【悲報】信じて送り出した魔王候補が人間界の姫にドハマりして帰ってこない件について 作:PPP-すけ
「で、申し開きはあるんだろうな?」
「いや異種族間恋愛とか想像できるわけないでしょ、自分が魔界から来たってカミングアウトまでしたって話ですよ」
魔界中央部、魔王城の王の間にて、自分、魔王軍徴兵担当トムソンは跪きながら弁明していた。
まるで手作業でカチ割ったような荒い作りの椅子*1(サイズだけは権威性を保つ程度のもの)にどっかりと大股で座り込む魔王は、努めて冷静であろうとしてくれているのだろう、ピクピクと目元を痙攣させつつこちらに語りかける*2。
目の前で怒り心頭の魔王様には思ってもない大事件であることは理解できる。
「ですから、どうにか呼び戻そうと準備をしているわけです」
「その準備の結果、私の子供は人間界を守る守護者として名声を高めていると言ったのは貴様では?」
「あんだけ魔王になるための教育をノリノリで受けてきたのに使命も忘れてこっちの使者を返り討ちにするとは思ってもなかったんですよ*3」
「詭弁だな。貴様には想定できたことだ。私の子だぞ?」
「その言葉をネガティブな方で使わないでくれません?」
いやまあ暴力で魔界を無理矢理統一し、今もなお暴力による抑止で魔界を国家として維持している王からしたらそれくらいはありえるかもしれない話ではあるのかも知れないけれども*4。
大きなため息をつきながら、目の前の暴力装置は遠くをみるような声で語る。
「あれは私とは違い、よく考え、自分の欲が少ない方だとおもったのだがな」
「単純に自分の求めるものが魔界になかっただけ、ということでしょうね」
「それでだ。貴様、言っていたよな?あれだ」
「サクセッションプラン、でしょうか」
「そうだ、貴様が言っていた話では、魔王にふさわしいかどうかは、分解できる?とか?どうとか?」
ミシっ、と魔王の椅子が音を立てる。思わず下を向いた。そんな自分を睥睨しながら魔王は話し続ける。
「それを私に言ったとき、トムソン。貴様、言っていたよな」
「っ・・・と、その」
声色は先とかわりなく、王としての振る舞いを意識しているのだろう、こちらが話しやすいよう意識しているのを感じる。
ピシッとどこかのなにかにヒビが入る音がした*6。
「もう一度、教えてくれないか。大丈夫だ、怒りはしない」
怒っている。さっきまでの会話は単なるアイスブレイクか・・・*7。
会社で上司に詰められるような気分になりながら、自分は口を開いた。
ポイントは、あたふたしすぎないこと、それでいて、焦りや申し訳なさをにじませること、こういうときは内容よりも態度だ。上が感情的な時は、態度が肝心だ。
「国の長は組織の長、組織の長たるもの、身に付けるべきものがあります」
「続けろ」
「・・・重要なのは順番です。いくら結果を出そうが、偶然では意味がない。重要なのは南魔界にある大岩のごとく、目に見えない部分です。つまり」
「学びが必要だ、と言ってたよな?」
「その通りです」
氷山モデルだ、成果を出すためには行動しなければならず、行動を適切に行うためには、経験・知識・スキルが必要であり、これらを学び、活かすためにはマインドセットが重要なのだ。後継者だけでなく、人材を育成するときの考え方の基本である。
自分が魔王軍で徴兵というなの人事をやれている最大の理由だった。
まあそれも、一代で築き上げた魔王軍というオーナー企業では通用しない時があるのだと、改めて今回見せつけられているのだが。
大きな衣擦れの音がする。魔王が立ち上がり、大きく身振りをしているらしい。
「貴様があまりにも世界の常識のごとくかたるものだから、私は貴様の自由にやらせたぞ*8」
布が床と擦れる音ともに、カツ、カツ、と足音が近づいてくる。
「忘れているまいな?
「貴様は言った。知識を与え、役割を与えろと。そして私は与えた。なんなら私のことも話した。いやがる私に貴様は言ったな?王が満足する後継者に育てるためには、王の考えを知る必要があると」
怒気をにじませながら魔王は語る。
ベンチャーなどのオーナー企業が後継者を育成する場合、「自分と同じ考えの人を据えたい」という思いが強くでることがある。そういう場合は社長との1オン1や、社長の考え、これまでの会社の変遷を語らせるような機会を通じ、後継候補にオーナーの目線を学んでもらうという手法をとるケースがあると知っていた。
魔王軍をオーナー企業ととらえればこそ、この手法が有効だと、自分は信じていた。
「私は語ったぞ?全てを伝えた、アイツが私と同じ目線に立てるように。そして送り出した、貴様が「越境体験がどうの」とか言うから、この魔界から、わざわざ人間界にな」
「その結果はどうだ?」
足音が止まる。床をみている自分の眼前に影がさす。
「それは・・・」
「言ってみろ、貴様の口から。奴はなんと?」
観念しろ、ということだろう。
言うしかない。今までお互いに言っていなかった、決定的な事実を。
「ご息女さまは、人間界の姫と生涯添い遂げると」
「何故!?何故やつは私の余計なところまで学んだのだ!?」
先ほどまでの重苦しい空気が嘘だったかのように
信じて送り出した愛娘が、現地妻にドハマりして帰ってこなくなった。
混沌世界を統べる時代の魔王として期待された強者は、人間界の清純巨乳金髪王女にまんまと絆されて、魔界よりも人間界を選んだのだと言う*10。
「
「それはそう!」
荘厳なドレスの裾を握りしめ、涙目になりながら叫ぶ。この魔王、女だが女を好いている。こちらの世界に生まれ変わっても時代は多様性かと複雑な気持ちになったものだ。
「我々中央の魔族は恐らく人間界の人類と近縁で、クレア様の一族は特に近いようですから、見た目でばれることはないと安心していたのが裏目でしたね」
魔界と人間界、と区分けはされていても、結局はことなる大陸に住んでいて、おかれている状況がことなるだけだ。魔界の瘴気に耐えられるよう進化したのが我々魔族。特に中央は収斂進化の結果、二足直立歩行の種が多いのだろうと、人間界からきた学者から聞いた。
それゆえ、人間界の王女、異種族の王族のことも、そういう対象に入ってしまったのだろう・・・むしろ、魔界にいた頃のように肩書きを気にしなくていい分、感情に素直になりやすいのがよくなかったか*11。
「だが、だが!私はそれでも跡継ぎを作ったぞ!?」
「好みの女を口説いたと思ったらソイツがめちゃくちゃ女顔の男で、それでも好きだったから頑張っただけでしょ*12。義務を果たしたみたいな言い方してますが結局本能で動いてましたよね」
「違うもん!アンネは女の子なんだもん!なんか気にならなかったんだもん!*13」
「我々大分種族毎に違いがあるとはいえ、女と男の身体的特徴がクレアさまの種族とほぼ真逆な種族があるとは恐れ入りましたね」
そもそも魔界は瘴気の影響で多数の種族が高度な知性を有しており、それゆえに生態系のニッチを種族間で奪い合うカオスな地域だった。
それを多民族国家のようにまとめあげたのが魔王クレアであり、それゆえに魔界にどんな種族がどれだけいるのかはかなりのブラックボックス。基本同じ地域にすむ同族同士で子供を作るのが当たり前なのだが、目の前の魔王はさすが、女同士なら問題はないとたかを括って軍で見かけた好みの女を引っかけて遊んでたらしい*14。
しかもその種族とクレアの種族は交配できた。
収斂進化とは言っても種族はことなるため、見た目が近くとも同族だと確信できない限り、子供ができるかは運任せになる。南の魔族は動物的な形質を強く残しているからその判断は簡単だし、北はそもそも同種でしかつるめないので、中央魔族独自の課題だったのだが、この魔王は引きがよかった。
そのツケを今回払うことになったわけだが。
「そもそも、クレア様が自分の性癖まで含めて話しちゃったのが原因でしょう。それでもいいんだと思ってますよあれ」
「それは貴様が言ったからだろう!後継者の育成のため、同じ視座に立てるよう、過去の苦難とそのときの思いを語れと!」
経営者として同じ目線に立てるよう話せと言っただけで、魔族の女として同じ目線で女を性的に見るようにさせろとは言ってないんですがね・・・。
二人きりで語らせることになったのだが、どうやら女遊びの苦労も武勇伝的に語ったようだった。まさかそっちの方が響いてたとかないよな・・・?
「だから言ったでしょう。自分も立ち会わせてくださいと。内容も一緒に考えさせてくれともお伝えしましたよね?」
研修をするとき、コンテンツの設計や当日の立ち会いはよくある仕事だ。
他のトレーニングは同席したのだが、この魔王がやった引き継ぎの研修だけは、魔王の一声で叶わなかった。理由はなし、やっぱりそういう話しもするつもりだったのだろうなあ*15。
「私は!・・・私のようになってもらいたくなかっただけだ」
床にへたり込みながらクレアはうなだれた。
「徴兵担当トムソンよ」
「はい」
「私は、これでも私の性質を疎んじている*16」
「・・・この魔界が始めて統一されたのは、クレア様の力によるものですよ」
「それでもだ。次の代には安定が必要となる。貴様が言っていたことだ」
「ですが、それができるのもクレア様が魔界を統一されたからです。私のような力のない魔族が生きやすい世界を作ってくれた、その世界を維持し続けるため、必要だと思ったのです」
力なくうつむくクレア様にそう語りかけると、瞳を潤ませながら顔をあげた。感情的で単純な魔王だからこそ、こういう直接的な語りかけが必要なのである。 *17
「・・・・・・そうか。・・・・・・なあ、トムソン」
「なんでしょう、クレア様」
「これ、アンネ達に何て言えばいい?もうすぐ定例会議の時間だ」
「その話をしたかったのに時間を使いまくったのはクレア様ですが?*18」
そう、この件を知るのはまだ魔王とサクセッションを直接担当していた自分のみ。
この後、
後継をおとなしい娘としたことを疎ましく思っていた南出身の幹部*19やら、愛娘の近況報告をウッキウキで待っている王妃*20やらに、伝えなければならないのだ、今の事実を。
「・・・どうすればいい、答えを教えろ」
「その言い方は皆が萎縮するので控えていただきたいと言ったはずですが?*21」
「貴様はいつも私に忖度してくれないな」
「それが人事の仕事ですので」
あと、なんやかんやこういうやり取りを求めているタイプだと思っているのもあるが黙っておこう。
さて、どうしたものか。
注釈は基本的にトムソン君の認識や、隠してる本心です。