「犯人はあなたです!!」
「いきなりなに!?」
はすはすはす……はぁあ〜! 今日も恋太郎さんは良い匂いです。それに目を丸くしていますね。当然でしょう。かのシャーロック・ホームズも言っていた気がします。相手をびっくりさせられるし、結果だけ言えば良いって。
「こうして私は事件を解決したのです。ワトソンさん」
「迷宮入り一直線だよ、ホームズさん。このままじゃ何が何やら……」
「……はっ! 危うく匂いに釣られるところでした」
「今もなお嗅いでるけどね」
犯人の卑劣な罠にかかってしまいましたか。しかし名探偵の名にかけて必ず推理ショーをしてみせます!
「最後にもう一嗅ぎだけ……! ……ふぅ。いいでしょう。実はお手紙が届いたのです」
こうして私は事件の発端となった手紙を取り出しました。いえ、むしろ挑戦状でしたね。なにせ名探偵と対となる存在……怪盗からのお手紙でしたから!
『名探偵端須蓮葉に告ぐ! 貴殿の誕生日に花を添えるべく、三つの種を用意した。一つ目はこの漫画の始まりにのみ発現する。二つ目は親愛なるキャプテンアメリカが好むお酒に、悪者が混じっている。悪者の所属を見極めよ。三つ目はツインテールの先で凍える者の位置を探れ。二人の名がスポットライトになり照らすだろう。私の正体を見破れるかな? 怪盗アルファベットより』
「……ちなみにどんな推理で俺が犯人に?」
「虫眼鏡による筆跡鑑定と……ついでにこの予告状からは恋太郎さんの匂いしかしませんでした!」
「絶対そっちだよね!? ……残念ながら、今回は俺じゃないんだ」
「な、なんと!? 私の名推理が……!」
「怪盗アルファベットは緻密でね。俺に代筆を頼んだんだ。だから手紙の匂いからは分からないよ」
「むむむっ。なんというトリック……!」
まずいですね……。事件を追うとっかかりとなる匂いがないことには推理のしようがありません。必死に匂いを嗅いでいると、恋太郎さんが顎に手を当てて考え込んでいました。
「答えを俺の口から言うわけにはいかないけど……ホームズだって一人で事件を解決してきたわけじゃないんだし、ワトソンを探してみるところから始めてみたらいいんじゃないかな?」
「なるほど……確かに名探偵にパートナーはつきものです!」
恋太郎さんからアドバイスを受けた私は追い一嗅ぎしてからその場を去りました。私では感じられない匂いを嗅げる人……あの人しかいません!
「二話連続で言葉遊びかい? 作者が味を占めた——とも言えるね」
「お願いします詩人さん! 私のワトソンになってください!」
「構わないよ」
「ありがとうございます! それで詩人さん……。まずは何から始めましょう?」
「こういうのは一つずつ探していけばいいのさ。まずは"この漫画の始まり"とは何を指すのか……?」
「第一話でしょうか……」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね」
「恋太郎さんは尋ねましたし……羽香里さんと唐音さんでしょうか? けど……」
「ん?」
「名探偵なのにまた失敗してしまったらと思うと……」
頭が良くない私が唯一頭が良くなれる瞬間こそが、名探偵。推理する時だけ天才的な頭脳を発揮できるタイプの私が、それすらも叶わなくなってしまえば……私にはもう何も残らなくなってしまいます。
「失敗してもいいじゃないか」
「えっ……」
「ホームズも言っている。"失敗するのは人の常だが、失敗を悟りて挽回できる者が偉大なのだ"——とね」
「つ、つまり……どういうことでしょうか!」
「意外にホームズも失敗を重ねている。失敗を躊躇しない者が本当の名探偵なんだろうね」
「そうなんですね……。厚い本を読むと眠くなってしまって。ですが分かりました! とにかくやってみます!」
微笑みと共に頷いてくれた詩人さんに勇気を分けてもらった気がしました。私が目指すのはただの探偵じゃなく、名探偵! ならとにかく失敗を重ねてみます!
「ふーん……。今時挑戦状ねえ」
「ファミリーの
「
折角なのでピンクの四つ葉のクローバーが見つかった学校の庭までお越しいただきましたが、挑戦状を見てもピンと来ていないご様子でした。
「ううん……心当たりはありませんか」
「残念ながら。ですが謎解きに協力させてください!」
「おお! 是非!」
「蓮葉のなんだからあまり解きすぎるんじゃないわよ」
「おやおや〜? まるで分かってる風な言い方ですね〜?」
「あ、あ、当たり前でしょっ!」
「そうですか……当たり前……」
「あ、いや……。わ、私も分かってないわよっ!」
「唐音さん……大丈夫です! 失敗を重ねてこそ名探偵ですから!」
「なんでアタシが励まされる流れになってんのよっ!」
「……むぅ。『この漫画の始まり』だけだと選択肢が広くて絞り込めないですね」
「なら他のものに目を向けるまでさ」
「怪盗アルファベットって言うなら、答えもアルファベットってのはまあ、想像つくわね」
「あと一つ目に関連しそうなのは『発現する』しかありませんね……」
「……? よく読むと"種が発現する"のは変ですね」
「えっ。そうなんですか?」
「発現というのは目に見えないものが表に出ることですから……この場合種そのものが出るわけではないので、正確な表現は発芽ですかね」
「おお……さすが羽香里さん! お詳しいですね!」
「それほどでもありますよ!」
「……アンタのこと初めてすごいと思ったわ」
「一年以上過ごして初めて!?」
「本当にすごいですよ。発現なんて馴染みがないですから! 発言ならともかく。……あっ」
「良い気づきだね蓮葉。こういった文面の謎解きは大抵が言葉の変換なのさ」
「えへへ……」
「つまり『この漫画の始まり』を発言しろってこと?」
「そうなると対象も絞れてきますね。この漫画の始まり……というよりは、この漫画の最初の部分を声に出せと言う意味に取れます」
「この漫画……『100カノ』のことでしょうか」
「『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』——とも言えるね」
「君を発言する……? むむむっ。謎が謎を呼んでしまいました」
「あと唐音が言っていたね。アルファベットが答えなんじゃないかって」
「親愛なるキャプテンアメリカ〜とかやたら英語を意識させてるわよね」
「………えーと。君は英語でなんと言うのでしょう……」
「ふふっ。唐音さんはもしかして分からないんじゃないんですか〜?」
「はあ? さすがにそれは……。……! べ、別にアンタに言われなくても分かってるんだからねっ!」
不意に唐音さんが羽香里さんに思い切り指を突きつけました。心なしかいつもより強い語気でアンタと言ったような気がします。すると私の灰色の脳細胞が急激に活性化を始めました。
「君と考えて混乱しましたが、あなたなら分かります! ずばり
拍手喝采が沸き起こり、羽香里さんを見習って私も胸を張りました。やっぱり名探偵の時の私は一味違いますね。進研ナディーでやったところで良かったです。お礼を兼ねてキャプテンアメリカのもとを尋ねると凪乃さんが一緒にいました。
「アイアムが『好むお酒』デースか? いつもアメーリカなレゲエパンチを飲むデース!」
「以前も言った通りレゲエパンチの発祥は日本だし、そもそもレゲエはジャマイカ」
「酒言葉がスムーズな生活ができる冒険者だから、フリーダムなナディーらしい——とも言えるね」
詩人さんはお酒にも詳しいようですね。さすがです!
「それよりなぜお酒を? 誕生日を迎えても端須蓮葉はまだ未成年」
「実はこのようなお手紙が——」
かくかくしかじかです。なんでしょうね? かくかくしかじかって。
「——アイアムに任せるデース! 悪者をアメーリカジャスティスロープでおロープにつかせるデース!」
「この手紙の送り主は言葉の意味を正しく理解していない。『お酒に悪者が混じっている』では文章が破綻している」
「どうしてアイアムをルックデース?」
「あれ? 先ほども同じようなことがありませんでしたか?」
「おや、確かにね。その違和感を追及してみてはどうかな?」
詩人さんの後押しを受けて私は先ほどのことを思い出しました。同じく詩人さんが教えてくれましたよね。言葉の変換が大事だって。
「悪者……わるもの……。お酒をわるもの……割る物?」
「誤字を確認した。冗長な言い回しを省き、簡潔にまとめるとレゲエパンチは何で割られているか? となる」
「それは……ウーロンってイングリッシュでなんて言うデース?」
「ウーロン自体は中国語だけど、そのままの発音で定着している」
「後は所属を見極めればいいね」
「分かりました! お茶ですね。英語では……」
「お茶はジャパニーズからハッピバースデーソウルデース! これもそのままイングリッシュで通じるはずデース!」
「緑茶として認知されるケースはあるけど……」
「あっ、分かりました!
「オー、それデース! 蓮葉ガールはイングリッシュマスターデース!」
「この世界はやはりどこかおかしい……」
「だから面白いのさ」
私達の盛り上がりに釣られるように二人も拍手してくれて、推理ショーを盛り上げてくれました。華麗なる名推理もいよいよ最終章へと突入です。まずは屋上に彗流さんと小々枝さんを呼び出しました。
「……寒いぃ……」
「そよ風も時には身を切り裂くのかもしれないね」
「言ってる場合!? しょうがないわね。アタシのツインテ貸してあげるわよ!」
「……はぁぁ……あったかい……」
たどり着いた途端に固まってしまった小々枝さんの首にツインテールが巻かれていくと、見ているこちらも温まるようなポカポカとした表情が浮かべられました。
「詩人さん分かりました! 『ツインテールの先で凍える者の位置』はゼロ距離です!」
「……しかしそれでは『二人の名がスポットライトになり照らす』という要素が絡まないかもしれないね」
「むむむっ! また失敗してしまいました……。けどここから挽回してみせます!」
「何の話よ?」
例によってかくかくしかじかです。その間に小々枝さんの体も温まったようです。
「……楽しそうだね……混ざってもいい……?」
「もちろんですよ!」
「名前が大事っていうなら、アタシの方は素直にLなんじゃないかしら」
「おお、なるほど! そうなると小々枝さんもどこかにアルファベットが………ありませんね」
「そうね。でもわざわざアタシの先って書いてあるんだから、Lからどれくらい離れてるかって話じゃない?」
「それは良い考え方だと思うよ。蓮葉はどう思う?」
「私も同感です! ただ見た目通りゼロ距離ならともかく、小々枝さんのお名前で距離を示すようなものが……」
「……ゼロ……。……そういえば手紙は……『二人の名』だから……名字も対象なのかも……?」
「むむっ! そうかもしれませんね。名字は三白で……あっ! 数字がありました!」
「やるじゃない!」
「ええとLから三つ目のアルファベットは……?」
「一人ずつ数えていけばいいじゃない! まずはLから!」
「……次は……Mだね……」
「二つ目はNとも言えるね」
「分かりました! 三つ目のアルファベットはOです! これに今まで判明しているU、Tを加えると——!?」
すると突然巻き起こった風が彗流さんのツインテールを靡かせ、小々枝さんを震えさせました。そして吹き飛んだ詩人さんの羽根帽子を受け止めると、そこにはシルクハットが隠されていました。
「犯人は……詩人さん! あなただったんですね!」
「すまないねホームズ。君を試してみたのさ」
「どうしてこんなことを……!」
「姫歌にやってもらったゲームが嬉しくて、自分でも仕掛けてみたくなったのかもしれないね」
「なるほど……だから二話連続だったと。叙述トリックというやつですね! 予想外の展開でした!」
「……叙述トリック……だったかな……?」
「それにUとTが分かってたなら、だいぶ予想できそうじゃない?」
「うう……失敗しました……。そんな近道があったとは」
「いいじゃないか。ホームズの言葉にこんなのもある。"僕は当てずっぽうは決してやらない。あれは癖になると大変だ、推理力がダメになってしまう"……とね」
「そんなのもあったんですか!」
いつか眠気に打ち勝って最後まで読んでみるべきなのかもしれません。
「君は失敗を重ねつつも、最終的には犯人に辿り着いた。これまでもそうだっただろう? それはやはり蓮葉が名探偵である何よりの証なのさ」
「詩人さん……! ありがとうございます!」
私の名探偵はあくまで自称です。けれど皆が、勉強もできない私のことを名探偵だって信じて讃えてくれる。だから私は胸を張って名探偵を名乗れるのです! これまでも……そしてこれからも!
こうして推理ショーは幕を閉じました。私は達成感と共に羽根帽子の匂いに包まれ、最高の誕生日を堪能したのです!