<焔神槙治と緋茜拓海>
――――春風吹き荒れる幻想郷は今日も晴天だ。
焔神槙治は守矢神社の境内でお茶を飲んでいた。彼は陰陽師である。幻想郷は大きく変わっている。男性を起用した仕事、そして巫女と共同で作業を進める陰陽師という存在……彼、焔神槙治もその一人である。
「ふぅ……今日もまたいい天気だねぇ~」
槙治はにこやかにほほ笑みながら煎餅を食べる。今日はほぼ参拝客はないといっていい。明日執り行われるとあるイベントを前にし、皆張り切っているのだろう。槙治も心を躍らせている。
その概要は「腕自慢大会」。幻想郷の中で強い人たちを決める催しものらしい。開催者は無論、紫。外の世界の大会を参考にしたらしい。
槙治が煎餅を食べていると、階段を駆け上って二人少年少女が姿を現す。槙治は二人に気が付くと気楽な表情で手を振った。
彼らは緋茜拓海と神谷詩乃。槙治の友人である
「槙治さーん!」
「拓海くんじゃないかぁ~。どうしたんだい?」
槙治に拓海と呼ばれた少年は息を切らしながら言った。
「槙治さんッ。聞きました? 大会にスカーレット姉妹がエントリーしたって」
「……えっ?」
「これこれ、これ見てくださいってば」
拓海が見せたのは猛々しく号外と書かれた文々。新聞だった。そこには確かに、日傘をさしながら陽気に微笑むレミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの存在があった
槙治と拓海は揃って冷や汗をかいた。ぶるぶると震える二人に、拓海とともに来た少女が声をかけてくる
「それでも、闘技場じゃあ本来の力を出せないはずです。勝機はありますって!」
「うぇえ……そんなこと言われてもなぁ。詩乃ちゃん、あの人らの恐ろしさを知ってるかい……?」
「えっ」
「俺、一度招待されたから行ったらフランさんの遊び相手を任されてね……ほら、これ」
槙治は苦笑しながらも右腕の包帯を解く。その右手には最近ついたであろう物々しい火傷跡がついていた。詩乃はそれを見ながら唖然とし、拓海は「痛そう」とぼやく。
「す、すみません……」
「いやぁいいんだよ。それより拓海君と詩乃ちゃんは組むの?」
「ですね、俺と詩乃でタッグを組んで出場するつもりです」
「そいつは楽しみだねぇ。俺は早苗先輩と守矢神社を代表してタッグで出場するよ」
「早苗さんですか! キッツそうだなぁ……もし俺らと当たったら手加減してくださいよ?」
「はは、手加減はしないさ」
「ひえ~」
槙治は苦笑い。拓海はとほほとつぶやきながらも笑う。
「じゃ、明日会おう」
「はい、負けませんよ!」
二人は腕を組み互いに全力を出すことを誓う。その後、拓海達は去っていく。槙治はそれを見送りながら鍛錬を始めるのであった
<五月雨姉妹と守矢>
五月雨五月はエメラルド色の髪を揺らしながら階段を上っていた。その後ろからは彼女にそっくりな少女がついてくように歩いている。五月雨明、彼女の妹である。彼女たちは人間であり、妖怪である。正しくは、妖怪が肉体に居座っていると言ったほうがよいだろうか。それはまた、別の機会にお話ししよう。
彼女らはお忍びできている。無論、守矢神社は妖怪の山に位置する故に、人間が軽く立ち入れる場所でもない。早苗と、神奈子の許可を得たからだろうか。五月と明は槙治の友人である。そこから辿って、二人に頼み込んだのであろう。
「姉ちゃん~まだつかないのぉ~?」
「あと少し。だからへばらないでよ」
愚痴をこぼしつつもしっかり歩く明の姿を確認すると、五月はうなずいて階段を上り始める。やがて見えてきた境内、その端では槙治が正拳突きの稽古を行っていた。
五月は明を連れ、彼に向って手を振った。彼女らに気づいた槙治は稽古を中断し、駈けよった
「五月さん~、どうしたんだい?」
「いやぁ、ちょっとご挨拶にね。明日のことで」
「あぁ、明日のか。ついさっき、拓海君たちが来たところだよ」
「拓海さん達が? あの人達も出るのかぁ……負けてられないね」
「俺も早苗先輩と一緒に出るつもりさ。お互いいい勝負をしよう」
「はは……負けないよ?」
「こっちこそ」
互いに笑いあう五月と槙治を横目で見ながら明はきょろきょろと辺りを見回す。それに気が付いた槙治は「どうしたんだい?」と声をかける
「う――――ん、槙治さん、最近夜が来るのはやくなぁい? まだ夏なのに」
「うん? 確かに……そうだねえ。夏なら日没は遅くなるからね。おかしいな……でもまぁ、明日の大会には響かないだろうし気にすることないよ」
「そうかなぁ?」
「そうじゃない? 明、あなた気にしすぎよ」
「そっかぁ……」
明は納得のいかない表情だったがすぐに向き直って顔を戻す。そして、五月と明は槙治に挨拶をし帰って行った。
--序章-1終了。序章-2へ続く