劇場版クレヨンしんちゃんのお助けヒーロー 作:eeeeeeeei
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「ねむーーーーい」
オフィスの中で、机に突っ伏しながらも男は両の手を上げたままでいる。
「先輩、…。あ!まーた変なこと、起きてるみたいですよ?」
隣に座る、同僚の女性は男の背を撫でながらも、適当に興味を引くようなワードを言葉にする。
その心中では早く仕事しろと訴えていた。
「いやーー、オレが望むような案件じゃないとやる気出ないってー」
「それは仕事じゃなくて、趣味になっちゃいますよ」
仕事にそんなことを持ち込むなと思いつつも、女性は自分くらいは仕事をしなくてはと、再度ディスプレイへと目を向けた。
「まったく先輩はいつもいつも、これで特務班のエースだなんて…──ってこれ!!今度は本当に!なんか変じゃないですか!?」
「おっ?」
男は身を乗り出してその画面を凝視したところで、その口を開く。
「これは、いかないといけない。オレが。そう、オレが行かないと」
ニヘラと女へと背を向けて独特の笑顔を浮かべた男。
「ちょっと先輩!──先輩ってば、もーまだ、ちゃんと見れてないのに…」
女はそう言いながら、足早に時空転送機へと向かう男の背を眺めて、ディスプレイへと目を戻した。
「この女の子がいた地点は……平成時代の『ブリブリ王国』──
って、なに?」
──
他にも何が起きたのか、けたたましく流れるアナウンスを尻目に男は急ぐ。
オレが行かないと…!
あの、ディスプレイに映った、東洋人に近い顔をしたショートカットの女性を救うのは自分なのだと、その時空へと跳びだした。
そう、男は時間管理局亜細亜支部タイムパトロールに所属する隊員であり、その中でも問題を起こし続けつつも必ず成果を上げるという、異質な立場にいた。
30世紀を超える現在、時間を超え、時空を超える事が可能となっている。
そんな現代ではいくつもの機器はその扱いを容易へと変えていき、人類は一部の人間を除き、その多くは学ぶことを忘れ、工夫を忘れ、楽に生きることを第一に置くようになっていた。
それに伴い、数多く増えたのが過去や未来を改変する犯罪者たち。
それらを拿捕すべく、日夜『正義の味方』として活動しているのがタイムパトロールの面々。
そんなわけあり凄腕の隊員である男は、時空間転送のできる部屋へと移動し終えた。
『先輩!ちょっと、別の時空でも問題が!!戻ってきてください!』
ちょうどタイムマシンへと乗り込んだところで、後輩の女から通信が入る。
だが、男はもう止まらない。
「そりゃあ、後で行くさ。今はこっちが大事。もう、リングならいけるだろ?」
『あっ!ちょっと!!』
後輩であるリングがディスプレイに浮かべていた女の子を思い描きながら、目的である時空へと男は飛び出していった。
「お助けしなくては──」
∞──∞──∞
「やっぱり、これは酔うぞーーー…」
時空間旅行を終えた男は、自分のいた時代よりももっと未来にはこの気持ち悪さのこないような優れた技術があるのではないかと悪態をつく。
そんな中、独特の気持ち悪さにうんざりしながらもそのハンドスピナーを大きくしたような時空間移動マシーンからその身を転移先であるジャングルへと降ろした。
まわりは鬱蒼としており、目印となりそうなものもない。
目的の人物などおるはずもなく、男は時空間転移の開始早々に目標を見失っていた。
「まずはなにをしようかねー」
男はいつも通り、これからどう動くかを考え始めたところで、ガサリとそのジャングルの茂みをかき分けて現れた、藍色の髪色をしたショートカット、ついでに言うと、軍隊に所属しているような格好をしているまだ10代後半とも取れる若い見た目をした美しい女性と目があった。
「やっぱりオレは天才的だゾ」
キョトンとしていた、目的でもあった女性の顔はみるみる険しい顔へと変わっていく。
さっとそのサバイバルジャケットからナイフを引き抜くと構え、そして叫んだ。
「アナタ──なにを言ってるの!?目的は何!?」
それはごもっともと内心で思いながらも、男はすっと右手を上げる。
ビクリと女の肩が跳ねると、そのナイフをより前へと突き出した。
「怪しい事はしないで!その綺麗な顔のままでいたいならね。ミスター?」
クスリと男は笑いながらも、そのあげた右手で頬を掻くと、つぶやいた。
「やっぱ美人だぞ。でも、まだ弱い」
頭に疑問符を浮かべる女であったが、『弱い』と言うその男の言葉にわずかながらにも腹を立て、牽制の意味も込めてナイフを突き出す。
元々刺す気もなかったのだが、男は避けようともせず余裕の笑みを浮かべながら一歩踏み出してきた。
「──っ!?」
そのまま男はナイフを持っていない方の女の手を取った。
「いきなりすぎるゾ。まぁ、話くらい聞いてくれ」
そう言って、男はそっとその自分の眼球直前で静止するナイフをようやく押し下げたのだった。
──
「あなたの事はだいたいわかったから、その手を話して」
この男は一体なんなのだ。
明らかな軽装で、このジャングル地帯にいる明らかに不審な男。
もっと手前で止めるはずだったサバイバルナイフ。
そこにわざわざ自分から、しかも眼球直前まで近づいてくる狂気。
そっと、ジャケットの内ポケットに常備している師匠の写真を握りしめつつも、その男の話を聞いていた。
時間にして5分程度だろうが、体感時間はその何倍にも感じる。
「────と、いうことなんだゾ?」
ようやく話が終わったらしい。
曰く、自分は怪しくないという点。
曰く、この国に起きることについて。
そして、話のおよそ9割が私を褒めちぎる言葉の数々。
変わっていると言われることはあっても、ここまで純粋な好意を一身に受けたこともないので、自然と体温が上がっている気がする。
「わかったわ。わかったから、アナタが名乗ったのだから、私も名乗りましょう」
普段であればこんな手に引っかかる自分ではないのだが、男の言葉の中には王国の危機の報せがあった。
未来に起こることだという胡散臭さ極まりないことだが、不思議とその男を疑う気持ちは話せば話すほどに失っていた。
「私はこのブリブリ王国、王室親衛隊少佐。名前はルル・ル・ルル。アナタの言う通りなら、王家の人間が攫われると言う事…?」
そう言った私に対して、パァーーっと笑顔を浮かべた男はサッと私の量の手を握り込んだ。
「そう。ルル、だからオレと結婚しよう」
ぽかーんと汗が垂れる。
そして、我へと帰った。
「なんでよっ!」
バシンと握り込まれていた手を振り解きその肩を叩く。
が、叩いた瞬間に私は驚愕した。
その、異常なまでの硬さに。
これが、本当に人間なのかと疑ってしまった。
「今のルルじゃあ、王室の人たちはもちろん、自分自身も守れない。だからオレがお助けにきたんだゾ」
そう言った男の言葉には力があった。
そして、確かな強さをたったこれだけの時間で感じてしまった。
「アナタは、本当に、私を守るために…?」
その強さはドコからくるこかと疑問に思う。
本当に、目的は先程から褒めちぎってくる彼の戯言である、私を助けるために来たのではないかと、そう疑い言葉にだしてしまった。
「それが9割。だから強くしてやる」
「残りの、1割は…?」
なぜだかゴクリと私はツバを飲み込んだ。
「世界のために」
あの独特のニヤケた顔の後で、随分と真面目な顔をした彼はそう言った。
──
スンノケシ王子が攫われた!?
私が修行を行っている間に!?
自身が守るべきである王家の人間は、私がいない間に攫われてしまったらしい。
王妃は泣き崩れており、王は私達親衛隊に捜索の指令を出す。
助けなくては。
昨晩の出来事であれば、まだ遠くへは行っていないはず。
そう思いながらも、他の隊員とは別行動をとり、私はあの男の元へと歩みを進めていた。
この事態を予言していた、あの男の元に。
スンノケシ王子は芯の強い子だ。
礼儀正しく、失礼ながらも自身の弟のように守ってきた存在だ。
だからこそ、あの男が出会った時に話した内容が気になって仕方ない。
「
「おっ? 動き出したか?」
なんとも呑気な顔を浮かべるこの男に思うところはあれど、まだ短い時間ながらも一緒に過ごしていて、この男はいつもこうなのだと理解はしている。
純粋な野生の殴り合いと拳法を学べたカンガルー師匠。
そして、目の前にいる私の第2の師匠は、より効率的な技と動きを教えてくれ、私の力は隊内でもずば抜けるほどに向上していた。
そんな私の手を取り、ぎゅっと抱きしめてきた。
「安心しろ。王子は生きている。助けられるのは、ルルだけなんだから」
不意打ちは、ずるい。
この男の言葉に嘘はない。
この男には、信じさせる何かがある。
そう感じつつも、今から自分がすべきことを、またも私へと教えてくれた。
「あなたは、来ないの?」
そこで疑問をぶつけてみた。
国の部外者とはいえ、未来を見通し、確かな力のある師匠が来てくれたらと。
「今はまだ、な。後で向かうさ。──さみしいの?」
「そんなこと…!では、私は行きます!!」
いつも通りの笑顔を見て、後で来ると聞いて、少し安心した自分がいた。