楽しみにしてるのは、多分私もだけど」

 

ピタリと笑みを止めて、目を鋭く細め、千紗に視線を向けながら低い声で呟く翠。アキラだけでなく翠もまた転校生に対し、ただのクラスメイトから目が離せない存在として再認識するのであった。

 

 

 

 

一方で千紗が舞華に勝ったというニュースはその日の内に大きく学園中に広まり、そのニュースに対して誰よりも反応を示したのは。

 

「舞華の野郎が負けただとォッ!!?」

 

校舎裏で怒号のような声を響かせる少女、海音。仮にもライバルとして争っていた相手がどこの誰かも分からない相手に敗れたというのだから驚く気持ちは計り知れない。海音の言葉に舎弟っぽい一人が怯えるように「そ、そうです」と質問に肯定する。

 

「間違いねぇんだろうな?」

「既に放送部の連中が広めてます。目撃者もいるのでまず間違いないかと」

「……そうか」

 

落ち着くように返事を返し、顎に手を置いて何かを考え込む彼女だが暫くして彼女はニィッと口角を大きく上げると。

 

「舞華に勝った対戦相手の情報を集めろ!! 今すぐにだぁッ!!!」

「「「は、はいぃぃっ!!」」」

 

再びその場に響き渡る海音の怒号。アキラ達の予測通り、千紗を中心として学園に波紋が広がりつつあるのはもはや言うまでもない。今日この日をきっかけに、学園中を巻き込む大きな嵐の幕が上げられるのであった。

 

 

 

 





新年あけましておめでとうございます。
皆様お久しぶりでございますブラストです。m(_ _)m

この度新年一発目、新しい架空バとして本作のバトルスピリッツReWorldを更新させていただきました。ますは第1話いかがでしたでしょうか。
本作はお読みいただいた方ならお気づきかとは思いますが、前作の7guiltの数十年後という世界観でお送りしております。既に見覚えのあるキャラが何名かいるかとは思いますが、今作の主人公は前作主人公烈我の娘である天上千紗がメインとなります!バトルによるトラウマを乗り越え再び戦場に経つ彼女!今後彼女がどう活躍していくのか、どうぞ見守っていただければ。

そしてバトルパートについては前作より少し変えて、まずライフの変動の表記を追加した事とターンプレイヤーのフィールド表示を今まで各ターンの初めにしておりましたが、今回はターン終わりにするように変えてみました。
分かりやすくなればいいなという試みですが、分かりづらかったらお手数ですがご指摘ください。しれっと元に戻しますので:( ;´꒳`;)←

ここからは余談ですが、第1話結構積み込みすぎた感があるので少し反省。今回の登場キャラなどはまた番外編かTwitterなどで紹介出来ればと思います。


色々長くなりましたが、最後にこれからどうか読者の皆様長いお付き合いの程よろしくお願い致します!それではまた次回!



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