「じゃあ、買い出しに必要な品物を共有しておくね」
ヒアリングFOXからこんにちは。百合園セイアだ。
さて突然だが――何かを修復するときに必要なものと言われたら、皆は何を思い浮かべるだろう?
「まず木材でしょ……工具、ガラス……」
なるほど。かなりの損傷らしい。それならホシノがいつにも増して敏感になるのも納得できる。
「あと……お菓子と水着とシールと……」
「いやそれ関係ないじゃないですか!!(か!)(じゃんね!?)」
「ひぃん……」
やはりユメ先輩はどこか抜けているというか…… いや、何か目的があって言っているのかもしれない。
「だ、だってお菓子と水着はいつも必要だし……お魚のシールはホシノちゃんが欲しがってて……」
「ちょっ!それは言わなくていいじゃないですか!」
目的などなかったようだ。
それにしてもこの二人は原作と同じで仲がいいのだろう。
(しかし……このあと“あんなこと”が起きてしまうのだが…)
そう、“あんなこと”。
今の真面目なホシノが心を折られ、うへうへになってしまう原因であり、全ての元凶となる出来事。
ユメ先輩の提案をホシノが否定し、 「アビドスを救う気があるのか」とユメ先輩の存在意義を真っ向から否定してしまう。 その結果、ユメ先輩はひとりで砂漠へ向かい…そして死んでしまう。
助けたい。 できるなら、この2人には幸せに過ごしてほしい。 でも、運命を変えたあとの未来は未知数だ。
そんなことを考えていた時、
「……ということで、二人にはこの素材とこの素材を探してもらいたいのですが」
「オッケー!探してくるよ! いこ、セイアちゃん!」
どうやら話し合いが終わったらしい。 私はミカに引きずられながら、心の整理をつける暇もなく外へ出た。
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「これと……これでおしまいだね! セイアちゃん!」
「そうだね」
ミカと雑談をしながら買い物を終える。
「それにしても……あのホシノって人ひどくない?セイアちゃんがそんなことするはずないのに!」
「そんなこと……私たち、まだ出会って二日だろう?」
「うっ……そ、それはそうだけど……」
……ミカの好感度が最初から高すぎないか? 絆レベル30くらいある気がするんだが。
「あっ、そうだ! 私がわざわざここに来た理由、分かる?」
“ここ”――アビドスのことだろう。
「直感……かな?」
「違うよ! 私がここに来た理由。それはね――」
ミカは少し照れたように、店の方角を指さした。
「セイアちゃんのアクセサリーを買いに来たんだよ!」
「私の……」
胸が、少し高鳴った。 これも“私”の頃の趣味の名残なのだろうか。
「どこのショッピングモール探しても、ピンと来なくて……」
それでアビドスまで来たのか。 ……少しどころじゃなく、かなり見直した。
「ありがとう、ミカ。嬉しいよ」
満面の笑みになってしまった。
「わーお……セイアちゃん。 その顔、あんまり他の人には見せちゃダメだよ?」
「なぜ……」
ミカはアクセサリーを選びに向かい、私は物資をホシノたちへ届けるため戻った。
「驚いた……本当に持ってきてくれたとは」
「当たり前だろう。あと、敬語はいらないよ」
「わかった……」
「ね! 言ったでしょ? セイアちゃんたちなら来てくれるって!」
ホシノは心底驚いた顔をし、
ユメ先輩のアホ毛はぴょこぴょこと跳ねている。
……あれどうなってるんだ?
「……確かに、よく見れば“あいつ”とは違う気がする。 目の色とか、表情とか……」
そんなので分かるなら最初から疑わないでくれ。
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「では、私たちは帰るとしよう。 他学園が長居して良い気はしないだろう?」
「そんなことないよ! セイアちゃんたちは助けてくれたんだし!」
「本当に……他学園の生徒が手伝ってくれるなんて初めてです。 いつもは哀れむような目で見てきますから……」
ふたりはそう言ってくれた。 嬉しいが……原作が変わったら困るので、このまま別れようとした…
しかし……。
『緊急事態! 緊急事態! ゴリアテ等の機械が暴走! 館内の生徒は直ちに避難してください!』
「「「ッ!」」」
ゴリアテ……確かカイザー製の最終兵器だったはず。それがなぜ今…?
私が思考を巡らせるより早く、 ホシノとユメ先輩は臨時戦闘体制に入っていた。 ……さすがアビドス。
「そういえばセイア……ミカは?」
「ッ!」
ミカはアクセサリー選びのため東ホールへ。ここから見事に逆方向だ。どうするか考えていると、ユメ先輩が言った。
「セイアちゃん、一緒にミカちゃん探そ!」
「そうですね。私も賛成です。さっき迷惑かけてしまいましたから、今度は私たちの番です」
二人はそう言った。彼女らはどんな時でもお人好しというか…だが正直、ホシノたちがいないと不安だ。
「すまない……手間をかけるが、お願いしてもいいだろうか」
「「もちろん!」」
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任務:あびどすぽーと 東モール
編成 《STRIKER》
小鳥遊ホシノ Lv.50 ⭐︎3
梔子ユメ Lv.30 ⭐︎3
百合園セイア Lv.30 ⭐︎3
《SPECIAL》 ――なし
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ドカーン!
私たちは銃声や爆発音を聞きながら西ホールを目指して走り出した。
ショッピングモールは北・東・西・南の十字構造。 西へ向かうには、東→北→西の順に進む必要がある。
「前方にオートマタ数体! ユメ先輩は前衛で盾を! ホシノは状況見て攻撃!」
「わかった!」
「うん!」
ホシノは火力、ユメ先輩はタンク、私はサポートと戦術指揮を同時進行しながら進んでいた。
…と言ってもホシノが戦術指揮をしてくれと頼んできたのだ。初めは先生でもないのにできるだろうかと不安を抱えていたが、いざやってみるとゲームでやった頃と同じ視点ではないものの、経験もあってかスムーズに指揮をすることができた。
ユメ先輩のIRON HORUSでの耐久、ホシノのトップクラスの火力。
正直、この2人だけで事足りる気がする。
そのままほとんど消耗もなく撃破し続け、 十分後、
(北モールを通過…この調子で…)
そう思った矢先。
「ッ! オートマタ数十体出現!」
「ひぃん! 多すぎるよ……」
北モールは最も広い区画。敵が多いのは当然だ。
油断した瞬間、手榴弾が飛んできた。
「セイア!」
「っ……!」
爆風が直撃し、肌に火傷の痛みが走る。 前のスケバン戦でも思ったが……私は防御が低すぎる。
ヘイロー、ほんとうについてるのか?
「大丈夫だ! 行こう!」
痛みを押し殺しながら、西モールへ走る。
「セイアちゃん! 西モール通過!ミカちゃんはどこ?」
「アクセサリー売り場だ! そこにいるはず!」
西ゲートに到着し、売店へ向かう。
「セイア、大丈夫?」
「ああ、問題ない」
問題しかないが……ミカを優先だ。 探し始めて三分。
「ゴリアテ、オートマタ複数出現!」
出てくるのはミカではなく機械ばかり。
「オートマタは私が処理する!ホシノはゴリアテを頼む!」
「……セイアも気をつけて!」
ゲームより数段でかい。 そして、強い。
ホシノが相手するよりも先にユメ先輩がミサイルで吹き飛ばされた。
「ユメ先輩!!」
ホシノが駆け寄ろうとするが、
ゴリアテがその前に立ちはだかる。
「チッ、邪魔!」
ホシノはゴリアテへ。 ユメ先輩は向こうでダウン。 つまり私は数十体のオートマタを一人で相手にすることに。
(多すぎる……!)
スケバンの時と違い、銃弾も避けきれない。 被弾がじわじわと増えていく。
(まだ……まだいける……!)
そう思った瞬間。
私の視界の外から一体のオートマタが発砲準備をしていた。
(しまっ……)
目を瞑る。
痛みが来るはずだった。
…しかし来ない。恐る恐る目を開けると。
「大丈夫? セイアちゃん?」
そこには、ミカが立っていた。
「ミカっ!」
立ち上がろうとしたが、ミカに押し戻される。
「セイアちゃんは怪我してるでしょ。だから――あとは私に任せて」
ミカはウィンクをして
「私、こう見えても強いんだよ?」
と言った。
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ミカが加わり、戦況は一気に傾いた。
ゴリアテの外殻が砕け、鈍い音を立てて巨体が崩れる。
「……終わった?」
ホシノが肩で息をしながら呟く。 ミカは銃を構えたまま私の手を引き、無理やり立たせた。
「セイアちゃん。怪我、ひどいじゃん。ほら、座って!」
「いや、大丈夫だ。これくらい……」
「よくないよ。ユメ先輩もホシノちゃんも頑張ってたけど、一番無茶したのセイアちゃんでしょ?」
むむ…それは否定できない。
私は観念して壁に背中を預けた。
ホシノがユメ先輩を背負いながらこちらへ歩いてくる。
「……助かったよ。まさかミカまで巻き込むことになるとはね」
「巻き込まれたんじゃないよ?」
ミカが笑ってホシノに言い返した。
「私、セイアちゃんを迎えに行ったんだから」
「迎えに…?」
思わず聞き返した。 ミカは当然だよと言わんばかりに胸を張る。
「アクセサリー選びしてたけど、途中で嫌な音が聞こえてね。そしたらセイアちゃんたちが戦ってるって分かったんだ!」
その顔は怒っているようで…どこか泣きそうでもあった。
「……せっかく一緒に来たのに、セイアちゃんだけ危険な目に遭うの嫌だよ」
胸が熱くなる。 何と言えばいいのか分からなかった。
そこへ、ユメ先輩がむくりと起き上がった。
「うぅ…あれ?みんな無事?」
「ユメ先輩!よかった…」
「ごめんねセイアちゃん。私、また足引っ張っちゃった…」
「そんなことない。ユメ先輩が前に立ってくれたから、私たちは助かったんだ」
そう言うと、ユメ先輩のアホ毛がぴょこんと跳ねた。
「えへへ……そう言われると嬉しいかも」
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あの事件のあと。 ユメ先輩とホシノが「バス停まで送るよ」と言ってくれて、私たち四人はショッピングモールの出口へ向かって歩いていた。 ……山ほどの荷物を抱えながら。
「うぅ……さすがに多すぎるじゃんね……」
実はあの後、私たちが事件を解決したと思われたらしく、各店舗から好きなだけ買っていい権利をもらってしまったのだ。 お礼というには豪華すぎる特典に、暗くなる前の短時間で慌ただしく買い物をした結果、この有様である。
もちろん私も例外ではなく、両手は紙袋で埋まり、指先はじんじんと痛む。
そんな中、前で楽しそうに談笑しているミカとユメ先輩を眺めていると、静かだったホシノが私の隣にそっと来た。
「セイア。今日は……ありがとう。手伝ってくれて」
敬語が抜けたホシノは、どこか新鮮だった。 アビドスにも、こうして笑い合える同級生がいればよかったのだろうか。
「こんなのたいしたことではないさ。それより――アビドスの復旧、応援してるよ」
そう言うと、ホシノは少しだけ頬を赤くした。
「正直ね……セイアやミカが初めてだったんだ。私たちのことを気にかけてくれたの。 みんな、もう諦めてアビドスから去っていっちゃったから……」
彼女の声は弱々しく震えていた。
「買い物は楽しかったよ? でも……こんなことしてていいのかなって思っちゃった。 アビドスはあんな状況なのに、私だけ楽しんでていいのかなって……」
その表情は、胸が痛くなるほど沈んでいた。
(……そうか。ホシノは、同級生さえ去ってしまったんだ)
私は黙っていられなかった。
「――たとえアビドスの未来が暗い道だったとしても、必ず助けてくれる人はそばにいる。 少なくとも、私はそれを保証するよ」
私がそう告げると、ホシノは顔を上げる。
「それに、確かに状況は厳しいかもしれない……しかし、楽しんじゃいけないなんて誰も言ってない。 笑える時に笑っていいんだ。そういう時間が、前に進む力になるんだから」
ホシノの目が大きく見開かれ、そして…ふっと柔らかく笑った。
「ふふっ……やっぱりセイアは変だよ」
その笑顔は、今までで一番年相応で、あたたかかった。
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「じゃあね〜! セイアちゃん、ミカちゃん!」
「ユメ先輩もホシノちゃんも、気をつけて〜!」
あれからホシノとは一度も言葉を交わさなかった。 気まずくなった……というより、あの言葉でよかったのか、不安のほうが強かった。
そう考えながらバスに片足を乗せた瞬間、
「セイア! ミカ! また今度、アビドスに来てください!」
振り返ると、ホシノが目を輝かせて大きく手を振っていた。
その声に胸が温かくなる。
私は笑って返した。
「ああ。約束だ」
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