「てやんでいてやんでい! 焼きそば一丁どうでい!」
今日は八月の十五日。待ちに待った盆祭りの日でい! 屋台にも笛や太鼓の音が景気良く聞こえてくんでい。やっぱり祭りはいいねぃ! 祭りの空気に浸ってると、人混みから見知った顔が息を切らせて出てきたでい。
「誕生日だってのに精が出るね」
「おぅ先。食ってくかぃ?」
「いただくよ」
じぃちゃんの休憩も終わったってんで、あていも先と一緒に焼きそば食べるでい!
「お、また腕を上げたね」
「あたぼうでい! しっかしまあおめぃさんもちっとは大学生らしくなったねぃ。馬子にも衣装ってやつでい」
「いや、孫はアンタのほうだろ」
「前言撤回でい。ちっとも変わってねぃな!」
「そんなことないさ! 身長だって……! あれ? 祭李後輩、ちょっと見ない間に身長伸びたかい?」
「おぅよ。おかげで父ちゃんと母ちゃんが今の背丈に合うイギリスのはっぴを送ってくれたんでい」
「まだ
やっぱり先はものを知らねぃな。あていのはっぴとねじりはちまきほど派手に祭り! って感じのものもねぃだろぃ。
「しっかしなんだか久しぶりだねぃ」
「夏休みだからね。屋上で毎日会うってわけにはいかないよ」
「にしてもこうまで日が空いたのは初めてじゃねぃかぃ?」
「ふっ。離れてようやく気付いたんだね。アタイという先輩の偉大さに……」
「んなこた言ってねぃよ」
「偉大って言いなッッ!!」
最近全員で集まることが減った気がすんでい。そりゃあていが入った時とは桁違いでファミリーも増えてる。それに毎日誰かとは会って、遊んだりもすんでい。なのに……なんなんでい。夏だってぇのに身の毛がよだつ感じに思わず両手をクロスさせちまった。
「……ずっと続いていて欲しかったんだね。祭りのように楽しい
「あ……」
先の一言で思い出したのは無限神社でのことでい。あの時は神様のせいで祭りが無限に繰り返されて、皆の好きなものが失われて、もう二度皆に会えないと思った……。今度は逆でい。無限に続くと思っていた時間が終わったから、日常がどんどんと変わっていって……。大好きな皆に会う時間が少なくなっちまって……!
「……先も大学生になってから会うことが減って、それって……今が夏休みだからとかじゃなくて! これからもそうなんじゃねぃかって……!」
まるでそれは打ち上げ花火みてぃで。綺麗な花を咲かせて魅了してやまねぃけど、それでも最後の一発が終わってしめぃば、後に残るのは暗い夜空だけでい。
「祭李後輩……。アタイさ、怖かったよ。大学生になることが」
「へっ?」
震える拳を優しく包まれて、思わず変な声を出しちまったでい。それにあの見栄っ張りの先があていにこんなことを言うなんて……。
「折角留年してまで得た裏番長を手放したからね。下手したらまた皆と出会う前みたいに……って、思ってた」
前に千優との出会いを聞いたことがあんでい。クラス中からいじめられて居場所がなかったって。そんなしゃらくせぃ話はねぃよな。ばーろちくしょ。
「でもアタイは居場所まで手放したわけじゃなかった。形を変えてそれは残っていたよ」
「ほ、本当でい……?」
「じゃなきゃアタイはとても自分のことを信じられなかっただろうね」
確かに先自身の能力が急に変わったりはしてねぃ。相変わらず非力だし、頭の良さもアレだしねぃ。それでも……
「そんなこと言うんじゃねぃよ。おめぃさんの悪いとことおんなじくらい良いとこもあていは知ってんでい」
「そっ。アタイが頑張れたのは祭李後輩のおかげでもあるわけだ」
「えっ? でもあていぁ……」
「不思議なもんでね。アタイもずっとあの春が続けば良いと思ってたよ。でもこれで良かったんだ。おかげでアタイは気付けたんだから。近くじゃなくても、どこかに皆がいてくれるってことの偉大さに」
「先……」
そう……かもしんねぃな。あの時のお祭りも無限に続いて欲しかった。でも失いかけて、初めて気付いたんでい。祭りが楽しいのは、いつもの日常があってこそなんだって。
「分かってくれるかい? 恋太郎ファミリーはお祭りなんだって」
祭りの楽しい時間はいつか終わっちまう。でも過ごした時間は消えなくて、またいつか形を変えて次の祭りが始まる。本当に次の祭りが始まるのか怖い……けど、今ならあていも信じられる気がすんでい。
「あたぼうでい! なんたって先がわざわざそんなこと言いに来るくらいだからねぃ」
「んっ? どういう意味だい?」
「誰かに聞いたんだろい。あていのことを」
あていも見栄っ張りだから。先には強がって言えなかったんでい。しばらく会ってなかった先がいきなり事情を察してるってのもおかしな話だもんねぃ。
「ま、まあ恋太郎後輩に聞いて、話したことも千優先輩やエイラ先輩の受け売り……じゃなくて! アタイという先輩が後輩想いだからさ!」
「そこで見栄を張っちまうのがおめぃさんの悪いとこでい」
「な、なんだいなんだい! 落ち込んでるって聞いてきたのに!」
「心配してくれたんでい?」
「なっ……! だ、誰が!」
先が下手くそな口笛を吹き出したでい。まったく……誤魔化すのが下手だねぃ。でもこういうことで嘘をつけないのがおめぃさんの良いとこでもあんでい。
「……あんがとねぃ」
「ん……」
肩を寄せようとしたら顔が乗っちまった。時間が進めば集まる場所も、会う頻度も変わっちまう。いつまでも同じところで祭りはできねぃ。でも離れていてもあてい達はこうして繋がってんでい。見えないのが不安で
「……って! この体勢じゃアタイの方がちっちゃいみたいじゃないか!」
「事実だろぃ」
「なんだって!? まだアタイにだって遅れてきた成長期がある!」
「何周遅れでい。ばーろちくしょ」
「むきーっ! 相変わらず生意気だね! こうなったら今日こそ分からせてあげるよ!」
「おぅ! 望むところでい!」
折角のお祭りにいつまでもジメジメしてらんねぃよな。射的に輪投げにヨーヨーすくい……先といつものように勝負して、いつものように全部勝って。ガキんちょみたいな言い訳をする先をいつものようにあしらってから、顔を覆っちまうくれぃ大きなわたあめを二人で協力して食べた。
「はー……久しぶりに騒いだね」
「まったくでい。やっぱり祭りはいいねぃ!」
そろそろ祭りも終わりでい。どこか寂しいけど、でも今は熱った身体の気持ちよさに浸っていたい気がすんでい。二人で寝転がっていると花火が打ち上がったんでい。やっぱり祭りの華だねぃ。しばらく眺めていると不意に言葉がこぼれたでい。
「あていも頭が良くねぃから——」
「"も"……?」
「考えすぎちまってモヤモヤすることがあんでい。将来屋台を継ぐのか、ファッションデザイナーを継ぐのかとか……。デザイナーなら父ちゃん達のいる海外に行っちまうのかとか……。それでもあていなりに考えたいんでい。他でもないあていと、皆のことだからねぃ」
「いいんじゃないか。アタイもさ。そうやって迷って考えることが悪いことじゃないって、言ってもらったんだ」
「不思議なもんでい。誰かが迷ってると、誰かが気付いちまうんだもんねぃ」
「だからファミリーなんだろ。祭李後輩もさ、一人じゃ怖かったらアタイがいつでも駆けつけてあげるよ」
「先……」
誰かにしてもらって嬉しかったことを誰かにする。それがおめぃさんの良いところで、なんだかんだ先輩らしい部分でもあんでい。見習いてぃよ。ま、本人に言ったら確実に調子乗るから
「なんたってアタイは祭李後輩と違って、頭が良いからね!」
「見え見えの嘘で台無しでい」
「嘘ってなんだいッッ!!」
ギャーギャーと騒ぐ先のあれこれは最後の花火でかき消されたでい。まったく……しまらねぃな。でも祭りが終わっても、なんだかニヤケが止まらなかったんでい。お祭りは無限に続かねぃけど、今日のことはずっと忘れないでい。
こうしてあていは最高の誕生日をやかましい先輩と一緒に楽しんだんでい。