「今日は誕生日だから私の好きにしていいわよね♡」
「一体私達に何をする気だ……!?」
ファミリーの皆に自家用ジェットまで来てもらったのに、恋太郎ちゃんと芽衣以外は誰一人として乗ろうとしないわ。
「んもう。なんでそんなに警戒されてるのよ」
「胸に手を当ててよく考えてみろよ」
柔らかいわ。そういうことね。
「ママのおっぱいちゅっちゅちたいのねーっ!」
「「花園家の恥さらしが」」
羽香里と唐音ちゃんの息の合ったクロスボンバーで息の根を止められたわ。
「うぐーッ。もう遠慮のかけらもない」
「あんたの態度に比例してな」
「大丈夫ですか羽々里さんッ!」
「最後に……皆でトモコレしたいわ……」
「やりましょう……!」
「……まあ、これでも誕生日だしな」
「あっ、ダメですよ。お母様に言質を取らせては……!」
「ママにクーリングオフは適用されませーん!」
計画通り……! 芽衣に操縦してもらって、花園家が所有するプライベートビーチに皆を連れてきたわ。
「恋太郎ファミリーアイランドの〜! ファミリーコレクションわくわく生活よ〜!」
「えっ。ゲームじゃなくて現実でトモコレやるのかよ」
「さすがに一線は越えないわよ。バカンスだと思って楽しんでちょうだい」
「さっきのを見て何を信用しろってんだ」
「お店で使えるお金も渡しておくから」
「
「ちなみにレストランでも使えます」
「好き!!」
「結婚する?」
「それはしない」
恋を配り終えたら、思い思いの場所に散っていったわ。というより逃げられたわ。胡桃ちゃんのあんなお世話やこんなお世話したかった……。後で追いかけよ。
「トモコレなら同性でもOKなのに……」
「胡桃さんがOKじゃないんですよ」
「なら羽香里と結婚しちゃお♡」
「残念でした! トモコレでも大人と子供は付き合えません」
「ぐうっ……なら、楠莉ちゃん。出してっ!」
「え? 『ぶっかけると皮膚がただれて滅茶苦茶痛てー薬』?」
「『
「今持ってねーのだ」
「なんで痛てー薬は持ってんのよ」
抜かったわ。いかんせん芽衣の誕生日が終わってから、中村先生のポストを見て思いついたものだから……。
「ゲーム内でできないことでも俺は構いませんよ」
「えっ!? いいの……?」
「折角の誕生日ですし、ファミコレならではの体験で羽々里さんが少しでも楽しめたらなって……」
「恋太郎ちゃん……! とりまキャストオフしよ」
「言質を取ってからのスピードよ」
恋太郎ちゃんのズボンを高速で下ろしたわ。トモコレじゃそこまでのお着替えはできないけど、
「さすがですお母様……! あなたの娘で良かった……!?」
「もちろん例のアトムパンツはつけてあります」
「急なことなのに抜かりがなさすぎる……っ」
「恋太郎君の完璧な対策……っ」
「やっぱりこいつら親子だな……」
「そんなこと言いつつガン見じゃないですか。院田・エロエロ・むっつりすけべ・唐音さん」
「は、はあ!? べ、別にアンタらに先を越されるのが悔しいだけなんだからねっ!」
「か、唐音……。それは否定になってない……」
「何ニヤニヤしてんのよあほーっ!」
先を越す……そうだ。いいことを思いついちゃったわ。
「ねえ恋太郎ちゃん。今日一日だけ、新婚気分を味わわない?」
「もちろんいいですよ。……ただ、新婚生活といっても何をしたらいいのか……」
「特別なことはしなくていいのよ。もし結婚したらどんな風に過ごすんだろうなって気になっちゃって」
「あ……」
羽香里が視線を落としちゃった。まだ羽香里が子供だった頃、不意にあの人がいないことに寂しさを覚えたりもしたわ。だから……ううん、それでも今の私は幸せだってアピールしてあげたいわ。
「絶対に幸せにしてみせます……!」
「ふふっ。ありがと」
もちろん恋太郎ちゃんにもね。
「おいちっ。おいちっ」
「あびゃびゃびゃびゃ!」
「胡桃。落ち着いて。料理は逃げないから」
「ちょっ。あたしアンタらの子供じゃな……おいち」
「食べるか話すかどっちかにしましょうね〜」
「………………」
「食べるのね〜!」
胡桃ちゃんの行き先はもちろんレストランだったわ。くるくるが切れた今なら甘やかし放題よ〜! 恋太郎ちゃんが口元を拭いて、私が頭を撫でて、胡桃ちゃんが食べ続ける……完成しちゃったわね、永久機関。
「胡桃さん食べるペース早すぎですよ。さすがに間に合わな……って、奥様!?」
「えっ、妹? てっきりお店の人が作ってるかと……」
「トモコレの再現したかったから、持ち回りにしてもらったの」
「餅!? 餅はどこだーっ!」
「しまった! こんなこともあるかと思って餅は持ってるけど、調理がまだだ……!」
「そりゃ調理後のお餅をいつまでも持ち歩くわけにはいかないでしょうからね」
「そもそもよく持ってたわね……」
「今から作ってきてもいいですか!? もちろん羽々里さんの分もっ!」
「ちょ、ちょっと! 奥様への料理なら妹がやりますから……」
「ああ、いや。新婚気分といっても、俺はまだ大人の魅力は持ち合わせてないからさ。せめて夫として料理を振る舞えたらなって……」
「「「キュン!!」」」
大人としての魅力なんていいのにね。恋太郎ちゃんにはトップオブ彼氏、キングオブ彼氏としての魅力があるんだから。そんなところも愛おしいんだけど。
「餅……! 恋太郎先輩の手料理……!」
「ママと一緒に待ってまちょうね〜」
「あたしは騎士華先輩じゃねえんだよ」
燃費が良すぎてもうくるくるモードに戻っちゃったわ。どうしたものかと思っているとニュースが流れたわ。
『こんばんは。ファミリーニュースですわ〜。言いづらいですわ……ニュースすわ……ニューすわ〜』
「開幕からぐだぐだ」
『本日育さんがどれだけ顔を引っ張って伸ばせるか、ギネス世界新記録に挑戦しましたわ〜』
「バカンスまで来てなにやってんだ」
「スペースが広いからかしらね……」
『キッツ〜!!♡』
『結果は惜しくもあと1cmというところで鼻血をすわ〜♡ してしまい、認定ならずでしたわ〜』
「可愛さならギネス超えなのにッッ!」
「うわっ! ビックリした」
「作ってきてくれたのね」
恋太郎ちゃん……ううん、今日は夫ね。子供と一緒にテレビを見ながら待って、夫が料理を作ってきてくれる……。家族と一緒に過ごす日常って、なんの変哲のないことでも特別な感じがしちゃうわ。
「お待たせしました。お餅とほうれん草のスパニッシュオムレツです」
「あら、美味しそう」
「おいっしいぃ〜!!♡」
「もう食べてる。それに妹の分まで……。妹は使用人なんですよ? 奥様に用意された料理を一緒に食べるなんて、メイド検定なら一発アウトです」
「何言ってるんだ。俺達は全員家族じゃないか!」
「ぐうっ……! 彼氏検定殿堂入り……っ」
「ふふ……。いただきます」
使用人以外の誰かに作ってもらうなんて、いつぶりのことかしら。そんなことを考えながら一口いただくと、カリッとしたお餅にふんわりした卵がマッチしていて、ほうれん草の甘みとチーズの塩っ気がお箸を進めてくれたわ。
「うん。美味しいわ」
「本当ですか!? お口に合って良かったです」
お正月によく作っていたらしいわ。恋太郎ちゃん卵料理好きだものね。そんなことを話しながら四人で楽しくお食事をして、レストランを後にしたわ。
「羽々里さん」
「今日は呼び捨てにしてちょうだい。ね?」
「え……は、はい! ……は、羽々里……」
「ぎゃわいい……! じゃなかった。なあに?」
「その……手を……」
「ふふっ。分かったわあなた」
食後に夜風に当たりながら、二人で砂浜を歩いていったわ。時折響く波の音が心地いい……。何かお話をしなくても満たされていて、とても静謐なひとときだったわ。そんな時、不意に過ったの。あの人が亡くなってから、羽香里と歩いていた時に覚えた静寂が。
「ねえ、覚えてる? 昔あなたを五股の蛆虫って言ってたこと」
「え、ええ。覚えてますよ。あの時は色々ありましたから」
「羽香里にはね。私みたいにはなって欲しくなかったから。でも……今思えば、あまりにあの子の気持ちを無視したやり方だった」
「それは……。そう、だったかもしれません」
「一人で抱えすぎたのね。私が羽香里を守らなきゃって。でもあなたと出会って、変わったことがあったわ。あなたは愛する人が必ずしも一人だけじゃなくていいってことを、教えてくれた。あの人がいなくなった寂しさも、分かち合ってくれた……」
「それは彼氏として……夫として、当然のことです。……!」
「ありがとう。大好きになってくれて」
私にも、恋太郎ちゃんにも……キスの多幸感が広がっていくのが分かったわ。いつからか羽香里の声を聞かなくなったのは、あの子に寂しさを共有したくなかったから。でもそれは幸せを共有する機会をも奪ってしまっていたのね。
「ちょっと待ったー!」
「えっ!?」
羽香里が矢のような勢いで飛んできて恋太郎ちゃんが決死の覚悟で受け止めたわ。飛んできた方向に振り向くと唐音ちゃんの姿があった。
「本当に恋太郎君のことが好きなのは私です!」
「待て待て。今はそうじゃないでしょ!」
「そうでした! お母様……恋太郎君だけじゃありませんよ! 私だってもう昔みたいに子供じゃないんですから。一人より二人、二人より三人です。今でも……大好きですよ」
「羽香里……。ありがとね」
大事な家族だからこそ傷つけたくなくて。それが結果として羽香里を傷つけてしまった。今ならその理由が分かるわ。胸の内をさらけ出すことができなくなって、何が苦しくて何が幸せだと感じているのか、お互いに分からなくなっていた。だから羽香里がしてくれたように、私も歩み寄ったわ。そして顎を手に取って——
「ちょっと待ちなさいよっ!」
「ギブギブギブ!」
キスをしようとしたら唐音ちゃんにパロスペシャルを決められたわ。
「どさくさに紛れて何しようとしてんのよ!」
「子供じゃないなら、ちゅーしていいってことよね?」
「ぎゃっ! 言質の化け物」
逃げられたわ。それはもうそそくさと。でも羽香里が唐音ちゃんに必死になって止めたことをからかって浮かべた笑顔は、いつしか私達の間から消えたものだったのかもしれないわね。
「相変わらず仲良いなあ」
「本当にね。ね、あなた。ファミリーに入ってからも決して楽なことばかりじゃなかったけど……それでも私は幸せよ。どうしてか分かる?」
「それはもちろん。どんな時も皆がいてくれるからですね」
「そうよ。寂しい時だけじゃなくて……楽しい時もそう。皆で分かち合うから。2倍、3倍……ううん100倍ね。その数だけ幸せがある。皆のことも大好きだけど、私はこの繋がりに感謝してるのよ」
誰だって傷つくことも傷つけることも怖いわ。でも恋太郎ちゃんが自分が傷つくのを厭わずにファミリーを救うから。いつからかファミリーも恋太郎ちゃんに感化されて、誰かの苦しみも同じように背負って、誰かの幸せを自分のことのように味わうようになった。今日それがよく分かったわ。だからこそ確信できたの。いつか結婚して家族になる日が来たとしても、私達は離れ離れになることはないんだって。
「羽々里……。戻りましょうか。皆が待つ家に」
「ええ。未来の旦那さんと一緒にね」
繋いだ手は強く握らなくても決して離れなくて、家に帰ると逃げた皆も待ってくれていて、騒がしいパーティーで祝ってくれたの。この幸せは天国で見守ってくれているあの人にも伝わったと思うわ。
こうして私は家族と一緒に最高の誕生日を過ごしたの。