「ただいまー」
「お帰り、千紗」
日が沈みかけて来た頃、学校から帰宅した千紗を出迎える母親の光黄。
「どうだった? 転校初日は?」
「思ってたより悪くはなかったよ。それより」
「!」
自分のデッキケースを母の前に突き出しながら。
「これ、母さんの仕業でしょ! わざわざ私のデッキを学校に送らせて」
「あはは、やっぱりバレたか」
千紗からの嫌疑にあっさりと犯人である事を認め苦笑する母、「全く」と千紗はやや不服な様子。
「悪かった。少しぐらい強引な手で行かないと千紗も変わらないと思ってつい、ね」
「そう言うの余計なお世話っていうんだよ」
「はは、耳が痛い言葉だ」
今の千紗と同じような台詞を何度烈我や友人達に言った事か。昔の事を想い返しながら静かに呟く母。「何か言った?」と追及する千紗に対して、笑いながら「何でもない」と答える。
「はぁ……でも感謝はしてる。母さんのお陰でまたバトルが楽しいって思い出せるきっかけになったから」
「それじゃあ、つまり?」
「うん。バトスピ復帰する事にしたから」
「そっか。それじゃあ私の余計なお世話も無駄にならないで何よりだ」
千紗の表情と言葉に母も嬉しそうに返事を返す。
「剣斗も喜ぶだろうから今の話を是非してあげてくれ。母さんも千紗の学園がどんな所か話を聞いてみたいし」
「いいけどあまり質問攻めにしないでね。今日は色々ありすぎて疲れてるんだから」
「分かってる分かってる」
夕飯時、剣斗を含め三人とも食卓に着き料理を囲みながら千紗の学園での出来事を話し、母親の予想通り姉である千紗がバトスピに復帰したと聞いて剣斗は嬉しそうに目を輝かせていた。
「姉ちゃん、ついにバトスピ復帰したの!? 何で何で!?」
「まぁ一言で言うなら焚きつけられたからかな。うちの学園の生徒会長さんと、もう一人結果的には母さんにも」
「どゆこと?」
ジト目で母を見る千紗と、また気まずそうに目を逸らす母の二人に剣斗は訳が分からない様子だが。
「まぁ何でもいいや! それより姉ちゃんがバトスピ復帰したなら俺ともバトルしてよ!」
「勘弁してよ。今日は色々ありすぎて疲れたんだから」
「えぇ~いいじゃん。一戦だけ、な! なぁ!!」
「また今度ね」
「姉ちゃんの今度っていつだよ!」
「二人とも落ち着いて。それより剣斗の方はどうだったんだ? 新しい学校での生活は」
「俺は問題ないよ。それに前んとこと違って面白い奴とも友達になれたし!」
引っ越し前日は同級生と喧嘩別れをしていた程だが、今は楽しそうな剣斗の様子に心配することはなさそうだ。
「それは良かった。剣斗も楽しそうで何よりだ」
「へへっ、また今度友達連れてきてもいいよね?」
「勿論。剣斗の友達がどんな子か母さんも知りたいし。剣斗だけじゃなく千紗も友達紹介してほしいな」
「いや、転校初日だし何人か話せる仲になったぐらいで、いきなり家に誘える訳ないでしょ」
「何だ。それじゃああの子にも会ってないのか?
「あの子?」
母の意味深な言葉、"あの子"とは誰の事を指しているのか不思議なように首を傾げている千紗。後に母からは千紗も良く知っている名前を聞かされ大いに驚くのであった。
***
『リーダーッ!!』
翌日、戦神乙女学園内の校舎裏にてたむろしている集団、その中心にリーダーと呼びかけながら駆け込む一人の女性。彼女等は学園生徒会長である舞華と対立する海音の支持派であり、そして駆け込む中心に座するのは当然。
『ようやく分かったか? 舞華をぶっ倒したっていう例の野郎について』
彼女達がリーダーとして敬う水原海音本人。海音からの問いに舎弟らしき人物は「野郎じゃないんすけどね」とツッコミを入れつつ自身が調べたであろう情報を海音に語る。
「成程、転校生で名前は天上千紗。聞き覚えのある名字だが、舞華に勝つってことはそれなりの腕前らしいな」
「で? どうするんすかリーダー?」
「決まってる。腕に覚えのある奴なら俺らのチームに引き込む! 勿論俺等のやり方でな!!」
海音のやり方、皆まで言わなくとも全員理解している。舞華の時と同様バトルによる実力行使だという意味を。この場にいる全員が海音に似通って血の気が多く、実力行使の勧誘役に皆が名乗りを上げようとするが。
『それならウチが行くよ』
「「「!」」」
奥から聞こえる低い声。誰よりも先に名乗りを上げたのは、血気盛んな周囲の空気を意にも介さず風船ガムを膨らませ、不良っぽくは見えるが覇気は無く無気力な態度が目立つ金髪の少女。
「おぉ! 来たかクロ!」
声を上げて金髪の少女を親し気にクロと呼ぶ海音、彼女も海音派閥の人間なのか、周囲の視線や海音に少しも物怖じずに気怠そうに「ちぃす」と挨拶しながら海音の隣に座る。
「また朝早くからガン首揃えて。相も変わらずご苦労さん」
「皮肉口はいい。それより昨日は顔も見せずに何してやがったんだ?」
「ちょい野暮用。色々忙しい身なんで」
「ったく、お前さえいりゃ舞華達に先を越される事もなかったのによ」
「ぷー……ウチだけ当てにされても困るし。ブラック労働か何かですか。労基じゃなくて、生徒会のお悩み相談案件かなこれ」
「御託はいい、それより噂の転校生の件、任せていいんだよな?」
「まぁやるだけやりますよ~……。やる気はないけどね」
「だったら何で立候補してんだよ!」
「そりゃね、適任なのはウチだけだろうし」
「適任?」
「まっ、なるようになんでしょ。とりまそーゆー事で」
「おい、まだ話は──」
話を最後まで聞かずひらひらと手を振りながらその場を後にするクロ。まだ言い足りないようにモヤモヤした感情を抱えながらもこれ以上呼び止めても無駄だと理解はしているので、小声で「任せんぞ」と後姿を見送った。
***
『えぇ!? 転校生が生徒会長に勝った!?』
一方で海音達だけでなく、昨日行った千紗と舞華が行ったバトルの話題は学園全体に広まっており、当然千紗のクラスでもその話題で持ちきりである。千紗のクラスメイトの一人、紫雨ホミカは驚くようなリアクションを取りながら同じくクラスメイトである翠とアキラから話の詳細を聞いていた。
「にゃっは~。いいバトルだったのに見逃しちゃうなんてホミカちゃん遅れてる~」
「だよなァ。面白かったのに居合わせてなかったのがもったいないぜ」
「しょ、しょうがないじゃん! こっちも今度のライブの練習で忙しいんだから。にしてもまさか転校生が……これじゃあ益々人気が転校生に奪われちゃうじゃん」
「人気とかは知らねェけど、注目集めたいならお前も会長とバトルすりゃいいじゃんか。勝てばお前も人気者だぜ」
「簡単に言ってくれるなこのバトルジャンキー! あたしにはあたしのやり方があんの!」
「へいへい、ほら噂をしてりゃ何とやら。ご本人のお出ましだぜ」
ホミカのツッコミを軽く流しながらアキラは視線を促すと、その先にはクラス委員である桃子と一緒に登校する千紗の姿。
「皆さんおはようございます!」
「委員長おはよ~」
「おはよ。相変わらず元気だな」
「私の取り柄ですから!」
翠やアキラとも仲良さ気に挨拶を交わす桃子。隣で見ていて相変わらずコミュニケーション能力の高さに感心している千紗だが、桃子と挨拶を交わした後に翠とアキラは千紗の方へと寄り。
「よォ、転校生。昨日は随分派手に暴れたもんだなァ」
「うんうん。私達も昨日のバトル見てたんだけどすっごい強いんだね~! 見てて楽しいバトルだったよ」
「あ、ありがとうでいいのかな? えっと」
「あぁ、そういやまだ直に挨拶してなかったか。オレは神鐘アキラ。アキラの呼び捨てでいいぜ」
「私は七雲翠、翠でも翠ちゃんでも好きに呼んでいいよ~」
「じゃあよろしく、アキラに翠。それから……」
千紗もまた二人に挨拶しながらも恐る恐る奥の方を見る千紗。彼女の視線の先はこちらに対してマスク越しでも分かる歯軋りしてる音を立てて、こちらを睨むように見ているホミカ。
「わ、私、何かあの人に恨まれるような事でもしました?」
「アレは気にしなくていいぞ。何時もの事だから」
「は、はぁ」
気にするなと言うには無理がある程鋭い視線だが、下手に声を掛けても藪蛇かもしれないのでとりあえずはアキラの言う通りスルーするしかなく、彼女の名前は後でアキラが教えてくれた。
「ねぇねぇ千紗ちゃんって呼んでいいよね! さっきの話の続きなんだけど、バトスピは昨日復帰したばかりなんだって?」
「え?」
「ゴモラとか珍しいスピリットも使ってるみたいだし、是非私も千紗ちゃんとバトルしてみたいな。何ならこの後──」
「翠さんそこまでに! 千紗さんが困惑してます!!」
詰め寄る翠への返事に言葉を詰まらせる千紗だが、助け舟の如く割って入る桃子。桃子に諫められ翠も少し落ち着いて申し訳なさそうに頭を搔く。
「にゃはは、ごめんごめん、困らせるつもりはなかったんだよ。ただ昨日のバトルを見た後だからテンション上がっちゃってね~」
「それはどうも。でも昨日勝ったのも偶然かもしれないし」
「ありゃ? そんなに謙遜しなくてもいいのに。会長に勝った千紗ちゃんの実力は皆が認めてるし。ねーアキラちゃん!」
「オレを"ちゃん"付けで呼ぶんじゃねぇ」
「あいたッ!!」
横目で隣に視線を向ける翠だが、彼女の呼び方に対し不服そうにチョップで黙らせるアキラ。ちゃん付けで呼ばれることが彼女にとっては苦手らしい。
「ったく。続けるぜ、翠も言ってたがうちの会長に勝った以上強いことは誰もが理解してる。だから胸を張っていいぜ、仮に会長が手を抜いてたとしてもなァ」
アキラの一言に一瞬ピクリと眉をひそめる千紗、彼女の反応に少しだけ口角を上げながら。
「まっ、ともかく強い奴は大歓迎って事だ。この学園の奴等全員、勿論オレも含めてなァ」
「!」
「機会があったら遊ぼうぜェ。お前のゴモラと戦えるの楽しみにしてるからよォ」
口調は穏やかだが千紗を見るアキラの目はまるで品定めをするかのようで、一瞬千紗にはソレが獲物を狙う狩人の如き殺気をも感じさせた。どことなく張り詰めた空気が漂う中、二人の会話を中断させるように丁度予鈴のチャイムが鳴り響く。
「話が過ぎたか。じゃ、また後でな」
「まったね~」
「う、うん。また」
先程までの狩人の様な目が嘘のように、陽気な笑顔を向けるアキラ。手をヒラヒラと振りながら翠と共に自席に戻り、千紗も緊張が解けたように二人に返事を返し、落ち着くように息を吐きながら彼女もまた自分の席に座る。
「ふぅー、何か朝からどっと疲れたかも」
「お疲れ様です。やっぱり昨日のバトルもあってすっかり千紗さん、注目の的ですね」
「変に目を付けられたって気がするけど」
「そんな事ないですよ。アキラさん達も言ってましたけど千紗さんを実力者として認めてますし、あの二人、特にアキラさんは根っからのバトル好きですから強い人が身近にいる事が、すごく嬉しいんだと思いますよ」
「はぁ~、私復帰したばかりだからお手柔らかにしてほしいんだけど」
「あはは、それは……どうでしょうか」
正直者な桃子が言葉を濁すあたり期待できないという意味だろう。少なくとも先程アキラから感じた殺気が加減知らずという事を物語っている。
「ところで千紗さん、話は変わるんですが今日の放課後に千紗さんに会いたいって方が」
「それって、昨日私のデッキを届けてくれた人?」
「そ、そうです! よく分かりましたね!?」
自分が伝える前に該当の人物を言い当てられ心底驚いたような表情を見せる桃子だが、千紗からすれば昨日の母親からの話で大方の事情は察しており、デッキを届けてくれたのが誰かも彼女にはもう分かっていた。
「もしかして千紗さんのお知り合いなんですか?」
「まぁ知り合いというか、色々とね」
「?」
何の事か分からずじまいの桃子だが、一方で千紗はその人物と会う事を期待しているのか口元を緩ませ、授業を受ける彼女達であった。
***
"~~♪♪♪"
授業を終えるチャイムが鳴り響く。授業を終えて教室を出ると真っ直ぐ屋上へ向かう千紗。屋上へと出る扉を開くと。
『おぃーっす』
気怠そうな声で手を振る金髪少女の姿があり、そして彼女の姿に千紗は嬉しそうに微笑みながら。
「クロ! 久しぶり!! 元気だった?」
「あー元気元気。そりゃもう見ての通り」
クロと呼んだ人物は紛れもなく今朝海音と話していた少女と同一人物であり、この学園内では初めて会う筈の彼女の顔と名を千紗は知っていた。
彼女の本名は牙威クロ。彼女の父親である牙威ミナトと千紗の両親は旧知の中であり、その縁で千紗もクロと出会い、幼少期から知り合った幼馴染である。
「まさかここでまたクロと会えるなんて、小学校以来だよね」
「そー。アンタのお父さんとこの都合で引っ越しちゃうから寂しかったよー。アンタ以外に気さくに話してくれる友達もいなかったしね」
「ウチってばコミュ力高めの筈なのに」と口数の多さとは裏腹に覇気のない低トーンで愚痴るクロに「ソウダネー」と棒読みな返事を返す千紗、本人は至って真面目なので野暮なツッコミはあえてしない。その後も彼女から聞かされる友人関係による苦労話にも同様に対応して暫く、話題を切り替えて。
「えっと、母さんから聞いたけど昨日私のデッキ届けてくれたのクロなんだって?」
「まぁね。元々はアンタんとこのお父さんからウチの親父に相談してたみたいだよ」
「父さんが!?」
「そ。ウチの両親達仲良いからね。それでどうやったら娘のバトスピ嫌いを治せるかって、かなり昔からやり取りしてたよ」
互いの両親は学生時代からの友達という事は知ってはいたが、自分の事で相談し合ってたなどとは千紗には初耳だった。改めて両親にずっと心配をかけ続けたことを反省する。
「そんなに前からなんて……じゃあもしかして私をこの学園に入学させたのも?」
「いや、ここを紹介したのはまた違う人みたい。互いの両親の共通の知人らしいけどそこはウチも分からん」
「共通の知人、か。誰の事だろう」
「まぁそれは別に気にしてもしゃーないでしょ。それより話を戻すけど、丁度昨日ウチの親父宛に連絡があってね。もしかしたらトラウマ克服のきっかけになるかもだからデッキを届けてくれってさ。だから親父経由でウチが受け取ったって訳。渡すタイミングはどうするか考えもんだったけど、都合よく生徒会連中がアンタに接触してたからね。それに便乗させてもらったって訳」
「成程。でも何でクロ自身じゃなくて桃子に渡して持ってこさせたの?」
「んー、そりゃだって幼い頃の幼馴染と久々の再会だよ? もっと違う形でサプライズしたいってもんでしょ……けど、バトルの後学園中お祭りか~ってぐらい大騒ぎだし、当人はとっとと帰っちゃうし」
「うっ! それは……。」
あのバトルの後、多くの生徒達から逃げ帰るようにそそくさと退散し後の対応は生徒会に任せっきりにしており、記憶を振り返りながら冷や汗を流す千紗。
「おまけに昨日の今日でウチのリーダー達も、慌しくなっちゃうしさ」
「リーダー?」
「あっ、そういやまだ言ってなかったね。昨日アンタが戦った生徒会、そこと対立してる海音の派閥に入ってるから」
「クロが海音さんの派閥に!? 何で!?」
一人が好きという訳ではないが周りに流されず自分の中で独自の世界を持ち特定のグループや集団に属さない、昔からクロを知る千紗の印象。だから彼女が海音派閥という事に驚かずにはいられなかった。
「まぁ話せば色々あんだけど、この話田舎のバスの待ち時間並みに長いからまた今度。それより話変わるんだけど、アンタにもう一つ別件があってさ」
「別件?」
「まずこの学園ではウチのリーダー達と生徒会派閥が対立してるのは知ってるよね?」
「うん。その為に今は自分達の派閥の人を増やそうと躍起になってるってのも聞いた」
「そうそう。で、今アンタはウチらのチームの中でも話題になってる訳、あの生徒会長の舞華に勝った人間として」
「!」
「当然リーダー達ももうアンタに目をつけてる、そして今日海音派閥のウチがアンタに会いに来た。これがどういう事か分かるよね?」
「……」
丁寧な前置き、これでは否が応でも察せずにはいられない。先程までの穏やかな空気が変わり千紗も表情を少し強ばらせる。
「要するにクロ直々の勧誘って事、だよね」
「そゆ事。まあ他の奴ならいざ知らず昔の親友とあっちゃ行くしかないよねって」
「クロ、私は──っ!」
「ストップ」
「!?」
答えを言おうと瞬間、手を突き出して言葉を遮るクロ。
「そう焦りなさんなって。アンタも言いたい事はあるだろうけど、今はもうアンタもバトスピに無事復帰してカードバトラー同士。再会記念も兼ねてこれで話し合わない?」
デッキを構えて千紗の前に突き出して見せるクロ、問答無用と言わんばかりの申し出に対して千紗は。
「……いいよ。受けて立つ!」
「おっ、そう来なくっちゃ。じゃ早速」
千紗を連れて向かう先はバトルパーク、ステージの上に立って互いにデッキを構える。
「わざわざここを使う必要あった?」
「まぁまぁ折角の再会記念、雰囲気は大事じゃんね」
口元だけ緩ませた笑みを浮かべながら、彼女は言葉を続け。
「実を言うとさ、もっと早くアンタとは戦ってみたいと思ってたんだよね」
「!」
「でもバトルはトラウマっていう話を聞いてたから無理には誘えなかったんだけど、それでもいつか戦ってはみたいと思ってたし。ウチの親父達の提案に協力したのもそれが理由」
「……随分待たせてごめんね」
「謝んなし。ここまで来たらそんな今までの事なんてどうでもいい。こっちが期待するのは満足のいく勝負だけだから」
「分かった。期待通り全力で行かせてもらうよ!」
「そうこないと。でも気合が空回りしないよーにね」
「クロの方こそ、油断してあっさり私に負かされないでよね!」
「ヘぇー、言ってくれるじゃん」
お互いに軽口を叩きながらも、それは互いが互いに期待している証拠。準備は万全とばかりに二人はバトル開始のコールを宣言する。
「「ゲートオープン界放ッ!!」」
────第1ターン、クロside。
「そんじゃやりますか。メインステップ、異海人シャークマンを召喚、召喚時効果で海帝国の秘宝を配置し、配置後にボイドからコア1個を海帝国に追加しレベルアップ。これで終了」
「青のスピリットにネクサス、青デッキが相手か」
「そ。アンタまだ青デッキ相手初めてでしょ。百聞は一見にしかず、かかってこーい」
(Resource)クロside。
[Hand]4枚。
[Reserve]0個
[Trash]3個
[Field]異海人シャークマンLv.1(1)BP2000、海帝国の秘宝Lv.2(1)。
クロからの先行で開始されるバトル。序盤から堅実に場を固め千紗の出方を窺う。
────第2ターン、千紗side。
「私のターン、破壊された城をLv.2で配置。ターンエンド」
舞華の時と同様に序盤はネクサスを配置したのみでターンを終える千紗、お互い最初のターンは様子見という形で終わり、静かな睨み合いが続く。
(Resource)千紗side。
[Hand]3枚。
[Reserve]0個
[Trash]3個
[Field]破壊された城Lv.2(2)。
────第3ターン、クロside。
「ネクサスだけ配置して終了ね。じゃ先にこっちが動こうかな、バルカンバイソンLv.2で召喚。不足コスト確保でシャークマンは破壊」
シャークマンは天を仰ぎ見ながらフィールドから消滅し、入れ違いになるようシャークマンが先程までいた場にドスンと重音を響かせながら着地するバルカンバイソン。
「そんじゃアタックステップ。バルカンバイソン、行ってきー。アタック時効果で【強襲】発揮」
「!」
「ネクサスを疲労させることで回復」
青特有の効果、【強襲】。海底国の秘宝を疲労状態にし、力を吸い上げるかの如く回復しバルカンバイソンのカードがスタンドする。
「バルカンバイソンの効果、自分の【強襲】の効果でネクサスが疲労した時、デッキから2枚引いた後、1枚破棄。加えて、海底国の秘宝Lv.2の効果で青のスピリットの効果で破棄する手札の枚数を-1に」
「つまり2枚ドローって事? ズルじゃん!」
「そー言わてもしょうがないし。ともかくメインのアタックだよ」
「ッ! ライフで受ける!」
足元の銃火器を持ち上げて構えると、砲門が音を立てながら回転し、薬莢を足元に散らしながら弾丸を撃ち放ち、銃弾が展開されたバリアへと炸裂する。
「くッ!」
「回復してるバルカンバイソンで再攻撃。もう一回行ってきなー」
気怠そうなクロとは正反対に繰り出される攻撃は苛烈。バルカンバイソンは吼えながら構え直すと、再度バルカンを起動させ弾丸の雨を浴びせるかの如く展開されたバリアに大量の銃弾を喰らわせ破壊。
(千紗)[Life]5→3。
「はいターン終了。じゃそっちの番どーぞ」
(Resource)クロside。
[Hand]5枚。
[Reserve]0個
[Trash]3個
[Field]バルカンバイソンLv.2(2)BP7000、海帝国の秘宝Lv.2(2)。
────第4ターン、千紗side。
「ドローステップ、破壊された城Lv.2の効果で2枚ドロー……!」
「(あの様子、来たみたいだね)」
引いた内の一枚に反応して見せ、場の空気が変わり始めた事をクロもまた察する。
「こっから反撃、行くよクロ!」
構える手札の一枚、言うまでもなく千紗のキースピリットであるゴモラのカード。
「太古より生まれし古代の龍!! 硬き角で敵を貫け! 強靭な尻尾で薙ぎ払えッ!! 古代怪獣ゴモラ、Lv.2で召喚ッ!!!」
大地を揺るがす振動と共に響く龍の雄叫び、亀裂を走らせ強靭な角で地面を突き破って飛び出す巨大な龍の姿────古代怪獣ゴモラがバトルフィールドへと来征する。
「来たね。噂のキースピリット、これまた迫力ある姿だこと」
「クロに見せるのは初めてだよね。手加減抜きでゴモラと一緒に勝ちに行かせてもらうよ」
「言ってくれるじゃんね。なら遠慮なく来なよ」
「勿論!」
勢いのままにアタックステップを宣言しゴモラもまた準備万全と言わんばかりに咆哮を上げる。対してクロは依然その声に覇気は伴っていないものの、表情は対極的に口角を上げ、千紗達の攻撃を楽しみに待っているかのような様であった。
「ゴモラでアタック! アタック時効果で私のネクサス、破壊された城を破壊し1枚ドロー! さらに"城"の名を持つネクサスを破壊した事でゴモラは回復! そして破壊された城の効果! このネクサスの破壊時、BP10000以下の相手スピリットを破壊ッ!」
足元の破壊された城にフルスイングの如く尻尾を振るい叩き壊すと、勢いよく弾け飛んだ瓦礫がバルカンバイソンの真上に位置して降り注ぎ、咄嗟に銃を構えて連射するも巨大な質量をもつ瓦礫を前に、銃弾は瓦礫を砕く事も弾く事も叶わず巨塊に圧し潰されバルカンバイソンは爆発四散。
だがゴモラの攻撃はまだ終わっていない。巻き起こった爆風を突っ切って飛び出すと、クロ目掛けて猪突猛進。即座に展開されたバリアに真っ向からぶち当たって粉砕する。
「痛ッつーーっ! こりゃ堪らんわ……投了してぇ」
強烈なゴモラによる一撃、流石に堪えたのか愚痴のような言葉を零すが、クロの様子に千紗は少しだけ笑いながら。
「ソレ、本気で言ってる?」
「……まっ、来いって言った手前匙は投げられないしね。いいよ、やったげる」
「そう来ないと。だったらゴモラ! もう一度アタックして!! アタック時効果で今度はそっちのネクサス、海底国の秘宝を破壊して1枚ドロー!」
千紗の指示にゴモラは構えると、角は光り輝いてエネルギーを収束。必殺技である超振動波を海底国の秘宝に撃ち放ち、エネルギー弾による直撃に海底国の秘宝は木っ端微塵に大爆発。間髪入れずにゴモラは駆け出し、今度は振りかぶって尻尾による一撃をバリアへ打ち込んで、亀裂を走らせながらバリアが粉々に砕け散る。
(クロ)[Life]5→3。
「私はこれでターンエンド」
「ッ!! 再会した旧友に容赦ないねホント。鬼も悪魔もビックリの所業だよ」
「遠慮なく来いって言ったのはクロの方でしょ?」
「あー、その言葉今から訂正してもいい?」
「ソレも本心じゃないでしょ? だってクロ、笑ってるよ?」
「そりゃお互いに、ね」
悪態をつきながらも今のバトルを楽しんでいるのは事実であり、千紗もクロも互いの言葉に決して否定はしない。けれどそれ以上にカードバトラーとして、目の前の相手に勝ちたいと思う気持ちはより強く滾り。
(resource)千紗side。
[Hand]6枚。
[Reserve]0個
[Trash]5個
[Field]古代怪獣ゴモラLv.2(3)BP9000。
────第5ターン、クロside。
「さてこっちの盤面は更地。どうしたもんかねこりゃ」
現在の状況は誰が見ても千紗の優勢。ここからどう巻き返すか思考を巡らせながら迎えるドローステップ。デッキからカードを1枚手札へと加えると、先程の千紗同様、引いたカードにクロも目の色を変える。
「……どうやらこっちにも流れが来たかな」
「!」
「こっから仕切り直させてもらおうか。敵の矛も盾も嚙み砕く三つ首の蒼獣、戌の十二神皇グリードッグLv.2で召喚っと」
フィールド中央に轟音を立てながら出現したるは巨大な煉獄の門、青き炎を灯しながら門は開かれ、中には鎖に繋がれた獣の姿。鎖に繋がれた三つ首の獣は吠え立てながら鎖を力一杯引っ張り、鎖を強引に引き千切ると、煉獄の門を飛び出す獣────グリードッグがフィールドを駆け抜ける。
「な、何そのスピリット!?」
「アンタのゴモラ同様私のキースピリットだよ。最も仮のだけどね」
「仮?」
「そ。私はアンタみたいに"これだ!"って思うようなキースピリットにまだ出会えてなくってさ。そんな私に親父がグリードッグを託してくれてさ、キースピリットと思って此奴を使いこなして見せろって。で、まだ私自身のキースピリットは見つかってないけど今はこの子が自慢の相棒」
「そっか、なら相手にとって不足無しだね!」
「それもまたお互いにね」
グリードッグに視線を向けながら語り、仮とは言いながらもグリードッグに向ける信頼度は、千紗とゴモラのソレと同じ。互いの主力スピリットが揃い、ここからが勝負の本番である。
────第6ターン、千紗side。
「私のターン、バーストセット。さらにゴモラをLv.3にアップしてネクサス、焔竜の城塞都市を配置。これでターン終了」
「……攻めてはこない。まっ、当然か」
相手のグリードッグはゴモラをも凌ぐBP15000。キースピリットが返り討ちに遭うと分かってて無暗に攻撃する訳には行かず、今は守りを固める事のみに徹するしかない。
(resource)千紗side。
[Hand]5枚。
[Reserve]0個
[Trash]4個
[Field]古代怪獣ゴモラLv.2(5)BP12000、焔竜の城塞都市Lv.1(0)
────第7ターン、クロside。
「カウンター狙い、とて見ていいのかな。でも分かってる? グリードッグの前じゃ生半可な守りは意味ないよ」
「!」
「グリードッグは敵の矛も盾も嚙み砕く獣。今それを思い知る事になるよ」
意味深な言葉と共にグリードッグは唸り声を上げ、着々とターンシークエンスを進めていくクロ。
「グリードッグをLv.3にアップ。準備はこれで上々。アタックステップ、グリードッグ行っておいで」
主の指示にグリードッグは天を仰いで咆哮を上げると、牙を剥き出しに千紗へと向かって駆け出して行く。
「さぁグリードッグの真骨頂はこっから。アタック時効果で【封印】発揮」
グリードッグの上に置かれたソウルコアが転送されるかの如く、グリードッグの目前に出現。躊躇いなく出現したソウルコアを咥え取るとクロへと向かって投げ込み、ソウルコアがクロのライフへと収まる。
(クロ)[Life]3→4。
「ソウルコアを!?」
「これがグリードッグ、十二神皇が持つ固有効果の【封印】。所謂特権だね、でも【封印】の効果はあくまで前準備、本命はこの後だから」
「!!」
彼女の言う通りソウルコアをライフに移す【封印】の効果は十二神皇が力を使う為の第一段階に過ぎず、グリードッグは眼光を輝かせ、さらなる力を解き放つ。
「封印時の効果、グリードッグの【強奪】発揮! 相手手札を見てマジックカードを奪い取るからね」
「ッ!?」
千沙の手札のカードが全てフィールド上に公開され始め、公開されたカードの中にはマジックカードである「双翼乱舞」と「ブリザードウォールLt」の2枚が。
「はい、それ没収ー。グリードッグやっちゃって」
グリードッグは大きく跳躍し、公開されているブリザードウォールのカードへと喰らい付くと、深々と牙を突き立て粉々に噛み砕く。
「最後にグリードッグLv.3の効果、アタックステップ中に相手の手札が減った時、系統「神皇」を持つグリードッグは回復。そしてメインのアタック」
飛び上がったグリードッグが今度は千紗に牙を向けると、展開されたバリアに飛び付いて三つ首の牙がバリアを噛み裂き破壊する。
「くぅッ!!」
単純な肉弾戦による攻撃、だが受けたダメージはバルカンバイソンの比ではない。強烈な一撃に思わず吹っ飛ばされそうになるが。
「……やっぱ、強いねクロ。けど私だって、負けてられないッ!! ライフ減少時、トラッシュにあるブリザードウォールLtの効果を発揮ッ!」
「!?」
衝撃に耐えて勝気な笑みを見せながら宣言。先程グリードッグが破壊したブリザードウォールのカードが復活するかのように再びフィールドへと出現。
「ブリザードウォールLtはトラッシュにある状態で相手からライフを減らされた時効果を発揮できる! その効果でトラッシュにあるコアを全てリザーブに戻した後、フラッシュ効果を使用!」
ブリザードウォールのカードから放たれるは文字通りの猛吹雪。凍てつく冷気がフィールド全体へ広がって行く。
「フラッシュ効果でこのターン、私のライフは相手のアタックでは1つしか削れない。さぁどうするクロ?」
「ん〜……あと一つ、なら当然削れるだけ削りに行くっしょ。グリードッグ」
吹雪に見舞われながらもグリードッグは動じない。名を呼ばれグリードッグは遠吠えを上げながら、吹雪の中を駆け出し、再び千紗に牙を向ける。
「グリードッグの【強奪】の効果でまた手札のマジックカードを奪い取らせてもらう」
「くっ!」
「アンタの手札にはまだ「双翼乱舞」が残ってる。なら奪い取るのはそれ一択っしょ」
グリードッグが飛び掛かり、宣言通り双翼乱舞のカードを奪い取るともう一度牙を突き立て、粉々に噛み砕く。
「さらにグリードッグの効果。【強奪】で奪ったマジックの効果を自分が使用できる。双翼乱舞の効果を使わせてもらう」
噛み砕かれた破片が赤くグリードッグに舞い散り、力を吸収したかのように眼光を輝かせると、双翼乱舞をクロのカードとして扱い、双翼乱舞の効果により2枚ドローした後。
「グリードッグは再び回復からのメインアタック。ライフをもう一ついただくよ~」
グリードッグがその場で構え口を開くと、三つ首から放たれる青き破壊光線。強烈なエネルギーの塊がバリアへ直撃し、大爆発と共に千紗のライフを砕く。
「うああああッ!!」
(千紗)[Life]3→1。
「残りライフ一つ、どうやら勝負あった──」
勝利を確信するかのような台詞、ソレを口走りかけた時思わず彼女の口が止まった。クロの視線の先には追い詰められ完全不利な筈なのに未だ闘志尽きぬ目で口角を上げる千紗の姿。千紗の表情を前にクロもまた同様に笑って。
「訳ないよね~。アンタの諦めの悪さ、昔から……親譲りなのかな」
「どうだかね。けど、こんな楽しいバトル! 降りられないって言うのが主な理由かな。それに私まだ、負ける気なんて全ッ然ないし!! ライフ減少時でバースト発動!」
「!」
「三札之術!! バースト効果はBP4000以下の相手スピリットを破壊、そしてコストを支払う事でメインの効果を使用! デッキから2枚ドローした後、3枚目を捲って赤のスピリットカードなら私の手札にッ!」
バースト効果は破壊対象が無く不発に終わるものの千紗の狙いはグリードッグに減らされた手札の補強。2枚のカードを加えた後、3枚目のカードがオープンされ。
「捲ったのは「どくろ怪獣レッドキング(二代目)」! 赤のスピリットカード、よって手札に!」
「成程。ただじゃやられないって訳か」
逆転の手を引いたのか将又ブラフか、依然強気に笑う千紗。対してクロには続けてグリードッグで攻めるか否かの選択肢が残されるが。
「……ハァ~、これ以上は攻めれそうにないし、ターンエンドだよ」
ブリザードウォールでもうライフは削れず、【強奪】で手札を狙いに行くのもリスクが高いと踏んだのだろう。危ない橋は渡らず堅実に判断。実際BP22000のグリードッグがブロッカーとして残るというだけで牽制には十分であろう。
(resource)クロside。
[Hand]5枚。
[Reserve]4個
[Trash]0個
[Field]戌の十二神皇グリードッグLv.3(4)BP22000。
「さて増えた手札でアンタがどうすんのかお手並み拝見させてもらおうかな。その代わり」
「うん。次の私のターンで反撃できなかったら私の負けだね」
「そゆこと。まっ、気張って見せなよ」
「勿論!」
煽るようなクロの一言だが、千紗からすれば逆に闘志を燃やさせる言葉。クロ自身も敵に塩を送る真似だと分かっていながらも、親友として、何よりカードバトラーとしてここからどう逆転して見せるのか本心では期待していた。
「(見せてみなよ千紗。アンタの今の実力を)」
────第8ターン、千紗side
「メインステップ! ゴモラをLv.2にダウン! そして行くよ!!」
レベルダウンによる力の減少にガクッと肩を落とすゴモラだが、キースピリットのレベルを下げてまで呼び出すは戦局を変えるに足る新たなエース。
「怪力無双の剛腕暴君! どくろ怪獣レッドキング、Lv.3で召喚ッ!!」
フィールド後方から駆け寄る巨大な足音、荒々しい鳴き声を上げながらバトルフィールドへと現れるは怪獣の中でも随一の喧嘩っ早さと血の気が多い荒くれもの。戦う事を何より好み、敵であるグリードッグの姿を見るや両拳を打ち付け、今か今かと殺気立って見せる。
「ゴモラに続いてこれまたゴツイのを」
「新しい私のエース! ゴモラと同じ自慢の仲間にして、この戦況をひっくり返せるスピリット!」
「……へぇー、グリードッグに太刀打ちできると?」
「そのつもりだよ! アタックステップ、レッドキング! アタックッ!!」
待ちに待った攻撃の合図にレッドキングは嬉しそうな雄叫びを上げ、拳をグルグルとぶん回しながら駆け出し、真っ向からグリードッグへ突っ込む。
「レッドキングのアタック時効果! グリードッグへ指定アタックし、ソウルコアがこのスピリットに置かれていることでさらにBP+5000!」
「そりゃ幾らなんでも安直だね。グリードッグでブロック、そしてブロック時に【強奪】の効果を発揮」
「させないよ!」
グリードッグは再び千紗の持つ手札に向かって飛び掛かろとするが、飛び上がるグリードッグの尻尾をレッドキングが掴んで引き剥がすように前に放り投げる。
「【強奪】を、防いだ!?」
「レッドキングの効果、Lv.2、3のアタック時、このスピリットをブロックしている相手スピリットの効果は発揮されない!」
「!」
「こっからは正真正銘の肉弾戦、レッドキング! 行けぇッ!!」
レッドキングは両腕を地面へ叩き付け、衝撃で砕けた岩が地面から堀り起こされると足元の岩をサッカーボールかの如く蹴とばしグリードッグに向けて飛ばして行く。
「【強奪】を封じるパワープレイ、やるねぇ~……って言いたいとこだけど、まだ甘いね。肉弾戦にしろBPはまだまだグリードッグが上。反撃やっちゃいな」
クロの言葉通りBPがプラスされていてなおレッドキングのBPはグリードッグに及ばない。グリードッグが蹴飛ばされた岩に対して避ける素振りも見せず、破壊光線を放って迎撃。岩を粉々に爆散させると、今度は標的をレッドキングに定め一気に接近し距離を詰め、仕留めるべく襲い掛かるが。
「甘いのはそっちだよ! 【強奪】が使えない今なら、遠慮なくこのカードが使える! フラッシュタイミング、マジック! ソウルオーラ!! レッドキングをBP+6000!! これでレッドキングは合計BP24000!!!」
「!」
飛び掛かるグリードッグをガッチリと掴み、多少足を引き摺らせながらも真っ向から完全に受け止めるレッドキング。止められてなお牙で喰らい付こうと迫るグリードッグだが、咄嗟に掴んだ腕を離して突き飛ばすと、腕を構えグリードッグの首元に強烈なラリアットを叩き込む。
息が止まる程の一撃にグリードッグは横転し、すぐに立ち上がろうとするがレッドキングは腕を振り回しながら既に二撃目の構え。グリードッグのどてっ腹に渾身のアッパーを喰らわせ遥か上空にまでぶち上げ、グリードッグは悲鳴を上げながら上空で爆散し、爆風を見上げながらレッドキングは勝利の咆哮。
「ウチの、キースピリットを……!」
「焔竜の城塞都市の効果、相手スピリットの破壊により1枚ドロー! そしてもうクロの場にブロッカーはない! ゴモラ、アタックだよッ!!」
もうゴモラの障害となりえる敵はいない。アタック時効果により自身のネクサスを破壊し「城」の名が含まれる焔竜の城塞都市を破壊した事で再びゴモラは回復。
「……ちょーっと驚いたけどそれだけ。私のライフは4つ。ゴモラの再アタックを合わせても削り切るには至らないよね?」
キースピリットを破壊され一瞬動揺の顔色を見せてはいたものの、すぐさま切り替えて冷静に状況を述べる彼女。このターンを凌いで逆転を図っているのだろうが、だがそれは千紗も理解していて。
「次のターンは渡さない。このターンで決め切る! 不足コストをレッドキングから確保する事でフラッシュ、クヴェルトウールヴ!」
「!」
「手札にある赤のブレイヴ、砲竜バルガンナーを召喚してゴモラに直接合体ッ!!」
バトルフィールドへ飛び出すバルガンナー。鳴き声を上げながら自身を砲台と化し、パーツの一部として変形させると変形した砲台はゴモラの背に装備され、合体スピリットとなった事でより強靭に、勇ましい咆哮を上げる。
「合体スピリットはダブルシンボル! ライフを二つ破壊する!!」
”グオオオオオォォォォォ────ッ!!”
砲台にエネルギーを最大まで溜め込みぶっ放すと、強烈な二つの砲弾がバリアへと撃ち込まれ爆炎を巻き上げながらクロのライフを二つ破壊する。
「くぅ……ァッ!!」
痛みに声を上げながらも衝撃を受け切るクロだが、回復状態のゴモラは既に二撃目の態勢に入っており。
「……やれやれ、ウチの負けか。ここまで頑張ったのに報われないなぁ」
溜息を零しながら一言、だがすぐに彼女は口元を緩ませて。
「まっ、久々にアンタと戦えたし悪く無いバトルだったかな」
「相変わらず素直じゃないなー」
「憎まれ口叩く性分だし、それより決めるなら早く決めろし」
「分かってるよ。でもこれだけは言わせて……楽しいバトルだったよ! クロ!!」
「ウチもね」
お互いに笑って言葉を交わすと最後の攻撃指示を下し、ゴモラは砲撃と自身の角による超振動波を同時に撃ち放ち、残る二つのライフを破壊しバトルに決着をつける。
***
「で? 結局ウチの派閥には加わってくんないの?」
「それって普通私に勝ってから勧誘するんじゃないの?」
「別にバトルの勝敗によって勧誘どうこうするなんて一言も言ってないし」
バトルを終え疲れた様にその場に座りながらしれっと海音の派閥に誘うクロ、「ちゃっかりしてるな」と苦笑いして呟きながら。
「でもごめん。まだ転校したばかりでよく分かってないって言うのもあるけど、派閥とかそういうのに加わる気にはなれないかな」
「だよね、アンタ束縛とか嫌いそうだし。まぁ無理にとは言うまい」
「え? いいの?」
負けてなお自分を誘うぐらいだからもう少し食い下がると思いきや、素直に引き下がるクロに思わず千紗も気が抜けたような声で聞き返した。
「本音言えば入ってほしいけどね。アンタをスカウトする役を買って出た訳で、失敗したなんて言ったら大目玉だし」
既に先の事が予想付いているように溜息を吐く彼女だが、「でも」と言葉を続けながら口元を緩ませて。
「友達の嫌がる事を無理に押し通すほど非情じゃないよ。それともそっちにはウチが血の涙もない無愛想な毒舌ギャルにでも見えてる?」
「思ってない! 思ってないから!!」
力強く首を横に振って否定するが、一部自分を客観視してるかのような物言いに一瞬頷きかけたのは内緒である。
「あれ、でもさっきバトルの勝敗は関係ないって言ってたけどもし私が負けたとしても無理に派閥に入れる気は無かったって事だよね。だとしたらただ単にバトルしたかっただけって事?」
「そーいう事になるのかな」
千紗の疑問にまたもあっさりと回答しながら最後に笑って。
「今日は付き合ってくれてありがとさん。またその内勧誘に来るよ」
「うーん、それはちょっと……。バトルなら何時でも歓迎するけど」
「了解。なら次バトルする時までに私も自分自身のキースピリットを見つけるかな。アンタのゴモラに負けないぐらいのをさ」
「オッケー、楽しみにしてるよ」
最初は気怠そうな態度だったクロも心無しか楽しそうに会話を弾ませ、お互い笑って次のバトルの時を心待ちにしながら手を振って別れる彼女達であった。
***
『へぇ~、生徒会長に続いて海音の片腕に勝っちまうか。分かっちゃいたがやっぱ実力は本物だなァ』
千紗にはまだ知る由もない事だがバトルパーク内で行われるバトルの様子は全てライブ配信で中継されており、学園内の生徒なら誰でも閲覧が可能。屋上で一人、神鐘アキラもまた自身の携帯から配信を眺めていた。
「ホント面白れェ奴。オレも早くバトりてぇなァ」
血が騒ぐように目を鋭く、自分もまた彼女と戦う事を強く願いながら呟くアキラだが。
『だったら俺が相手になってやろうか』
「!」
大きな音を建てながら屋上のドアが開き顔を出す人物、現れたのは先程名を述べた水原海音本人であった。
「海音ッ!?」
「よォアキラ。その様子だと、さっきまでお前も配信見てたんだろ?」
「……まぁな。生徒会長だけでなくお前も転校生を仲間に引き込むつもりだったんだろうが、バトルの結果を見るに失敗しちまったようだな」
「後でクロには喝を入れるつもりだ。だがまぁそんな話はどうでもいい。俺が最も仲間に引き入れたいのは、転校生以上に……お前の方だよ。アキラッ!!」
「!」
冗談等ではない海音の本気の目。これがただの一般人なら視線から感じる圧倒的プレッシャーに息苦しさを覚えるが、アキラは頭を掻きながら圧など微塵も感じていないように溜息を吐き捨てる。
「その話なら何度も言ってんだろ。オレは生徒会にもお前にもつくつもりはない。今まで通り群れずに一匹狼でやらしてもらう」
「つれねぇ事言うなよ。俺とお前が組めば生徒会の奴等なんて簡単に蹴散らせる。そうすりゃ俺等の天下、それに何の問題があるんだよ」
「問題大有りだ。仲間になれなんて体よく言ってるが、ようするにお前の下につけってことだろ?」
「不服か?」
「ったりめェだろ、オレが目指してんのはトップだけ、テメェも転校生も全員超えた先だ」
海音にも負けない程覇気を込めた目、睨み合う両者に周囲の空気がひりつく。
「相変わらず生意気な奴だが、それでこそだ。それで? 俺を超えると抜かすからには試して見るか? 今ここでッ!」
一発触発の雰囲気、デッキを入れた懐に手を掛ける素振りの海音、対してアキラもまた鼻で笑いながら同様にデッキを取り出そうと懐に手を掛け。
「その手に乗るかよバーカ」
「!?」
懐から取り出したのはデッキではなくまさかのクラッカー。筒を引っ張り派手な音と飛び出す装飾で目を晦まされ、海音が振り返った時にはもうアキラは屋上扉に手を掛けていた。
「テッメェ! 逃げんのかよ!!」
「何とでも言ってろ。今はまだお前とやる気はねぇ。こっちにも準備ってもんがあんだ」
「準備だぁ?」
「そうそう。それが終わったらこっちからテメェに挑みに行ってやるよ」
「眠くなるような事言いやがって、こっちは今すぐやる気で来てんだぞ!」
「そりゃお前の都合だろ、オレを巻き込むなっての。ともかく心配しなくてもお前とは何れ戦うつもりだ……あぁ、でもこれだけは言っとくぜ」
「あ?」
「勝つのはオレだ。ソレを忘れんじゃねぇぞ」
宣戦布告の言葉、端的に告げた後「じゃあな」と扉を開けて立ち去っていき、彼女の後姿に海音は。
「……言いたい事だけ言いやがって相変わらず生意気な奴、けどそれでこそだ。必ずテメェを打ち負かして、俺の下に跪かせてやるからなッ! お前の方こそそれを忘れんじゃねぇぞ!!」
アキラの宣戦布告に対し返り討ちにせんとばかりに叫ぶ海音の怒号。彼女から感じ取れる殺気と気迫はアキラを凌駕する程だった。一方でアキラは振り返る事なくその場を離れ、ある程度距離を置いた所で足を止めて一息。
「相変わらずおっかねェ奴。負けたら奴隷にでもされちまいそうだ。負ければ、だがな」
恐れているような台詞を吐きながらも、口角を上げた表情が負ける気等毛頭ない事を物語っている。豪胆不敵に笑いながら彼女は再び携帯を取り出して。
「安心しろよ海音、オレは準備にそう時間を掛けるつもりはねぇ。でも生憎先に戦いてェ相手はもう決めてんだよ」
画面に映るのは千紗の姿。既に彼女は千紗を標的と見定めている事に他ならず、学園で起こる戦いの火種はさらに大きく燃え広がりつつあった。