劇場版クレヨンしんちゃんのお助けヒーロー 作:eeeeeeeei
私はきっと、ここで死ぬ。
悔しさはある。
絶対に勝てる自信があった。
そもそも確信があったのだから。
でも、それは確信ではなく、ただの妄想だったらしい。
師匠と出会ってから幾度か感じる、なぜか初めてではないと言う感覚。
私はいつのまにか、それが未来であるかのように錯覚していたんだ。
怪しい事この上なかった出会いだって思う。
ただ、なぜだか何度も見た気がする男の顔で、疑う気持ちを持たなかった自分がいた。
夢では言ってくれたセリフをなぜか言ってくれなかった。
夢で触ってきたお尻を触ってこなかった。
そんな疑問はあった。
私が夢と同じ行動をしても、彼はまた違った反応を見せる時もある。
他の人は、いつも同じ行動をしているというのに。
そんな何度でも見ることのできる夢と、その度に見せる違う顔の彼といる時間が好きだった。
夢で繰り返すたびに厳しくなくなっていく修行でも、鋭く私の短所や悪癖を指摘してくる彼のおかげでドンドンと強くなっていく自分は誇らしく、そんな彼といる時間はとても心地良かった。
私のセンスは変わっているそうだが、
『それも、ルルのいいとこのひとつじゃない?』
と言ってくれた時は素直に嬉しかった。
ただ、その後のカンガルーのパンツとか可愛いじゃんと、なぜ私の下着を知っているのかと一悶着あったケド。
そういえば、記憶の奥に押し込んでいたいつかの夢の終わりで見た光景がある。
なぜ、あんな場面を今思い出してるのだろう。
『この遺跡を地上へと移動させ、我が居城としろ!!』
ブタの魔人となったアナコンダがそう叫ぶと、いつのまにか地上へと移動しており、金色の塔はその姿を金色の城へと変えていた。
『これじゃあ…言い伝えのレリーフも…』
膝をついた王子を見ていると、轟音と共に避けることなど敵わない、ビルほどもある白い蛇の腹が振り下ろされ、空から迫ってくるのを見た。
『死ねぇえい!!ゴミども!!!』
そして、死を覚悟するままなく呆然と眺めていた私たちの前に、首都ブーリーのはずれにいるはずの師匠がいた。
大きな黒い棒で私達を押し除けて、私たちを守るように。
『失敗か。ごめんな。次こそ…』
その両の眼の色は金色に変わり──潰された。
そして、夢は終わる。
夢という曖昧な記憶は薄れていって思い出せなくなった頃に、またジャングルで彼と会うんだ。
『ルル!!!』
これは、また夢なのだろうか?
最後に顔を見たいと思った彼の声が聞こえた。
──ボゴンッ!!
そして、大きな何かが衝突するような音がしたと思ったら、焦がれた彼が眼前に立っていた。
「ほら、パンツ丸出しにしてると風邪ひくゾ?」
そんな焦がれた人は、ロマンチックなどとは程遠い表情で、マジマジと私のアヒルさんのパンツを凝視していた。
「ちょ、ちょっと…!」
「後はオレが。安心しろって。正義の味方、このお助けヒーローに任せろ」
重い身体を無理やりに動かそうとするも、今は痛みで動けない。
すると、師匠はそんな私から目を外した。
『ブヘェあぁぁっ!!!私の口に、黒くて硬い棒を……こんな…このような……殺す!殺すゾォ!!!』
師匠が持っていた、超巨大な短剣を鞘のまま口に押し込まれたらしく、吐き出し叫んでいる。
「さっきから、殺す殺すってしつこいけどお前ら2人とも結局できてないじゃん?って…これベタベタして気持ち悪いゾ…」
軽口を叩く師匠の手にはなぜかあの黒い短剣が握られていた。
ヒュンと軽い音が聞こえたと思ったら、師匠の姿が消え、
──ドガァァァァン!!!
先程よりももっと大きな何かが衝突する音が聞こえた。
音の方へと目を向ければ、魔人となったアナコンダは洞窟の壁に顔からめり込んでいた。
──ゴゥゥゥ
次は強風が通り抜けるような音が聞こえて、なんとか起き上がりそちらを見れば、白いブタの魔人が、ここまで降りてきていたしんのすけくんへと何かを渡そうとしている。
『ニュースステーションのこみやのえっちゃんのサイン、持ってきた』
「うっほほ〜い!!」
しんのすけくんは、確かに願いを叶えたらしい。
ものすごい体幹…があるのかはわからないが、ありえないほど前屈みで顔圧のすごい魔人はそのままの喋り出したため、耳にガンガンと響く。
『終わりの時はきた』
埋め込まれていたアナコンダはガラガラと音を立てながらも起き上がると、白いブタの魔人へと吠え、腕になってしまった蛇の口で挟み込んでしまった。
「大丈夫か?」
「はい…ただもうなにがなんだか…」
「ここまできたら、終わりかな。気も抜かないしね」
そう言って、またも師匠は飛び出したらしい。
『なにをする?』
『お前は死ねぃ!!──壺へと戻れ!!!
……なぜだ、なぜ貴様には私の願いが通じん!?』
白いブタの魔人は、アナコンダと同じサイズまで巨大化すると掴み合う。
コレはまさに怪獣同士の争いだ。
『我等は同格、互いに干渉はできない。それに、我等は消えねばならない』
『お前が消えろ!いや…この場の全員…全人類よ!!消─ブハァァァァアッ!!!』
「往生際が悪いゾ?今度こそ、終わりだ」
師匠は魔人の口を殴り飛ばしていた。
怪獣2匹と人間1人のケンカ。
そんな姿を、みんなで眺めるしかない。
「おぉ〜師匠!すごいゾ!!」
「あの人…人間じゃねぇ…」
確かに、あんな動きができるのは人間ではない…のかも知れない。
でも、仮に人間ではなかったとしても、私はもう彼の事が…
『クソォ…!!認めん!!認めんぞおぉぉぉお………!!!』
最後までアナコンダは抵抗をして、遺跡へとしがみつく。
そんなアナコンダに向かう者が2人。
「ふぅ〜〜〜」
しんのすけくんは、あろう事かアナコンダの車ほどもある指の先に息を吹きかけていた。
そして、しんのすけくんと共にアナコンダへと近づいていた師匠は笑いながら、しがみつく指を蹴り上げた。
「往生際が悪いゾ」
魔人は2人とも壺へと吸い込まれていき、遺跡へと溶け込んでいく。
「ししょうもなかなかやるゾ。正義は勝つ!ワーハッハッハッハ!」
「ワーハッハッハッハ」
師匠はしんのすけくんを小脇に抱えると、一緒になって笑っていた。
「このおバカ!」
「しんのすけ!!」
ひろしさんとみさえさんが駆け寄ったところで、この遺跡の崩壊が始まった。
「見て!天井から…水!!」
「どーすんだよっ!これから!」
この遺跡はあのジャングルからかなり下った、海の底にある。
つまり、王子の言う通りこのままでは我々を含めてここの全てが海の底へ沈む。
だけど
「安心してください」
私は胸元にある王国の紋章を引き抜き、こんな事もあろうかとしこんでいた、スーツ型のアヒルさん救命ボートを膨らます。
「変わってるって、言われません」
アヒルボートスーツの私に言ったみさえさんのその言葉に、私は肯定するしかないのだが…
「僕は、ルルのそんなところも好きだ…!」
王子……
「オラも〜」
「実は、私も」
ひろしさんとしんのすけくんもそんなことを言い出した。
だけど…
「あははは。似合ってるな」
師匠……いや、
「レイヴさん…ありがとう」
「ん………ひとまず、地上に向かう穴を開けるから、そこ目掛けて飛び込めよ?」
彼の手を握ってそう伝えたら、彼は少しだけ赤い顔をしてそう言った。
「「「……え……えぇ〜……」」」
露骨にガッカリしているしんのすけくんと、ひろしさん。
そして、なぜかみさえさんも。
王子も少しだけ、含みのある笑顔を浮かべていた。
私も、仲の良い先輩が別の人と仲良くしている時、そんな気持ちになったことがある。
恥ずかしいけど、王子もこうやって大人になっていくんだな。
「あんたら、そんな格好ですることじゃないでしょ…?」
「緊張感のない人たち」
なんて思っていたら、オカマの2人の言う通り、水嵩も増えてきたようで、彼はまたも短刀を巨大化させると、遺跡の天井を撃ち砕いた。
「水流は増すけど、抜けていく空気と一緒に外へと打ち上げられるはずだ」
「はい!みなさん、しっかりつかまってくださいね!」
私の背のボートに乗ったみんなへとそう声をかける。
「レイヴさんも、そろそろ」
元の遺跡を考えればあと少ししか水面に出ていない最上段にいた彼にもそう声をかけると、彼は笑みを浮かべた。
不思議に思ったが、しんのすけくんが私の背で騒いでいるみたい。
「ね〜!見てみて!金色のマリモが浮かんでるゾ〜!」
しんのすけくんの指の刺した方向、には、確かに金色の丸い物がある。
そして、それがハブだと気づいた時には、私を地面へと縫い付けた鉄爪が彼の腕から放たれた。
「危ないっ!!!」
しんのすけくんへとまっすぐに飛んでくる、子供の命など簡単に奪う鋭利な鉄の爪。
こんな状況じゃあ、私は動けない。
ひどくゆっくりと感じる時間の間、私は当たらないように祈ることしかできなかった。
「よっ」
そんな軽い言葉とともに、彼は放った張本人であるハブをあの巨大化する武器で殴り飛ばし、鉄の爪も寸前で、あらぬ方向へと引っ張られていった。
「助かったぁ……」
安堵したひろしさんがしんのすけくんを抱えるも、しんのすけくんはポンとひろしさんの肩に手を置いた。
「よかったな!」
「「お前がだよっ!!」」
そんないつもの野原家のやりとりで私も安心していた。
だが、天井が近づくにつれて水嵩の勢いはどんどんと強まり、一気に天井は崩落した。
「皆さん!大きく息を吸って!!レイヴさんもはや──え?」
「殺す殺す、殺すぅ!!!!」
鎖を振り回し、暴れるハブであったが、するりと躱した彼は、ハブの頭を蹴り飛ばしていた。
「最後の『逸脱者』も排除。これでクリア」
蹴り飛ばした反動で彼は水面ギリギリにいる。
そんな事言ってないではやく…!はやく!
彼ならば、どうにか私に掴まる手段を持っているはずだ。
だって、私の師匠なんだから。
「急いで!もう──」
「ルルの事、大好きだゾ。──またな」
私にそう笑いかけながら、彼は水の中へと沈む。
そんな彼の笑顔を最後に、私の視界は水の中へと飲み込まれた。