劇場版クレヨンしんちゃんのお助けヒーロー 作:eeeeeeeei
「さてっと、そろそろやられる頃か。死ぬわけはないとは思うけど…やっぱり行けば良かったかな…」
ルルは強い。
とはいえ、それはこの時代の人間の中では、でしかない。
これから少し先に起こるであろう事を不安に思う。
自分お手製の、防御力アップ重量増し増しプレートベストを着用したままの彼女が負けるであろう相手の事を。
『ハブ』
白スーツにサングラス。
2mを越す身長と筋骨隆々な恵まれた体格。
人1人弾き飛ばすなどわけがないパワー。
恐らくは『リミッター』がバカになっている。
アレは『逸脱者』と呼ばれる存在の、なりかけ。
『逸脱者』とはその時空に相応しくないほどの特筆した力をもってしまった者。
早々に片付けるのが一番なのだが、ハブとは比較にならない程危険なモノが待ち構えている以上は今はまだ、勝つべきじゃない。
「先がわかるってのもまた、大変だなぁ〜」
あくまで別の時空、時代であるこの時に干渉をしすぎる事は良くない。
それを行ってしまうとまた分岐を増やし、最終的にもっと多くの異変が発生し、より多くの仕事と不幸な時空を増やしてしまうからだ。
干渉するタイミングは経験でわかっている。
それは、今ではない。
そんなことを思っていたら、ちょうど連絡機が鳴る。
携帯電話などない今の時代、連絡は簡単ではない。
乗るように指定していた電車か、駅からかの連絡なのだろう。
『師匠…。王子そっくりの子供が攫われてしまいました。発信機をつけはしたので、その位置を伝えます』
『あぁ。ソコならわかる。現地で合流しようか。入り方が、特殊だからね』
『入り方が特殊……師匠は──いえ、やめましょう。私がいながら、子供を守れなくて……すみません』
グッと、自然と受話器を強く握りこむ。
『脱がなかったんだろ? なら、仕方ないさ』
『はい…次は、負けません』
通信を切ると、少し込み上げてくるものがあった。
切り替えてはいるのだろうが、その声からも悔しい気持ちがとれていない事はわかった。
しかも、口を切っているのか少し話し方がいつもと違う気がした。
行かないという判断をした自分のせいなのはわかってる。
わかっているが…待っとけよクソやろう!
──
「
まだ未開のジャングルの奥地。
その岩山の前に、見慣れた後ろ姿を見つけて、声をかけた。
「おっ。待ちくたびれたゾ」
そう言って振り向いた顔は、やはり見慣れたもの。
どこか安心している自分がわかる。
私が一度負けた相手、アイツもまだ本気じゃなかった場合…私だけでは同じエンディングを辿ってしまうかもしれないから…
そして、私が負けた理由を見もせずに当てた師匠は予知の力もあるはずなので、自然と彼を頼ってしまう。
なによりも、自分よりも強い彼が来てくれた事は心強いと思っている自分がいた。
「無事で良かった」
「ちょ、ちょっと師匠!」
ハグをされたのだが、いつものようにお尻に手も行かないし、これは本気で心配してくれているのかと、抱き返そうとしたところで声がかかった。
「なぁ、ルルさん。誰だよ、この人」
スンノケシ王子ソックリの、野原しんのすけくんの父親であるひろしさんがそう訪ねた。
「コホンッ。──こちらは私の武術の師匠で、王子としんのすけくんが連れて行かれた遺跡への案内をしてくれる方です」
「どーぞ宜しく」
紹介した、きっと赤い顔をしている私を一目見た後、ひろしさんとみさえさんに向けて、笑顔を浮かべた師匠。
「はいっ。こちらこそ宜しくお願いします〜!私は野原みさえですっ」
急にクネクネと、唇に人差し指を当てて挨拶をするみさえさん。
そういえば、今更ながら彼は顔が良かった。
黒髪の短髪、クリッと大きな瞳。
私と同年代と言われても、もっと上だと言われても納得してしまいそうな、若さと落ち着きを持った、そんな不思議な印象の男性。
そしてみさえさんは、と言うよりも野原一家は異性の美形に弱い事はここまでの道中ですでにわかりきっていた。
「しんのすけが大変な時に何してんだよっ!」
「なによー!あなただってさっきまでルルさんをいやらしい目で見てたじゃない!」
そんな2人のお決まりの言い合いが始まったのを、やたらと微笑ましく眺めている、初めて見せる師匠の表情に思わずドキリとさせられた。
「師匠、どうかしたんですか?」
私の質問に、彼は野原夫妻を変わらぬ表情で見つめたまま口を開く。
「──なんかいいよな。あんなやりとりをしていても、息子のために、家族の為に、命の危険だってあるのにここまで来たんだ」
一般人である2人なのだから、それはそうだと納得をして、思わず私も微笑んだ。
「オレも…」
そう呟いた彼。
てっきりいつものように私に求婚してくるものだと思ったのに。
「ルル、残念そうにしてどうした?」
自分ではどんな顔をしていたかはわからないが、不思議と体温が上がる。
きっと赤い顔をしてしまっている自分にそんなはずないと言い聞かせて、私は2人をなだめに向かった。
「してません! ほら、先を急ぎますよ。お二人とも落ち着いて!」
なんで、今回は求婚してくれなかったんだろう──
「んん?ようやく、オレの気持ちにも答えてくれる気になった?」
そんな考えは、ニヤけた彼を見てまたも吹き飛んだ。
──
「わかってたなら、どーしてあんたは事前に動かなかったんだよ!」
一家の大黒柱、野原ひろしはこの事態を、正確には王国で何かが起こるという事を予言をしていたという男に向かって悪態をつく。
「大まかにしかわからないからって言ってたでしょ。こんな狭い通路で大声出さないでよっ!」
「お前だって大声出してるだろ!ちょっとこの先生の顔がいいからっておまえなぁー!」
今は岩山の一部のわかりづらいところに掘り込まれた『二対の豚のレリーフ』を押し込み、一行は人の手で作られたであろう、狭い通路を進んでいる最中。
明かりは先頭の男の持つライトだけであった。
そんな場所で大声を出すもんだから、やたらと反響し2人の声はどこまでも木霊する。
「お二人とも落ち着いてください。『ホワイトスネーク団』といつ出会ってもおかしくはないんですよ」
ハブも所属する秘密結社 ホワイトスネーク団。
その秘密結社に王子としんのすけが攫われた事は既にわかっている事だった。
列車でのハブとの戦いにルルは敗れ、しんのすけは攫われていったものの、敵のオカマの1人に発信機をつけたルル。
その発信機を辿ってきているのだから、敵がいるに決まっている中でのこの緊張感のなさにルルは呆れていた。
そんな状況でもケラケラと笑う男は、突然スッとその明かりを消した。
「「ちょっと、なんで消すんだよっ!」」
野原夫婦は同時に叫ぶも、あたりは暗闇。
──フッ──
何も見えない闇の中で、突如人間の顔のようなものだけが照らし出された。
「もぉ少しだから……お静かにぃ……」
「「ギャーーーー!!!!」」
ライトで自分の顔を下から照らした男が小さな声ではあるが、しっかりと聞こえる声量でそう言うと、野原夫婦は抱き合って叫ぶ。
脅かした張本人である男に向かって、ルルはそのライトを奪い取った。
「真面目にしてくださいっ!まったく、せっかくさっきまでは、カッコよかったのに…」
「「何考えてんだあんたっ!」」
ルルはそう呟き、野原夫婦はまたも声を合わせて男へと怒鳴る。
そんな一行はルルを先頭へと変えて、先へと進んだ。
──
「ルル、そこで止まれ」
遠くに光が差し込む場所を見つけた。
自然と足早に進んでいた私を、師匠は止める。
──ゴウッ
という轟音と共に、大型トレーラーサイズの巨大なナニカが横を通り抜けていった。
「なんだぁ、今の?」
「ブタ…に見えたけど…?」
野原夫妻の言葉を聞きつつ、師匠の方を振り向いていたために、私にはその正体は判別はつかなかった。
「師匠は、見ましたか?」
師匠は私の言葉にニコリと微笑むと、大きくうなづいた。
「あぁ。アレが、オレたちが止めるべきこの騒動の元凶であるブタの魔人」
ブタの魔人…?
と、野原夫妻も含めて3人でハテナを頭に浮かべていると、師匠は珍しく真面目な顔をして、言葉を続けた。
「呼び出した者の願いを叶える魔人。この世の理から完全に逸脱したモノ。アレこそが、『ブリブリ王国の秘宝』だよ」