喰種は無限龍神に寄り添う 【凍結】   作:-Msk-

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七喰目 偵察

 クラマが紅髪の少女と出会った日から、数日が経った。

 

 この数日、クラマたちは特に何もなく過ごしていた。

 

 午前中はクラマと黒歌が、午後はクラマと白音が模擬戦をし、それをオーフィスがじーっと眺めている。そんな変哲のない日常を過ごしていた。

 

 現在時刻は午後の五時。よい子はお家へ帰る時間だ。そんな時間にクラマたちが何をしているかというと―――

 

 

「………遅い」

「にゃにゃっ!?」

「………さすがです」

 

 

 ―――相変わらず模擬戦をしていた。

 

 視界が悪くなり、相手を視認できないときを想定しての模擬戦だ。

 

 クラマは喰種(グール)なので、体臭を嗅ぎ分けることでどこに誰がいるのかを把握することができる。それに加えて、オーフィスの力の一端を吸収したおかげで、視覚が人間の数十倍になっている。暗闇でも問題なく動けるというわけだ。

 

 対して黒歌と白音はどうだろうか?

 

 黒歌も白音も、猫又という妖怪だ。妖怪なので暗闇でも問題なく動ける。むしろ暗闇の方が動きやすい。

 

 妖怪は『陰』か『陽』で聞かれれば、間違いなく『陰』だ。そして『陰』は日が沈み、辺りが暗い闇に染まる夜に映える。

 

 現在はその夜。ということは………妖怪である黒歌と白音が有利―――そう考えるのが妥当だ。

 

 だがしかし、そんな有利不利は圧倒的な戦闘経験の差は埋めることができない。

 

 クラマは黒歌と白音の拳を躱しながら言う。

 

 

「黒歌は後方支援に徹底しろ。お前に肉弾戦は無理だ」

「戦いながら指摘するとか………余裕すぎにゃん!!」

 

 

 黒歌はそう毒づきながらも、後ろに跳躍した。そして跳躍しながらもクラマに向かって魔力弾を放つ。

 

 白音は背後から迫ってきた魔力弾を拳を放つときの溜めを利用して躱す。絶妙なタイミングで躱した白音のせいで、いきなりクラマの目の前に現れる魔力弾。魔力弾はクラマに当たる―――かと思いきや、これを予想していたのかクラマはブリッジしてこれを寸で躱す。

 

 そんな一部始終を見た白音は思わずと言った調子で言う。 

 

 

「………相変わらずのデタラメさです」

「口を開く暇があったら手数を増やせ」

「………厳しすぎます」

 

 

 白音のぼやきをまったく気にしないで追撃を加えるクラマ。

 

 引き絞った右腕が鞭のようにしなりながら白音へ向かう。その拳を両腕をクロスして受け止める―――のではなく、腕を掴んで背負い投げをする白音。そこまではよかった。クラマも予想をしていなかったのか、少し驚いている。

 

 問題は手を離さなかったということだ。クラマは両足をしっかりと地面に押し付けて着地した。ブリッジの状態だ。そしてその状態で白音の腕を掴む。

 

 腹筋と背筋を効率良く使い、上半身を起こす。その起き上がった勢いを利用して白音を黒歌の方に投げる。

 

 白音はポーンと投げ飛ばされて、黒歌の目の前に落ちる。しっかりと受け身をとったおかげでダメージは少ないようで、すぐに立ち上がった。

 

 クラマは首をバキバキと鳴らしながら言う。

 

 

「今日はここまでだ。これ以上やると歯止めが効かなくなる」

「嘘でしょ? 本当はオーフィスに会いたいだけでしょ?」

「喰らってやろうか?」

「なんでもないにゃん」

 

 

 クラマを茶化す黒歌だったが、クラマの口から「喰らう」という単語が出た瞬間、真面目な顔で訂正した。

 

 そんな二人を見て白音は苦笑いをするのだった。

 

 

 

†††

 

 

 

 クラマたちが家に帰ると、たたたたっとオーフィスがリビングから小走りしてやってくる。そんな様子を見て表情を柔らかくするクラマ。

 

 クラマはそのままオーフィスを連れて風呂へ向かう。それについていこうとする黒歌だが、クラマに気づかれてデコピンをされる。デコピンをされた黒歌は額を抑えてその場にうずくまった。どうやらかなりの強さで撃ち込まれたようだ。

 

 脱衣所で服を脱ぎ、脱いだ服を入れたら浴室へ入る。オーフィス、クラマの順に入った。

 

 まずはクラマがオーフィスの身体を隅から隅まで洗う。もちろん前も後ろも関係なしにだ。オーフィスを洗い終えたら次はクラマの番だ。クラマがオーフィスに身体の隅から隅まで洗われる。もちろん前も後ろも関係ない。

 

 シャワーで泡を流したら湯船につかる。先にクラマが入り、クラマの膝の上にオーフィスが座る。そんなオーフィスをクラマは後ろから抱く。別にやましい気持ちはない。もう何年もこうしているのだから、日常と化している。

 

 オーフィスがクラマを見上げながら言う。

 

 

「最近、堕天使がうろついてる」

「堕天使か………」

 

 

 確認するように呟くクラマ。どうやら心あたりがあるようだ。

 

 

「廃教会にいる奴らか?」

「ん。下級、故に警戒しなくていい」

「その下級堕天使がなんで駒王(ここ)に来たんだ?」

「わからない」

「そうか………」

 

 

 別にクラマは落胆したわけではない。知ってたらラッキー程度に考えていたのだ。

 

 オーフィスに警戒しなくていい、と言われたクラマだが、警戒しないわけにもいかない。いつ自分たちに牙を向くのはわからない。だから警戒しないわけにいかない。

 

 黒歌と白音も、最近力をつけてきているので下級堕天使程度には負けない。だが心配なものは心配だ。だから被害が来る前に始末するか? ―――そんな考えが頭に浮かぶが、一瞬で霧散させる。自ら面倒事に頭を突っ込むこともない、と考えたのだ。

 

 

「そろそろあがるか」

「ん」

 

 

 オーフィスはそう返事をすると立ち上がった。クラマもそれに続いて立ち上がり、オーフィスの頭や体をタオルでふく。

 

 風呂からあがったら、用意してあった服に着替える。クラマは相変わらずの黒ずくめ。オーフィスもクラマと同じ黒ずくめ。ペアルックだ。………これをペアルックと呼んでいいのかはわからないが。

 

 服を着たらリビングへ向かう。その途中で、冷蔵庫からミネラルウォーターが入っているペットボトルを取る。リビングにつくと、いつも座っているソファに座る。そしてクラマの膝にはいつも通りオーフィスが座る。

 

 クラマが黒歌と白音に言う。

 

 

「黒歌、白音。風呂開いたぞ」

「わかったにゃん」

「………いきましょう、黒歌姉さま」

 

 

 珍しくクラマに抱き付かない黒歌。クラマが風呂上りということで遠慮をしたのだろう。

 

 オーフィスの髪を撫でるクラマ。それを黙って受け入れるオーフィス。はたから見れば恋人―――もしくは夫婦に見える。だが二人の関係はそんな言葉では表せないほど深い。

 

 

 

†††

 

 

 

 太陽が昇り始め、辺りがうっすらと明るくなり始めた―――一夜が明けた。

 

 クラマはオーフィスの腕を、オーフィス、黒歌、白音は黒歌がつくった朝食を食べ終えた。朝食を食べ終えたら、各々寝間着から着替える。

 

 クラマは着替える必要がないのでそのままだ。オーフィスは浴衣を脱いで、魔力で黒のゴシックロリータ調のワンピースに、黒歌は黒を基調とした着物、白音は白のワンピースに着替えた。

 

 クラマはオーフィスと黒歌の方を見て言う。

 

 

「いってくる」

「ん」

「いってらしゃいにゃん」

 

 

 オーフィスは頷きながら、黒歌は手を振りながら言った。

 

 クラマは白音の手を引いて歩き出す。玄関で靴を履いて、玄関扉を開けて外に出る。

 

 今日、クラマと白音は喫茶店に行くのだ。白音が一日数個限定のパフェを食べに行くお供件、ボディーガードとしてクラマがついていく。もちろんクラマはパフェを食べない。コーヒーを飲むだけだ。

 

 喫茶店までの道のりを二人は手をつないで歩く。はたから見れば兄弟に見えなくもない。

 

 喫茶店につくと、アルバイトらしき店員が丁寧な言葉づかいで席まで案内する。冷暖房の当たらない良い席だった。

 

 クラマはコーヒー、白音は限定のパフェを頼んだ。

 

 クラマは水を、白音はパフェの写真が載っているメニューと睨めっこしており、二人の間に一切の会話はなかった。

 

 このまま無言が続くのか―――と思いきや、白音がクラマに声をかけた。

 

 

「クラマ兄さま………クラマ兄さまは黒歌姉さまのことをどう思ってるんですか?」

「どう思っている、とは?」

「好きですか?」

 

 

 白音の問いを聞いても、いつもと変わらない調子でコーヒーを飲むクラマ。答えが決まりきっているからだ。

 

 

「もちろん好きだ」

「それは家族としてですか? それとも異性としてですか?」

「…………………………」

 

 

 今度は黙り込んでしまったクラマ。そんなことを考えたことがなかったからだ。

 

 オーフィス、黒歌、白音は家族だと思っている。だからもちろん好きだ。嫌いなはずがない。ただ、それを男女の関係で考えたことはなかった。故に戸惑う。

 

 

「わからない」

「………そうですか」

「ただ―――」

「………ただ?」

「―――ずっと一緒にいたいとは思う」

「そう、ですか………それが聞けただけだけでもよしとします」

 

 

 うんうん、とうなずきながら言う白音。表情はどこか晴れやかだった。それに対してクラマは、少し曇っていた。先ほど白音から言われた言葉を考えているのだろう。

 

 クラマがそんなことを考えているうちに、白音はパフェを食べ終える。クラマも少し慌て気味にコーヒーを飲む。少しぬるくなっていて、言いようのない気持ち悪さがあった。

 

 

 

†††

 

 

 

 太陽が沈み、辺りを闇が包む―――夜になった。

 

 クラマはマスクを被り、戦闘(ほしょく)の準備を進めていた。―――廃教会にいる堕天使が行動を起こしたのだ。

 

 とりあえずは様子を見る。もしも自分たちに被害が及ぶようだったら喰らう―――クラマはそう考えている。

 

 今回の偵察はクラマ一人だ。下級堕天使程度なら黒歌と白音を連れていくこともできる。―――が、目的はあくまでも偵察だ。戦闘になる可能性があるとはいえ、偵察が目的なら一人の方が身軽で良い。戦闘になったらなったで、下級堕天使だ何人かかってこようがクラマの敵ではない。

 

 クラマがオーフィスたちを見ながら言う。

 

 

「いってくる」

「ん」

「いってらっしゃいにゃん」

「………気をつけてくれださい」

 

 

 オーフィスは信頼しきって、黒歌は明るく、白音は少し心配そうに言った。

 

 それに対して、クラマは軽く頷いて玄関へ向かった。

 

 家から出たクラマは、屋根に跳び乗って辺りの気配を探っていた。できるだけ人気(ひとけ)がないルートを脳内で導き出し、そのルートを通って廃教会へ向かう。

 

 屋根から跳び下り、アスファルトでできた地面に着地する。屋根を伝って目的地へ向かわなかったのは、屋根を壊す可能性があったからだ。

 

 クラマの人間離れしている脚力で屋根の上を走ったら、屋根を踏み抜いてしまうのは目に見えている。それでは人気(ひとけ)のないルートを選んだ意味がない。だから地面を走るのだ。

 

 走ること数分で廃教会に到着した。廃教会には堕天使の気配だけではなく、悪魔の気配まであった。

 

 最新の注意を払って廃教会の敷地に侵入するクラマ。一切の足音をさせないうえに、呼吸を最小限まで減らす。その最小限まで減らした呼吸は自然に吹く風とタイミングを合わせることによって、ほぼ無音になる。

 

 クラマの目に映し出されたのは、廃工場で出会った悪魔が堕天使を殺しているところだった。紅髪の少女から放たれた魔力弾を直撃し、文字通り消滅したのだ。

 

 それを見たクラマは、紅髪の少女から放たれた魔力弾がただの魔力弾ではないことを察した。

 

 滅びという性質を追加したのか―――そんな考えが頭に浮かんだ。あの規模の魔力弾で人間一人を完全に消滅させるのは、そうでもしないと不可能だと考えたからだ。

 

 クラマは音を一切出さずにその場を離れる。気づかれたら戦闘になるからだ。

 

 家に戻るか―――そう考えた時だった。廃教会の窓ガラスを割りながらクラマの目に男が現れた。ところどころ傷を負っていて、満身創痍とまではいかなくても消耗しているのが確認できた。

 

 

「クソ悪魔が………あんた誰?」

 

 

 少しお茶らけたように言う男。

 

 クラマは男を見た瞬間察した。―――こいつは生かしておくと面倒なことになる変態だと。

 




窓ガラスを割って入ってきた人ピーンチ!!
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