喰種は無限龍神に寄り添う 【凍結】   作:-Msk-

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三人称に挑戦してみました。



一喰目 出会

 渋谷のスクランブル交差点は血の海になっていた。比喩ではなく、実際にそうなっているのだ。黒いアスファルトの道路が、白いラインで引かれた横断歩道が、信号機が、電柱が、看板が、周りにある建物が血で染まっているのだ。そしてその血の海には人間らしきナニカが所々に転がっていた。

 

 血の海の中心にいるのは少年だ。少年の尾てい骨からは、赤黒い尾のようなものが九本生えている。このことから少年は普通の人間ではないことが分かる。普通の人間は尾てい骨から赤黒い尾など生えないのだから。

 

 少年は喰種(グール)である。

 

 喰種(グール)―――それは、食性が人間のみに限定された肉食の亜人種である。人間との外見的な差異が無く、条件付きで交配も可能であるなど限りなく人間に近い種である。

 

 身体能力は極めて高く、数mを跳躍し、素手で人体を貫く筋力を持っている。個体差はあるが、成体では人間の4~7倍の筋力を持つとされている。

 

 感覚器官も極めて優れており、遠方から近づく人間の体臭を嗅ぎ分けられ、人ごみの中から足音を聞き分けることができる。

 

 小さな切り傷程度であれば一瞬、骨折でも一晩程度で治癒する。だが大怪我を負えば死ぬことから不老不死ではない。捕食、もしくは交戦時には赫眼(かくがん)という状態になり、身体から赫子(かぐね)が発生する。

 

 赫子(かぐね)とは、喰種(グール)の身体か発生する捕食器官のことである。Rc細胞によって構成されており、硬化と軟化を繰り返しながら自在に動く。特性によって分類されており、強力な喰種(グール)ほど多く発生させる。基本的に一種類の発生に限定されるが、稀に複数種を持つ喰種(グール)が存在する。

 

 少年の赫子(かぐね)は、尾てい骨から生えている九本の尾だ。これは尾赫(びかく)という種類のものである。尾赫(びかく)の数が九本ということは、少年がかなり強力な喰種(グール)であることを証明している。通常の喰種(グール)は精々一か二本なので、一目瞭然である。

 ここで簡単に赫子(かぐね)について説明しよう。赫子(かぐね)には、羽赫(うかく)甲赫(こうかく)鱗赫(りんかく)そして尾赫(びかく)がある。

 

 羽赫(うかく)は、肩まわりからRc細胞が羽のように放出される赫子(かぐね)で、ガス状に出現する例が一般的である。攻撃時には直接叩きつけたり、固形化して射撃したりと、主にスピードを生かした瞬発系の攻撃を行う。Rc細胞を放出して戦うため持続時間が短く、短期決戦型だ。

 

 甲赫(こうかく)は、肩甲骨の下あたりから現れる金属質の赫子(かぐね)である。高密度のRc細胞の凝縮で赫子(かぐね)の中で随一の頑丈さを誇るが、重量のせいでスピードで劣り扱いづらさが目立つ。

 

 鱗赫(りんかく)は、腰まわりから触手のような形状を持って現れる赫子(かぐね)である。鱗のような独特の表面を持ち、柔軟性に優れていて再生も早いが、他の赫子(かぐね)に比べると脆い。主に打撃や刺突で攻撃する。

 

 そして少年が持つ尾赫(びかく)は、尾てい骨あたりから爬虫類の尾のような形状を持って現れる万能型の赫子(かぐね)である。総合能力が高く攻守共に水準以上でスピードもあり、特に弱点はない。だが攻撃において決め手に欠けることが欠点である。

 

 少年は赫子(かぐね)尾赫(びかく)なので、バランス型である。少年が全ての人間、喰種(グール)を喰らえたのもこれによるものが大きいのだろう。バランス型ということで弱点らしい弱点が無いのだから。

 

 少年はガツガツと一心不乱にナニカを喰らっている。だがたった今、最後のナニカを喰らい終えた。

 

 

「もう………誰もいない、か………」

 

 

 口の端にナニカを喰らったときに付着した血をしたたらせながら、悲しげに少年は呟いた。そしてふらっと立ち上がり、空を仰ぎ見た。

 

 そう、()()()()()のだ。理由は至って単純、少年が全て喰らったからだ。人間、喰種(グール)問わずにだ。

 

 この渋谷―――いや、東京に存在する人間、喰種(グール)は全て少年が喰らったのだ。―――生きるために。

 

 喰種(グール)の食糧は人間だ。少年はその人間を最低でも一日三人喰らうのだ。朝、昼、夜にそれぞれ一人ずつ。だがこれはあくまでも必要最低の量であり、望む量は遥かに超える。故にすぐに人間は東京から消えた。

 

 次に目を付けたのは喰種(グール)だ。共食いをするのだ。喰種(グール)はもちろん食われたくないので、抵抗する。すると戦闘になり、さらに腹が減り喰らう量が増える。故に喰種(グール)もすぐに東京から消えた。

 

 少年は喰種(グール)を喰らい、力を手に入れた。他者に追随を許さない圧倒的な力を。それが九本の尾赫(びかく)である。最初は三本だったものが、強い喰種(グール)を喰らうことによって増えたのだ。

 

 

「我、見つけた」

「―――誰?」

 

 

 突然聞えてきた声に瞬時に反応する少年。振り返った場所にいたのは、腰まである綺麗な黒髪に、ゴシックロリータ調の黒いドレスに身に纏っている少女だった。

 

 

「まだ誰かいたのか………」

「我、グレートレッドを倒したい。力、貸してほしい」

「グレートレッド? 何それ」

「次元の狭間にいる。我、次元の狭間で静寂ほしい」

 

 

 少年は何を言っているのか分からなかった。今まで喰種(グール)として生きていたが、聞いたことのない単語ばかりだからだ。だがそれも無理のないことだろう。今まで少年とは一切関係なかった異界のことなのだから。

 

 

「グレートレッド、倒したい。力、貸してほしい」

「………力を貸したからって僕に利点があるわけじゃないよね」

「我のこと、食べる? 我、無限。故に減らない」

「―――ッ!?」

 

 

 少女からの思いもよらぬ提案に戦慄する少年。当たり前である。自ら喰種(グール)に身体を差し出す者なんて普通はいないのだから。

 

 少年は考えた。グレートレッドという得体のしれないものを倒す手伝いをするだけで、目の前の少女を喰らえると。だが同時にそれなりのリスクもあると。

 

 いくら九本の尾赫(びかく)を持つほどの絶対的とまで言えるほどの強者になったからと言って、グレートレッドとやらを確実に倒せるわけではない。―――目の前の少女と同様に。少年は少女を一目見た瞬間に分かったのだ。目の前にいる少女は自分より遥かに強いと。

 

 

「ちょっと待って………減らないってどういうこと?」

「我、無限。故に減らない。すぐ戻る」

 

 

 少女はそう言い、少年に腕を差し出した。

 

 

「食べていいの?」

「ん」

「いただきます………」

 

 

 少年はなんの躊躇もなく少女の腕に喰らいつき、噛み千切った。だが少女の身体からは一切血が流れない。噛み千切られた断面は黒く染まっており、無機質そのものだった。

 

 

「おいしい………」

 

 

 だが少年はそれどころではなかった。少女が今まで喰らった人間、喰種(グール)よりもはるかにおいしかったからだ。

 

 

「―――って、本当に戻ってる………」

 

 

 腕を喰らい切った少年は、少女の再生した腕を見ながら言った。それを見た少年は決めた。

 

 

「いいよ、協力してあげる。でも一つ訊いてもいい?」

「ん」

「次元の狭間ってところで静寂を得たとして、それから君はどうするの?」

「どうもしない」

 

 

 この返答に少年は唖然とした。当たり前である。静寂を得ても何もしないと言われたのだから。静寂を得るために動く。どこか矛盾を感じる。

 

 

「まぁ、いっか………」

 

 

 だが少年は納得した。自分の事ではないのだ、そこまで悩むことではないと考えたのだろう。

 

 

「ん。じゃあ、行く」

「何処に?」

 

 

 少女の言葉に少年がこてんと首を傾げながら言う。

 

 

「次元の狭間」

「えっ………?」

 

 

 直後、少年と少女はこの世界から消え去った。

 

 

 

†††

 

 

 

 景色が一変した。血の海から何やら摩訶不思議な空間に。

 

 少年は辺りを見回し、そして気づいた。自分が浮遊していることに。いや、正確には飛んでいる少女に腕を引かれているのだ。

 

 この摩訶不思議空間には様々なものが浮かんでいた。作り話に出てくるゴーレムのようなナニカ。神殿の柱のようなもの。壊れた武器など。

 

 それを目で追いながらしばらく少女に腕を引かれて飛んでいた少年だが、心なしか顔色が悪くなっていた。理由は少年の視線の先にあった。

 

 

「ね、ねぇ………もしかしてアレがグレートレッド?」

「ん」

「嘘でしょ………」

 

 

 少年の視線の先には、あり得ないほど巨大な紅い龍がいた。視界に入るのは巨大な尾と巨大な後ろ足と巨大な翼のみで、全身が把握できないのだ。

 

 

「これはさすがに無理でしょ………」

「でもやる」

「………まぁやるだけやってみよう」

 

 

 少女は少年をグレートレッドの背中に導いた。少年はグレートレッドの背中に着地すると、九本の尾赫(びかく)を出現させ、全てグレートレッドの背中に突き刺した。

 

 少年の考えはこうだ。倒すことはできない。殺すこともできない。なら―――

 

 

「―――喰らってやる」

 

 

 口からの捕食ではなく、赫子(かぐね)による直接的な捕食。効率は口からの捕食の数十倍は上がる。九本の尾赫(びかく)がガツガツとグレードレットの身体を喰らっていく。

 

 直径5m程のクレーターができるまでは順調に喰っていたのだが、そこから先が進まない。クレーターが大きくならないのだ。そう、少年の捕食の速度をグレートレッドの再生の速度が上回っているのだ。

 

 グレートレッドはグレートレッドで全く少年を相手にしていない。少年の赫子(かぐね)による捕食は、グレートレッドからすれば精々蚊に刺された程度なのだ。

 

 ここでグレートレッドを赫子(かぐね)で喰らっていた少年に変化が起きた。

 

 

「うぐぅ………ごほっ………う、があぁぁぁぁぁぁあああぁぁああぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 少年は叫ぶ。身体中に激痛が走っているのだ。腹に異物を突っ込まれ、内臓をかき混ぜるのをはるかに超えた痛みが。

 

 叫び声が上がるのと同時に、少年の身体にも変化が起きた。ボコボコと背中が盛り上がり、二対四枚の翼が生えたのだ。上の二枚は少女が生やしている翼と全く同じ黒い翼で、下の二枚はグレートレッドの翼と同じ紅い翼だった。

 

 

「な、にこれ………翼………?」

 

 

 生えてきた翼を触りながら呟く少年。表情はどこか笑っているようにも見える。

 

 

「我とグレートレッドの力、吸収した。そして発現した」

「………喰べたからかな?」

「ん」

 

 

 少年は少女とグレートレッドの肉体を喰らったことによって力を手に入れたのだ。そう、強い喰種(グール)を喰らったとき同様に。

 

 

「でも翼が生えた以外は特に変わってないかな?」

「無限と夢幻の融合。可能性の塊」

「これからどうにでもなるってこと?」

「ん。今のままでも、グレートレッド、我の次に強い………はず」

「それがどのぐらいの強さなのかが分からないんだけどね………」

 

 

 この世界でワンツー争いをしている者の次に強いのだ。単純に計算すれば世界第三位の強さである。だがそううまくいかないのが世の中で、少年はただ力を手に入れただけなので使いこなすことが出来ない。宝の持ち腐れ状態なのである。

 

 だがそれはあくまでも現段階でのことであり、これからどうなるかは少年次第である。少年が力を磨けばそれ相応に力が使えるようになる。

 

 そう―――無限や夢幻と謳われる力を。

 

 

「それでも正直、グレートレッドを倒すのは無理だと思うんだけど」

「でも倒したい。我、ここしか帰る場所がない」

「なら―――」

 

 

 それを聞いた少年は、少女に向かって手を伸ばした。

 

 

「俺が君の帰る場所になるよ」

「次元の狭間よりいい?」

「うん。退屈はしないし」

「退屈しない?」

「させないよ。だって―――やっと一緒にいても消えない人に会えたんだから」

 

 

 少年はこれ以上にない笑みを浮かべた。

 

 今まで少年に近づいてきた人はいた。でも全員少年が喰らってしまった。仕方がないのだ、本能には勝てないのだから。だがやっと、やっと喰らっても消えない人が現れたのだ。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 

 

「わかった。我、一緒に行く」

「よろしく!! えーっと………」

「我、オーフィス」

「よろしくオーフィス。僕は喰喇嘛(くらま)だよ。クラマって呼んでよ」

「ん、クラマ」

 

 

 オーフィスに名前を呼ばれたクラマはまた笑った。今までは死神だの悪魔だの呼ばれていたのだ。まともに名前を呼ばれたのがうれしかったのだろう。

 

 今ここで少年―――クラマと、少女―――オーフィスは同じレールを進むことになった。これが世界にどう影響するのかはまだ誰も知る由はなかった。

 




文章表現が変なところがありましたら、報告してくれるとうれしいです。

2015/02/06 誤字脱字修正。
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