100カノ誕生日エピソード集   作:ゾネサー

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才奇姫歌の誕生日——奇々怪界の心

「奇姫さん誕生日おめでとう!」

 

「十月三十一日は天才の日ー!」

 

「若き天才歌姫が生まれた日だー!」

 

「あはは……ありがとね」

 

 恋太郎ファミリーに入ってから一年と半年が経ったわ。演歌を歌って奇才と呼ばれた時もあった。けど依然として"若き天才歌姫"の称号に変わりはない。

 

「じゃあ私これから用事があるので……」

 

「またよろしくお願いしまーす!」

 

 楽屋を後にして、一度自宅へと戻る。思案にふけながら履いてきた靴を正しいペアで揃え直す。

 

「最近左右違う靴を履いていっても奇人扱いされなくなったわね……」

 

 折角の誕生日、みんなも心からお祝いしてくれた。それ自体は嬉しいけれど、どこか心にモヤモヤが残っているのも感じる。理由は明らかよね。掃いて捨てるほどある才が、私を天才の檻から離さない。私が天才なんて当然のことで、例えるなら人間の私に「君は人間だ」と言われてるようなもの。それは全然嬉しくないわ。

 

「僕らの心は諸刃の刃ー♪」

 

 モヤモヤを洗い流すように口ずさみながらシャワーを浴びる。私は奇人だからまず肩甲骨から洗うの。

 

「それでもヤマアラシは温め合うのー♪」

 

 我が代表曲ながら変な歌詞よね。でも私が歌うとどんな歌もまあまあいい歌になってしまう。

 

「……才なんて無ければ良かった?」

 

 つい溢れた言葉に慌てて首を振った。そんなことは絶対にない。私としたことがなんて血迷ったことを口走ったの。恋太郎が見つけてくれた私が私である理由。全てじゃなくても歌いたい理由の要素に、私の才は確かにある。

 

「そうよ! 持ってるものを捨てるなんて普通の発想だわ! 天才からはみ出してこそ奇よ!」

 

 湯船に浸かって早々、立ち上がって宣言した。クヨクヨしていてもしょうがないわ! それで事態が解決するわけないじゃない。早く奇人100%のファミリーと合流してヒントを探しにいくわよ! ところでカラスの行水って奇に入るかしら。

 

「でも折角沸かしたんだから温まっていったほうがいいわよね……」

 

 沸き立つ気持ちを抑えて、身体と心を整えた私は意気揚々とカラオケに向かったわ。

 

「誕生日おめでとう!!」

 

「ありがと。でもあなたの場合、マイクがなくても伝わるわ」

 

「……! 俺は道具に頼ったのか……未熟すぎる!! こんなものがなくても……大好きだああーッ!」

 

「奇人ね!!」

 

 部屋に着いて早々皆に誕生日を祝われると、ちょうど歌っていた恋太郎がマイクを使って祝ったことを恥じて、それより大音量で愛情を伝えてくれたわ。もう……私のこと大好き奇人すぎるのよ。

 

「誕生日おめでとうございます。早速ですが歌いますか?」

 

「ありがとね。でももうちょっと後でいいわ。今はみんなの歌が聴きたいの」

 

「ちょうど予定していたカラオケが、収録のタイミングと被ってしまいましたからね……」

 

「いいのよ。歌うことは好きだから」

 

「それはとても純粋(メルヘン)ですね」

 

 メルヘンということは奇よね。私はドヤ顔を浮かべながらドリンクを取りに行ったわ。普通はドリンクを一種類にするけど、私は味がボケない程度に二種類混ぜるのよ。奇人だから。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 部屋に戻ったらちょうど静が『ずっと、ぎゅっと』を歌い始めるところだったわ。歌って不思議よね。話すのが得意じゃない静もスムーズに言葉を出せるようになるんだから。私は歌のリズムに合わせてタンバリンを鳴らしたの。もちろん歌にそういう効果があって、そこにどこか誇らしさがないわけじゃないけど、何より静がわたしたちの前で歌いたいって思ってくれることが嬉しかったの。

 

「いいじゃない! サイコーよ!」

 

 歌い終わりに皆と一緒に賛辞を送ると、静がびっくりしてこっちを見たわ。プロの歌手に褒められたことに驚いたのでしょうね。こくこくと頷いてあどけない笑みを見せてくれたわ。

 

「さあ次は凪乃よ……って、またバグってるのね」

 

 いつものことだけど可愛さの暴力に恋太郎と羽々里が倒れていて。恋太郎は歌い終わりまで耐えてたけど。そしていつものように凪乃と胡桃の作画が怪しくなるくらいブレていたわ。

 

「"凪乃さん"。『我も続きを所望するものなり』」

 

「はっ……! 私は何を……」

 

 エラーを吐いていた凪乃が復帰して静からマイクを受け取ったわ。

 

「ふふ、私も奇人慣れしてきたのかしら。これくらいでは奇とは感じなくなっているわ。成長したのかしらね」

 

「…………。そうだといいですね」

 

「今心の中で『感覚が麻痺しただけでは?』ってツッコんだ?」

 

「一人称視点で読み取るとはさすがですね」

 

 分かるわよ。どれくらい一緒に過ごしてきたのと思ってるのよ。そうこうしているうちに『星彩予報』が流れ始めたわ。そうして凪乃が数フレーズ歌った直後のことだった。機械的なリズムで正確無比な発音が繰り広げられたのは。

 

「JKがカラオケでロボット・ラップ!?」

 

 思わぬ奇にツッコんだ私をチラと見た凪乃は歌いながら「パフォーマンス効率の良い歌を歌うのが有意義」と伝えてきたわ。凪乃……!? あなた直接脳内に……!? さっきの夢留とのやり取りを見て心の中で思うのが最高率って判断したのね……!

 

「ぐぬぬ……。なんだか奇人っぽいじゃない。……!」

 

 特におかしなことと思う様子もなく歌い続ける凪乃を見て、初めてファミリーと会った日のことを思い出したわ。彼女が自分に特筆すべき特徴はないと言っていたことを。常に全教科満点で正体はAIじゃないかって噂まである、名実ともに奇人なのにも関わらず。そうよ。テストで高い点を取れるのは天才、だけど突き詰めればそれも奇足り得るのよ……!

 

「私も機械……いや! 奇怪になりたいわ……!」

 

「…………」

 

 夢留に心の中で「同音異義語で言い換えただけですね……」ってツッコまれながら、次の曲をエントリーして凪乃からマイクを受け取ったわ。

 

「……えっ! この曲は……!」

 

 イントロが流れ出すと胡桃が目を覚ましたわ。そうこの『ヤマアラシの心』を——!

 

「僕らの心は諸刃の刃。それでも、ヤマアラシは温め合うの」

 

「ロック調の曲なのに!?」

 

「けれどメロディーは崩れていない」

 

 ふふふ。胡桃が私の奇怪ぶりに恐れ慄いているわ。きっと皆もそう思ってるに違いないわ。何故か心の声では天才って聞こえてくるけど。

 

「……ふう。どうだった?」

 

「そんな……! 奇姫の生ライブ……! それもここだけのアレンジバージョンなんて——キュンッ!」

 

「なんでよ!? 奇人ね!」

 

 胡桃もあれね。私大好き奇人かもしれないわ。もし私の奇怪ぶりを忖度なく判断できるとしたら。

 

「じゃあ凪乃! どうだった?」

 

「本来想定されていない曲調で練習もなしに歌い切れるのは、あなたが受け取った通り天才と称されるレベル」

 

「本当に忖度ゼロね!」

 

「あなたは心から奇と呼ばれることを望んでいるのだと思う。なら忖度は無意義」

 

 思わず目を見張ったわ。それは明らかにAIらしい効率的な判断とは異なるものだから。おかげで初めて会った日の印象が薄かった理由も分かったわ。だって——

 

「……ふふっ。あなたって実は誰よりも人間らしいわよね」

 

「そう? ありがとう。とても嬉しい」

 

「えっ」

 

「……?」

 

 凪乃が不思議そうに首を傾げる。そんな彼女の手を感激のあまり思わず握ったわ。

 

「凪乃……! あなた人間なのに『人間だ』って言われて嬉しいのね!」

 

「そうだけれど」

 

「ありがとう! やっぱりあなたは奇怪……ううん、奇人ね!」

 

「特にその評価は嬉しくない。けれどあなたが嬉しいのなら良かった」

 

 長い長い迷路の出口にようやく辿り着いたわ。奇行だけを真似してもそれだけじゃ奇人にはなれない。なら何が必要だったのか。それは——

 

「僕らの心は諸刃の刃—♪」

 

 私が私である以上、溢れる才はこれからも評価され続ける。それでも私は歌い続ける。歌うことが好きで、ファンが盛り上がってくれるのが嬉しくて、米津玄師みたいになりたくて。色んな思いを表現できる歌が私の居場所だから。

 

「それでもヤマアラシは温め合うのー♪」

 

「やっぱり……奇姫は天才だ……ッ!」

 

 その言葉にこれ以上ないドヤ顔を浮かべたわ。だって私は当然のことを褒められて喜んじゃう、私大好き奇人だから!

 こうして私はサイコーの誕生日を、才に溢れる私の歌を喜んでくれるファミリーの心と共鳴しながら歌い上げたの。

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