どうして1+1
今日は1月23日。1の洗練されたフォルム、2の曲線と直線とコントラスト、3のふくらみとくびれ。全てが消えずに並んでいる尊い誕生日だ。おめでとう! こうして数は16歳になった。……数の中から15が消えてしまったんだ。
「数っちー。誕生日おめでとぉー」
その日の朝。教室でスマホの時計を眺めていたら、あー子がやってきて早々ちぱちぱと手を叩いて祝ってくれた。
「おー。あー子が2人目だな」
「あちゃー。恋太郎っちに負けたかぁー」
「いや、1番は数に決まってるだろ」
「そりゃそっかぁー。恋太郎っちがまだってことは、もしかしたらサプライズあるかもぉー」
「いや、恋太郎には普通に過ごしてくれって伝えてある」
「えー。どうしてぇー?」
「覚えてるからサプライズにはならんからな」
「あー」
「それに……。いや、なんでもない」
「…………」
ああ、気づかれたな。相変わらずあー子は表情に出やすいな。
「……分かったよ。実は——」
15が消えたことを打ち明けると、あー子は自分のことのように悲しんでくれた。だから話したくなかったんだ。
「ちょっと待っててねぇー。いー
「やめとけ。あろうことか数字を記号として見れば簡単とか宣うぞ」
「そっかぁー……。それならぁー」
あー子は昼休みになってすぐ、数の手を引いて屋上に連れてきた。
「誕生日おめでとーッ! 生まれてきてくれてありがとう……!」
すると恋太郎に続くように皆がお祝いの言葉を投げかけてくる。
「おい、なんだこれは。普通に過ごしてくれって言っただろ」
「特別なことはしてないよ。家族が誕生日を迎えたら、お祝いするだろ?」
「……ま、まあ。嬉しくないとは言ってないけどな」
「えへへぇー。よかったねぇー、数っちー。それでねぇー——」
あー子が皆に打ち明けると、やはりというべきか思い思いに解釈をぶつけてきた。
「ずばり15は奇数字なのよ!」
「奇数ではあるけどな」
なんだ奇数って。15は15だろ。他の何者でもない。
「15は先輩の16を立てて、後ろに隠れているのさ!」
「影として残っている——とも言えるね」
15が16の後ろにいたら、チャームポイントの直線と曲線のコントラストでバレちゃうだろ。
「もしや15様はご命令されたのではないでしょうか」
「きっと強くなるために修行の旅に出たんだ!」
強くならなくても素敵だから戻ってこい。数が命令する。
「実は16にはたくさんの小さい15がギチギチに詰まってるんだよ!」
「すわ〜。それか16は15と1が無理やりくっつけられて出来たキメラなんすわ〜!」
ぎゃーっ!? なんておぞましい想像をするんだこいつらは。
「無理やりとは限りませんよ。つまり16は15と1が……きゃっ。皆まで言わせないでください」
「子作りしてるってことか〜!」
まあこいつらは置いといて……
「きっと恥ずかしがり屋さんなんだと思います」
「こんな風にですかね?」
「ひゃああ——」
相変わらずお人好しなやつらだ。他にも湯水のように考えつかない見方を出してきた。誰かが悩んでいると知れば、その痛みを分け合い真剣に向き合ってくれる。凪乃も数学を使って証明することは容易いだろうに、数が求めていないことを察して黙ってくれた。
「ありがとう皆」
数もそんなこいつらが好きだ。ファミリーのためなら我慢できる。たとえ15や1が消えてしまうとしても、数が受け入れられたら、皆を答えのない迷路から抜け出してやれるんだ。
「おかげで数も——」
「——待ってくれ数。放課後、家にお邪魔してもいいかな」
「恋太郎?」
「そこであの時の続きをやりたいんだ。あー子も来てくれるか?」
「もちろんだしぃー」
本当に不思議なやつだ。自分は嘘みたいに無茶をするくせに、こっちの無理にはすぐに気づいてしまう。
放課後。数は2人と一緒に下校していた。
「続きってどういうことなんだ?」
「前に1+1=2なのは、2が集った1たちの魂の数で、そこにはちゃんと1たちのレガシーが宿っているからだって説明したよね」
「忘れるわけないだろ」
「さっきファミリーの皆が出した意見も、1+1の重なりだけど、同じように数字としては見えないんだって気づいてさ」
「そっかぁー……。ファミリーも
「数が皆のこと1に見えていたら……ッ!」
「思い込もーとしなくていいんだよぉー。前に皆の名前覚えた時みたいにぃー、なんかやり方あるってぇー」
「うん。彼に協力を頼もうと思うんだ」
数の部屋に2人を招き入れる。すると恋太郎とあー子は数の初恋の相手に挨拶をしていた。
「明けましておめでとうございます。1さん、2さん、3さん」
「あーしは
その相手は、幼稚園の運動会のかけっこですごく速かった子たちが立っていた表彰台の1と2と3だった。
「数。初めて10になった日のことを思い出してくれ」
「思い出すまでもない。数1人じゃ9までしかなれなかった。一緒なら20だって……99までなってくれるって。……嬉しかった」
「あれは俺と数。1人と1人が合わさって2人になったからできたんだ」
「1+1が……2だから? でも一緒に1と1をやったらできるのは11なんだ。だめなんだよ……恋太郎」
「留年回避の勉強をした時……俺はどうしても数にいい数学の教え方ができなかった」
「それは数学がクソだから……」
「きっとそうだったんだ。数学に当てはめる必要がなかったんだ。今日それが皆のおかげで分かったよ」
「つまり1+1が2ってことはぁー……
「そうだ。1+1、2+1、3+1と続いていっても……1も2も3も消えないこと。俺たちならそれが証明できる。3さん、失礼します」
恋太郎は3に頭を下げると表彰台に乗っかった。そして膝をついて3の形になってくれた。恋太郎らしい筋肉質な3……♡
「あー、そっかぁー。しつれーしぁーす」
続いてあー子も2の上に乗って、2の形になってくれた。あー子が笑った時みたいにふにゃふにゃな2……♡
「おいで数」
数字に見惚れていると、その余韻を壊さないように恋太郎が優しく語りかけてきた。
「あ……」
数は真ん中の1の上で1の形になった。寝ても覚めても練習した1だ。芽衣の綺麗な1にだって負けないくらいびっしりと決めた。
「これって……」
表彰台の数字とはまた違う表情で数たちの1も2も3も、全てが消えずに並んでいた。
「改めて……誕生日おめでとう、数」
「おめでとぉー」
1番最初に誕生日を祝った数の1、2番目に祝ってくれたあー子の2、3番目に祝ってくれた恋太郎の3。数が誕生日でも普通に過ごしてくれって言ったのは、皆からお祝いがたくさんきたら、そのお祝いの数だけ……前の数字が消えちゃうのが嫌だったからなんだ。
「ありがとう……ッ。2人とも……ううん、皆!」
こうして数は永遠に消えることのない最高の誕生日プレゼントを貰ったんだ。