喰種は無限龍神に寄り添う 【凍結】   作:-Msk-

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しばらくは過去編にお付き合いください。 


二喰目 人喰

 クラマとオーフィスは次元の狭間から人間界に戻ってきていた。ただし渋谷ではなく、駒王と言う土地に。

 

 

「駒王………って、どこ? 東京じゃないのはわかるけど………」

「ここ、異形がたくさん」

「………グレートレッドみたいな奴らが?」

「違う。もっと貧弱」

 

 

 「貧弱」という言葉に少し安心するクラマ。なぜ少しだけかというと、グレートレッドが規格外な強さだったため「もっと貧弱」の「もっと」がどの程度の物なのか分からないのだ。

 

 

「僕でも勝てる?」

「余裕」

「そっか………」

 

 

 良かった―――と、溜息を吐きながら安心するクラマ。慢心さえしなければ勝てるとわかったからだ。

 

 慢心は怖い。強者が慢心をして弱者に返り討ちにされるのは最早テンプレだ。

 

 クラマとオーフィスは手をつないで歩き出した。傍からみると兄妹のように見える。兄クラマが妹オーフィスを導く。あながち間違いでもないのかもしれない。

 

 二人はゆっくりと周りを見回しながら歩く。一軒家、アパート、コンビニ、公園、学校といろいろあるが、二人が気になったのは神社である。

 

 

「オーフィス、なんかこの神社ゾワゾワするんだけど」

(かんなぎ)がいる。だからだと思う」

(かんなぎ)………? なにそれ」

「自らの身に神、おろす。神託を人々に伝える」

 

 

 オーフィスの言葉に首を傾げるクラマ。クラマは神託がどのようなものがわからないのだ。

 

 神託とは神の意を伺う事。また、その時伝えられた言葉。道具により神の意を推し測る占いに近いものと、トランス状態になったシャーマンの口から伝えられるものとに分けられるが、何かを媒介にする点では同じだ。

 

 

「わからないけど食べてみたいなぁ………だって、普通の人とは違うんでしょ?」

「ん」

 

 

 クラマの関心は少しばかりずれているようだ。普通はどのような容姿をしているかなどが気になるはずだ。それなのに食料として興味を持つ。さすが喰種(グール)としか言いようがない。

 

 クイクイとオーフィスはクラマの着ている服の裾を引っ張る。

 

 

「行く?」

「いいの?」

「ん」

「じゃあ行こう!!」

 

 

 クラマはオーフィスの手を引いて走り出す。まるで新しい玩具を見つけた子供のように。

 

 そして二人は神社に到着した。そこでは―――

 

 

「朱乃!!」

「母さま!! いやあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ―――親子らしき者が()()()()()に襲われていた。

 

 襲われている親子を見つけた瞬間、クラマはオーフィスの手を離して駆けだした。

 

 クラマにもやっとそばにいてくれる者が現れた。時間はまだわずかだが、それでも一人でいるのとは違った。何より寂しくないのだ。

 

 目の前の少女に自分と同じ思いをさせたくないというのが強いのだろう。

 

 自分と同い年ぐらいの喰種(グール)ではない少女。喰種(グール)だったがために一人になった自分とは違う、ごく普通の少女。そんな少女が一人になったら寂しいに決まっている。そしてクラマは一人になる寂しさを知っている。

 

 ならやることは一つである。―――親子を襲う人間の捕食だ。

 

 クラマは一本だけ尾赫(びかく)を生やして、親子を殺そうとしている人間に突き刺した。覚えているだろうか? グレートレッドに行った赫子(かぐね)による直接的な捕食を。それを人間に行っているのだ。

 

 捕食は一瞬だった。人間にクラマの尾赫(びかく)が刺さった瞬間、まるで掃除機にゴミが吸い込まれるが如く人間が喰らい尽くされた。

 

 

「え………?」

「な、なに………?」

 

 

 案の定、親子は目の前で何が起きたのか把握できていなかった。一瞬の出来事だったのだからそれも仕方のない事だ。

 

 

「何者だ!! 姿を現せ!!」

 

 

 親子を襲っていた人間の一人が、辺りを忙しなく見回しながら声を上げた。

 

 

「この味は………微妙だね」

 

 

 クラマはぼそりと呟いた。

 

 喰らった人間の味を例えるなら安売りされた牛肉。美味しいけれども何か違う。そういった味だ。

 

 

「はぁ………」

 

 

 クラマは辺りを見回し、溜息を吐いた。

 

 

「貴様………何者だ!!」

「僕? 僕は喰喇嘛(くらま)。クラマって呼んでね」

「クラマ………聞いたことない名だ。クラマとやら、死にたくなければここから―――」

「僕に命令しないでよ。人間(しょくりょう)のクセに」

 

 

 クラマはそう言いうのと同時に、会話をしていた人間に尾赫(びかく)を突き刺して喰らった。また一瞬で人間が消えた。それを見ていた残りの人間が逃げ出そうと走り出すが、それを逃がすほどクラマは優しくない。

 

 尾赫(びかく)を器用に操って、残りの人間を立て続けに喰らった。そして丁度人間を全員喰い終わったタイミングでオーフィスがクラマの元に到着した。

 

 

「クラマ、どうだった?」

「微妙だった………」

「そう」

 

 

 クラマは顔をしかめながら答える。それに対してオーフィスは興味なさげに返した。まぁ興味があったらそれはそれで問題かもしれない。

 

 

「それじゃあバイバイ。今度は襲われないようにね」

 

 

 手を振りながらオーフィスと一緒に歩き出すクラマ。そのまま進み、階段を下ろうとした時だった。

 

 

「待って!! お、お礼をさせてもらえないかしら?」

 

 

 引き留めたのは母親だった。少し声が震えているのは自分と同じ人間に殺されかけたからだろう。………それだけではない可能性の方が高いが。

 

 

「お礼って………ご飯はいらないよ」

 

 

 クラマはそう返した。

 

 当たり前だ。喰種(グール)が普通の料理を食べると、もの凄くまずく感じるのだ。食性が人間に限定されているからなのだろう。

 

 

「見たところあなた達は二人だけだけど、親御さんは? まさかあなた達二人で来たわけではないでしょう?」

「………いないよ」

「―――ッ!! ごめんなさい………」

「いいよ。別に気にしてないし」

 

 

 クラマの親はクラマを喰種(グール)対策局の捜査官―――通称、白鳩(ハト)に殺されているのだ。理由はクラマを逃がすための時間稼ぎ。親の使命を果たしたと言える最後だっただろう。その時クラマは父と母、それぞれからあるものをもらっているのだが、その説明はまた次の機会にしよう。

 

 

「親御さんがいないのならどこに住んでいるの?」

「公園で充分だよ」

 

 

 クラマは当たり前という感じで言った。クラマは親に逃がされてから基本的には路地裏で一夜を過ごしていたのだ。公園は豪華な部類に入るだろう。

 

 

「ダメよ!! まだ朱乃と同い年ぐらいなのに公園で一夜を過ごすだなんて。家に来なさい」

「いや、でも―――」

「いいわね?」

「いや、でも―――」

「いいわね?」

「う、うん………」

 

 

 クラマは押し切られたようだ。母親に不思議な凄みがあり、断るのは無理だと考えたのだろう。

 

 

「私の名前は姫島朱璃よ。よろしくね、クラマくん」

「よろしく、朱璃お姉さん」

「お姉さん………ふふふっ」

 

 

 クラマに「朱璃お姉さん」と言われたのがうれしいのか、朱璃は微笑んだ。

 

 

「朱乃、クラマくんにあいさつしなさい」

「うん、母さま。朱乃です。よろしくね、クラマくん」

「よ、よろしく………」

 

 

 朱乃に差し出された手を恐る恐る握るクラマ。だが手を握られた朱乃の笑顔を見た瞬間、クラマも笑顔になった。

 

 

「我、オーフィス。よろしく」

「よろしくね、オーフィスちゃん」

「よろしく」

 

 

 オーフィスもごく自然に自己紹介をした。

 

 

「行きましょうか」

 

 

 朱璃はそう言うと、朱乃と手をつないで歩いて行く。クラマもオーフィスと手をつないで歩いて行く。

 

 神社の境内を進み、建物を目指している。クラマとオーフィスは境内をキョロキョロと見回しては何やら話していた。

 

 

「無事か!! 朱璃!! 朱乃!!」

 

 

 もう少しで建物に着く―――そのタイミングで顔が濃い男が突然現れた。足下に魔法陣が展開されていることから考えるに、転移してきたのだろう。

 

 

「あら、あなた。随分遅かったわね」

「朱璃!! 無事だったか!!」

「えぇ、そこにいるクラマくんのおかげで」

 

 

 男がクラマを見る。クラマを見る顔が若干複雑そうな顔をしているのは気のせいだろう。

 

 

「君がクラマくんか?」

「うん」

「ありがとう………妻と娘を助けてくれて」

 

 

 男はクラマに深々と頭を下げた。当たり前と言えば当たり前だ。クラマは男の妻と娘―――家族を助けたのだから。だが相手は子供だ。そう簡単には頭を下げることはできないだろう。だがそれをしているこの男は、それだけクラマに恩義を感じているという事だろう。

 

 クラマはそれに対して笑顔を返した。こういうときに返す言葉を知らないが故の行動だろう。クラマの雰囲気を感じ取った男は顔を上げた。

 

 

「あなた、自己紹介したら?」

「そうだな。私はバラキエルだ。朱璃の夫であり、朱乃の父だ」

 

 

 そう言った直後、鋭い視線をオーフィスに向けた。

 

 

「朱璃、朱乃を連れて先に戻っていてくれ。私はクラマくんとこの少女に話がある」

「あら、私達には言えないことなのかしら?」

 

 

 不敵に微笑みながら言う朱璃。それに対してバラキエルはというと―――

 

 

「あぁ………」

 

 

 至極真剣だった。

 

 

「そう………分かったわ。朱乃、先に家に戻りましょう」

「うん、母さま」

 

 

 バラキエルの真剣さを読み取ったのか、朱璃はあっさりと引いて朱乃と一緒に建物へ向かった。

 

 それを確認したバラキエルは、改めてオーフィスに向き合った。

 

 

「オーフィス………なぜ貴様がこんなところにいる?」

「クラマがいるから。クラマ、我の帰る場所だから」

「………何を言っている?」

 

 

 オーフィスの返答に戸惑うバラキエル。それも無理のないことだ。オーフィスの帰る場所は次元の狭間というのが当たり前のような感じなのだ。

 

 それなのにオーフィスは、クラマのことを帰る場所と言ったのだ。戸惑わないはずがない。

 

 

「おじさん、オーフィスに変なことしないでね。やっと一緒にいてくれる人ができたんだから」

「う、うむ………」

 

 

 少し雰囲気の変わったクラマに冷や汗を流すバラキエル。

 

 クラマは少しバラキエルのことを警戒したのだ。自分の傍にいてくれるオーフィスを警戒している。それだけでクラマが警戒するに値したのだ。

 

 バラキエルはバラキエルで、クラマの「やっと一緒にいてくれる人ができた」と言うところに反応した。それでは今まで一緒にいてくれる人がいなかったみたいではないか―――と。

 

 

「すまないな………クラマくん」

「いいよ。それじゃあ案内してよおじさん」

「あぁ………」

 

 

 溜息を吐き、簡単に謝るバラキエル。表面上は気にしていないように返すクラマ。だが心の中は少し荒れているようだった。

 

 

 

†††

 

 

 

 姫島家に案内され、しばらく寛いでいたクラマとオーフィスは風呂に入っていた。もちろん別々にではなく、一緒にだ。

 

 

「どこか痒いところない?」

「ない」

 

 

 クラマはオーフィスの髪を洗っていた。

 

 クラマがオーフィスの髪を洗っているのは、オーフィスが髪の洗い方などを知らないからだ。生まれて一度も風呂に入ったことがないオーフィスには分かるはずがないのだ。なので仕方なく―――というのは違うようだ。クラマはクラマでノリノリなのだから。

 

 

「流すよ」

「ん………」

 

 

 クラマはオーフィスの頭を流していく。シャワーでお湯をかけ、手で壊れ物を扱うかのように優しく触れる。それに対して、オーフィスは気持ちよさそうに目を細めていた。

 

 オーフィスの身体が洗い終わったので、クラマは自分の身体を洗い始める。

 

 

「クラマくん、一緒に入っていい?」

 

 

 シャワーから出るお湯で頭をぬらしているタイミングで朱乃が風呂場にやってきた。

 

 

「朱乃ちゃん? いいよ」

「ありがとう!!」

 

 

 嬉々としてクラマの後ろに座る朱乃。

 

 

「クラマくん、私が背中流してあげる」

「本当? ありがとう」

 

 

 そう言いながらシャワーを朱乃に渡すクラマ。全く抵抗がないのは年齢のせいだと思いたい。

 

 シャワーを受け取った朱乃は、テンポよくクラマの身体を洗っていった。クラマはクラマで気持ちよさそうに鼻歌を歌いながらそれを受け入れている。

 

 

「それじゃあ今度は僕が朱乃ちゃんの身体を洗ってあげるよ」

「わ、私はいいよっ!!」

「でも………」

「じゃ、じゃあ頭だけお願い………」

「うん!!」

 

 

 朱乃から許可を得たクラマは、オーフィスの時と同じように丁寧に朱乃の頭を洗っていった。

 

 朱乃の頭を洗い終えたクラマは、湯船に入った。クラマは先に湯船につかっていたオーフィスの反対側に座った。

 

 オーフィスはゆっくりと立ち上がり、クラマの膝の上にオーフィスが座った。

 

 

「どうしたの?」

「クラマの膝、我の特等席」

 

 

 オーフィスはクラマの膝の上がお気に入りのようだ。そしてクラマはクラマで満更でもないようだ。

 

 ただクラマは知らない。その様子を見ていた朱乃が頬を膨らませて嫉妬していたことを。

 

 風呂から上がった三人は、それぞれ浴衣に着替えていた。それもおそろいのものだ。浴衣の着付けは朱乃が知っていたので、クラマとオーフィスに教えたようだ。

 

 三人はそのまま縁側に向かった。

 

 そのまま縁側に腰を掛けて空を見上げるクラマ。それにつられてオーフィスと朱乃もそれぞれクラマの隣りに腰を掛けて空を見上げた。

 

 空には星が輝いており、夜特有の空間をつくりあげていた。

 

 

「綺麗だね………」

「ん」

「そうだね」

 

 

 クラマが何気なく呟いた言葉に同意するオーフィスと朱乃。

 

 

「久しぶりかな………こんな風に静かに過ごすのは………」

 

 

 クラマが呟いた言葉は、やけに響いた。

 




誤字脱字、文章表現の変な場所があったら教えてください。

2014/12/10 姫島親子を襲った者を「堕天使」から「人間」に修正。

2015/01/03 文章表現を変更。

2015/02/06 誤字修正。
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