お天道サンが顔をちょこっとだけ覗かせた早朝。鳥サンのさえずりに出迎えられながら校門を潜ったど。お花の蜜高校は夏休みの真っ只中。おかげでいつも以上に静かだけんどー、グラウンドに寄るといつも通りの二人が練習してたどー。
「二人ともおはようだどー」
「山女ちゃんおはよう! 今朝もぎゃゔぁびゔぃね」
「だどー?」
「あ、山女! おはよう! 恋太郎ここまででいいよ」
「いいの?」
「うん! 野球部の皆もそろそろ来るし……それに今日は二人で過ごして欲しいんだ!」
言い終わると育サンがこっちに向かってウィンクしてくれたど。おでの誕生日だから気を遣ってくれたんだなー。お祝いの気持ちが伝わってきて嬉しいどー。
「まずはー夏野菜の収穫から始めるどー」
「任せて! 暑くなる前に終わらせてみせるよ」
「暑くなってから水やりすると根が痛むからなー」
「それもあるし、何より山女ちゃんが熱中症で倒れないようにね」
何も言わずに当然のように手伝いに来てくれて、さらにはそんな心配まで……。おでこんな身体だから、手伝いが必要とか倒れるかもだとか、思われたことなくて。誰かに守られることがこんなにも心地良いなんて……。
「恋太郎サン……」
「山女ちゃん……」
服の裾を掴むと察したように抱きしめてくれたど。体格差があるはずなのに、抱きしめた背が大きく感じられたど。
夏野菜の収穫と水やりを済ませると日差しが出てきたど。恋太郎サンのおかげで今やる屋外作業は終わったから、胡桃サンや百八先生に送る野菜を部室で詰めていると、外から何人かの部員が駆け寄ってくる音が聞こえたど。
「優敷さん大変!」
「スコップが無くなってるの……これは怪事件だよ!」
「だどっ!?」
「ああ、それは——」
「むっ! 事件ですか! 私にお任せください!」
するといつの間にか蓮葉サンが部員に混じってやってきていたど。
「どうしてここに……」
「ふっふっふ。良い匂いに釣られてやってきました」
「ちゃんと蓮葉サンの分もあるどー」
「ありがとうございます。お礼といってはなんですが事件を解決してみせましょう。名探偵の名にかけて!」
「名探偵さん! 無くなったのは優敷さんが愛用していたスコップなんです……!」
おでが思わず力を入れすぎて壊しちゃって、補修してだましだまし使ってたやつだなー。
「つまり山女さんの匂いがする人が怪しいわけですね! それでは失礼して。良い匂いれす……♡」
「くすぐったいどー」
「むむっ! 恋太郎さんから色濃く山女さんの匂いがします! なるほどつまり……」
「違うよ? これはその……」
恋太郎サンが耳打ちすると蓮葉サンが顔を赤らめたど。朝その……色々したから。な、なんだか恥ずかしくなってきたどー。
「それでね。多分犯人は——」
「スコップということは手の部分から匂いがするはずです。ということは……こちらの方です!」
「蓮葉ちゃん——!?」
走り出した蓮葉サンは止まる気配もなく一直線にテントに向かっていったどー。
「残念です百八先生。犯人はあなただったんですね」
「あちゃー、バレちゃったかー」
「動機はそうですね……。きっと百八先生は隠れたスコップマニアで——」
「やっぱりスコップを新調してくれたの百八先生だったんだなー。申し訳ないどー」
「いーんだよ。山女には世話になってるし、誕生日プレゼントだと思ってくれれば」
「むむっ!? ……まあ犯人は合ってましたから事件解決ですね! それでは私は風のように去るのです。お二人のお邪魔にならないよう……」
「えっ! もしかしてお楽しみだったのか!? あたしも誕生日になったら頼むよー」
「そこまではしてないですよ……!?」
「だどー?」
蓮葉サンのおかげで百八先生が身銭を切ってくれたことが分かったどー。どうしても申し訳ないって感じちゃうけど、だから感謝なんだろうなー。
「おで実は……二人にお礼がしたくてー。お弁当を作ってきたんだどー」
「マジで!? おお……! 山女様女神様……!」
「彼女の手作りお弁当……!? ありがとうありがとう……!」
「お、大袈裟だどー」
「……! で、でも山女ちゃん火は大丈夫だった?」
「それがなー。羽香里サンが火を使わなくても作れる料理を手取り足取り教えてくれてなー」
それとホテルの手配もするって言われたけどー、休むところまで用意してもらうのは悪いからそれは断ったどー。
「優しさと優しさがかけ合わさって脳の汁溢れちゃう……! 溢れちゃった」
「恋太郎サン人は死ぬど……!」
「こらこら。せめて弁当食べてからにしときな。……うめー!」
「美味しい……! 銀河一美味しい……」
「ほ、本当だど?」
「うん。山女ちゃんが植物を愛情を込めて育てているように、お弁当にも食べる人に美味しく食べてもらおうって愛情を感じるよ」
「だ、だど……。嬉しすぎておかしくなりそうだど……」
おでは普通の女の子のような恋愛なんて無理だって思ってたから……。でも恋太郎サンと出会って、羽香里サンを始めとしたファミリーと触れ合っていくうちに分かったことがあるど。無理って思い込んで、諦めてただけなんだって。
「ありゃりゃ。おねーさんもこりゃお邪魔かなー。お幸せにー」
本当に……こんなに幸せでいいのかなってくらい幸せだど。お弁当を食べた後、部室に帰ってくるまでの間、顔が熱くて恋太郎サンの方を見られなかったど。でも繋いだ手は離したくなくて、おかげでお互いの心臓の音が伝わっちゃって、それが心地良かったど。
会話も特別弾んでいるというわけでもないのに。恋太郎サンと二人で過ごす時間は静かでもなんだか温かくて。ああ、やっぱりおではこの人のことが大好きなんだな。そして恋太郎サンも……そう感じてくれてるから。
「そ、そろそろ外の作業再開しようか」
「そ、そうだなー」
しゃがんでも照り返しが弱い時間になって、二人で次々と根っこから雑草を抜いて、雑草専用の畑に植える。これはおでが勝手にやってることで、皆は変だって言うけれど。恋太郎サンは恋人になる前に受け入れてくれた。それがすごく嬉しかったんだど。
「恋太郎サン。前に少しだけ高校に入る前の話してくれたなー」
「ああ……告白百連敗で心がボロボロだった頃のことだね」
「どうして断られたのかは分からないけどー。おでにとっては恋太郎サンの優しさは魅力的でー、恋太郎サンみたいになりたいなーって思ってるど!」
「山女ちゃん……ありがとう。嬉しいよ」
そう言って目尻を下げる恋太郎サンにまた胸が高鳴っちゃうど。おでのことを魅力的だって言ってくれるファミリーのおかげで自分を信じられるようになったど。それは一人一人を繋いでくれた恋太郎サンの心が現れた結果で。少しでも恋太郎サン自身の魅力を伝えたくなってしまったんだど。
「でも俺も負けないくらい山女ちゃんみたいに優しくありたいと思ってるよ……!」
「だどっ!? いやいやおでの方こそ……!」
「ふふっ」
「あははっ」
朝とは反対側にお天道さんが顔をちょこっとだけ覗かせた夕方。空気を読んだように動物達も静まる中で、初めてキスをした時のように屈んでキスをする。目を細める恋太郎サンが愛おしくて、おでも普通の女の子の一人なんだなって思ったど。
こうしておでは最高の誕生日を大切な人と過ごしたんだど。