劇場版クレヨンしんちゃんのお助けヒーロー 作:eeeeeeeei
「ぷはぁ!!!」
「死ぬかと思ったぜ!!」
「あたしたち、助かったのね……」
素直に生還を喜ぶみんな。
ただ、私は…
私だけは、心から今の状況を喜べないでいる。
ようやく、自分の気持ちを自覚したというのに。
「オラ…オラぁ……」
しんのすけくんだけは、私と同じ気持ちなのかもしれない。
たった一瞬だったとしても、顔見知りになった人を失うという経験は軍属でもない、ましてや5才ともなれば初めての事だろう。
「しんのすけ…」
ひろしさんは自分の息子の成長を見たのか、じっとその姿を見つめ、みさえさんは無言で抱きしめていた。
私は…私の事は、いったい誰が抱きしめてくれると言うのだろうか。
「えっちゃんのサイン…落としたちゃったゾ……」
予想のはるか斜め上の回答に、不謹慎や怒りという感情は不思議となかった。
なんなら、他のみんなと同じように、私も笑顔を浮かべているのかと、自分のことなのに他人事のように思う。
「あ!!!」
しんのすけくんがそう叫び、前を指差す。
その先は、少量だが泡がたち、何かが海面へと向かい浮かんできているよう。
もしかして──
だが、そんな気持ちは一瞬で消えてしまった。
「えっちゃんのサインだぞ〜!うほほ〜〜〜い!!」
「おバカ……」
しんのすけくんの頭を優しく叩くみさえさん。
あぁ。
私は気を使われているんだ。
それを意識したとき、急に思いが溢れてきた。
思えば、私はあの人の事は名前と、その人間離れした身体能力と戦闘力以外に何も知らない。
リグ・レイヴと名乗った彼は、その名前からも、その見た目からも国籍すら読めない。
私とて、たかだかあって数週間という短い期間だ。
なのに、私を助けてくれたんだ。
何度も……
そう、夢だとしても、とても数週間とは言えないほどに、何度もだ。
こんなに苦しいというのに、なんで今は来てくれないんだろう。
求婚してくれたのは、冗談だったの?
また、というのはどういうつもりなの?
そんな思いが、溢れてしまった。
「……ルル」
きっとアヒルボートのスーツ越しに私を抱きしめようとしているのだろう、王子。
ここが海上で良かった。
私の顔は最初からびしょびしょだ。
スーツ型のボートにしたのは正解だった。
誰にも、私の顔は見られないから。
「ルルおねーさん、泣いてるの?」
誰にも見られないと思ったのに、目の前に逆さまのしんのすけくんの顔。
私の頭に器用に足で捕まっているのだろう。
「泣いてなど…」
「でも、目が赤いぞ?」
「これは海水で……」
しんのすけくん節が炸裂しているけど、私は軍属で、親衛隊員だ。
守るべき王子の前で、泣くなんて事は──
「こら、しんのすけ…今は」
「先生さんが戻らないから、しんちゃん、今はそっと…」
「おぉーししょうかぁ」
そう言いながら、器用に体勢を変えると、今は肩車のように私の頭の上に陣取り手を置いている。
「ししょうなら、終わったら胃液が心配だから調べるって言ってたぞ?」
???
胃液が心配…
そんなストレスでも抱えていたのか?
あの性格で…?
まったくもって訳がわからなかった。
きっと聞き間違いだろう。
正解は、たぶん。
「それって、遺跡じゃないかしら?」
「そーともいう〜。だから、心配はいらないゾ。ワルモノもやっつけて、お腹が空いたらきっとまた帰ってくるゾ」
いつ話したのかと思えば、しんのすけくんを小脇に抱えていた時らしい。
「そう…ありがとうしんのすけくん。そうね、勝手な人だから、どうせまた突然現れるんでしょうね」
「うんうん。────オラも、腹減ったゾ〜…」
そんなしんのすけくんの言葉に、王子は野原家の皆さん、オカマ2人も呼んで、城で歓迎会を開くと言われた。
その夜はみんな王子の帰りを喜び、王子ソックリなしんのすけくんに驚き、飲み、踊り、存分に宴は盛り上がった。
そんな私は、しんのすけくんのおかげで前向きになれたからか、思っていたよりも宴を楽しめていたんだと思う。
どんどんと参加者も減り、他の親衛隊が気を遣って、王家の護衛の任から今夜は私を外してくれた。
そうして自室へ帰ると、手紙が届いていた。
宛名はなく、開くとお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれていた手紙。
その内容は、出会った時と同じく私の容姿を褒めちぎるものが7割。
残りの2割が容姿以外の、私と出会ったからこそ知り得たであろう褒め言葉で、素直に嬉しい。
そして、最後の1割が────
「まったく。こんな突拍子もない話…また冗談ですか?」
窓の外を見れば、遠くの海面がわずかに光って、消えた。
私の言葉に答えたのか何なのかはわからないけど、私がどう思うかは私の自由。
もう会えない訳じゃない。
可能性はゼロじゃない。
とはいえ、限りなくゼロに近い事はわかった。
だから、その光に向かって言ってやることにしたんだ。
「こんな良い女置いていくなんて───バーカ」