今日は9月9日。私の誕生日だけど、その前にめでたいことがあって。妹がメイド検定に合格したの。だから胡桃の提案で一緒にお祝いすることになったわ。羽香里が言うにはかなり頑張っていたみたいだから素直に褒めたくて……そのための作戦を考えてきたんだから!
「その……合格おめでとうなんて思ってないんだからねっ! ……の反対なんだから!」
「えっ? ……もしかしてすごく怒ってるとかですか?」
「なんでよ!!」
唐人がほのかちゃんにツンデレを乗り越えて告白した時の工夫を参考にしてみたのに、二人から伝わってきたのは困惑だったわ。
「……や。そんなことしなくても唐音先輩、元々あたし達相手には普通に褒めてくれるじゃん」
「恋太郎さんとお嬢様には照れて逆のこと言っちゃうだけですよね」
「はあ!? 恋太郎はともかくなんで羽香里も入ってるのよ!!」
「なんでって言われても……」
「ねえ?」
何を今更聞いてるんだか、と言いたげに二人は顔を見合わせて笑ったわ。な、納得がいかない……。
「それはともかくありがとうございます。唐音さんもお誕生日おめでとうございます」
「いつも先輩として引っ張ってくれてありがと」
「……ふん! 祝われてやるんだからね!!」
「ああ。あたし達相手でも褒められて照れると出るんだよね」
「よく聞くとただ大声で素直なこと言ってるだけなんですけどね」
「な、なによ! 人をツンデレの化身みたいに!」
「それこそ今更すぎませんか?」
「まああたし達も人のことは言えないけど……」
ああ、そうか。程度は違ってもツンデレ同士分かっちゃうのね。だからこそお互い素直に話せるってのはあるかもね。……恋太郎はこんな面倒な私のことも受け止めてくれるけど、これくらい素直に伝えられたらとも思っちゃうわよね。
「唐音さん……。……妹がメイド検定頑張れたのは、なんでか分かりますか?」
「なんでって……芽衣のためじゃないの?」
「もちろんそうです!!」
「そうなんだ」
「あ、いえ! そうですけどそれだけじゃありません!」
「じゃあ恋太郎のためじゃないの?」
「もちろんそれもあります!! ぎゃー違う! そんなこと言ってない!!」
「忙しいな」
分かるわよ妹。ツンデレの衝動に振り回されるその感じ。私がうんうんと頷いていると妹が顔を赤らめながら、懐から何かを取り出したわ。
「もう! これのおかげですよ!」
「それって……」
「『一生一緒にいられる御守り』じゃない」
ここにいる三人と恋太郎で神社デートした時にやっていた『神社の中心で愛を叫ぶ大声コンテスト』で優勝した時に貰った賞品……。
「それならあたしも持ち歩いてるよ」
「えっ! じゃあもしかして唐音さんも……?」
「べ、別に筋トレになるかなと思っただけなんだからね!」
「それが筋トレになるのは静先輩くらいだよ」
「とにかく……あの時、妹だけじゃ本当の気持ちを伝えることなんてできませんでした。唐音さんのおかげで後悔せずにすんだんですよ」
あの頃の妹は加入したばかりで大好きな芽衣を奪った恋太郎に敵対心剥き出しだったっけ。懐かしいわね。
「まあ。それは私もよ。胡桃が背中を押してくれたから……」
「それを言うならあたしだって妹が励ましてくれたからだよ」
「あ……」
「分かりましたか? 妹が頑張れたのは一人じゃなかったからです。……まあ一番はお姉様でしたが!」
「結局芽衣さん自慢に」
そうよ……。あの時だって大好きを叫べたじゃない。一人じゃ難しくても、ツンデレの衝動を分かち合ってくれる二人がいてくれたから……!
「その……ありがとう、妹」
「ふふっ。どういたしまして」
「その調子なら恋太郎先輩にも大丈夫そうだね。……あ、来た」
「……!」
恋太郎が手を挙げて走ってきたわ。誕生日のお祝いをしてくれたら、素直にありがとうって伝えるわよ……!
「お待たせ! ごめん。待たせちゃったかな?」
「いや。全然待ってな——」
「あ、あなたのことなんて全然待ってないですし!」
「べ、別に来てほしいなんて思ってなかったんだからね!」
「あれっ!?」
「二人ともおめでとう! お祝いにクッキーを焼いてきたんだ。もちろん胡桃の分もあるよ」
「結婚して!!」
「将来お姉様が食べるかもしれないので先に味をチェックするだけですからっ!」
「私のクッキーより美味しかったらなんかシャクだから視察するだけなんだからねっ!」
どうしていつもこうなの……! 誕生日くらい素直に伝えたいのに! それにクッキーもあー子がファミリー入りした時に開いたお店で一緒に作った時よりももっと出来が良くなってて、銀河一美味しいのに……!
「……そうか! 二人とも前よりも恋太郎先輩のことが大好きになってるから、ツンデレ因子の逆のことを言っちゃう性質で反発が強くなってるんだ!」
「胡桃はペコデレ因子がメインだもんね」
そんな……。好きって気持ちが増えていくのは幸せすぎて怖いけど、もう止めることなんてできないわよ!
「こうなったら……恋太郎先輩! 元気玉作戦だよ!」
「えっ? ツンデレ喪失の時にやった……?」
「あの時はツンデレじゃない人がツンデレをすることでツンデレ因子を集めたよね。今度はその逆をするんだ」
「その作戦には『ツンデレになる薬』と『ツンデレじゃなくなる薬』が必要だったけど……」
「前は唐音先輩が失った分のツンデレ因子を10人でフォローしたけど、ここで一回だけ素直な言葉を伝える分の因子ならなんとかなるかも……!」
「……もしかしたらできるかもしれないね。ただ——」
「——待ってください!」
「えっ。妹……どうしたのよ」
同じようにツンデレに振り回されて歯噛みしていた妹が立ち上がったかと思うと、私の肩に手を乗せてきたわ。
「唐音さんはそれで——後悔しないんですか?」
「……!」
あの時の言葉を返されて、私は本当に自分がしたいことを考えたわ。素直に伝えたいのは変わらない。けどツンデレだろうと何の因子だろうとそれに振り回されるんじゃなくて……!
「私は……私自身の言葉で伝えたいっ……!」
「その言葉が聞きたかったんです。……胡桃さん!」
「う、うん!」
妹が胡桃に耳打ちされると、意を決して前に出たわ。
「恋太郎さんの………バカあああッッ!」
「かはっ」
「恋太郎先輩!?」
恋太郎があまりのショックに臓器を破裂させて血反吐を……!
「妹が好きなのはお姉様だけだったのに! 今ではこんなにも大好きな人を増やして! それもこれも恋太郎さんのせいですバカバカバカ! ……だからこんな風にした責任を取らないと許さないんですからね! バカがつくほど大好きですよッ!」
「俺もだーッ!」
「この音は……!」
恋太郎の臓器が気合いで再生されていく音……!
「はあっ……はあっ。唐音さん。妹は伝えましたよ。見たでしょう。恋太郎さんはどんな言葉でも愛があれば大丈夫なんです。だから安心してぶつけてください」
「そうだよ唐音先輩。いつもみたいに格好いいところ見せてよ」
「あんた達……」
二人が私の背中を押してくれた。……見せらんないわよね。格好悪いところなんて。
「恋太郎……その。だ、だ、大——」
ツンデレの衝動が迸る……! 恋太郎への気持ちが大きすぎてコントロールできない……そう思った時に過ったのは、私にツンデレ因子を投げ渡した時に恋太郎が衝動を乗り越えて伝えてくれた「大好き」だった。
「大好きよ……! ずっとずっと大好きなんだからっ……! おじいちゃんになってもおばあちゃんになっても、誕生日のお祝いをしてくれなきゃ承知しないんだからねっ……!!」
鏡を見なくても顔が真っ赤に染まったのが分かった。二人はお疲れ様と言わんばかりに肩に手を置いてくれたわ。すると恋太郎がキュンとした表情のまま踏ん張ると口を大きく開けたわ。
「シン・ゴジラ第二形態みたいになってる」
「俺も一生愛してるーーッ!」
「キュン!!」
まるっと全部愛に変えて返されて、三人とも受け止められるキュン値を超えて倒れちゃった。恋太郎が慌てて抱き起こしてくれたわ。目が合うと惹かれ合うようにキスをして、そのまま優しく抱きしめてくれたの。
こうしてあたしは二人に支えられて恋太郎と最高の誕生日を過ごした……なんて思ってないんだからね! ……の反対なんだから!